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「計算されたのはどこまで?」~2020.8.26 J1 第24節 ヴィッセル神戸×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
前に届けられない時間

 まず目についたのは神戸の守り方である。サンペールのアンカーの4-3-3で来るかなと思ったけど、守備時はサンペールが最終ラインに入る5-4-1の形だった。ボール保持においてはアンカーの位置まで出てくるので、攻守で立ち位置を入れ替えているイメージ。サンペールのCBはパワーの面で不安があるけど、この日の対面はダミアンでなく小林悠なのでまぁよし!という感じなのだろう。

 5バック化するメリットはおそらくこの方が相手のビルドアップに対して人を捕まえやすいから。特に4-3-3のままだと捕まえにくい川崎のSBに対しては神戸のWBが早めに捕まえに行くことができる。

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 というわけでまずはSBへの時間を作らせるのを防いだ神戸。したがって川崎としてはもう少し手前で時間を作る必要があった。ただ、ここは課題が出た部分だと思う。例えば7分のシーン。谷口からボールを受けたジェジエウがボールを持った時点で安井と酒井がすでにボールの出所はチェック済み。ドウグラスのプレッシャーを受けてボール保持がきつくなったジェジエウは、マーカーのいる山根にボールを渡す。いわゆる時限爆弾的ボール保持。山根が苦し紛れにボールを蹴るところで回収されて神戸ボールになる。

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 神戸は前線に対して常にタイトなプレスをかけ続けていたわけではない。そこまでのインテンシティはない。例えばこのシーンでは谷口には時間の余裕があった。が、持ち運ぶこともなく素直にジェジエウに渡している。

 中盤では大島が高い位置を取ったり、家長が降りてきたりのマーク外しの動きや、脇坂が体を張ってボールをキープしようとするなど個人レベルの頑張りはあったものの、相手に出しどころを掴まれてしまっている状態なので、前を向いてプレイすることができない。後ろから前に時間を送るような組み立てが機能せず、プレビューで述べたような広くピッチを使うボール運びはできなかった。

 そんな最終ラインの中で希望の光だったのは登里。左サイドで張る旗手によってWBのマークから解き放たれると、10分は縦にボールを運ぶ動き。そして18分は外から内側の斜めの走りで最終ラインからボールを引き出す。WBから彼を解き放った旗手と共に登里のところからは前進できるスキルをみせられた川崎であった。

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 ジェジエウが非常に重たかったことに基づく結果論かもしれないが、この試合のCBは山村で見たかった。特に前半はボール保持で時間を作りたかったため、運べて空間把握能力もあって展開力も十分な山村はフィットしたと思う。あとで触れるが前半の撤退守備ならばスピードが問われることもそこまでないし、エリア内の強度はむしろ強みである。スピード勝負になった後半に車屋が入るのは納得だけど。そこは5人交代可能なので前半と後半でやり方を変えればいいのかなと。

 ということで、ボール保持で前に進むことが難しかった川崎。守備の組み方も相まってこの日はなかなか相手陣でプレーすることは難しかった。それだけに大島僚太の先制点のミドルは貴重だった。強いてエラーを挙げるとすれば安井が持ち場から出ていったにも関わらず、左の旗手から中央への展開を許してしまったことから始まっている。ただ、この場面では山口がそのスペースを埋めているわけで、それを出し抜いた大島を素直にほめるべき。視線も駆使して完全に山口の逆を取り、ミドルを沈めた。

【前半】-(2)
それじゃ意味がない

 神戸のボール保持に対して川崎は高い位置ではいつも通り、中央のサンペールを小林が見て、WGは外から内に切るように守備をする。立ち上がりはこの形が多かった。

    4-3-3の川崎の泣き所はご存じのようにWG-SBの間。ここに位置を取るSBを捕まえられないという難点である。C大阪戦でもジンヒョンのフィードから先制点を許した川崎だったが、この日の飯倉もSBの位置へのフィードは積極的に狙っていた。

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 というわけで川崎はこの日は早々に撤退型の4-5-1に切り替える。ズレを使われるくらいなら、ボールは差し上げますという話である。そうなると時間を与えられるのは神戸のCB。川崎のCBと違い、彼らはボールを運ぶことに取り組む機会が多かった。彼らが積極的にドリブルで運ぶことで大外の高い位置まではボールを届けることができていた。もちろん、サンペールが空けばさすが!といったボール運びを見せているので、川崎としてはウザさ満点であった。

 受ける川崎は脇坂がだいぶ動かされていた印象。彼が前に行っても田中がスライドしなかったため、古橋がギャップで受けれていた。

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   山口からの大外の左サイドへの展開を脇坂が古橋のランに釣られたせいで阻害できないシーンもあった。2列目がここで耐えられるようにならなければ最終ラインへの負荷はかかる一方だ。そもそもホルダーを捕まえねばならないのだろうが。

