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「グアルディオラが均した道」~2019.12.21 プレミアリーグ 第18節 マンチェスター・シティ×レスター レビュー

スタメンはこちら。

図2

目次

【前半】
同じ陣形、異なるプレス

 フォーメーションは共に4-3-3。ボール保持をベースに戦っているチーム同士の対戦になったこの試合。立ち上がりの振る舞いで異なったのは非保持の局面。4-3-3で4-3-3を迎え撃つときの1つ目のチェックポイントは、CBに自由を許すかどうかである。

 CBに自由を許さない!という強気のプレッシングに打って出たのはホームのマンチェスター・シティ。インサイドハーフのデ・ブライネがジェズスと並んでプレス隊に加わる。この2人がレスターの最終ラインからのボール出しを阻害する。レスターのビルドアップはCBがお互いのPA幅以上に距離を取っており、ビルドアップにはGKも参加する。したがって、単純な理屈でいえばシティは2人のプレス隊では、このボール回しを完全に追い回せるわけではない。

図3

 しかしながら、実際はレスターのビルドアップは機能していたとはいいがたかった。理由は後方のボール回しでズレを作れなかったことである。最もズレを作りやすそうなのはアンカーのウンディディのところ。インサイドハーフのデ・ブライネが前方のプレス隊に参加しているならば、シティの中盤は2枚。中盤は3対2の数的優位になるからである。

図4

 となるとシティはどのようにアンカーを監視するか?が肝になる。結論から言うとボールサイドと逆のプレス隊が監視することでズレを防いでいた。通常、人よりボールは早く動けるので、そうなれば逆を使って前進というのがセオリーである。

図5

 しかし、レスターの最終ラインにはまだシティのプレスのスライドを上回るほどの横展開のスキルはなかったようである。GKを経由して逆サイドに展開するようでは、シティのプレス隊でアンカーの受け渡しが完結してしまう。これだと、中盤でズレは作れない。仮にマディソンが降りてきても対面の相手がついてきてしまう形になる。もちろん、エンディディのマークにシティの中盤を引っ張り出せたシーンもあったが、リスクを承知で出ていったシティの中盤のプレスが間に合うシーンが多く、ズレを前に送ることができなかった印象である。

 横に振るCB→CBライン以外にもGKから大外高めのSBに直接届けるやり方も揺さぶりをかけるやり方だろうが、それもシュマイケルのキックの精度を考えるとやや難しい。

 ということで、いつもならば比較的整えて渡せるヴァーディに50:50の裏抜けボールで勝負させることしかできない。というわけでここ数試合なんとなくイマイチだったシティのプレスはこの試合ではハマっていた。まぁ、シティは後ろでブロック組むことができないからこのやり方以外は難しかったとは思う。レスターはビルドアップ時の人は多いけど、後方の人の多さを前につなげずにぐぬぬとなっていた。

【前半】-(2)
一本槍のお膳立て

 一方で、シティがボールを保持しているときのレスターのプレス隊は控えめ。ヴァーディが1人で1stDFを行っていたが、プレスよりもパスコースを切る方がメインであった。アンカーのギュンドアンにはマディソンがマンマーク。立ち上がりはデ・ブライネとベルナルドもエンディディとティーレマンスで捕まえに行く形が多かった。

図6

 このレスターの振る舞いをシティ目線で述べれば、CBがボール保持を許されたということになる。というわけでジリジリ前に出てくるCBに対してレスターも立ち位置を塞ぐように移動する。ここで何にも手を打たずにガンガンフェルナンジーニョを前進させて開始早々に失点したのがアーセナルである。工夫レベル1のCBの持ち上がり。

 レスターは工夫レべル1では微妙だったので、シティは工夫レベル2に移行。中盤の引いてくる動きをセットで加える。この日のシティでいつもと少し雰囲気が違ったのは低い位置を取るベルナルド・シウバ。特に自陣左側の低い位置に落ちることでフリーになる。左サイドはメンディが大外高い位置を取って、スターリングが絞った位置に。そのため、ティーレマンスは後方を捨てて前に出ていっていいかの判断を迫られる。

図7

 シティの勝負所はマフレズの1on1。レスターの陣形を左サイド側に寄せた後に、一気に大きく右に展開するのが狙いだった。レスターとは異なり、シティの中盤は右サイドに一発で正確に通せるスキルを持っている。さらにポイントだったのは、ギュンドアンに対してマディソンがマンマークについていること。マディソンがピン止めされているとなると、ボールサイドへのプレッシャーもかかりにくいし、逆サイドに振った時のスライドも難しい。先述のようにベルナルドがティーレマンスをひきつけているのならばなおさらである。

図8

 右サイドでマフレズの1on1のおぜん立て役として登場するのはデ・ブライネとウォーカー。降りてくるデ・ブライネと絞ってリンクマンになるウォーカー。特に降りてくるデ・ブライネはスペースを見逃さない厄介な存在である。そのあと出てくるパスの質もウォーカーよりも高いし。

