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「尖らせて空けた風穴」~2020.8.7 UEFAチャンピオンズリーグ Round 16 2nd leg マンチェスター・シティ×レアル・マドリー レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
シティの前線プレス解剖

 「グアルディオラは何かをやってくるだろう」
 半年ぶりの再戦を前にして、何人からこの言葉を聞いただろうか。これをフリになにもしないことも笑いになるくらい、多くの人がグアルディオラが何かをすることを期待していたように思う。

 そして、グアルディオラは期待に応えて予想外のことを実際にしてきた。でもよく考えると期待に応えている時点で予想外じゃないかもしれない。

 グアルディオラが施してきたのは前線の配置の入れ替えである。普通に考えれば右からフォーデン、ジェズス、スターリングで並べるはずだが、実際にはスターリング、フォーデン、ジェズスの順で並ぶことになった。並びの変更の狙いは試合開始直後にわかることになる。狙いはマドリーのビルドアップの阻害である。

 マドリーのビルドアップはまずはCBがPA幅に開くことからスタートする。パス回しで自陣のペナ角付近に出口を持ってくることが目的。以前レビューを書いたソシエダ戦を見てみると、SBのマルセロやカルバハルが絞ったり、インサイドハーフがシンプルに降りてきたり、ラモスが壁パスで自ら上がったりなどいくつかの方法でこの場所から前進している。

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 シティのプレスはまずWGがCBにプレスをかけに行く。これだけ聞くといわゆるリバプール式外切りっぽく思えるのだが、実際はシティのWGはマドリーのCBには外切り一辺倒ではなかった。むしろSBに出される分にはOKという追い方も時折見えた。その代わりSBからパスを出すところを封じていたように思う。

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 マドリーのWGにはシティのSB、マドリーのIHにはシティのIHがデートでついていて出しどころはなし。迷っているうちにシティのWGが戻ってきて自分もフリーではなくなってしまうという形である。

 こうなったときに内側に助けを求めるのがマドリーのボール回しの流れ。ペナ角周辺のスペースを使いに登場する選手がビルドアップの脱出口となる。図の中で言えばモドリッチがその役割をするのが一番手っ取り早いように思える。彼が降りることで対面のギュンドアンにどこまでついてくるかの揺さぶりをかけつつ、前を向いてマドリーのボール保持が呼吸ができるようになるのが理想だった。

 しかし、この流れはシティによって先手を打たれていた。ポイントとなるのはフォーデンの動きで、サイドにボールが出るフェーズでペナ角周辺に顔を出す。これによってマドリーの使いたいスペースを先取り。

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 こうなるとマドリーはCBやGKに戻すしかない。ボールが逆サイドに展開されているうちに、フォーデン自身も逆サイドに移動。

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 ボールより人は早く動けないけど、内側を切る分移動距離はやや短いのと、マドリーのボールの出しどころが読みやすかったためにプレッシャーを受けながらスムーズな逆サイドへのボール回しができなかったため、フォーデンのサイドからサイドへの移動は割と間に合っていた。

 マドリーはクロースやベンゼマなど、シティのプレスが間に合わない部分にふっと顔を出したりするのだが、ここへの一段飛ばしのパスを速く正確に届けるという部分に難あり。後方の足元のスキルがシティのプレスに屈する場面が多かった。

 CBとGKのパス交換もスピードが十分じゃなければ相手に詰められる。段々と距離が近づいていくマドリーのCB陣という状況に。マドリーがシティのプレスの袋小路に閉じ込められた形からシティの先制点が生まれる。ヴァランの明らかなミスのように見えるが、シティによって十分な下準備が施された上で発生したミスといえるだろう。いつもは安全地帯だったはずのエリアをフォーデンが埋めることによってヴァランには余裕がなくなってしまったように思える。

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 賢いのはフォーデンだけではなく、後方のプレスの状況によって追い込む方向を変えられる両WGも同様。得点直後には外切りからミリトンのパスをスターリングが引っかける場面もあった。