 ただ、神戸はそこから先がやや詰まっていたように思う。サイドのアタッカーの質で優位を取れるわけではないので、単に正対した状態で届けられてもそこから先の一手がない状態。よって、一旦戻してサンペールや山口に目先を変えてもらうパスを出す必要がある。

 それがうまくかみ合ったのが1点目。サイドの酒井から山口に戻すと、そこから西の斜めの走り込みで同点に追いつく。確かにボールホルダーへのプレッシャーも甘かったが、この西の斜め方向への走り込みは受け渡しが難しいところ。神戸にとっては川崎の最後のゾーン攻略に足りなかった一味であり、柔らかいタッチと氷のようなフィニッシュも含めて完璧だったといえるだろう。川崎は2人をかけた酒井のところで追い込めなかったことと、西に完全に出し抜かれたのが痛恨だった。

 神戸の1点目が目先を変えるパスと斜めの走り込みの組み合わせならば、2点目はもっとシンプル。1トップ脇から持ち上がったダンクレーのドウグラスへのクロス。中でジェジエウがドウグラスを空けてしまったのも痛恨。MF陣はおそらくあそこからダンクレーに持ち運ばれてクロスをあげられることは想定になかったのだろう。内側を締めることを優先したように見える。

   というわけで助かる術はジェジエウが跳ね返すしかなかった。確かにクロスはピンポイントではあるが、クロッサーにも受け手にもプレッシャーはかかっておらず失点して当然といえる。ボール保持をあきらめて撤退している以上、割り切りがたい失点だなと。ボールを握るのが上手い神戸相手に引いて受けるという選択肢は個人的にはなしではないが、こういう失点をしてしまうと引いて受ける意味はほぼなくなってしまう。残念な2失点目だった。

 ちなみに神戸は川崎の攻撃終了後のカウンターも見事。サボらずに降りて受けるドウグラスを起点として、ロングカウンターをかける場面もあった。なんとなく神戸的にはロングカウンターの方が手間がかからずにチャンス未遂まで行けていたように思うけど。

 試合は2-1。ホームの神戸リードでハーフタイムを迎える。

【後半】
カムバックで解禁

 論点はすでに離脱期間の長短のはずだった。名古屋戦で負傷交代し、立ち上がれないまま担架に乗って退場した三笘薫のケガがとにかく重たくないことを願い、全治のリリースが出ないことにやきもきしたファンは多いだろう。それだけに名古屋戦から中2日の神戸戦で後半からカムバックしたのはサプライズ。カムバックというか、普通に連続出場である。

 出場すると48分にさっそく決定機。左サイドを切り裂いて小林悠にアシスト。惜しくも決めることはできなかったが早速存在感。しかし、それ以降はいつもよりはややおとなしかった印象。ここはコンディションの問題だろうか。

 三笘の投入は川崎の前プレ解禁の合図。ボール保持に長けている神戸相手に手をこまねいていたけど、後半の川崎は前に出ていく方策のようだった。攻撃においてもかなり前がかりになっている分、川崎に対してのロングカウンターは常に神戸の決定機になっていた。ここはもう前半の閉じられた展開ではチャンスを作ることが難しいので、失点のリスクを承知で機会を得ることを選んだといえるだろう。もうあとはどちらがどれだけあたりを引けるか!みたいな。そういう勝負になるからこそ高い位置で止めることを期待しての車屋のCB起用だったのだろうなと思う。エリア内で受けるなら車屋は難しい。

 車屋を起用するとどうしてもドウグラス相手の空中戦では後手を踏んでしまう。神戸は彼を負傷交代で失ってしまったのは痛かった。後半はより長いボールを収められる起点になる存在だったので。交代した前線の選手が決定機を得点につなげられなかったのも痛恨。与えられたスペースの広さの割には少しシュートまでが遠かった。車屋と谷口はともに保持では課題を見せていたが、無秩序の中で跳ね返すのは相当よくやったように思う。

 川崎はボールが行きかう展開に備えてレアンドロ・ダミアンを投入。アンカー大島、インサイドハーフに旗手と家長という今季トップクラスの攻撃的な布陣である。ただこの日は右サイドから上がるクロスのタイミングと質が微妙。終盤の質の部分で最も気になった部分で上げるのに誰もいないとか、上げてほしいタイミングで中央突破を始めるとか、上げたけど明後日の方向だったとかが多かった。

 それでも左サイドからのクロスは神戸を苦しめ続けてきたと思う。旗手の貴重な同点弾は登里が上げたクロスがきっかけ。サンペールが苦しい体勢で処理することになったことでクリアが十分距離が出たものにはならなかった。

 旗手は数試合前からフィニッシュワークで力が抜けていたし、プレーだけ見るとゴールがないことへの焦りもかなり薄れていたように見えた。得点以外の貢献度はそもそも計り知れないので、ここで得点までついてきたら鬼に金棒感がある。

