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「なんのために?」~2020.7.21 プレミアリーグ 第37節 アストンビラ×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
いつもと違う3-4-3

 パッと見は3-4-3という、最近はおなじみとなった形で臨んだアーセナル。しかし、蓋を開けてみるとここ数試合のアーセナルはマイナーチェンジが図られていたように思う。

 直近の数試合はボール保持において4バックに変形。左のCBをSB色の強い選手(この試合ではコラシナツ)に託し、攻撃時は彼がLSBのように振舞う。その分WBは前方にスライド。そして前方のオーバメヤンが絞ってストライカーのようなタスクに。右サイドはSBが上がりを自重しWGが外に張る。左右アシンメトリーの陣形がアルテタアーセナルのボール保持の特徴だった。これはリバプール戦で使った図。だいたいこんなイメージ。

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 しかし、この試合では少し様子が違った。まず、前線の役割が左右対称に近かった。左のオーバメヤンが絞り目の立ち位置を取るのはいつものことなのだが、右のエンケティアも同様に絞る。これまでの役割を当てはめるよりも、エンケティア自身のキャラクターに即した役割が与えられたイメージだ。

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 後方もそれに合わせた振舞いを取る。WBは左のサカだけでなく、右のセドリックも高い位置に進出。ぱっと見ると5トップになるような形であった。CHのセバージョスが左サイドの低い位置に落ちて、サイドのプレイヤーの押し上げに貢献する。

 アストンビラのフォーメーションは4-3-3。守備時は4-5-1のような形で構える。インサイドハーフ2枚がアーセナルのCH2枚を監視する役割である。ブロックは撤退するわけでなく、ミドルゾーンで高さを保っていて、DF-MF間はコンパクトに。シティ戦で絶大な破壊力だったラカゼットのポストを起点とした攻撃を未然に防ぐのがアストンビラの目的だろう。ラカゼットとエンケティア、そしてオーバメヤンのプレーエリアにボールを入れさせないようなドウグラス・ルイスのポジションが印象的だった。

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 ブロックをそこそこ高く保ちつつ、ここの外で回される分にはOKというスタンスだったアストンビラ。したがって、アーセナルの最終ラインには時間が与えられることになる。

 この試合のアーセナルのつまずきポイントの1つはこのアストンビラの守備に対する対応。とりわけ、ホールディングから始まる右サイドのボール回しが気になった。直近の試合でブロック守備を破る時のサンプルとして比較したいのはウルブス戦のムスタフィ。

 まずは時間を与えられた彼が動き出すことで、ウルブスの守備陣に迷いを与えることができた。これが右サイドの攻撃の起点になっていた。

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 翻って時間が与えられたこの試合のホールディングだが、相手を引き付けるような動きができるにボールをリリースしてしまうことが多かった。そのため、パスを受ける選手もマークがずれた状態ではなく、プレッシャーのきつい中でパスを受けることに。ビラの選手たちもどの選手のマークにつくかの迷いがあまりなかったので、スムーズにアーセナルのボール回しの前進を撃退することができていた。

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 加えてこの試合では右サイドのボール回しの「目的」が見えてこなかった。これまでの試合ではペペが大外に張って仕掛けるシチュエーションを作ることが目的だったが、この試合での右サイドでの作りたい攻撃が何なのかはちょっと見えてこなかった。想像だけど、アルテタはラカゼットを軸とした中央3枚の連携を主体として考えていたのかなと。

 なので、サイド攻撃はそこの前振りに使えればよかったのだがそれができなかった。個人で打開できるパスを狙えるセバージョスがいた左サイドと比べて、とりわけ右サイドでのボール回しは平凡に思えた。

 15分30秒くらいのルイスのフィードを起点としたラカゼットのポストは可能性を感じたものの、最後のサカのクロスはPAに数をそろえたアストンビラのDF陣に跳ね返されてしまっている。CHがいつもよりも低い位置でビルドアップに参加しているので、このシーンでのニアのスペースでのサカへの手助け役が不在に。やや前後分断気味のこの日のフォーメーションの弊害だろう。

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 このシーンで言えば、ラカゼットとエンケティアのパス交換でやや縦へのスピードが落ちてしまい、アストンビラの帰陣を許してしまってる点や、サカがニアではなく、ファーのセドリックを狙ったクロスを上げていれば、折り返しでチャンスになったかもしれない。しかし、そもそも上に述べたようにこの試合ではラカゼットがいい位置でポストできて、スムーズに攻撃に展開できたシーン自体が非常に稀。どちらかといえば、この機会を多く作れなかった方を問題視すべきように思う。

【前半】-(2)
先制点でより苦しくなるビルドアップ

 アストンビラのボール保持は4-3-3。最終ラインはCBが開いて、前ではアンカーがボールに触る菱形のような形である。GKも積極的にボールを触るのだが、別にこの形でどうこうというよりは最終的に前線に送るロングボールの下準備としてアーセナルの陣形を間延びさせておきたいのかなと思った。その方がセカンドボールも拾いやすいし。アストンビラとしてはアーセナルの陣形をずらして何かを企んでるという感じはしなかった。

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 アクセントをつけていたのはLWGのグリーリッシュ。とにかくどこにでも顔を出してボールを触りに行く。最終的にどこまで効果的かはわからなかったけど、フリーマンなのでとてもアーセナルは捕まえにくい。地上でボールを運ぶときは彼がアクセントになる。

 アーセナルがボール保持に手間取り、アストンビラが割り切ったロングボールでリスクを回避しながら進んだ試合。先制点はセットプレーから。大外で余ったトレゼゲが右足を一閃。フリーだったのはいただけないが、それにしても見事なシュート。素晴らしい読みでゴールマウスを守ってきたマルティネスにもこれはノーチャンスだった。

