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「決闘が祭りに変わるまで」~2018.9.15 J1 第26節 川崎フロンターレ×北海道コンサドーレ札幌 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
ペドロビッチが挑んできたのは決闘

 結果だけ見た人と頭から試合を観戦した人で印象がまるで違う試合はたまにあるが、この試合もまさにそれに当てはまる試合。
7ゴールを決めた川崎は、28分の先制点のシーンまでシュートが1本もなかった事実が序盤の主導権争いの激しさを示しているだろう。

 この試合でペドロビッチは川崎にミドルゾーンでの決闘を挑んできた。三好を起用できない中、前線に先発で起用したのは高さや決定力のあるジェイではなく荒野。選択としては悪くなかっただろう。川崎がマイナス方向にパスを出したタイミングで、前がかりに激しいプレスをかけてきた。中盤を含めた強度の高い札幌のプレスは谷口や大島などの川崎の中心選手のミスを誘い、決定的なシュートに持ち込むシーンもしばしば見られた。荒野もその役割は果たせていたし、プレス隊としてならジェイより適任なのは間違いない。

 札幌はラインを下げずにミドルゾーンに選手を集中させて、ボールを奪取したら裏を狙う形を頻発。札幌が一歩も引かなかったことは前半のプレーゾーンのデータを見ればわかる。紙の上では同じ3枚のCBで戦ったG大阪と比べるとスタイルの違いは一目瞭然だ。川崎をミドルゾーンに押し込むことで、最終ラインを脅威にさらす回数を減らすことに重きを置いた結果だろう。

 G大阪戦と比べると、札幌戦の川崎のプレーエリアもミドルゾーンで増加(50%→57%)、アタックゾーンで減少(37%→25%)しており、札幌は川崎のプレーエリアを下げさせることには成功したといえる。

【前半】-(2)
直面したのはいつもと違う課題

 川崎が志向するサッカーは「自陣から一枚一枚剥がして、いかに前にいい状態でボールを渡せるか」という思想が拠る部分が大きい。イメージとしてはボールを受ける時より、出した後のほうが状況がよくなっているというのを多層構造で積み重ねていくようなものだろうか。

 川崎が今季うまくいかなかった試合は
相手がそもそも重心を後ろにかけて、川崎のアタックゾーンで「いい状態」を作らせない。→ex:G大阪(A)
「いい状態」ができてもシュートが決まらない。→ex:浦和(A)、鳥栖(H)
の2パターンが多い。
つまり「自陣から一枚一枚剥がして、いかに前にいい状態でボールを渡せるか」でいえば、後半の文章の部分がうまくいかない試合で結果を出せない形が多い。

 しかし、ペドロビッチのアプローチは異なった。札幌の仕掛けてきた作戦は「そもそも、きついプレスでも後ろから剥がせるの?」という問いを川崎に投げかけるもの。「1枚1枚プレスで剥がせる」という部分を試してくるものである。いわば川崎のアイデンティティの下地となる部分だ。

 昨季も今季もどんなに難しい試合でもビルドアップの部分で苦しんだ試合は少なかった。しかしながら、この試合はかなり序盤に苦しみ、実際に決定機も作られた。今まで川崎が強みとして自信を持ち続けていた部分で弱みを見せることになった戦いだった。この試合で負ければ、勝ち点以外の部分でも大きなダメージを負うことになったのではないか。そう考えるとこの試合の勝ち点3はとてつもなく大きい。

【前半】-(3)
決闘勝利の2人の主役

 札幌が挑んできた決闘は、川崎の後衛たちを苦しめた。ただ、物事には表があれば裏がある。札幌が川崎のDFに対して局面的な優位を示したように、川崎の中盤と前線もまた札幌のDFを苦しめた。
札幌はCB3枚+ボランチ2枚でビルドアップを行っていたが、やや個々人のの距離が長いように感じた。普段からこのような仕組みなのかはわからないが、このやり方は川崎のボールの取りどころを定めやすくしているように思えた。札幌のボランチに主な狙いを定めた中村、下田のプレスはとても効いていた。戸田さんが「中村憲剛は守備もうまい」と評していたのはまさしくこの部分だろう。前半の3点はいずれもショートカウンターからだ。
今季の川崎の得点力低下は「ボール奪取の位置が定まらないことによるショートカウンターの質の低下」部分が大きいと考えているので、この部分がハマれば、札幌戦のように大量に得点することも可能だろう。

 ボール保持の局面においても川崎が中盤において張り巡らされた網を突破すれば、札幌の後方には大きなスペースがあった。いつもは狭いスペースで苦しむことが多い川崎のアタッカー。しかし、今日は彼らまでボールが届けばスペース、時間、選択肢がいずれも十分にある状況が多かった。差し詰め疑似ショートカウンターといったところだろうか。

 この日の勝利の立役者は紛れもなく中村憲剛だろう。先制点のシーンは’本物の’ショートカウンターで起点となって、家長にラストパスを送った。広い視野を駆使したパスと的確なプレスで札幌が苦しむ場面を創出し続けた。2点目のボレーもスーパーだ。

