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「多重なタスクは分割する」~2021.3.10 J1 第3節 川崎フロンターレ×徳島ヴォルティス レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■旗手が内側に絞る意味とは?

 基本的にはどちらのチームもボール保持の局面を中心にゲームを組み立てていくチームである。この部分で先に主導権を取ったのは川崎の方。ボール保持でゆったり回しながら1つのパスから攻撃を加速させて、敵陣に一気に攻め込む動きでチャンスメイクをした。

 徳島の非保持は4-4-2でボールサイドのSHがスイッチとなりハイプレスを起動する。この試合では圧力を高めるためにボールサイドの川崎のインサイドハーフに対してマンマーク気味についていく。

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 こういった守り方をする徳島に対して、川崎のボール保持は割と好循環の立ち上がりを見せた。その一端を担ったのは内に絞る旗手怜央。この試合以前にもこういう動きは見られたが、特にこの試合は立ち上がりから絞る動きが活発だった。川崎の前進がうまくいった理由を旗手の動きから考えてみる。

 旗手が内側でプレーするSBだということは知っているけど、なんのためにかはわからないという人も多いと思う。俺もわからぬ。が仮説を立てることはできる。というわけで考えてみよう。

 その前に今季の川崎のインサイドハーフの仕事について整理してみよう。それぞれ被るところや漏れもあるかもしれないけど、そこはまずはざっくりと。

①相手のCHを引き出す

   今季の川崎はIHが自陣に引いてくる動きでボールを引き出すことがある。その際のメリットとしては対面のCHをつり出してギャップを作れることである。縦にパスを入れるならばまずはギャップを作ることである。

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②引き出したギャップで受ける

   引き出したギャップは使わねばいけない。というわけでこのスペースで受けるのも彼らの仕事。もちろんダミアン、三笘、家長あたりもこの仕事はするけども、IHもその一端を担うことは間違いない。

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③サイドでトライアングルを形成

    SB、SHと共にサイドで多角形を形成し、サイドの崩しを探る。時にはハーフスペースから裏抜けを行い、エリア内でのフィニッシャーにボールを供給する。逆サイドで行われる際はフィニッシャーを務めることもある。

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④ネガトラ対策

   この位置にいることでネガトラの対策になる。相手のカウンターの生命線であるインサイドにいるということで相手のカウンターの推進力をそぐ。この試合でいえば渡井やジョエルに前を向かせると攻撃が加速してしまうので、そこに前を向かせないために『この位置にいる』という役割である。

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 これに加えてハイプレスやブロック守備におけるプレスバックなど川崎のIHの仕事は非常に多岐にわたる。脇坂や田中はこの多くの仕事を高い運動量でこなしている。

 さて、ボールサイドにプレッシャーを強くかける徳島相手にスピーディーにボールを前に進めるには①と②を比較的短いスパンで行う必要がある。したがってこの動きを両IHでやってしまおうというのがこの動きのコンセプトである。

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 田中が降りる動きを見せて持ち場を離れる、そして脇坂はここからサイドの崩しに絡んでいくことが予想される。しかし、川崎のIHには④の『その場にいる』という仕事もある。降りる人、出ていく人がいる中でどうしても川崎のIHにはその場にいるという役割を果たす選手がいなくなってしまう。そこで登場するのが旗手である。彼が中央に登場することでネガトラの対策+中央でのリンクマンの確保の攻守両面での効果につながる。

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 まとめると旗手の絞る動きは、非常に多くを担っている川崎のIHのタスクをIHの2人だけでなく旗手を加えた3人で処理しようということだというのが自分の仮説である。

 そうなると左サイドの攻撃のフォローが乏しくなってしまうのでは?という懸念もある。だが、川崎の左サイドにいるのは三笘薫である。そもそもいわゆる絞るサイドバックのメリットは大外へのパスコースを確保することといわれている。大外で三笘がタイマンで勝負できる状況ができるのならば、川崎にとってはむしろ好都合ともいえる。

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 加えて、低い位置に落ちる①の役割で持ち場を離れることが多かった田中碧はそのままSBにフォローに入ることもできる。攻撃においては旗手と田中は逆になっても問題なくできるので、流れの中でそうなることもあった。

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 中央でギャップをつけなくても三笘&旗手or田中で大外レーンから2人で進むことはできていたし。

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 というわけで旗手を中心にした変形が徳島相手の前進にもたらしたメリットとメカニズムを考察するコーナーでした。まとめると大外の三笘の打開力、そして旗手と田中のマルチ性を生かした変形で徳島相手に加速する手段を得たということである。

■バタつく中で際立った別格感

 徳島のボール保持はロングボールが思ったよりも多かった。狙いとなるのはシミッチと競り合う垣田、もしくはサイドで高い位置を取る岸本である。ただ、このパスの成功率は高くなく、序盤はボールを川崎にプレゼントするようなシーンが多かった。

   だが、この日の徳島は短いパスの精度はイマイチ。怖いからつながなかったのか、つながないから怖くなってきたのかのどちらが先かはわからないが、3バックと2CHで行うビルドアップは縦パスのズレから川崎にカウンターの好機を与えることが多かった。

    川崎は3トップで3バックをマークする。ダミアンはこの日も献身的に走り回っていたが、GKへのプレスはいつもに比べると控えめ。後方のCHへの縦パスをカットすることを意識しつつ、機を見て前線に襲い掛かる算段。このダミアンのプレスをスイッチとしてIHが押し上げることで川崎はジョエル、渡井、岩尾に時間を与えない。

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   徳島としては特殊な対応策に向き合った感じではなかったが、なにせスイッチが入った後の川崎のプレスのテンポが速い。なので、普段なら通るパスもずれるし、収めるほうもトラップでいっぱいになるからスムーズに前進が出来ない。したがって、シュートに至るまでに時間の余裕がない状況での攻撃が非常に多かった徳島であった。

