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「オペレーション ケンゴ・ナカムラ」~2018.9.29 J1 第28節 Vファーレン長崎×川崎フロンターレ レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
中村憲剛のボランチ起用の意図

 前節とメンバーを入れ替えずに戦った長崎に対して、水曜日にも試合を消化した川崎は前節からメンバーを2人入れ替え。阿部と下田をベンチに置き、知念と登里を起用した。知念と小林を2トップのような形でスタートから使うのはリーグでは今季初めてのようだ。

 5バック、相手の深い位置まで追いかけまわすという点では前節の湘南と似たアプローチで試合を始めた長崎。川崎にとっては不慣れなグラウンドなので、長崎は距離感をつかまれる前に強襲したいところだろう。ただ、長崎のハイプレスはあくまで流れの中で押し込んでこれた場合のみ。序盤を除けばこの形になったのはまれで、川崎が自陣最後方からビルドアップする場合は、長崎のプレスはハーフウェイライン付近からとなった。

 追えるときはハイプレス、基本はミドルプレスでゲームを始めた長崎。しかし、似たスタイルだった湘南とは違う部分がいくつか。まずはボール保持の前進。ピッチをワイドに使うのはそこまで回数は多くなく、川崎の苦手なWBを使った組み立てもあまり見られなかった。川崎の前線のチェックが前節よりうまくいっていた影響もあったかもしれない。ハマるとチャンスまではいけていたけども。27分のクロスが流れたシーンのように。

 それよりも特徴が見られたのはボール非保持時の陣形だ。まずはボールホルダーへのチェック。特に最終ライン付近で川崎がボールを持つときにはプレス部隊は鈴木武蔵1人。それもプレスに行くというよりは多少動きを制限する程度で川崎にはプレッシャーはかかっていなかった。
 2シャドーの役割はハーフウェイラインとPAの中間までは撤退して5-4-1のような格好になり、川崎のSBを抑える役目が主になっていた。
 そして最終ラインの中央への警戒の強さ。5バックで横幅をケアするというよりは、中央の密度を上げて数的優位を確保することを念頭に置いた布陣のように見えた。

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 中央のスペースは封殺し、間を作らせないようにしてライン間での動きは制限しようというアプローチ。中村憲剛が一番得意なスペースをつぶされたという格好である。
 こういった川崎対策はあまり珍しいものではない。しかし、川崎はいつもと少し異なる手法で長崎を攻略する。具体的には中村憲剛を最終ライン付近でプレーさせること。間で受けるスペースがないのならば、位置が低くても開放してしまおうという発想だろうか。ともかく、この試合ではプレーする位置が下がった代わりに、プレッシャーの弱い位置でプレーすることができた。

 最終ラインからのビルドアップの出口としてキーマンになったのは川崎のSH。引いて受けることで長崎のシャドーに対して数的優位を作る。長崎の2列目の横から相手エリアに侵入するケースが多かった。さらにこの日は中央の受け手がいつもより多く2枚。知念と小林という2トップがいる分、サイドが突破した後の斜めからの楔を受ける機会は多かった。

 川崎のSHが落ちるなら長崎のWBがついていけばよさそうなものだが、怖いのは川崎のSBの裏抜け。特にエウシーニョの大外の走り込みが久しぶりに輝きを取り戻した感があった。裏を取られるのが怖い長崎の最終ラインは降りるSHに深追いする場面は少なかった。

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 外のレーンの攻略も、大外の裏への走り込みもすべては川崎の最終ラインの司令塔がフリーになっているからである。大島ももちろん局面を進めるパスを出してはいたが、やはり秀逸だったのは中村憲剛。裏を使うのも、幅を使うのも彼次第。まさしくピッチを支配する司令塔として川崎のボールを前進させる根幹を担っていたといっていいだろう。

 長崎はボールに寄って行く動きが多く、そこまでスライドも早くなかったため、遠方を見る中村が最終ラインにいたのは、かなり効果が抜群である。
 出し手として優秀なのが中村ならば、受け手として秀逸だったのは登里。ビルドアップの出口として機能するのはもちろん、中央への楔や裏抜けなどかなり広い範囲で活躍を見せた。2点目の起点になったシーンでは、長崎のWBである飯尾が空けたスペースをしっかり利用して追加点を演出している。