その中村のラストパスを受けた家長はこの日のもう一人の主役だ。家長は強靭なフィジカルを生かしたドリブルで札幌のミドルプレス突破に大いに貢献した。もちろん、ゴールシーンの美しいシュートの軌道はいうまでもない。素晴らしい。2点目の’本物の’ショートカウンターの起点となったのも彼だし、中村憲剛がポジションを下げてからチャンスメイクの役割も担った。

【前半】-(4)
2つの懸念

 本来はこれで前半の話は十分なのだと思うが、もう少し話したい選手がいるので。
この試合においては試合前に予想スタメンについて自分は懸念のツイートをしていた。

実際に自分が想起した浦和戦の失点シーンを図示したものがこちら。

 DFラインが4枚の川崎は5トップ的にふるまう相手に対しては、敵のWBにスライドして川崎のSBが当たる必要があるのだが、車屋はそれが遅い。上記のシーンはそもそも長谷川がプレスをかけていないけど、札幌戦でも阿部がCBにプレスに行っている場面でも、車屋がWBを放置して対応が遅れるシーンが散見された。

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 こんな感じ。こういう予測的な動きは今季は登里のほうがいい動きを継続して見せている。ある意味懸念が当たった格好。札幌はもっとこの形を利用したかった。駒井がいればまた違ったのだろう。

 しかし車屋は攻撃面ではこの試合の課題だったミドルゾーンの突破に貢献する。3分には大外のレーンをドリブルで打開したり、ハーフスペースに顔を出して縦に切り裂くシーンも見られた。先制点の場面でも大島のスルーパスを斜め方向に車屋が受ける動きで、札幌のDFラインを破ることに成功している。車屋もまた早坂の裏を狙っていたのだ。車屋は川崎がボールを持っているシーンではミドルゾーン打開に大いに貢献した選手と言っていいだろう。

 もう1つの懸念は試合が始まってからのもの。何度も書いているように、序盤からかなりの強度のトランジッションが繰り返されるゲームとなった。「激しいトランジッションの応酬において、ボール奪取に長ける守田不在が大きな痛手になるのではないか」というのがもう1つの懸念。
こちらは下田が本当によく頑張ってくれた。特に中盤以降はデュエルも頼もしくなり、豊富な運動量で中盤を支えた。プレースキックの質も高く、川崎の中盤に少ない左利きであるのも魅力。得点まで取ったのだから言うことはないだろう。こちらの懸念は空振りで済んだ。

【後半】
賭けに出ざるを得ない札幌

 3失点で前半を終えた札幌。頑張って維持していたミドルプレスも、やや勢いが陰った印象だ。後半からは2枚替え。3枚じゃないってことはそこまで怒ってないのかなと思ったのはここだけの秘密だ。

 ビハインドを覆すのに、得点力があるジェイは使わないわけにはいかないだろう。前線のプレス強度は下がるが、そこは背に腹は代えられない状況である。川崎のミスを期待するしかない。もう1枚の交代はミンテ→石川。ク・ソンユンも含めて、もろい部分を見せた最終ラインのてこ入れといったところだろう。

 試合としては実質4点目で終了だが、前半散々引っかかっていた川崎のショートプレスに、テコ入れで投入したはずの石川が絡んでしまった5点目は悔しい部分があるだろう。ジェイ投入が実を結ばなかったのは仕方ないが、後ろのテコ入れがマイナス収支になるのは痛恨だった。

 というわけで後半はほとんど書くことがありませんので、後半の4得点分の短評載せておきます。

4点目:エウシーニョが転んで囮になったのがかわいい!下田おめでとう!
5点目:1対1を決めるのに少し苦労していた印象のある小林のゴール。  キャップも波に乗れてよかった。
6点目:家長エロい。
7点目:よかったな!碧君!俺はブルーバードのチャントが好き!

まとめ

 間で受けられる三好と運び屋としてロングカウンターが可能な駒井を欠き、選択肢が限られる中で運動量豊富な荒野を前線で起用するプランは当たっていたと思う。チャナティップか荒野が決定機を決めていれば、試合は全く違うものになったことは両チームの試合後コメントを見ても明らかだろう。
ここから熾烈なACL圏内争いになるだろうが、メンバーがそろえば地力があるチームであることは、すでにここまでのシーズンで証明しているはず。最終ラインがダメージを引きずらずに、強みを前面に押し出していければ残り試合でも存在感を示せるはずだ。

 まさにお祭りとなった川崎。今季ここまで湿りがちだったショートカウンターで得点を重ねられたのはポジティブだろう。ショートカウンターの中心となった中村と下田、そしてミドルゾーン突破のキーマンになった家長と車屋あたりは特に手ごたえを感じる勝利だったのではないか。序盤の決定機を止めたソンリョン、クロスを跳ね返し続けた奈良も活躍が光った。下田と田中のデビュー戦ゴールも含めて川崎にとってはまさにお祭りになった。

 次節の相手も積極的にボール保持を狙ってくる名古屋。広いエリアを使われる展開になると厳しいだけに、今節同様にビルドアップを狙い撃ちしてショートカウンターを頻発できる展開に持ち込みたい。

試合結果
2018/9/15
J1 第26節
川崎フロンターレ7-0北海道コンサドーレ札幌
【得点者】
川崎:家長(28分)、中村(30分) 、阿部(40分)、下田(57分)、小林(58分)、知念(86分)、田中(91分)
等々力陸上競技場
主審:上村篤史

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