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「セオリーに逆らう解決策」~2020.10.3 J1 第20節 セレッソ大阪×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
大島抜きのトライアングルの出来は

 プレビューで書いた予想スタメンが当たる!というのは今季初めてかもしれない。このスタメンで実際に戦う!となったときに個人的に気になるのは川崎のCHの3人であった。前回対戦時に不在だったデサバトに大島僚太抜きで対峙する脇坂、田中、守田のトリオがどこまで渡り合えるかどうかが試合前に楽しみにしていたところである。

 プレビューに記した通りこの試合のポイントの1つはC大阪のボール保持に対して、川崎がどのようにふるまうかである。ざっくりいうと4-3-3で高い位置からプレスにいくか、それとも4-4-2で深い位置に構えつつボールの出た先を塞ぐのかである。

 結論としては形としては4-4-2。ただし、中盤は前から捕まえに行く姿勢を見せていた。深い位置に下がる藤田やデサバトに対して川崎の中盤は積極的に前に出ていく。C大阪のCHは行動範囲が広く、さらにはSH(特に清武)が絞ることが多いので、川崎のCHは難しい舵取りを強いられた。

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 例えば1分のシーン、田中碧が前に出ていって交わされてしまいあわやチャンスを作られそうになった川崎。ここは齋藤学が絞って対応したが、難しいバランス感覚でのプレーを求められていることがわかるシーンだった。

 ボールを動かしつつ近いところを使っていけば、C大阪はズレが作れる。しかし、この日のC大阪は安全運転優先。近いところは勢いを持ってプレスに来ている川崎を警戒してか、ひとまず序盤は長いボールで様子見の色が強かった。そのため立ち上がりは川崎がボール保持する時間が長くなった。

 その川崎のボール保持もC大阪の4-4-2ブロックを崩すという難しいミッションに挑むことになる。ポイントはここでも中盤。この日の脇坂、田中、守田はC大阪の2トップの背後か脇で受けることを意識していた。CBからの縦パス1つで前を向いて起点になる役割である。

 理想的だったのは5分の守田の運び方。2トップの間でボールを受けてターンしながら前を向いて1列前に刺す。非常に理想的なボールの動かし方だった。

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 1列前にボールを運ぶ中盤を入り口としていた川崎。そこから先は同サイドのトライアングルと大きな逆サイドへの展開を併用。3分のように薄いサイドに大きく動かすことで家長がシュートに迫れるシーンが代表例。どのルートを使って攻略するかは中盤に任されているのだが、守田はすっかりアンカーからのゲームメイクが板についてきた。近いサイドを使うのか、大きく幅を使うのかの選択において大島抜きの3CHは非常によく立ち回っていたように思う。

【前半】-(2)
1枚剥がせるかどうか

 ゴールに迫れたり、深い位置まで侵入していけるシーンは川崎側の方が多かったように見える。ただ、序盤の展開が落ち着くとC大阪のボール保持の時間は段々と増えていった。

 C大阪はいつもよりも一つ一つ積んでいきながら相手をずらしていくようなビルドアップは少なかったように思う。その分後方の安全なボール回しに加えて、長いボールで一気に局面を進めることを狙う頻度が多かった。ボールを悪い形で失うリスクを回避することは序盤に引き続いて重要視していたように見えた。

 そのためか少し時間を作り切れないように見える場面も。24分にサイドチェンジを受けた大外の片山。もちろんこの場面で選択したマイナスに折り返しての清武のクロスも破壊力はあるのだが、ここから深さを作れる選択肢も欲しかった気もする。ニアでサポートする選手が欲しくなる場面もあったかなと。クロスでゴールに迫る場面もあったが、カットインから川崎の陣内に切り込むシーンはあまり見られなかったように思う。

 ということでC大阪のチャンスメイクは独力で1枚剥がす必要がある。15分に猛進したメンデスや、13分に体の入れ替えでジェジエウに警告を出させた奥埜などの個のスキルで輝けれなければゴールに迫る場面がなかなか生み出せない。

 川崎は大きな展開と広い視野を持つ清武を消せたのは大きかった。マッチアップする機会が多かったのは田中碧。時には個人に交わされる場面もあったが、最重要人物の存在感を消せたのは大きい。前と後ろを行き来する脇坂、絞ることも厭わない齋藤、そして後方でカバーに尽力する守田とこの日の川崎の中盤は苦手とされているセットディフェンスを高いクオリティでできていたと思う。

