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「前提から崩される」~2020.11.8 プレミアリーグ 第8節 アーセナル×アストンビラ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
ファストブレイクのミッションは

 グリーリッシュには注意せねばいけない!という世界中のこの試合のプレビューで述べられているポイントを早々に守れなかったアーセナル。グリーリッシュがサイドで受けるとホールディングが引っ張り出される。折り返しを許すと内側で受けたマッギンがいきなりネットを揺らす。

 「どうせ止められないのだからオンサイドでいいだろう」という声が出るのはもちろん理解できるが、規則でいえば明らかにこれはオフサイドのケース。ただし、ルール上ではアーセナルの失点は取り消されても、開始40秒あまりで崩されたという事実まではなかったことにはできない。開始早々アーセナルはアストンビラのキーマンを軸に作り出された歪みを使われてしまうことになる。頭が痛い立ち上がりになったのは事実だろう。

 アーセナルのボール保持は前節と同じ通り。ティアニーによる4バック変形を主体に、トーマスとエルネニーが中盤セントラルに。どちらかといえばエルネニーの方が低い位置に降りてボールを受けることが多かった。

 ここ数試合と同じようにこの日も左からの崩しを狙うことが多かったアーセナル。サカ、ティアニーが出し手となってアストンビラのエリア内にクロスを上げていく。アストンビラが早々にネットを揺らした立ち上がりの時間以降はアーセナルが攻める機会は多くなった。

 しかしながら、効果的な攻め込み方ができていたかは微妙なところ。アストンビラはがっちり撤退して組んでしまえばエリア内を切り崩されにくいチーム。高さはあるし単純なクロスは無効化されてしまう。したがって、CHやCBなどアストンビラの中央に位置する選手と真っ向から立ち向かうのは得策ではない。彼らに勝利したサウサンプトンやリーズは速いカウンターからアストンビラの陣形が整う前に攻め切ることで得点を決めている。

 したがって、アーセナルも彼らを動かすことから始めなければいけない。トーマスとエルネニーはいずれもアストンビラのCHを引きつけてからパスを出すことで、相手の陣形を動かそうとする意識は見られた。しかしながら、相手を動かしたスペースから加速して、一気に完結とまで行くと攻撃をうまく終わらせることができたシーンはわずか。前半終了間際にラカゼットが大外フリーでヘディングを枠に飛ばせなかった場面が代表例である。

 悪い例はオーバメヤンが上げたクロスを受けようとしたラカゼットがミングスとコンサに完全に挟まれて潰されたシーン。アーセナルはエリア内に人数を用意することが全くできておらず。クロスの軌道そのものは悪くなかったが、この状況のラカゼットに届けられるクロスはおそらく世界中どこにも存在しない気がする。そんなシーンは最近のアーセナルではよく見られる光景だ。

    ベジェリンやサカ、ティアニーからクロスが上がる場面はあるものの、アストンビラの中の重心を崩した状態でのチャンスメイクは数えるほど。中盤では剥がしをしても、預けられた前線がその時間をうまく使うことができなかった。全くダメというわけではなかったが、いい攻めだった!と胸を張るのも難しいという出来だった。

【前半】−(2)
わかっていても作られる歪み

 アストンビラのボール保持はCBが大きく開く形。その間にCHがボールを降りに来る。この役割を担うことが多かったのはドウグラス・ルイス。アーセナルはここに監視役としてラカゼットを置く。両WGはCBに外切りでプレッシャーをかける。外切りの弱点は角度を変えれば平気でSBまでボールを届けられること。アーセナルは中央の守備が常に非常にタイトだったわけではなく、GKまでプレッシャーをかけるわけではない。したがってSBにはボールを届けることが出来ていたアストンビラである。

