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「優位持続の陰に積み重ねあり」~2020.11.1 プレミアリーグ 第7節 マンチェスター・ユナイテッド×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
キーマン封じで攻撃が停滞

 リーグ戦では苦しむ両チーム。ユナイテッドはホームで結果を出せず、アーセナルは無得点で連敗中。共に順位はボトムハーフに沈むというつらい状況での一戦となった。

 前半はどちらもシュートもチャンスも少ない展開に。ユナイテッドのビルドアップは最終ラインに加えて、マクトミネイとフレッジが中盤に手助けに来るという形であった。ユナイテッドで縦への推進力のあるパスを出せるのは言うまでもなくポグバとブルーノ・フェルナンデス。ポグバは左の高い位置に流れ、ブルーノは自由に起点作りのために動いていた。

 アーセナルのプレスのスタンスは明確だった。まず、起点となりうるポグバとブルーノにはトーマスとエルネニーがマンマーク気味に潰しに行く。時間を与えられたのはユナイテッドのCBとCH。アーセナルはここにはある程度の余裕を与えることを許容。ラカゼット、オーバメヤン、ウィリアンでマグワイア、リンデロフ、マクトミネイ、フレッジを受け渡しながら抑えるといった形だった。

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 ユナイテッドのバックスに多少の時間を与えるのはOKというのがアーセナルの判断。ただし、中央にボールを持ちだして侵入してきたらそこは優先的になんとかする。サカ、ベジェリンのWBは基本はSBのショウとワン=ビサカを監視しているものの、インサイドの枚数が少なかった場合はマークを捨てて中央に絞る。この辺りの優先度が整理されているのがアーセナルの守備のいいところだ。

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 マガリャンイスとホールディング、ティアニーは降りていくグリーンウッドとラッシュフォードにほぼ前を向かせることはなかった。結局後ろをどう抑えても、前でちぎられてしまったらおしまいなので彼らの果たした役割は大きい。特にマガリャンイスは圧巻のパフォーマンスであった。

 中盤でもトーマスはポグバと渡り合える体の強さを見せる。起点を潰せるトーマスの存在はアーセナルにとっては大きい。というわけでユナイテッドの前進のチャンスは非常に少なかった。8分のグリーンウッドのようにCBがついてこれない位置まで降りてきてマークを振り切るか、42分のフレッジのように時間を与えられた選手からのフィードでチャンスメイクをするかしか活路を見出すことができなかった。

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【前半】-(2)
優位を取れた要因は?

 アーセナルの保持はいつも通り4バック。ティアニーが守備では3バックの左CB、攻撃においてはSBという最近お馴染みのティアニーロールである。

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 ユナイテッドのプレスはブルーノ、ラッシュフォード、グリーンウッドの3枚で。彼らは中央を優先して締めていた。アーセナルのSBとWGはどちらかが外、どちらかが内にポジショニングすることが多いので、ユナイテッドのIHとSBもそれに従って内と外でそれぞれ監視する形。人についていくよりはスペース管理優先。アーセナルの左サイド側はWBのサカもいるので、リンデロフまでサイドの守備に駆り出される頻度が多かった。

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 プレス隊の人のかけ方としてはアーセナルと同じ。ユナイテッドのプレスはアーセナルのCBとCHにある程度の時間を与えるものだった。特に降りて受ける動きを見せるエルネニーへのケアが甘くなることが多かった。

 ユナイテッドとの違いは時間を与えられたアーセナルのCHがボール運びで有効打となるスキルを見せられたこと。エルネニーは開幕時と比べると低い位置でのプレー判断、そして前への意識とボールを運ぶスキルが格段に良くなっている。20分のシーンがわかりやすい例で、GKにプレッシャーをかけるグリーンウッドを見て、そちらのサイドからボールを運ぶように動線を変えている。そしてボール運びに成功という流れである。

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 エルネニーは試合の強度や相手のプレッシャーが強まると完全に試合に取り残されてしまうのがこれまでだったのだが、この試合ではトーマスと2人でユナイテッドの中盤と見事に渡り合っていた。前半はどちらかといえばアーセナルペースだったのだけど、理由をあげるとすればこの中盤の優位があったからと自分ならば答える。プレビューで述べた中盤で起点を開放できるか?というポイントをアーセナルは制することができていた。

 問題として感じたのはむしろ前線にボールが渡ってから。特にオーバメヤン、ウィリアンはボールを持ってからの判断が噛み合わずに攻撃がここでスピードダウンすることが多かった。ユナイテッドが自陣にリトリートしてからも間のスペースに隙はあるものの、アーセナル側のどこを使うか?のところの判断がやや遅く、チャンスを潰してしまうことがあった。

 アタッキングサードに押し込んでからのどこを使うか?の盤面の共有が甘かったように思う。ここが前半押し切れなかった主要因かなと。頼みのサカとティアニーのコンビもこの日の攻撃では不発。ティアニーからの精度の高いクロスがここ数試合見られない気がするのは地味な心配要素である。

 試合は0-0。共に得点どころかシュートが少ない状況でハーフタイムに突入する。

【後半】
更なる改善を求めるが・・・

 布陣変更というかまでは微妙なところだが、後半のユナイテッドはマイナーチェンジを施す。ポグバがやや左サイドに流れ、グリーンウッドが右サイドに開く。トップ下にブルーノを置く4-2-3-1のような形に見えた。攻撃の部分ではピッチを広く使うというところか。前線の選手は裏を狙う意識を強め、両サイドの選手は幅を取る。開始早々にあわやのシーンを作り出したマグワイアからの対角フィードを受けたグリーンウッドのような動きを増やしたかったはず。ポグバを左に逃がしたのは劣勢だったトーマスとのマッチアップを回避するためかもしれない。

