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「ハイテンポの収支の話」~2021.3.6 J1 第2節 ベガルタ仙台×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■右偏重の理由とは

 今季の川崎の戦い方を見れば、この試合でもボール保持とハイプレスを主体とした支配的な手法を取ってくることは明白。特にこの日のメンバーであればアップテンポに試合を進める色がより強く、ここ2試合に比べてもさらに早いリズムで試合を進めていくことが想定される。

 というわけで仙台の非保持の対応がこの試合のテンポを決めたという話である。仙台はミドルゾーンでガッツリ構えることをまずは選んだようだった。マルティノス、西村の2トップがCBとアンカーの3枚を監視するところからスタートする。そうして後方は4-4で構えてというスタイルである。

 ただ、このマルティノスと西村の2トップで川崎のビルドアップ隊を受け渡しながら監視するという初手が機能しなかった。川崎のビルドアップは3枚を軸にというよりはもっと不定因子が多い。例えば、インサイドハーフが降りてくる動き。相手が2トップの時は今季の川崎はまず2トップ脇から侵入することを目指すので、この部分はある程度重心が後ろ向きになってもいいという考え方が強い。

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 川崎のCBが持ちあがる意識が強かったのも大きい。特に山村は相手がプレスをかけてこなければ、なるべく持ちあがって前進する。開き目に持ちあがって仙台の2列目を引き出せれば任務完了である。マルティノスはシミッチ番を頼まれたように見えるが、それだけをやっておけばいいわけではない状況でタスクオーバーになってしまったように思う。

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 川崎の攻撃は右サイドに偏重していた。後方の山村のサポートに加えて、IHの田中、SBの山根、SHの遠野、そしてアンカーのシミッチもこちらのサイドに流れることが多く、とりあえずこちらのサイドからクロスを上げることが目的になっていた。シミッチをサイドに流す頻度が多かったのは逆サイドへのクロスのバリエーションを増やすためなのではないだろうか。プレビューでも触れた通り、仙台のクロス対応は同サイドにDFラインに寄るため、ファーへの対応に弱い。シミッチの左足から繰り出される伸びるようなキックは家長不在の右サイドでは効果が高かったといえるだろう。

 右サイドの攻撃においてもう1つ大きな武器になったのは遠野の動き。家長に比べて高い俊敏性を活かした遠野のレーン移動が行われていた右サイド。この遠野の動きをうまくフォローしたのが田中碧だった。遠野が内側に切り込むのと合わせるように外に流れることで、仙台の対応を受け渡すのか?ついていくのか?という部分で揺さぶった。この横移動、対応するのだるいだろうなと思う。

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 先制点の場面もこの動きから。大外に流れた田中碧に秋山がついていくと、内側に絞る遠野へのパス。この動きで吉野を釣ると再度大外の田中碧に流す。内側が手薄になったところで小林悠にクロスを上げる。シミッチのファーへのクロスもそうなんだけど、クロスの先を手薄にすることで仙台の対応を一段大変なものにした。蜂須賀、大変そうだった。

 逆サイドの長谷川と旗手のコンビも同じ。カットインする旗手や遠野に合わせて外に開く動きが大事。内側に集合するようだと数年前に良く陥った中央合体で逆に手詰まりを起こしてしまう。特に右サイドはスタートポジションが中の田中がバランスを取って開く形を取ることで攻撃を円滑にしているのが献身的ポイント高めである。

■得点で見るこの試合の特徴

 2得点目の話をする。この場面ではファーに余った遠野が最後は押し込んで得点を挙げている。例の仙台のクロス対応のファーサイド狙いである。助けになりやすかったのは小林悠がファーに流れながら、クロスを待つ特性があること。仙台対策というよりは単に本人のクセのような気もするが、ファーで待つことによって逆サイドのアタッカーが余りやすかった。これの恩恵を受けたのが遠野だった。