   それでも徐々にビルドアップは安定する。トップ下の渡井までボールがつながったり、大外で駆け上がる岸本もボールを引き出せたりなどに川崎からボールを取り上げる。

   理由はいくつかあるが、まずは守備のプレスの強度の低下だろう。ダミアンは前に出てCBにプレッシャーをかける頻度は徐々に下がってきたし、家長はワイドの吹ヶを捕まえるのに戻るのがおろそかになることも。こうなると脇坂の守備の負荷は増える。

  加えて、岩尾のポジショニングの細かい調整も絶妙。視野が広く周りの状況を正確に判断したうえで、フリーになって正確に長いフィードを飛ばすことができており、フリーになりやすいSBから徳島は前進は可能だった。一方でそこから先の受け手である藤原や垣田は川崎のプレッシャーにより持ち味を生かしたプレーをするのは難しかった。

   岩尾が輝く一方でCBやジョエルは前半はテンポに乗れず、失点は彼らのミスから。ダミアンの先制点は鈴木はGKに戻すチャンスがあっただけに悔やまれる。2得点目もジョエルに前を向ける余裕があったため、防げる余地は十分にあった。前へのスペースがある状態では前を向きたいし、この日の川崎相手なら向かないともったいない。

    ゲームメイクでも守備の出足の良さでも光るものを見せたジョエルだったが、下げてパスワークを苦しくした部分は若さが出たように思った。川崎としては徳島のビルドアップをプレスで破壊できるかどうか?がこの試合の見どころの1つだったが、この部分で2点をとれたのは川崎にとっては大きい。ダミアンえらい。

 ただ、やはり岩尾だけは別格で川崎のプレス耐性に慣れて的確な前進を促す。左の藤原と右の岸本を軸に左右から前進し、川崎のプレスを食い止めて押し下げることが出来ていた。

 加えてここ数試合川崎の課題なのだが、左サイド深い位置にビルドアップの際に閉じ込められると詰まりやすいという部分がある。ここを利用した徳島のプレスに徐々に苦しむように。それでもショートカウンターからシュートまでは至らず、徳島は前半シュート0で川崎に抑えられてしまった。

■ペースアップにはチャレンジせず

 後半は前半と比べてまったりとした展開が多くなった。その中でも際立ったのはやはり岩尾のボール運びである。50分~60分くらいは特に岩尾⇒ジョエルのラインから攻撃を加速し、川崎としては前半よりまずい状況でのプレスバックを強いられることになる。

 川崎は前半よりもさらにダミアンが前に出ていけなくなってしまい、徐々にプレスは減退する。しかしながら、川崎のインサイドハーフは前に出ていく意識が高いため、ここのギャップを使われる機会が出てくる。

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   こういったギャップを使われて前進されてしまったのは非常によろしくない。徳島はここから先のシュートに至るまでの部分に課題があるチームなので、守ればよかろう!とするのは今後のためにはならない。

   本来ならばここから選手交代でさらに勢いを巻き返すことが期待される川崎だが、交代した小林悠にも鬼木さんが中間ポジションを意識するような指示を出していたこともあり、プレスはいつもよりも控えめ。小林は中盤の門番としての役割に徹した印象だった。

   川崎は後半の立ち上がりこそ、インサイドハーフのハーフスペース突撃からチャンスを作っていたが、徐々に攻撃もトーンダウン。ボールを落ち着かせるフェーズに移行する。

    スペースが狭くなると塚川のボールコントロールが苦しくなったり、後から出てくる長谷川や遠野がこの役割にマッチしているかは微妙だったりなど課題はあるのだが、ひとまずはチーム全体に疲れがあったなかでなんとかそれなりに試合を落ち着かせることはできていたとは言える。

   全体的にはテンションが低い後半となった川崎だがきっちり逃げ切り4連勝。クリーンシートで徳島の初勝利を持ち越しにした。

あとがき

■宮代の活躍する余地と伸びしろ

『ボールはこれくらい持たれると思った』という主旨のコメントを鬼木監督が試合後に述べたように、徳島の保持は完成度が高かった。何回も褒めたけど特に岩尾は別格で徳島のボール保持を整えていた。一方で前進した際にはやや個々の馬力不足は否めない。それを考慮すればダイナミズムのある宮代が活躍できる余地は大いにあるだろう。

いずれにしても、前回のJ1挑戦とは全く違う立ち位置で残留を目指すことにはなるだろう。監督がまだ入国できていないことを考えればさらに伸びしろはある。まずは初勝利を挙げて一息つきたいところだろう。

■第一ノルマ達成での重要な勝利

徳島のビルドアップをプレスで押し切っての得点⇒◎
50-60分のプレスの切れ目を使われて徳島にボールを運ばれた時間帯⇒△
最終盤のペースアップが負荷だったこと⇒△

 この試合の川崎はこんな感じだろうか。とはいえ疲れの見える中で第一目標であるプレスでの徳島のビルドアップ阻害とクリーンシートを果たしたことは重要。やや不安になる部分もなくはないけど、勝ちながら課題を反省できる幸せな立場はかみしめるべき。試合の落ち着かせ方やペースアップのさらなる手段の模索など次のチームの一手には注目が集まる。

今日のおすすめ

    33:30くらい。安易に飛び込まずに遅らせてジェジエウのカバーを待てたシミッチ。スピードで追いつかなくてもできることはある。

試合結果
2021.3.10
明治安田生命 J1リーグ
第3節
川崎フロンターレ2-0 徳島ヴォルティス
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:12’ 42’ レアンドロ・ダミアン
主審:木村博之

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