 先制したことでインサイドハーフが出ていく頻度を下げて、よりアーセナルのFW3人のプレーエリアを制限するようになったアストンビラ。たまにパスがつながっても、肝心のその3人の連携があまりよろしくない!ということでシュートにはなかなかつながらなかった。トレイラがカードをもらったシーンはその一例。

 ダビド・ルイスがトレイラやホールディングに対してビルドアップ時にいらいらしながら要求をしていたのも、思うように相手を動かせていない自覚があったからだろう。うまくいかないアーセナルの前半を象徴している振舞いだった。

 試合は1-0。ホームのアストンビラのリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
一歩一歩改善は見られるも・・・

 ハーフタイムでアーセナルはトレイラ⇒ジャカの交代を実施。カードももらっているし、ビルドアップでより広く広く!という意味合いの選手交代だろう。アーセナルはボール保持時の配置を整理。ホールディングとルイスがCBとして振舞い、コラシナツは前半と異なりサイドで高い位置を取る。サカが内寄りに絞り、オーバメヤンは完全にストライカータスクであった。

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 そして、CHは周りの様子を見つつ臨機応変に移動。中央かやや左寄りでボールを受けることが多かった。ポジションを整理し、サイドチェンジも増えたアーセナル。アストンビラ相手に左右に揺さぶることはできていたのだが、ゆさぶったところでどうしたいのかはイマイチ見えてこず。左も右も多角形はできてパスコースは作れているけど、どういう仕上げをするためにパスコースを回しているか?の意味づけが十分でなかった。

 いつもより選手間のポジション移動が少なく、左のコラシナツが外で持っても彼が何とかするのを待つ!みたいな。右の大外にはセドリック。ハーフスペースではエンケティアとラカゼットがバッティングしてしまうこともちょいちょい。

 後半になって配置はやや整理された感じはしたアーセナルだが、どこからどう打開するか?なんのためにそこの配置をしているのか?という部分が不透明なままだった。

 目的がややクリアになったのがペペとティアニーの投入。クロスと突破力に長けた彼らを大外に配置することで、とりあえず「なんのために?」という部分はひとまず満たされた感じのアーセナル。

 この日のアルテタは非常にアグレッシブな選手交代。最後はウィロック、ホールディング、コラシナツ、ティアニーみたいな最終ラインだった気がする。3バックとか4バックとかあんまり関係ない感じのメンツである。ウィロックはおそらくペペが大外を取る時の内側の高い位置を取る担当。攻撃時はほぼインサイドハーフの立ち位置だった。

 しかしながらこの日のアーセナルは大外とハーフスペースの連携での効果的な崩しがほぼなし。右のペペはノッキング気味で、左のティアニーとオーバメヤンの連携もほぼ見れず。オーバメヤン、この試合ずっと内側よりだったもんね。3FWのバイタルでのパス交換は後半も不発、最後まで解決策を見出すことができなかった。CKからのエンケティアのヘディング以外の決定機はほぼなかった。

 逆にアストンビラがロングカウンターが刺さるようになったことを考えれば、収支はおそらくマイナス。マルティネスに助けられる場面も終盤はあった。

 試合は1-0。アストンビラが貴重な勝利で残留争いに弾みをつけた。

あとがき

結果は完璧!

 まだまだ予断を許さない状況が続くアストンビラ。この試合ではまずはブロック守備から入ってアーセナルのボール保持に揺さぶりをかけた。セットプレーからの先制点を粘り強く守り、しぶとく逃げ切り。何より勝ち点3が大事な試合だったし、この試合で文句を言うアストンビラファンはいないはずだ。

 グリーリッシュはアーセナルにとってはうざったい感じのプレーだったが、得点への実効性という点では微妙なところ。スキルをチームに昇華できている感じはそこまでしなかった。あとはセットプレーの守備を含めてクロスへの対応は怪しい気がする。終盤のアーセナルはそもそもクロスを上げる前に引っかけられたりしていたのでそこは未検証だけど。来季以降の戦いを考えると、我慢するチームスタイルだとしても課題はあるように感じた。

■FA杯決勝までに改善を期待したいところ

 メンバーが変わってもこの試合はボールを持つことができた。しかし、相手を動かすことができず、最終ラインから効果的な配球ができなかった。それが前半。

 配置を整理してボールは回るようになった。しかし、どこを攻略の糸口として何のためにボールを動かしているのかはわからなかった。それが後半の頭。

 大外に武器は用意した。しかし、その武器をうまく活用するまでに至らず、単発で魔法をかけられるほど強力でもなかった。それがこの試合の終盤。

 ざっとこの試合を振り返るとこんな感じだろうか。最後のフェーズで通用しなかったのはあきらめがつくが、この試合はなんのために?という部分に解決策を見出すのに時間がかかったように見えた。

 気がかりなのは3FWのバイタルでの連携が90分通用しなかったこと。おそらくこれが前半やりたかったことで、ここが完全に不発に終わったことが「なんのために?」という部分につながっているのかなと。

 もう1つ気になったのはホールディングのボール回しでの貢献度。ムスタフィの負傷次第ではホールディングはFA杯決勝でも出場が予想される。プレスをかけてくるであろうチェルシーはアストンビラとは勝手が違うと思うが、DFラインからのボール回しがシティ撃破の原動力になっていたため改善を期待したいところ。実際、後半はよくなっていたし、短期間での改善も見込めるのではないかなというところだ。

試合結果
2020/7/21
プレミアリーグ
第37節
アストンビラ 1-0 アーセナル
ビラ・パーク
【得点者】
ASV:27′ トレゼゲ
主審:クリス・カバナフ

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