
レビュー
スターリングを生かす序盤戦
すでに事実上、Round 16へのストレートインを決めているといっても差し支えはないであろうアーセナル。そんな立ち位置のアーセナルにとっても、敗退が決定しているジローナにとってもこの試合の置き所は結構難しい。
アーセナルのメンバーをサラッと見るとラヤ(負傷らしいが)、ライス、サリバ、ティンバー、マルティネッリあたりは明確にお休みという感じだろうか。これを「結構代えた」と取る人も「思ったより代えていない」と取る人もいるのでなかなか面白い。ちなみに自分は「試合前は思ったより代えていないなと思ったけども、スコア推移を見守りながら対戦相手をシミュレートした感じでは思ったより勝つことが重要そうなので、そういう状況の中では代えた方だな」という感じだろうか。
序盤にボールを持つのはアーセナル。カラフィオーリがインサイドに移動をしつつ、高い位置に出て行くことで起点を作るアクションを見せていく。
ジローナはまずは撤退がベース。カラフィオーリがインサイドに入ることもあってか、SHはやや狭い立ち位置に。アーセナルにとってはIHのサイドフローや、WGへのパスの動線が作りやすい状況だった。
序盤はサイドからシンプルなクロスを仕掛けるアーセナル。WGへのパスの動線がクリーンだったこと、そしてアーセナルのバックラインへのプレスによるズレに伴い、時折CBとマッチアップしたことなどが影響し、左WGのスターリングではプレミアではあまり見ることのできない対面の相手を置いていくアクションを見せる。
スターリングはエンド側から抜き切ることもできてはいたが、そこから味方に合わせるアクションは少し難しそう。よって、ペナ角付近から右足でファーにクロスを送る形の方が有力だった。トロサールの決定機が生まれたのは7分のことだった。
低い位置から相手を動かす、そして相手のSHを手前に引き寄せる、その先のスターリングにつなげるという序盤の左サイドのアーセナル。総じて前半のスターリングはそんなに悪くはなかったと思うが、メリーノ、カラフィオーリという高い位置でのコンビネーションで工夫ができるユニットだったことを踏まえると、もう少しいろんなことを仕掛けられるといいのだがという感じであった。ジローナはCHのロメウがハーフスペースを埋める役割だったので、もっと左右の揺さぶりを使っていくとかそういう点での工夫が見られればもっと面白そうだが。
連動不足が露呈した右サイドの守備
まずは左サイドで先制パンチを狙うアーセナル。だが、保持の局面とは異なり非保持の局面ではやや不安定さが見えた。ラインは高く、コンパクトに守るというアーセナルの方向性はジローナに対してどこまでハマったかは怪しいところ。中央への縦パスに対して、アーセナルの前線はどこまで誘導をかけることができず、リアクション型の対応となってしまった。
この不安が失点という形で可視化されたのがジローナの先制点の場面だ。流れとしては降りるアクションを行うルイスにキヴィオルがついていく形で対応した結果、バックドアを仕掛けたダンジュマへの裏パスが通り、先制点につながったというシーンである。

直接原因はCBとSBの受け渡しなのだろうが、前線のプレス隊も役割は微妙なところ。ホルダーへのプレスは中途半端だし、外切りのような角度で構えるヌワネリは結果的にはジローナのどの選択肢に対しても制限をかけているとはいいにくい。できれば降りるルイスのマークか、ダンジュマの手前側を封鎖する役割を中盤より前が引き取ることが出来れば、背後を取るアクションにはより対応できる可能性があったように思う。
ここはどこまでプレスに行く意識を持つか?という点で同じビジョンを持てるか。この場面のように前線よりもキヴィオルのように後方がプレスに前のめりになってしまうと、こういうスポッと抜けてしまうようなピンチは多い印象だ。
もちろん、ネトが飛び出すアクションをしたことはいろんな意味で別枠だ。これが失点の直接原因とまでは言わない(クリーンに抜け出しを許している時点である程度失点の可能性は高いため)が、間に合いもしないのに手を使えないボックス外まで出た挙句、触っていれば一発退場間違いなしの状況でセーブに向かうというのはなかなかのコンボである。序盤の保持で相手に寄せ切られたシーンも含めて試合勘が心配になる場面だった。