【前半】-(2)
こっちでもフォーデン

 シティのビルドアップはCBが開き、中央でアンカーが降りていくスタイル。マドリーはクロースが主体でインサイドハーフが前に出ていってプレス隊に加わる。CB2枚を追いかけまわす形だ。後方もマンマーク志向が強く、ロドリをカゼミーロが監視するなど前から回す意識が強かった。アザールとロドリゴも戻す守備をサボることは許されず、懸命に走り回っていた。

 マンマークで捕まえられてしまうというシティのボール保持における課題を解決したのもフォーデン。彼が中盤まで降りていくことでシティは中盤で数的優位に。マドリーに対してフリーマンを作りながらボール回しを行うことができた。

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 マドリーも途中からカゼミーロをフォーデンに監視させるなどで攻撃の加速を止める。しかし、その分カゼミーロが見ていたロドリのマークを受け渡しながら対応することに。シティのバックラインのパス回しは速く、マドリーのプレス隊が背中でロドリを消すだけでは対応ができず。シティは中盤でフォーデンやデブライネがフリーで前を向ける状況ができるようになっていた。

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 その先で武器になっていたのは右のスターリング。多角形で崩す左とは違って、メンディやミリトン相手に1人でドリブルで圧倒。ダイブしなくていいのにね!もったいない。

 ここまでを見るとマドリーが手も足も出なかったように見えるかもしれないがそういうわけではない。シティのハイプレスをかいくぐればマドリーにもチャンスはあった。

 ハイプレスを越えるとシティはミドルゾーンにおける4-1-4-1で対応。ラインが下がっていないとはいえ、ここまで受けに回るとさすがに非保持での強度というシティの厳しさは感じた。時間が経つと序盤ほどはシティは前に出れず、三本の矢によるプレスが炸裂する機会も減っていった。そのため、マドリーが落ち着いてボールを持つ場面も増えてくる。

 特にシティが警戒をしていたのはアザール。IHとSBの最低2枚、余裕があればスターリングを含めた3枚で最大級の包囲網で囲っていた。その分、シティの中盤はアザールサイドにスライド。ここから脱出すれば逆サイドは手薄になるし、そちらにもロドリゴという武器がある。マドリーはこのサイドチェンジを狙っていた。

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 それでもカゼミーロではサイドチェンジの速度が十分ではなく、右サイドに余裕をたっぷり与えていたとはいいがたい。そのためモドリッチがサイドチェンジを行う場合の方がシティのダメージが大きかった。そのモドリッチのサイドチェンジから同点に追いついたのが28分。プレッシャーが緩くなったマドリーの右サイド。カルバハルとベンゼマとのコンビネーションからロドリゴがカンセロを一蹴。エリアに入り直したベンゼマにアシストを決めた。

 ベンゼマの動きとロドリゴの突破も見事だが、マドリーもシティと同様に狙った形で同点に追いついたといえそうだ。

 その後はシティが再度プレスを強めて敵陣でのプレータイムを増やす。袋小路プレスからクルトワのパスミスを誘発し、ビルドアップミスからの三度目のあわやをシティが作り出せば、マドリーもアザールを起点にサイドチェンジを受けたロドリゴのクロスからベンゼマの決定機(オフサイドだったけど)を演出。得点後も共に準備した形から得点に迫った。

 試合は1-1。緊張感のある展開で試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
弱まるプレス、見られたボール保持の工夫

 シティは右からフォーデン、ジェズス、スターリングの並びに前線を変更。後半は前半に比べるとオーソドックスに組み合うことになった。互いにプレスが弱まったこともあり、ボール保持における時間が長くなった両チーム。それぞれに工夫は見られた。

 先制パンチを浴びせたのはシティ。中央に数的優位をどう作るか?という点で後半に目立っていたのは内側に絞るウォーカー。彼が内側に絞ることで低い位置からマドリーのブロックに切り込むきっかけを作ることができた。