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 また、この場面では右のSHに入っていた関口が負傷していたため、仙台は一時的に10人になっていた。代わりに右サイドに入ったマルティノスがチェックをかけている車屋に簡単にはがされてしまったことが端になっている。本来ならばクロスを上げた長谷川には挟み込むように、あるいは近い距離で次のプレーに移行する際に窮屈になるようにタイトにしておきたかったところだが、マルティノスではそれは難しかった。おそらく手倉森監督は現段階での攻撃の柱として考えているようなマルティノスなのだが、どこに置いたらいいか問題は難しい。

 もう1つ、仙台にとって難しい課題は左サイドからのビルドアップ脱出。ここまでの記事を読むと、試合をみていない人にとっては川崎はボール保持で圧倒したのかな?と思うかもしれないが、むしろカウンタープレスによる即時奪回の方がチャンスが多かった。要は『川崎の攻撃が終わり、仙台の攻撃が始まる瞬間に川崎がかけたプレスから仙台が脱出できなかった』という所である。

 特に狙い撃ちされていたのは秋山のところ。縦への意識が強い分、無理目に引っかけることが多く、田中碧をはじめとした中盤のプレス隊に対してロストを繰り返していた。これが起点になったのが3点目の場面である。

 このハイプレスの一員としてうまくチームになじんでいたのが橘田。頻繁に繰り返すポジションチェンジ、少ないタッチでのパスワークで攻撃の推進力を落とさないこと、そして即時奪回に対応できるプレスの脚力。ルーキーだが今の川崎に求められる役割を高次元で備えており、早々に出場機会を得ているのは納得。4得点目のシーンでは吉野に体を当てながら反転しゴールをお膳立てし、川崎サポーターをびっくりさせた。

■上原と蜂須賀で流れを変える

 後半の仙台は大幅に布陣変更を行った。下の図をご参考あれ。

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 ひとつずつ触れていると大変なのでポイントを2つだけしゃべる。1つ目のポイントは2トップの一角に上原を起用したことである。これにより、プレスの強度がグンと引きあがった。前半の8分のシーンで相手陣のサイドに閉じ込めれば、仙台もボールを取り返すポテンシャルがあることはすでに証明済み。川崎としてはC大阪戦の序盤で体験したようなサイドに閉じ込められながらロストを繰り返し、流れを仙台に持っていかれる。

 文字で書くと簡単だが、マルティノスを抱えながらプレス隊を率いるのはハード。機能しなかった前半を見ればわかるだろう。それだけに新コンビの上原のプレスのスイッチの入れ方は素晴らしかった。後方CHコンビも前に出ていき圧力をかけることで仙台の保持の時間に突入した。

 もう1つ改善が見られたのは蜂須賀が移動した左サイドのプレス耐性である。開く役割、運ぶ役割の点で蜂須賀はさすがの一言。左サイドのビルドアップ耐性は前半と比べて大幅に向上した。

    仙台のこの日の得点はこの蜂須賀のビルドアップにおけるボールの引き出し方と、上原のバイタリティがもたらしたもの。まずは左サイドで蜂須賀がボールを引き出し、中盤に降りてきた上原に。上原は前線の石原への長いパスを出した後、前線に駆け上がりこぼれ球を押し込んだ。さっきまで中盤でパスを出していたのに、いつの間にか前線で得点を決めている上原の恐ろしいことよ。今はみんなウマ娘やっているからわかるかもしれないと思って言うけど、皐月賞のゴールドシップみたいな前線へのワープだった。上原はゴールドシップ。

 川崎側の後半の立ち上がりのフワッさを指摘する声も多いだろうが、C大阪戦でも横浜FM戦でも経験している時間帯であり、今のスタイルはこういう時間帯をはらむリスクがあると考えることが自然のような気がする。強いて言えばシミッチ⇒塚川にアンカーが代わったことで、前線へのタッチダウンパスというレパートリーがなくなってしまったことは属人的な要素として挙げられる。