ダンジュマに背後を取られたトーマスはまずいが、彼本人がSB本職ではないこともあるし、そもそも大外からの斜めの動き出しがそのままクリティカルにGKと1on1になってしまうというのはインサイドの問題でもあるのかなと思うところも。キヴィオルはこういう安い背後の使われ方が結構多いので、ボール周辺のプレッシャーの雲行きの判断が少し甘いのかなと思った。
ちなみにアーセナルの守備の連係の怪しさは主にアーセナルからみて右サイド側で起こっていたが、これは特に右サイドの連携が悪い!というよりはジローナ側のボールの進め方の問題だろう。彼らのビルドアップはやや左に偏っているため、アーセナルの右の方が守備の連係を問われる頻度が高かっただけのように思える。
得点を決めたジローナはトランジッションのフィーリングが良化。アーセナルはハイプレスがかからない状況を改善できずに苦戦する。だが、そんなアーセナルは攻め続けることで活路。左サイドから相手のバックラインをスライドさせることで自陣側に引き寄せると、中央に突撃したトーマスがPKを獲得。このPKをジョルジーニョが沈めて先制する。
さらにアーセナルは4分後に逆転。インサイドにカットインするヌワネリが自分の得意な型を見せつけるような一振りであっという間にリードをもたらす。試合は1-2。アーセナルは逆転でハーフタイムを迎える。
テコ入れしたジローナの前線に冷や汗をかかされる
後半のアーセナルはまずはプレスから修正に入っていく。ラインだけ高い前半のような守備ではなく、きっちりとホルダーに圧力をかける守備でジローナのビルドアップを混乱に陥れる。アーセナルは明らかに敵陣でのプレスは成功が増えることとなった。
保持でも左右にゆったりと動かしながらボールを保持するアーセナルは完全に試合をコントロール。左サイドではガブリエウの縦パス、右サイドではジョルジーニョのバックドアでのヌワネリの抜け出しなど左右それぞれのサイドからチャンスを作る。
ヌワネリはゴールシーンもよかったが、後半のように押し込む展開で細かにポジションを変える気配りができているのが良かった。昨年秋くらいのリーグ戦では正直あまりボールを引き出すことが出来ない試合もあったが、この試合ではオフザボールの動き直しの頻度が明らかに上がっている。スーパーゴールもうれしいが、こういう細かいところの向上も個人的にはうれしい。リトリート時の守備もさぼらないので、次は前からのプレスのところに向上の兆しがみられると大きいなという感じだろうか。
押し込まれて自陣から脱出することが出来ないジローナは前線にテコ入れを敢行。3枚替えで流れを作りに行く。この交代は効果がきっちりと出た。ロングボールの起点という意味でストゥアーニは明確に基準点になることが出来ていたし、落としを拾うソリスから左右に揺さぶると、ここから押し返すことに成功する。
ハイプレスを仕掛けるジローナはアーセナルのビルドアップを高い位置から奪ってネットを揺らす。だが、これは大外のポルトゥがわずかにオフサイド。ストゥアーニのゴールは幻のままでおわってしまうことに。
以降も追いかけるジローナだが、なかなか最後の牙城を打ち破ることはできず。終盤のスターリングがPKを止められるなど、アーセナル側も順風満帆ではなかったが、逃げ切りには成功。3位をキープした状態でベスト16進出を決めた。
ひとこと
消化試合において細かい話をして恐縮ではあるがやはり失点の仕方はまずい。プロセス的にもブロック状態で構える状態で前へのプレスがかかっておらず、テイストとしてはアストンビラ戦の2失点する時の流れに近いものだった。まぁ、この試合は突破条件を踏まえると緊張の持って行き方が難しかったのは確か。だけども、次はそこをもっと許してくれない相手がリーグ戦で待ち受けているし、ノックアウトラウンドでは命取りになるタイプのエラーだと思う。
試合結果
2025.1.29
UEFAチャンピオンズリーグ
リーグフェーズ 第8節
ジローナ 1-2 アーセナル
エスタディ・モンティリヴィ
【得点者】
GIR:28‘ ダンジュマ
ARS:38‘(PK) ジョルジーニョ, 42’ ヌワネリ
主審:マウリシオ・マリアーニ