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 開始直後のデ・ブライネのスルーからのスターリングの決定機。57分の中央の素早いワンタッチのパス交換から抜け出したデ・ブライネの決定機など中央のフリーマンから前線に縦にかち割るチャンスメイクでマドリーを脅かす。関係ないけど、57分のデ・ブライネの決定機はミリトンをかわしたと思いきやカルバハルが出てきたので桜木花道っぽさがありました。

 中央ではジェズスのポストからのチャンスメイクも見られた。シティの配置変更は前半ほどCFにプレスでハードワークを求めない代わりに中央突破の質を高めるためのものと推察する。

 マドリーのボール保持では中央にキープレイヤーを下すことで問題解決に取り組む。シティのプレスも前半に比べれば激しくなく、CBが窒息させられるほどではない。シティが取りどころにしていたのは中盤の中央。狙い撃ちにしていたのはカゼミーロ。そこにステイしていてはシティのプレスの餌食になる!ということで、中盤中央をプレス耐性のあるモドリッチとクロースが使うことで対抗。定位置として陣取るのではなく、動きながら入ることでシティのプレスにつかまりにくくなっていた。

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 ボール保持の時間が長くなることで均衡した展開になる後半。ややシティの決定機の方が多い中で先に動いたのはマドリー。アタッカー色の強いロドリゴと代わったのはMF系のアセンシオを投入。ボールの逃しどころとして降りて受けることもできるし、カルバハルのオーバーラップのスペースを作ることもできる。でも早速存在感を見せたのは縦に早い裏抜けっていうアタッカーっぽいタスクだったけど。

 しかし、縦に早い展開で結果を出したのはシティの方だった。エデルソンのパスをカンセロ、ロドリとワンタッチで裏につなぐと、このボールの処理をヴァランがミス。バックパスを狙っていたジェズスがワンタッチでゴールを陥れた。

 苦しくなったマドリーは3枚替えで3バックに移行。トップをベンゼマとヨビッチの2枚にしてターゲットを増やす。後方からはロングボール主体で速い展開でのパワープレーを狙う。ただし、ボールを取り返す仕組みが見えてこなかったマドリー。シティの最も得意なボール保持で時間を使われてしまい、狙った攻撃を繰り出す機会を与えられない。

 2点のリードに加えて、マドリーからボールを取り上げたシティ。時間を溶かしていくシティを前にマドリーに反撃のチャンスは与えられなかった。

 試合は2-1で終了。アウェイに続きホームでもシティがマドリーを撃破し、ベスト8にコマを進めた。

あとがき

■全方位型に喧嘩を売る

 近年は全局面型のチームこそ至高というのが、CLにおけるお決まり。その代表格がレアル・マドリーだった。一方のシティはボール保持&ハイプレスの局面特化型。CLの近年の傾向で言えばマドリーに分があるようにも思える対戦だった。

 しかし、180分を振り返ってみるとキーになった部分には常にシティの強みであるハイプレスがあった。1stレグのラモスの退場、そして2ndレグのヴァランのミスとグアルディオラの下で尖らせたハイプレスが要所でマドリーを貫いた格好だ。

 ボール保持が可変なら当然プレスも可変で対応する。前線のプレスの完成度という意味ではこの日のシティは新しい次元にたどり着いたように思う。全方位型主義のCLに喧嘩を売るように、鋭く磨き上げた武器で白い巨人を貫いたシティ。リスボンで彼らが迎える結末はどのようなものになるだろうか。

試合結果
UEFA Champions League 
Round 16 2nd leg
マンチェスター・シティ 2-1 レアル・マドリー
シティ・オブ・マンチェスター・スタジアム
【得点者】
Man City: 9′ スターリング, 68′ ジェズス
RMA: 28′ ベンゼマ
主審: フェリックス・ブリヒ

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