 この日は(この日も?)とにかく急いでいた。そういう持ち味の遠野とかが縦に速く進みたがるのはなんとなくわかるけど、田中碧が前に前にとプレー選択を進めていくのが不思議。でもこれはこの試合がどうこう!というよりも、今季を通してやっていること。なので、なんでこの試合でこんなに急ぐんだ!というよりはこういうコンセプトを掲げているのはどうしてなんだろう?どんな目標があるのだろうな?という気持ち。

    1点差で本来は攻撃機会を減らし、勝ち点3を確保したかったC大阪戦ですら急いでいたので、点差のあるこの試合で急ぐのは当然だろうなとも思う。絶対田中碧はゆっくりやろうと思えばできるだろうし、なんかしらの意図があってのことなのだろう。

 家長だけは異質で、後半の面々もずーっと縦に速くゴールを陥れる意識が強かった中で必要とあらばスローダウン。川崎としては一度ボールを収められるのは大きかった。絶対にこの試合を落としてはいけない!という場面では多分今のチームには彼以上に大きな存在はいない。1人でゆっくりプレーするだけで、チーム全体のテンポを落とせる。早く攻め落とす方針は変わっていないように見えたので、家長の影響力の大きさを感じるところであった。チームとしての方針は違ったとしても、この試合を勝ち切るという面ではスローダウンは必要な動きだったので。

あとがき

ジレンマがあった90分のマネジメント

 仙台はやりくりが難しかっただろう。川崎目線では後半頭のやり方で来られたら危なかったという側面もあるだろうが、仙台目線で言うとあのやり方を90分維持できるとは思えない。上原は明らかにタスクオーバーであの動きを90分やるのは難しいだろう。関口が負傷していなければ、もう少し時間を長引かせることは可能だったと思うが。

 引いて受ける動きで前半を耐えるのも難しかった。こちらもシマオ・マテがいればという要素はあったはず。関口のプレータイムが長く取れて、上原をプレス隊にトップに置いたやり方を前半から始めたとしても三笘、家長、ダミアンが出てくる後半を耐えられたかは難しい。マネジメントの面でも赤﨑、皆川、西村というFWを差し置いて、先発で上原をFWで使うというやり方を選ぶのも抵抗があったかもしれない。上原のFW起用は後半の状況を受けた火急の改善策とも見て取れる。後半は見せ場はあったが勝ち点を取るためで考えると、どこをとってもマネジメントの難しさが残る感じの内容だった。

■人選と展開によって異なる収支のバランス

 川崎の課題は後半というか相手にテンポを握られる『あの時間帯』である。構造としては相手のハイプレスによって速いテンポの縦へのスピードに自らがついていけなくなってしまうという循環。川崎としては現状のスターターではこの速いテンポでも収支がプラスになりやすい。縦への精度が高いパスを出せるシミッチの存在が1つ、そして川崎側の前線からのハイプレスが機能していることがもう1つ。今のところこのどちらかが効いていれば十分に収支はプラスになる。

 後半の頭の川崎はこの収支がマイナスになっている状況だった。アンカーに入った塚川もきついプレスによって狭いスペースでのボールコントロールを強要されて苦しい状況に。決して悪い内容だったわけではないけど、テンポを司るところまでは至れなかった。

 最終盤ではアンカーに谷口を試したことからもわかるように、今年のアンカーにサイズを求めていることは明らかである。シミッチ、田中、塚川、谷口に加えて山村も含めた候補の中からこれまでとは異なる形で収支をプラスにする仕方を模索する必要は今季どこかで出てきそうだ。

今日のオススメ

   橘田の4点目のターン。技術もさることながらあれだけ周りが見えているのは強い。

試合結果
2021.3.6
明治安田生命 J1リーグ 第2節
ベガルタ仙台 1-5 川崎フロンターレ
ユアテックスタジアム仙台
【得点】
仙台:58′ 上原力也
川崎:12′ 39′ 小林悠, 25′ 遠野大弥, 83′ 旗手怜央
主審:池内明彦

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