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「野暮である」~2020.6.25 プレミアリーグ 第31節 サウサンプトン×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
3-4-3変更への意図は

 サウサンプトンは4-4-2でのボール保持。CB2人に対してCHが手助けをするビルドアップ。ホイビュルクがCBの間に立つ役割で、ウォード=プラウズはアーセナルのプレス隊の左右に顔を出すイメージだった。左右のSBはやや非対称。左のバートランドはオーバーラップは控えめ。対して右のヴァレリは高い位置を取ることが多かった。

 サウサンプトンのボール保持の狙いは間を取るパス交換からサイドに展開⇒PAへクロスという流れだろうか。つなぐ意識は比較的強め。困ったら蹴るけど。背負うイングスか高い位置を取るヴァレリ、裏を狙うオバフェミあたりがロングボールのターゲット。アーセナルのメンバーを中に押し込んでから、外に流してヴァレリとレドモンドがクロスでイングスにぶん投げる!みたいな。

 アーセナルはメンバー表を見た時は4-3-3かな?って思ったけど、蓋を開けたら3-4-3でござった。攻撃時はベジェリンとサカが高い位置を取るが、両者とも守備時は後退して5-2-3っぽくなる。サウサンプトンは右のSBのヴァレリを軸に高い位置を取ることが多かったが、同サイドから押し込まれるとオーバメヤンはプレスバックすることもあった。

 サウサンプトンが後方で回すときは、アーセナルのプレスは前から捕まえに行く意識は見せる。ジャカは降りていくホイビュルクをマークしにいくぶん、後方のセバージョスは行動範囲をカバーしなきゃいけなかったのがちょっと大変そうであった。CHの行動範囲が広くなるとサウサンプトンは間を通しやすくなっていた。セカンドボールも拾いに行きやすいし。

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 アーセナルのビルドアップは左サイドが主体だった。前節は中央で前を向いたゲンドゥージの逆サイドへの展開が前進の役割を果たしていたが、今節はベンチ外。怒られたんだろうか。

 今節はゲンドゥージの代わりに入ったジャカが前進のキーマン。低い位置のやや左サイドから縦に速いパスを出す。大外のサカを噛ませてマイナスで受けることでフリーになっていた。

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 3-4-3に変更した意図はこの辺りにあるのかもしれない。このやり方ならばオーバメヤンが内、サカが外でのレーンの使い分けはしやすそうである。加えて同サイドではティアニーも出し手として機能。相手のプレス隊2人に対して、最終ライン3人とアーセナルは数的優位があったので、比較的ティアニーも長いキックを出すチャンスはあった。内に切り込んでシュートまで向かうオーバメヤンの抜け出しと、大外のサカの突破力を生かした左サイドからの縦の展開はサウサンプトンを苦しめた。

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 サウサンプトンは陣形はコンパクトで前からのプレスの意識は高いものの、ボールホルダーを捕まえきれないことが多い。したがって、ジャカやティアニーを起点とした裏抜けには非常にもろく、簡単にラインを後退させられる場面が見られた。ラインは上げるけど、ホルダーがフリーなので上げていい根拠はない状態というか。サウサンプトンはそういうちぐはぐさがみられるチームであった。

 それでいえば、ボール保持でもサウサンプトンはそこまで慎重なつなぎにこだわる必要はあるのかな?とも思った。先述のようにアーセナルのプレスはジャカが前に出る分、セバージョスのカバー範囲が広く、セカンドボールは拾いやすかったので、長いボールを活かした展開でも楽に運べるのではないのかなと思った。だからこそ、ボールを持つことの税金のような失点の仕方をしてしまったのはもったいないというか。もちろん、抜け目なくGKのミスを誘発したエンケティアは見事だけども。

 うまくいっているかどうかはわからないという意味では、先に紹介したアーセナルの左サイドのユニット以外のビルドアップも同様であった。右サイドはベジェリンとペペ、そして深い位置からセバージョス。こちらのサイドもサウサンプトンのプレスの精度は高くなく、時間を与えてもらえなかったわけではないが、連携での崩しはほぼなし。右サイドから得たチャンスは終了間際にペペがフィフティーのボールを抜け出して、エンケティアにラストパスを送ったシーンくらいだろうか。タイミングが合わずオフサイドになる場面は結構見たけど。

 両チームともプレスの精度は高くないけど、アーセナルの左サイドの加速以外はアーセナルもサウサンプトンもつなぎで違いを見せられるほどではない。開始直後によく見られたその左サイドの崩しも時間と共に徐々に見れなくなってくる。それだけに先制点の存在は大きいように思えた。

 試合は0-1でアーセナルがリードして折り返す。

【後半】
変えても上がらないプレス精度

 リードを得てからアーセナルのプレスラインはやや下がったように思う。意図したものなのかどうかはわからない。先制点を得た後でもエンケティアは相変わらず精力的にプレスをしていた。ただし、チームとしてそれを活かせていたかは微妙。