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 これによって、アーセナルはウィリアンの裏で受けたターゲットのケアにベジェリンが出ていくことになる。そうなると今度はグリーリッシュがボールを受けられる状況ができる。グリーリッシュにはホールディングが持ち場を離れて勝負することに決めたアーセナル。最終ラインに戻ってきたベジェリンが内側のカバーに入る判断で対応する。しかし、キックオフ直後のオフサイドのシーンにおいても見られたように彼が外に出ていくことで空けたスペースをアーセナルはうまくカバーすることが出来ない。

 アストンビラは機会こそ少ないものの確実にアーセナルのゴールに迫る攻撃を披露する。ホールディングはグリーリッシュに好き放題抜かれまくってやられているわけではないものの、バシバシ止めているという状況でもない。したがって、グリーリッシュを起点とするパスワークは許してしまっていたといっていい。先制点もサイドから同数の局面で後手を踏み、ファーへのクロスを許していた。

 アーセナルはグリーリッシュに対してベジェリンがヘルプに行くなどして数的優位の状況を確保すべきかどうかは難しいところ。なぜなら、これまでのアーセナルの撤退守備はあくまでエリア内で跳ね返すことが前提で設計されたもの。というわけでこの場面ではサイドを同数で破られたことと、そのあとのグラウンダーのクロスをファーまで通されたことの2つのエラーのうち、どちらを咎めるべきかは難しい。グリーリッシュのマークをベジェリンに受け渡しつつ、ホールディングがPA内に戻る時間を稼ぐのが今のアーセナルにおける理想だったように思う。もっと手前の段階の話になるけども。

 前者のエラーを修正する方が危険を未然に摘める感もある気もするが、アーセナルはこれまで後者の理屈で守って危ない状況を何とかしていた感もある。とはいえさすがにここまで侵入されると跳ね返すのが難しい状況が出てくるというのはわかる。

 中で跳ね返す前提なら、跳ね返す要員の主力の1人であるホールディングが外に引っ張り出されているのはイケていないので、いずれにせよ設計ミス感はある。というか、その歪みを生じさせたのが結局はグリーリッシュということになるわけだけど。

 いずれにしても得点シーンのビラは見事。横パスをフリに抜け出してサイドを攻略し、高さのあるアーセナルのインサイドに対して、グラウンダーの対応が難しいクロスをファーまで通した時点で勝負ありだろう。詰めの一手まで含めてこういう状況を作りたかったのはアーセナルも同じ。歪みを作り出すメカニズムとその状況を利用するということの完成度の違いを見せつけられた。

 試合は0-1。アーセナルがビハインドでハーフタイムを迎える。

【後半】
悩ましいホールディング

 相手を1枚引き付けて、剥がして動かすという点では希望の光だったトーマスをハーフタイムで交代させたアルテタ。さすがに怪我だろ!戦術的交代ならアルテタがわからん!となったところに負傷の報が入ってきたので良かったけど、そもそも怪我したことは全然良くないけど!!という個人的な心の乱れを感じた後半の立ち上がりだった。

 後半も前半と同じように広いスペースで受ける機会が多かったグリーリッシュにアーセナルは苦戦していた。ホールティングはスピードにおいては勝てないのであまり引っ張り出されたくはないのだが、ビハインドの状況のアーセナルを考えるとなるべく高い位置でビラの攻撃を止めたいところ。したがって後方にスペースのある状態でグリーリッシュと対峙しなければならないシーンは前半よりも増えた。アーセナルの前線や中盤にロスト後の即時奪回をするエネルギーがなかったのもこの状況を悪化させていた。
 
 加えてホールティングを悩ませていたのがワトキンスの存在。スピードだけでなくパワーも十分あるワトキンスはグリーリッシュが空けた左サイドに流れてロングボールの収めどころして機能。パワーでもスピードでも厄介な相手が次々飛び込んでくる状況のホールティング周辺であった。

 何とか得点が欲しいアーセナル。前半のトーマスの役割を引き継いだセバージョスに課せられるのは引き続き相手を剥がして前に届けるミッションである。ただ、セバージョスはトーマスに比べるとスピードを落とす選択をすることが多く、相手とのコンタクトにおいても攻守にトーマスほどの優位はない。彼だけの話ではないが、トランジッションの強度は前半に比べれば攻守ともに落ちてしまった印象だ。