 給水明けもC大阪のボール保持が増えていく状況。その展開は変わらなかった。C大阪は高い位置からのプレスはやや増えた印象。特にねらい目にしていたのは谷口⇒登里のライン。奥埜が外に誘導するようにプレスをかけて、登里に供給されるパスを狙い撃ち。川崎の左サイドを袋小路にして、ボールを追い込んでいた。

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 序盤にゴールに迫る機会を得た川崎、徐々にボール保持の時間を増やしていくもシュートまでいくシーンが限られたC大阪。形は違えど均衡している展開だったが、その均衡が破られたのは37分。セットプレーからのクリアを受け手のセカンドボールから。登里の大外へのボール、脇坂の折り返しのクロスともにワンタッチでのプレーで意外性にあふれているな!と思ったのだが、脇坂のコメントを見るとセカンドボールから押し上げた裏というのはどうやら狙ったものだったよう。恐るべきである。



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 拮抗した展開を狙った意外性で打ち破った川崎が先制点を得て前半は終了。試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
王道と逆行するアプローチ

 得点で川崎のリードとなったものの一進一退の攻防は変わることはなく後半を迎えた。

 先にリズムをつかんだのはC大阪の方。開始直後にメンデスがサイドに流れることで川崎を押し込むムーブをみせる。前半に比べるとつないで押し込んでというやり方に幅が見えるようになった。川崎も4-4-2プレスで前傾になるケースが前半に比べると減ったので、C大阪は落ち着いてボールを持つことができた。

 ボールを持ってからの武器は右サイド。坂元はいつもよりも体を張って何とかしようとするムーブが目立った。ソンリョンが出れずに登里に冷や汗をかかせた裏をとるランもあわやPKというギリギリの状況を演出。思う通り受けられる状況は少なかったが、その分泥臭くやってやろうという姿勢を見せていた。ただ、ボールタッチは割引でいつもほどの精度はなかったか。ボール触れなくてリズム作るのが難しかったのかもしれない。

 坂元に加えて右サイドの武器になっていたのは松田のアーリークロス。普段は逆サイドの丸橋もクロッサーとしてリーグトップクラスの精度を示しているが、今日は逆サイドを務めたのは片山。むしろクロスに対してターゲット役になるタイプである。

   サイドからのクロスは一手に引き受けた感のあるこの日の松田。そんな彼から同点弾は演出されることに。クロスの受け手となったのは奥埜。川崎のDF陣相手に体の入れ方で上回る場面を見せていた奥埜だったが、この場面でも谷口を出し抜いてクロスに入り込み貴重な同点弾を叩きこんだ。

 得点を境に試合の流れは徐々に川崎に傾き始める。もっとも、得点のせいというよりは三笘と大島が交代で入った影響は大きいだろう。明らかに踏み込まれる展開が増えていた川崎は中盤とワイドのテコ入れを図る。

 川崎の攻撃で前半の終盤から見られたのは右のウイングだった家長が左サイドまで出張していくオーバーロードである。川崎は立ち上がりから3人程度で多角形を作りながらサイドでのパスワークを行っていた印象だが、家長が出張に来た局面ではさらに1人か2人がこのパスワークに入り密度が増していた。時たま大きな展開を挟むこともあったが、今季の川崎の中で最も細かいパスワークにこだわった試合といってもいいだろう。

 C大阪のようなゾーンを圧縮してくる相手に対して、狭いところに密集して細かいパスワークで崩すというのは非常に難易度が高い手段。これまでの対C大阪でもこういう形になることはよくあったが、川崎はことごとくC大阪の壁に阻まれてきた。今季は特にピッチを広くというやり方にもトライしていたこともあったし、今年の等々力での試合は家長への大きな展開が引き金となり、逆転となるPK弾をゲットしている。

 今年の川崎が取り組んでいることとは逆の方だし、どちらかといえば悪手とされるやり方だろう。しかし、この日の川崎の出来からするとこの手法の収支はプラスだった。横、裏、マイナスなどそれぞれが被らないようにポジションを入れ替えながら、ボールホルダーをサポートできていた。

