MENU
カテゴリー

「理屈の先に何があるか」~2020.10.25 プレミアリーグ 第6節 アーセナル×レスター レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
うまくやれてたよ

 公式戦の欠場が続いており、この試合の出場可否が微妙とされていたジェレミー・ヴァーディはベンチスタート。前節のアストンビラ戦のバック4に加えて、フクスが先発メンバーに名を連ねていたレスターは5-4-1を敷いたシティ戦の焼き直しを狙った序盤のブロックの組み方であった。

 ざっくりと簡単に説明すると、守備時は5バックで攻撃に転じた際には片側のWBが前に出ていきSHとなる。上がったサイドの前方の選手は内側に絞るという流れである。

画像2

画像3

 シティ戦ではアマーティとカスターニュを併用した右サイドでこの変形が見られたが、この試合ではフクスとジャスティンを併用した左サイドがターゲット。可変要員がアマーティ→フクスになったのは単なる怪我による部分かもしれないが、前方の絞るMFにマディソンをチョイスしたのは内側で仕事をさせたいからであろう。

 レスターの非保持ブロックはトップの選手がハーフウェイライン付近、後方のDFラインがPA手前10mに設定される。トップの選手はアーセナルのCBにプレッシャーをかけることはほぼなく、中央からパスをつないで前進を避けるようにできるだけコースを切るといった具合。前方から後方までをコンパクトに保ち、間を使わせないことを優先した守り方である。

 シティ戦と同じアプローチを見せたレスターだったが、この受けるやり方に対する攻略法はシティよりもアーセナルの方が実践できていたといっていいと思う。

 理由はいくつかあるが、まずはダビド・ルイスの存在が1つ。直近のRCBではプレッシャーをかけられたときのショートパスの判断に難があったが、この試合では前提としてプレッシャーを感じる機会が少なかった。その上で対面するマディソンは他のレスターの中盤に比べれば、プレスもパスコースの限定も甘く守備における貢献度が低い。なので、ルイスの得意な中長距離のパスが出しやすい環境が整っていた。

 もう1つは裏への動き出しである。レスター戦のシティはそもそもこの動きが少なく、ショートパスから大外に入った時にようやくハーフスペースの裏抜けが発動する。アーセナルはこの試合ではベジェリンやラカゼットの裏に抜ける動きに合わせるように、ルイスからのフィードが発動していた。

 もちろん、崩しにおいてはアーセナルのストロングサイドである左サイドへの展開も使うことが可能。この日は同サイド後方にジャカが流れて、ティアニーとサカの内外を使うパターンだったが、ルイスから大外のティアニーへのフィードもバリエーションの1つだった。

画像4

 ルイスという起点ができることで両サイドからレスターゴールに迫ることが出来たアーセナル。ボール回しのルートを見てみると、プラートやティーレマンス、そしてメンディなど強固なレスターのMF陣を迂回するように循環しているのがわかる。さらに、5バックのレスターはラインの上げ下げがやや不安定に。サイドの深い位置にボールが運ばれてしまった際にはラインを下げる必要が出てくるので、この試合のレスターはラインの上げ下げの頻度は結構多かった。

 久しぶりの出場になったフクスや、新加入のフォファナが最終ラインにいるのならば上げ下げの連動が不安定になるのは仕方ないことである。アーセナルはこの最終ラインのギャップを突いて、ジャカが裏抜けするラカゼットにスルーパスを出す好機を演出。オフサイドラインに残ってしまったのはフクスであった。このようにハーフスペースの裏抜け一辺倒だったシティに比べれば、奥行きや幅をうまく使えていたといっていいと思う。

 ただ、フィニッシュの局面はやや不満が残ることに。この試合では左にサカ、右にオーバメヤンというこの構成からするといつもと逆の配置でのスタートとなった。ぱっと見で目を引くのはよりレアなオーバメヤンの右サイド起用だが、おそらくこだわっているのはサカとティアニーのユニットの方ではないか。左は崩し、右はフィニッシュという分担からこのサイド割になっているという考え方だ。

 しかし、結局はティアニーやサカ、ベジェリンのクロスのフィニッシャーの役割はラカゼットが一手に引き受けていた印象。オーバメヤンやルイスが持ち上がった時には高い位置を取ることが出来たセバージョスもファイナルサードにおけるフィニッシュには効果的に絡むことが出来なかった。無論、ラカゼット単体でもチャンスは作れていたのだが、決定機となるほどのチャンスは数えるほど。前半はラカゼットの頭にティアニーの早いクロスが合わなかったシーンくらいではないだろうか。

 それでも、前半は明らかにペースを握ったアーセナル。押し込まれてラインを下げられてしまったレスターは陣地回復の有効な手段を打つことが出来ない状態が続いてしまうことになる。運べる前線の選手はそろっているレスターであったが、裏に抜ける動きを見せることが出来る選手が少なかった。長いボールはマガリャンイスとルイスが無効化しており、自陣からの脱出にはだいぶ苦労をしていた。

 引いて受けるときは5バックというのはひとまずこのスカッドを見てのアルテタの結論なのだろう。今まではWBのサカが最終ラインに入っていたが、この試合ではもう一列前の起用。ということでCHのジャカが最終ラインに入り5バックを作る。「左から作る」と同じように「非保持は5バック」というのも今のアルテタの決まりなのだろう。さっきの画像の使いまわし。