 マンマーク的な対応が目立つアーセナルの後方が4バックぽく見えたのは、ティアニーが監視していたグリーンウッドが幅を取る動きが多かったからだろうか。

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 中盤中央でパスを引っかける場面が減ったユナイテッド。さすがに裏をとって一発で決定機という場面はなかったが、アーセナルを横に広げることで押し込むことには成功していた。

 ユナイテッドがさらにもう一歩踏み込んで決定的なチャンスを得るには、前半に苦しんだアーセナルの中盤の優位に対抗しなければいけない。だとしたら、中盤にわたる前に決着をつければいい。ユナイテッドとしてはよりプレスの重心を高めにして中盤の優位を消してしまおうと動く。前半の終盤からはプレスを強化してアーセナルのバックスに対してPAまで侵入してプレッシャーをかける機会が増えた。

 ただし、この状況はアーセナルはシティやリバプール相手を筆頭として、これまでたくさん経験してきたハイプレス回避の状況でもある。これまでの積み重ねを感じさせるボール回しでユナイテッドのプレスを空転させていた。惜しくもマイク・ディーンに当たってしまい突破できなかった50分のシーンのビルドアップに代表されるように、右の深い位置まで相手をおびき出して、中央を経由して左に展開という流れは安心して見ていられる。

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 さらなる優位を取ろうとしたユナイテッドに対して、プレス回避で息を吹き返したアーセナル。徐々にボール保持の時間を作りだし、ユナイテッドを押し込む時間を作るように。

 そんな押し込む時間帯で先制点を得たアーセナル。前半からズレを作り出していたウィリアンをベジェリンが縦関係を入れ替える動きからPKを奪取。ユナイテッドの布陣変更はやや後手を踏んでいたサイドにおけるマッチアップをクリアにする意味合いもあったはず。それだけにポグバにはベジェリンを逃がしてほしくなかったのではないだろうか。83分のシーンでは逆の立場のベジェリンがPAのポグバを逃がさずにタックルを決めているので、この貢献を本来は来たかったところだろう。

 後半のアーセナルは高い位置ではサカとウィリアンをSHに置く4-4-2と、ローライン時の5-4-1の併用で守っていたが、得点後は重心を下げて潔く撤退を決める。オーバメヤンもエンケティアもバイタル付近まで戻り、文字通り11人で守るような状況だった。

 ボールを持つことを許されユナイテッドは終盤に攻め込む。カバーニの投入後から左サイドのルーク・ショーからのクロスという新しいレパートリーは攻撃に加わった感。セットプレーの流れからはファーのマグワイアに当てる形が定番化していた。あわやという場面は作れたが、アーセナルの守備ブロックはなんとか追加タイムをしのぎ切り逃げ切りに成功する。

 実に14年ぶりにオールド・トラフォードでの勝利を決めたアーセナル。リーグ戦の連敗は2でストップである。

あとがき

■嘆くべきは少なさか?とがり方か?

 堅い展開に持ち込み、終盤まで粘ってからの残り10分でのロングカウンター・ブーストで一気に突き放す。これは今季のユナイテッドの勝ちパターン。大勝したニューカッスル戦とライプツィヒ戦はいずれも終盤に一気に得点を重ねて大勝を飾った試合である。

 そういう意味では前半の劣勢もある程度織り込み済みの展開ではあったともいえる。前半のうちにマガリャンイスとホールディングに警告を受けさせることには成功していたし、グリーンウッドを倒したマガリャンイスに2枚目のイエローカードが出ていれば展開は変わった可能性はある。この試合で勝ち点を取るチャンスがなかったわけではない。

 それでもやはり得点につながる道筋の少なさは頭が痛い。現状ではポグバかブルーノから前線のスピードを活かす形しか期待値は高くない。昨季はそれでうまくいった時期もあったが、今季は昨季よりプレスの瞬間的な強度も持続時間も長くないので、その分威力が半減している印象だ。

 落ち着いた展開を握る武器を見つけるか、それとも今のパターンをとがらせるプレス強度の復活を狙うか。上位進出の狼煙をあげるにはまだ何かが足りないように思える。

■課題解決に積み重ねの痕跡が

 今季ここまでのアーセナルの課題は90分間優位が持続せず、優位な時間帯に得点を取り逃がすとジリ貧になるという点である。前節のレスター戦が顕著で、10本を超えるシュートを浴びせまくった前半の優位は後半には継続せず、レスターのカウンターに屈した。

 序盤の猛攻がレスター戦ほどではないとはいえ、前半を優勢に進めたこの日も同じ懸念はあった。前半はコンパクトな守備からリズムを作っている様相が強く、前線の運動量低下及び交代メンバーの投入に伴い、この優位は後半に失われる可能性は少なくなかったと思う。

 この日のポイントはユナイテッドが更なる主導権を握ろうとプレスをかけてきたところ。プレスに来たら交わすアクションに取り組むしか選択肢はない。後方のスペースを承知でプレスに来たユナイテッドの選択が、アーセナルを活性化したようにも見えた。これによって後半もペースを握り続けることができた。プレス回避には危なげがなく、ここは積み重ねの強さを感じる部分であった。やり続けるって大事。

 ユナイテッドのブロックを崩せなかった部分や攻守のバランスがまだ後ろに傾きがちといったように、この試合でも改善点はまだある。が、これまでやってきたことが課題の解決に紐づき、勝利につながったという事実は今後の改善に取り組む姿勢にポジティブな影響を与えるのではないだろうか。

試合結果
2020.11.1
プレミアリーグ
第7節
マンチェスター・ユナイテッド 0-1 アーセナル
オールド・トラフォード
【得点者】
ARS:69′(PK) オーバメヤン
主審:マイク・ディーン

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