 最終盤はボールが行きかう展開の中で川崎も神戸もチャンスを作るが、どちらもモノにできず。川崎ファン目線では山口のミドルとダンクレーのヘッドにはだいぶ肝を冷やした。

 試合は2-2で終了。ミッドウィーク3連戦の第一ラウンドは引き分けで幕を閉じた。

あとがき

■制御する時間の幅

 試合を優勢に進める時間が多かったのは神戸の方だろう。特に前半は先制点のシーンなど、川崎の撤退守備を上回る攻撃を披露。この試合の山口を見ていると、イニエスタと日々練習していることの効果は大きいんだなぁと思う。西は多分元々あの走り込みはできていた気がするけど。

    そのイニエスタの不在がどう効いていたかは気になるところ。もちろん保持の局面では向上は見込めるが、逆に彼がいた場合に前半に川崎の保持をここまで阻害できていたかといわれると微妙。安井と山口のコンビは非常にソリッドなプレーを見せていたと思う。イニエスタが入ってくるとどう変わるか。次回以降の戦況が楽しみな部分である。

 勝てなかった要因は中押し点が取れなかったことだろう。特にシャドーストライカーはこの試合ではクオリティがもう少し欲しかったように思う。交代で入った小田もそうだし、古橋はいい時はもっとフィニッシュワークまで持ち込む凄みがあったような。悪くはないけど、いい時はもっといいイメージである。

 鹿島戦でも試合を支配しながらも強引な縦への推進力には苦戦する部分はあった。あの試合の引き分けという結果は個人のエラーによるところが大きいかもしれないが、そういう側面はチームとしての弱点だろう。この試合でも90分間相手を制御するのは難しかった。

    2点目のクロスを上げたダンクレーにしても大崎にしても、後方のボール保持の個人スキルは川崎に勝っている部分だと思う。走りあいになるとどうしても厳しい陣容だけに、少しでも制御できる時間を長くすることが今後の課題になるだろう。

■到達度確認の前半、相討ちの後半

 試合後の鬼木監督のコメントを見ると前半は以下のように述べられている。

    「途中から、下がる気は無かったと思いますが、相手が前に人数をかけてきたことで、そこに少し人数を揃えてしまうような形になってしまいました。それで後ろに重たくなってしまった。」



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どこまで本音だろうか。例えば大島は

「プレスがうまく決まらず相手にボールを持たれる時間が長くて、そのなかで前半2失点してしまった。こちらが先制したあと前半のうちに修正すればよかったのか、あのまま我慢して耐えることができればというところ。チームとしては、相手に持たれたときのカウンターという狙いがあった。」

と述べている。

   確かに前から行けるのならば行きたかったのは事実だろう。ただ、前からのプレスに行けなかったときのプランは想定されていたように思う。間違いなく第一希望ではないが、そういう収め方もあったということだ。

   「最初の何分は悪くなかった」と鬼木監督が言っているようにとりあえず当たってみて難しいと判断したら引く用意もしてあったと思う。続く中2日のスケジュール、難しいノエスタのピッチを考えれば理解できる判断だ。

   そして神戸が90分間試合を握り続けることは難しいというのも念頭にあったはず。後半の前からのプレスも終盤に投入されたダミアンや三笘も、臨んだ展開ではないかもしれないがこうすればある程度相討ちになるところまでは持って行けるという算段はあったのではないだろうか。

   後半はボールが往復する展開の中でどちらが先に当たりを引けるかの勝負だった。となるとチームとしての成熟度をあげるには前半の課題を振り返る必要があるだろう。ボールホルダーを開けてしまったり、前に出ていった選手のスライドがなかったりなど撤退時の守備の課題はもちろんだし、時間が与えられている選手がボールを動かせずに前が苦しくなったというボール保持の課題も見えた。

   神戸は自分たちの到達度を図るのにうってつけの相手ではある。ただ、正直に言えば試合が続く2週間後のリーグの再戦までにこれらの課題が完全に解消するのは難しい。同様に神戸の課題も簡単に解決することはないと思う。神戸との第1ラウンドはお互いに到達度を図ることが出来た試合だった。

    共に「この相手に90分間試合を握り続けることは難しい」ということはわかったはず。残り2戦はそれを踏まえたうえでリソースをどう組んで90分をコーディネートするかの戦いになる。3連戦は始まったばかりだ。

試合結果
2020.8.26
明治安田生命 J1リーグ 第24節
ヴィッセル神戸 2-2 川崎フロンターレ
ノエビアスタジアム神戸
【得点】
神戸:30′ 西大伍, 42′ ドウグラス
川崎:23′ 大島僚太, 75′ 旗手怜央
主審:今村義朗

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