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「その土俵じゃない」~2020.2.2 プレミアリーグ 第25節 バーンリー×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

図2

目次

【前半】
頓挫したプランA

 今季のプレミアのトレンドの1つといえばボール保持型に舵を切る中堅チームの多さである。プレミア制覇時以来のCL出場権を争い続けるレスターはもちろん、中位に目を向けてもブライトンやシェフィールド・ユナイテッドなど、ボールをもって自分たちの時間を作ることができるチームが増えてきている。そして、これらのチームは軒並み好成績を記録している。非常に興味深いトレンドといえるだろう。

 しかし、こういった話はこの試合を見る上ではきれいに忘れてもらって構わない。この日のアーセナルの相手はそういったトレンドとは無縁のショーン・ダイチのバーンリーである。ゴリゴリオブゴリゴリ。「ボール保持?なにそれなんか楽しいの?」というチームである。なんとなくアーセナルが苦手にしそうなスタイルであるが、意外にも対戦成績はアーセナルが10連勝中。バーンリーはプレミアでのアーセナル戦は引き分けが1つで、勝ちはまだない。

 実際この日の序盤の主導権もアーセナルのものだった。バーンリーの守備ブロックは4-4-2。アーセナルの4-2-3-1にはハマりやすい形である。バーンリーは比較的高めのプレスでアーセナルのボール保持を高い位置から阻害しに来る。特にジャカとゲンドゥージには両CHがぴったりついて自由を与えない。したがって、アーセナルはSHを加えた相手の2列目の4枚を突破する必要がある。

図3

 バーンリーがかみ合わせがいい形でプレスに来たため、アーセナルはボール保持でズレを作る必要がある。この試合のアーセナルの4-2-3-1はいつもと同じようで少し工夫が凝らされていた。人選で目を引くのは右サイドアタッカー。ここまでの試合では、ペペかネルソンが共に幅を取る役割をこなしていたのだが、この試合ではより万能型のマルティネッリ。いつもと違う人選である。

 右サイドは幅を取るアタッカーをエジルがコンビネーションでアシストする形がここまでは多かったのだが、この試合ではエジルが流れる頻度がいつもより多く、位置もタッチライン際まで流れることが多かった。バーンリーの左SHはエジルを気にしつつ、ベジェリンをケアしなければいけないという形になる。序盤はこのSHの裏の位置でエジルが受けることで、バーンリーの2列目の包囲網を突破していた。この試合のエジルはいつもと似た役割をほんのり変えて行っていた印象である。

図4

 中央での突破のキーになっていたのはゲンドゥージ。12分のように相手を対面相手をシンプルにはがすことで2列目を突破。ここを突破すると一気に加速するアーセナルの攻撃。数的にも同数近い形で攻めることができて、チャンスを作ることができていた。

 攻撃が加速してからの流れはサイドチェンジからの大外アタックである。先に述べたようにアーセナルのプレス突破は右サイドでSHの裏を取ったエジルが受けるところから始まる。というわけでプレスを突破された瞬間のバーンリーのブロックはそちらサイドにスライドした形になっていることが多かった。加えて、オーバメヤンが絞るタイミングがいつもより早く、大外をサカに明け渡す頻度が多め。SBを引き連れて絞るオーバメヤンの外側からサカのオーバーラップを使う形がアタッキングサードでのメインのやり方になっていた。

図5

 いつもと同じ配置でほんの少しいつもと違う役割をしていたのはオーバメヤンも同じ。絞る頻度が増えれば、オーバメヤンの抜け出しは即決定機にもつながる。引いて受けることができるラカゼットとつるべの動きのように裏抜けを試みて、後方のルイスからの長いフィードに合わせる形は、大外をサカに任せる形のメリットの一つでもある。

 大外からエリアにラストパスを打ち込む役割を任されたサカ。クロス精度の向上は著しい。アタッキングサードでの仕上げにおいて、間違いなくこの試合のサカはキーマンであった。それゆえに彼の負傷はアルテタにとって誤算だったに違いない。一度プレーを中断してからは、大外を攻めあがるシーンはほとんどなし。そのままHTに交代を余儀なくされる。大外のサカ作戦が使えないのならば、オーバメヤンがサイドに出ていかざるを得ない。そうなると中央の楔の受け手が減り、裏へのロングボールもチャンスに直結しにくくなる。アーセナルはサカの負傷により、バーンリー相手にうまくいっていたアタッキングサードのメカニズムがうまく回らなくなってしまった。

 もう一点気になったのは徐々にボールを受ける頻度が少なくなったエジル。バーンリーのSHが彼へのパスコースを遮断することを優先する選択をしたのだろう。その分、時間を与えられたのはベジェリン。率直に言えば、この試合の低い位置でのボール保持はベジェリンにもう少し頑張ってほしかった。SHの監視の目から逃れられている彼がボールを持ちながら上がっていけば、相手の2列目からは選手が出ていかざるを得ない。そうなれば囚われのジャカとゲンドゥージが解き放たれたかもしれないし、エジルへのパスコースももう少し見えていたように思える。この試合ではアーセナルのバックスは相手をひきつけてズレを作れず、ショートパスでチャレンジができていなかったように思う。

図6

 そうして徐々に増えていくロングボール。過去のレビューでも繰り返し述べているように、アーセナルのバックスのロングフィードはルイスを除けばまだ精度が高くない。そして相手は屈強なバーンリー。競り合いの局面が増えるのはショーン・ダイチの思うつぼである。セカンドボールを拾うとプレスで前残りしたアタッカー陣に素早くつなく。長いボールはムスタフィとベジェリンを狙い撃ち。アーセナルは相手を押し込めず、苦しいロングボールに逃げて、セカンドボール争いで後手に回るという悪循環に入っていく。序盤で得た主導権はサカの負傷とともに完全に手放してしまった形である。