 封鎖された「間」から解放された中村憲剛が「裏」と「幅」を使い分けて躍動した前半だった。長崎としては試合が進むにつれて、やや陣形にほころびが出た感じ。裏や幅を使われてうまくいかない!じゃあ最終ラインにプレッシャー!となると今度は間が空いてしまうといったジレンマに陥っているように見えた。川崎が2-0のリードで前半を折り返す。

【後半】
波に乗り切れない長崎

 澤田に代えてファンマを入れてスタートした長崎。前に進むための長いボールを入れるターゲットとしての交代か、進んだ後の最終局面の脅威を増したいのか。いずれにせよ、前線の的は増えた格好になる。
 選手交代の以外の部分で長崎に感じた変化は、川崎の最終ラインに落ちる選手に対して、中盤から交互に1人ずつ迎撃に向かっていたこと。前半よりは最終ラインにプレッシャーをかけようという意図が見られた。

 2点のリードを得たことや過密日程の体力面を考慮してか、川崎の前へのベクトルが弱くなっている分、徐々に出足の良い長崎が押し込むゲームに変化していく。ボールが狩れて、ある程度前進もできるようになった長崎。増えてきたセットプレーにはファンマとバイスがいるため、徐々に川崎にとって脅威は増えてきたといえる。

 それでも、押し込んだ後の攻撃精度がもう少し伴ってこない長崎。もう一押し、組み立てに工夫を施すために島田に代わって磯村を投入。効果はある程度あった。ただ、川崎としては両WBを幅広に使った攻撃をやられたほうが嫌だったかもしれない。同サイドから逆サイドのフリーの選手への展開でできれば、もう少し川崎を揺さぶることができただろう。それでもサイドからターゲットが増えた中央に向けてクロスを上げれば、攻撃は形になっていたといえる。

 徐々に圧力をかけてきた長崎に対して、川崎は中盤の枚数を増やすことを選択。登里に代わり同ポジションに入った阿部に続く2枚目の交代は知念→鈴木。
 長崎が痛恨だったのは攻守において運動量豊富だった鈴木武蔵が負傷欠場してしまったことだ。彼がピッチの上に残っていれば、もう少し長崎が押し込める時間は増えていたことだろう。最終盤の局面は一進一退で攻撃機会を分け合う展開になった。

 この試合の最後の点を決めたのは長崎。エリア内でのファンマの動きは秀逸だった。クロスを上げた翁長に詰められなかった鈴木雄斗はいわゆる「和式ゾーン」の原則を守ることができないプレーだった。

まとめ

 中2日で疲れの残る川崎に対して、後半からのファンマ投入はある程度準備されていたものかもしれない。高木監督は「2点は許容」とハーフタイムに話していたようだが、前半を1点に抑えられていたらもう少し違った内容になっていた可能性はある。後半に関しては、鈴木武蔵の交代において勢いが若干しぼんでしまったのが残念だ。長崎は攻守において若干リソース不足な感はやや感じられたが、ゲームプランとしては練られている。練られた戦術を遂行できるコンディションを主力選手が維持できるかが残留争いのカギだろう。

 川崎はいつもと少し異なるアプローチでブロック攻略に成功。後半にトーンが落ちたのはもう不可避として割り切らないといけない部分だろう。ターンオーバーと怪我人が生み出した偶然の産物なのかはわからないが、ハーフコートゲームが可能な相手への攻略法として「中村憲剛大作戦」という新しい引き出しを見せたのは確かだ。登里、知念という入れ替わった選手も結果をしっかり残せたのも大きな収穫だ。

試合結果
2018/9/29
J1 第28節
Vファーレン長崎1-2川崎フロンターレ
トランスコスモススタジアム
得点者
長崎:93′ ファンマ
川崎:35′ 知念, 41′ 小林
主審:東城穣

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