 交代で入った三笘、大島もこの崩し方にはうってつけ。三笘はスピードに乗らない状態でも相手の逆を取りながら剥がすことができるし、大島にとっては狭い局面でのショートパスの連続はお手の物といっていいだろう。C大阪はなかなかいい形でのボール奪取が決まらない。

 押し込む川崎の最後の仕上げになったのはレアンドロ・ダミアン。投入早々に同じく交代で入った旗手のミドルの跳ね返りを抜け出して押し込む。わずか数十秒でのワンプレーで川崎側に試合を傾けてしまった。

 さらに直後に仕上げの追加点。この追加点こそまさにこの試合で取り組んでいた狭く狭くの崩しが機能したシーン。PAでの細かいタッチから山根が粘ったところを最後に三笘が仕上げる。多分だけど、C大阪がこれだけエリア内でパスを長いことつながれること自体が異例な気はする。この日、川崎が取り組んできたことが試合を決定づけるダメ押し弾になった瞬間だった。

 さすがにこの3点目で意気消沈が見られたC大阪。試合はそのまま川崎が逃げ切りを決める。苦手なヤンマースタジアムで首位決戦を制し、8連勝を達成だ。

あとがき

■ロジック×リスクが欲しい

 非常にレベルの高い試合だった。敗れたC大阪も完成度は高かったし、前の週の仙台戦で見せたような重たさはあまり感じられなかった。攻守に完成度の高い仕上がりだったし、川崎も存分に苦しんだ。あえて勝敗に分かれ目を言うならばリスクの取り方の部分だろうか。もう少しつなぎながら川崎のプレスをほころばせるようなボール回しにチャレンジをしても良かったような気もする。後ろからつなぎつつ、いい状態を前に送るみたいな。

 理路整然としたチームだが、文脈に関係なくぶん殴るような理不尽さはやや薄い。だったら、理路整然としたところで勝負できる部分でショートカウンターを受けるリスクをとっても、丁寧に川崎のプレスを剥がすような形で前に運んでいくチャレンジをもっとしても面白かったかもしれない。

 負けてなお強しの印象を残したのは等々力と同じ。ロティーナと共に長年歩んだ先にどういうチームが誕生するのか。この試合では負けてしまったが、今後のJ1を牽引する存在になることは間違いないだろう。

■セオリーに反するが・・・

 プレビューで書いた通り、圧縮がうまいC大阪相手には広く広く戦うべきと個人的に思っていた。あるいは圧縮に食いつかせて、薄いサイドを作るべきとも書いた。ハッキリ言って試合に照らし合わせてみればこのプレビューで書いた展望は的外れ。せまくせまくせまくという解決策はセオリーと逆行するものといってもいいくらいである。少なくともC大阪対策として真っ先に出てくる類のものではない。

 しかし、このやり方で最もリーグで強固な守備ブロックを破ったのも事実。この試合ではフィーリングの合い方がえぐかったし、細かいタッチもさえまくっていたことを踏まえると毎試合使えるかどうかは別の話だが、このやり方も武器の1つであることは間違いない。しかも、他のクラブには簡単にマネができない武器である。今季取り組んでいることと異なっていても、これほどの精度でできるなら文句のつけようがない。

 肝要なのは使い分けができるかどうか。同じやり方で取り組んだときに、ダメだと思ったら店じまいができるかどうかである。シュートパスの連続で魅せられながらも、シュートパスの呪縛に苦しんできた試合も多くある川崎。しかし、やり方の使い分けで勝ちを重ねている今のチームならば、そこは信用してもいいのかもしれない。そう思わせられる今季ここまでの集大成であった。

今日のオススメ

 ダッシュで交代した小林悠。引き分けでもいいと思ってしまいそうな展開の中で、残り少ない時間で得点を取りに行く姿勢を最後の一歩まで示していた。

試合結果
2020.10.3
明治安田生命 J1リーグ 第20節
セレッソ大阪 1-3 川崎フロンターレ
ヤンマースタジアム長居
【得点】
C大阪:62′ 奥埜博亮
川崎:37′ 瀬古歩夢(OG), 83′ レアンドロ・ダミアン, 84′ 三笘薫
主審:東城穣

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