 試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。

【後半】
整理されたロングボールとクロス

 動けなくなったサカに代えてトレイラを投入。全滅した左SBに回るのはもちろん弊社のスクランブル担当のジャカでございます。比較的無難にこなしていたものの、サカが前半に任されていたような高い位置まで駆け上がってエリア内にクロスを突き刺す芸当はさすがに無理。

 というわけで前半から大まかな展開は変わらず、試合はバーンリーが支配的な状況が続く。バーンリーのボール保持はロングボール主体。長いボールをウッドに当てるのが主なやり方である。工夫があるのはSHのポジショニング。非常に横方向にコンパクトな形をとり、セカンドボールを回収しやすいポジショニングを取る。外側のスペースはSBのオーバーラップで使われることが多い。

図7

 SHが外に出るときは、ジェイ・ロドリゲスと逆サイドのSHがウッドの近くにいることが多い。

図8

 基本的にはサイドからも放り込みなのだが、エリア内へのクロスは2人以上的がいるときにあげることがほとんど。1人しかいない場合は時間を使いながら、エリア内に選手が入ってくるのを待つ。シンプルだがやり方としては整っていてコンパクト。わかっていてもめんどくさいやーつである。

 押し込んだ流れからセカンドボールを取り逃すと一気にピンチになるバーンリー。しかし、アーセナルもそこからシュートまでたどり着くまでが遠い。潮目が若干変化したのはエジル→ウィロックの交代から。先ほどまでは積極的に相手を捕まえに行ったバーンリーの2列目は重心を下げて、アーセナル相手に後方でブロックを組むようになる。エジルがいないなら、引いても崩されない!と思ったのか、バーンリーがややバテてしまったのかはわからない。

 アーセナルは少ないながらも決定的なチャンスがないわけではなかった。しかし、オーバメヤンがこの試合では輝くことができない。後半もクロスを仕留めることができなかったし、前半も1対1のチャンスを決めきることができなかった。

 より惜しかったのはバーンリーの方だったが、決めきることができないのはこちらも同じ。というかむしろこちらのほうがひどいくらいかもしれない。サイドからのクロスをファーに上げて折り返す徹底したパターンには、アーセナルは試合終盤まで対応するのに非常に苦労していたが、まさしくゴールネットを揺らすことだけができなかった格好。勝ち点3を取れずに悔やんでいるのはアーセナルよりむしろ彼らの方かもしれない。

 試合はスコアレスドロー。アーセナルはこれで4試合連続のドローゲームだ。

あとがき

■武骨に整ったプラン

 決定機の数はおそらくアーセナルより多かったバーンリー。交代枠を全く使わずに試合を終えたことがショーン・ダイチのプランが終盤まで機能していたことの証左である。撤退した時のブロック守備は昨年よりもやや緩い感じもしないでもないが、この試合ではその機会を封じることでアーセナルをシャットアウト。クリーンシートを達成した。

 ロングボールへの依存度は高いが、試合を見ればいくつかの決まりごとに基づいて決められていることは明白。ファーからの折り返しを徹底して狙うクロス、絞ってセカンドボール回収を狙うSH、ウッドの周辺への人の集め方などわかっていてもめんどくさいやり方でアーセナルを苦しめた。呪いがかかったかのような決定力を除けば、90分のうちの多くの時間は彼らのものだったといっていいだろう。

違うチャレンジが見たかった

 今季13回目のドロー。勝てないし負けないアーセナルは今節も健在である。あまりにも引き分けが多いため、アーセナルより負けていないチームはリバプールだけ、アーセナルより勝てていないチームはワトフォードとノリッジだけという非常に珍妙なことになってしまっている。

 ここまでのチーム作りを見た時に、想定より調子が上がってこないように思えるのが前線のコンビネーションと個々人のコンディション。輝かしいパス交換が光るシーンはなくはないが、多くはない。マルティネッリを除けば前線は好調といい難く、アルテタが再建に向けて真っ先に当てにできそうな部分が強みになっていないのは間違いない。

 しかし、この試合で気になったのはむしろ後方のボール回し。バーンリーのプレスは確かに高い位置から来ていたが、それでもズレを作るチャレンジはもう少し欲しかった。特にエジルを警戒してバーンリーのSHがラインを下げてからはなおさらである。その状況においては、後方の選手が相手を引き付けることを引き受けなければ、前線にいい形で入ることはまずありえない。

 当然低い位置で相手を引き付けることは、ミスをしたときのリスクが大きい。しかし、それにトライしなければ精度が低いロングボールで体格に勝るバーンリーと渡り合わなくてはいけなくなってしまう。アーセナルがその土俵で敵わないことはわかり切っている。サカの負傷でプランAが頓挫したのは痛手だったが、それでもまだできたことはあったはず。いざなわれた土俵で戦って勝てるほど今のアーセナルは器用ではない。

 プレミアの年末年始の過密日程をこなしながら、シーズン当初と違う指揮官でスタイルを確立するのは非常に難しい。難易度の高いことに取り組んでいるのも間違いない。ただ、この日のアーセナルが取り組んでいたのは、アルテタの描くサッカーだっただろうか。下地を固めるためのチャレンジが、あまりにも少なかったように見えたことが個人的には残念に映った試合だった。

試合結果
プレミアリーグ 
第25節
バーンリー 0-0 アーセナル
ターフ・ムーア
主審: クリス・カバナフ

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