画像5

 アーセナルは攻め込むもスコアは0-0のまま。得点が生まれずにハーフタイムを迎える。

【後半】
約束された質の上乗せ

 圧倒的に優勢だった前半だが、アーセナルファンとしての自分には不安な部分があった。それはベンチの交代カード。流れとしてはうまくいっている。そしてベンチに控える選手はいずれも一癖ある選手。フレッシュな選手を投入しようとすれば、アルテタが望まない方向に試合が転がる可能性もある控えメンバーというところである。それだけにおそらくこの試合はスタメンでリードを取っておきたかった試合ではないか。

 一方でレスターはコンディションさえ十分ならば、ヴァーディは確実にブーストが期待できる。難しい試合の中でクオリティをワンランク上げる術をベンチに持っていたことも個人的には不安だった部分である。

 ロジャーズがまず策を打ったのは前半終盤。マディソンを中央において、バーンズをサイドに置く。これによりサイドの守備がだいぶすっきりした。前半起点になっていたルイスがいなくなってしまったこと、そしてセバージョスが降りて受ける機会が増えたことでレスターのマークも監視しやすくなる。セバージョスにボールが入ったらサイドに誘導し、袋小路に追い込んで取り切る。裏抜けも担当がハッキリしているので非常に対応がしやすそうだった。

画像6

 わかりやすいのは50分のシーン。サイドに追い込んで奪い取った後からレスターのカウンターが発動する。このシーンではティーレマンスのミスでカウンターがストップ。アーセナルのカウンター返しが発動しかけるが、レスターに遅らされる。こういう所のスピードアップの少なさは今季のアーセナルの気になるところである。

 CBが攻撃に絡めなくなった右サイドは動かせず、相変わらず頼みの綱は左になるアーセナル。上の図を見ればわかるだろうが、この状況で中央で孤立するトーマスを活用しよう!というのはそもそもが無理な注文だ。

 レスターで物足りなかったのはカウンターの精度の部分、マディソンがトップだとスピードが出ないのは仕方ない。というわけでヴァーディが出るまでの当面はレスターはこの膠着を許容したということだろう。

 ヴァーディのプレー可能タイムは30分だった様子。60分ごろに登場する。彼が仕上げを施したのは80分のこと。同じく交代で入ったウンデルが後半高い位置を取って中盤で守りがちだったジャカのところからラインブレイク。よーいドン!ならウンデルにかなうわけないので、駆け引きをすることはよくわかる。アーセナルとしてはさらされて裏勝負にされた時点で詰みだった。質を上積みしたカウンターから生み出されたレスターのこの決定機は前後半通して最もチャンスらしいチャンスになった。

 FWを投入して追いすがるアーセナル。だが、フレッシュさと引き換えに機能性はむしろ選手交代で失った感があるのが切ない。そして、なんとなくそれがわかっていたことも悲しい。アーセナルは最後まで前半の勢いを取り戻すことはできず。試合は0-1でレスターが連敗を止めるのに成功した。

あとがき

■納得のスーパーサブ化

 やはり今季のレスターはめんどくさい。ソリッドな中盤にヴァーディがクオリティを上乗せできるスカッドは完成度も高く強力。メンバーが多少入れ替わったり、後ろに重たくしても仕留められる仕組みをチームとして持っているのは心強い。ネームバリューから言えばスタメンのマディソンは一発こそ秘めているものの、他のメンバーの貢献度を見ると現在のスーパーサブ扱いも納得といえそうである。

 ヴァーディの投入は効いたが、それまでの試合運びがどこまで理想通りだったかは微妙なところ。少しラインを下げたように感じたハーフタイムからヴァーディ投入以降は狙い通りかもしれないが、単純にそれ以前は割とアーセナルに押し込まれて危険なシーンも作られていたので紙一重感もある。

 スカッド的にはこれ以上の負傷者が出ると少し厳しい。特にすでに怪我人がいる最終ラインと替えが効かないCHとヴァーディが離脱するようなことがあればさすが難しくなる。久しぶりの欧州カップ戦との二足の草鞋だが、他のチームの完成度を見る限りは十分にチャンスはありそうだ。

■パイプ役選びに失敗すれば

 この試合だけ見た人にはこのアーセナルがどのように映るかはわからないが、少なくともシティ戦に比べればはるかに良質なゲームプランの遂行力だったように思う。特に前半はルイスを起点に左右からチャンスメイク。死に体だったシティ戦に比べれば右サイドからもチャンスを作ることはできていた。

 気になるのは後半。右サイドでのボール回しが停滞するとラカゼットとオーバメヤンにボールはほとんど届かなくなった。なんとか突破した左サイドからターゲットが少ない状態でのクロス頼みになっているのは苦しい。サカやティアニーにクロスの質を上げておいて!と丸投げするのはあまりに酷。できれば中央で起点に慣れる選手が欲しいところ。ウィリアン、セバージョスあたりにはその役割を託したいところ。ただ、実効性は未知数。

 ペペに関しても本人のコンディションと合わせて、プレーできる舞台をチームで用意できていない感じも気になる。右サイドはかなり詰まっているし、ビハインド後の左サイドからのボール運びは率直に言って不適格な役割だと思う。

 中盤と前線のパイプ役選びに難航すれば、少ないチャンスを決められるかどうか?というしぶとい戦い方が求められるようになる。理屈に沿って実直にチャンスメイクを行うアーセナル。得点力アップにはブレイクスルーが必要そうだが、アルテタが進む理屈の先にそのきっかけはあるのだろうか。

試合結果
2020.10.25
プレミアリーグ
第6節
アーセナル 0-1 レスター
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
LEI:81′ ヴァーディ
主審:クレイグ・ポーソン

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次