 仮に時間を作れてCHの裏にいるFW陣にボールを届けられても、そこから先のプレーが不発。特に内に絞って受ける機会が増えたオーバメヤンは時間がある状況においても、トラップやシュート、ボールコントロールのズレが見られており、コンディション不足を感じる内容であった。ウィリアンも同様で時間が与えられる状況になってもアーセナルはその機会をチャンスに結びつけることが出来ない。

 時間をチャンスに結びつけるという点でお手本になったのがグリーリッシュ。相手を引き付けるドリブルと追い越す味方に出すパスがセットになっており、アーセナルは後手を踏む。3点目が典型例で、自らのドリブルのコース取りでホールディングを動けなくしてから、裏に動くワトキンスにパスを出してフリーでのシュートを演出している。

 広い視野とそこにパスを届ける技術を併せ持つバークリーもアーセナルにとっては厄介。2点目のピンポイントアシストだけでなく、1点目のサイド崩しでも大きな貢献で守備ブロック破壊に一役買った。

 もちろん、3得点目のようなシーンは非常にオープンな状況。そもそもアーセナルはああいった状況をアストンビラ相手に作ることが出来なかった。個人のパフォーマンスに加えて、歪みを作り出す頻度もアストンビラがアーセナルを上回っていたといえる。相手を明らかに上回っているこそ、3点リードでファウルを受けてクイックリスタートを選択するのだろう。

 試合は0-3。アーセナルはホームで2試合連続の敗北、そして2試合連続の無得点だ。

あとがき

■作り出した独壇場

 完勝だったアストンビラ。攻撃において速い展開に持ち込むことが出来れば彼らの独壇場を作り出せるポテンシャルはリバプール戦で証明済み。この試合ではアーセナル相手に速い展開でも攻め手が生きやすい状況を前半に先制点で作り出すことが出来たことで、かなり優位に立ったといえるだろう。

 その先制点(その前のオフサイドも)はアーセナルの守備ブロックを破壊して得たものであり、ブロック攻略でも1枚上手だったアストンビラ。高さで素直に勝負することを避けての崩しはお見事である。グリーリッシュを軸に作り出す歪みをチームとして生かす今季の必勝パターンでアーセナルを下したといえるだろう。

■手付けはどこから?

 少ない失点は後ろに重たい守備がベースであったからこそ。低い位置までプレスバックする前線も、PA内で跳ね返すDFラインもまずはローラインを受け入れて跳ね返すことで一定の成功を収めてきた。それがアルテタ就任以降のアーセナルである。

 それがいいか?悪いか?はまた別の話として置いておくとしても、この試合は今までのアーセナルの守備が機能しなかった試合となる。加えて、前線の不調は継続。押し上げられないメカニズムは後ろに重たいDFブロックが影響している可能性もあるし、時間があるときの前線のプレーの質の低下はハードすぎるプレスバックの反動かもしれない。いずれにせよ、異なるシステムやメンバーを模索する障害は少ない状況ではある。

 好調をキープするマガリャンイスとホールディングに最後方を託す4バック化もあり得るだろうし、単調なクロスに終始しているサカとティアニーのコンビも解体の可能性はある。いずれにせよ前線の不調の根本原因解決は浮上の絶対条件だ。ハイライン採用によるプレスバックの負荷軽減、起用ポジションの変更、彼らに時間を与えられるサイド攻撃の再構築。

 もちろん、これらに変更によって今までの強みは失われてしまう可能性もある。ただこのままではよくないのは明らか。手の付けどころはいくつもある。アルテタにとっては忙しいインターナショナルブレイクになりそうだ。

試合結果
2020.11.8
プレミアリーグ
第8節
アーセナル 0-3 アストンビラ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
AST:25’サカ(OG)、72′ 75′ ワトキンス
主審:マーティン・アトキンソン

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