 もちろん、先制点のように個人のミスを誘発できたら最高なのだが、GKを蹴らざるを得ないくらい追い込んでも、蹴った先の選手がフリーだったり。CBにプレスに行っても一番近い選手に簡単にパスを出されてしまったり。エンケティアのプレスはひと叩きで簡単に無力化されてしまう。サウサンプトンにとってはプレスはしんどいけど、常に一番近くの選手が空いてるからまぁいいか。みたいな。

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 切り込み隊長のエンケティアがかわされた後も心もとない。アーセナルの選手はどこに相手のボールを追い込んで、どこで取りたいという矢印が見られず。相手のパスが出てから動くというムーブの連続。ラインを下げれば下げるほど、前半効果的とは言えなかったサウサンプトンの中盤でのボール回しが効いてくるという展開になってくる。

 特に後半目についたのはWBの出足の遅さ。仕組みなのかはわからないが守備の時はCBとフラットなポジションが多く、出ていって捕まえに行く動きは遅かった。というわけでサイドでフリーの選手を作るのは簡単だったサウサンプトン。2人いればパス交換でフリーの選手を作ってクロスを上げることができていた。

 だからこそ、ウィロック投入での5-3-2変形はサイドのケアをするものだと思っていた。しかし、3センターもサイドの浅い位置をチェックする役割を担っていたとはいいがたく、大きく展開が変わらない状況が続いていく。

 最終的には最後の交代で5-4-1に再変更するアーセナル。プレッシングはちっともうまくいっていないように見えるのだが、追加点のキッカケは先制点と同じくプレスから。バックパスをかっさらったオーバメヤンが得たFKから最後はウィロックが叩きこむ。このシーンも確かによく狙っていたオーバメヤンであった。

 決定機阻止で退場者を出してしまったサウサンプトン。追加点で試合はジエンドであった。アーセナルが0-2で勝利。連敗を止めて、再開後初勝利を飾った。

あとがき

やる根拠が欲しい

 コンパクトで勢いがあるプレス、でも脆かったサウサンプトン。裏をとれば簡単に崩れそうな気もするが、アーセナル目線で考えるとオーバメヤンとジャカがいなければ結構あっさり詰んでいた可能性もあるのが怖かったりする。

 ボール保持の税金みたいな2失点はもちろんつらい。とはいえ、その税金に見合う有効なボールの動かし方をしているかといわれると微妙なところ。せめてPA内に上げるクロスは威力を高めたい。本命がイングスなのはバレてしまっているので、精度を高めて分かっていても止められないまでの武器に仕上げたいところである。ボールホルダーを浮かせてしまうプレスもそうだが、ボールを動かして点を取るならそれを正当化する根拠となる武器は持っておきたいところだなと思った。

 この試合ではハイプレスもボール保持もリスクに見合うリターンが見えてこなかった。個人的にはここから今季は苦しみそうなチームなのかなと思う。予想は当たるだろうか。

■野暮だけどプレミアが求めているので

 久しぶりの勝利も、鬼門・セントメリーズを突破したことも、けが人が足をつった1人で済んだことも、クリーンシートもいずれも手放しで喜ぶべきだろう!といわれたら正直返す言葉はない。その通りだと思うし、そういう人にとってはこの結果を得た試合でこういう内容の記事を上げる自分はとても野暮だろう。

 プレスから2得点取っているが、今のアーセナルの一番の課題はプレスの精度の低さだと思う。どこに追い込んでどこで取りたいかが共有できているのかは微妙だなと思うときが多い。ビルドアップの要因で3バックでスタートしたのかもしれないが、左サイドの良好な連携が見られたのは前半のみ。ボールを奪い返す形が定まらず、見せたい形を引き寄せることができなかった。

 もちろん、考慮しなければいけない要因はたくさんある。怪我人、短い就任期間、そして選手のクオリティ。とはいえ、これではプレミアリーグで継続して勝利を挙げるのは難しいと思う。ハリルが前に「私が求めているのではない。W杯が求めている」って言ってたけど、プレミアリーグに求められるものをアーセナルも満たせるところまで持ってこないといけないなと再認識した。勝利はうれしいが、次の勝利への見通しが晴れたわけではないといったところだろうか。エンケティアの献身的なプレスや、ジャカを軸とした左サイドの連携など、よかったところをもっと強みとして押し出していきたいところである。

 最後に触れておきたいのは3年ぶりのリーグ戦のスタメンを張ったマルティネスの出来。セービングはもちろん、後半に見せたオーバメヤンへのパントキックはおそらくレノにはできない芸当。安定してゴールマウスを守っただけでなく、ロングカウンターにおける上積みをもたらしたというのはもう文句なしである。残り試合でもパフォーマンスを維持し、レノとの来季の熾烈な正守護神争いを盛り上げてほしい。

試合結果
2020/6/25
プレミアリーグ
第31節
サウサンプトン 0-2 アーセナル
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
ARS: 20′ エンケティア, 87′ ウィロック
主審:グラハム・スコット

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