 WGとしては逆サイドにも強力なスターリングがいたが、左サイドバックが大外専用機のメンディということもあり、左サイドの可変性は普段よりは低め。スターリングは絞って縦パスの選択肢を作ることで、レスターの中盤を惑わせる役割に徹していたように思う。

 シティもマフレズという一本槍なのは、ヴァーディという一本鎗で勝負するレスターと同じ。マフレズ×チルウェルのマッチアップも、ヴァーディ×最終ラインのマッチアップもボール保持側が有利だったのも同じ。しかし、そこに至るまでのおぜん立ての精度が段違いなため、この一本鎗が登場する頻度は両チームで異なっていた。

 しかし、少ない頻度ながら先に点を取ってしまうのだからヴァーディは非常に優秀。ウォーカーが前に出てきてボール奪取したところを、レスターが再度奪い返すと素早く前線に。この日、初めてのシュートを沈めて機会の差をひっくり返す。

 ただし、シティも反撃に出る。こちらもヴァーディと同じく「一本鎗」からの得点。ジリジリ下がってしか対応できないチルウェルに対して、コースが空いたマフレズが打ったシュートはコースが変わってゴールに。幸運な場面ではあったが、マフレズからの仕掛けをあれだけ許してしまえば、失点は仕方のないものともいえる。

 同点の後から、徐々にマフレズがカットインから左の大外に開いたスターリングに展開する場面が出てくる。2点目が生まれたのはこの逆サイドのマッチアップ。リカルド・ペレイラのファウルを誘えるスターリングはお上手。判定はきわどかったけど。

 先手を取ったのはレスターだったものの、展開通りに機会の数の差を利用してシティが逆転。試合は1-1でハーフタイムを迎える。

【後半】
マンマークをやめた理由

 変化をつけてきたのはレスター。ボール保持面では各選手の距離感を狭めることでパスのテンポをアップ。特にSBのサポートは手厚め。前半の長いボールの収めどころにはならなかったけど、短いパスの受け手になってインサイドにリターン。

 46分前後のシーンのレスターのプレス回避見て思ったけど、SBから中央に戻るパスに対するエンディディのパスコースの作り方のうまいこと。降りてくるインサイドハーフと連携しながら、相手のマークの行き届かないところで受けてプレスを脱出するのが非常にうまかった。こうしてスピードアップしたパス回しで、前半よりはレスターはシティのプレスを回避できるようになった。

 ボール保持以上にわかりやすかったのは守備面での変化。ギュンドアンへのマディソンの貼り付けをやめさせたのが大きな違いである。

図9

 おそらく、狙いは中盤が横にゆがめられることを防ぐためだろう。前半にも述べた通り、左右に振られる展開の中でマンマークでピン止めが発生すると他の中盤の選手に負荷がかかる。というわけでギュンドアンに関しても受け渡しで対応しつつ、陣形を崩さないことを優先しよう!という方針の修正だったように思う。

 というわけでひとまず外々から迂回した攻撃になるシティ。右はマフレズ、左はメンディがんばれ!となるかなと思ったけど、すぐに中央から打開策を見つける。狙いはオーソドックスにアンカー脇、ボールホルダーに対して出ていくインサイドハーフが空ける背後のスペースに潜り込みボールを受ける。

図10

 前半の横方向のギャップと異なり、後半は縦方向の中盤のギャップを突いた形。特にこの受ける動きがうまかったのはスターリング。細かく左右を調整して楔を受けやすいアングルを作る。こうして徐々に後半も中央でも起点ができるようになる。レスターとしてはマンマークを解除した分、ホルダーへのチェックが遅れる+プレスに出ていった選手を埋める動きが少し乏しいところをシティに使われた格好になる。

 そんな中、レスターに選手交代。負傷も含めて両SHを交代した。2枚目の交代でグレイが入った直後にシティに追加点が入る。打開とアシストを1人でやってのけたデ・ブライネへのウォーカーのパスを交代直後のグレイが簡単に許してもらったのが痛恨。間延びしたDF-MF間のスペースを絶好調のデ・ブライネがうまく使った格好である。レスターはソユンクを釣りだされたぶん、ジェズスのマークが足りなくなってしまった。

   3点目のゴールで試合は沈静化。上位対決はホームのマンチェスター・シティの勝利で幕を閉じた。

あとがき

■スタイルに合わせた成長が伸びしろに

 展開の不利をひっくり返すジェレミー・ヴァーディ。スターリングなどスピード豊かなアタッカー陣相手に粘ることができたCB、そしてなにより勝負への希望をつなぎ留め続けたシュマイケルのビックセーブなどレスターにも見せ場はあった。後半のビルドアップも修正が見られたし。しかしながら、マディソンは自由を得られずに抑え込まれたし、チルウェルはマフレズ相手に後手を踏まされ続けた。いわば、自分たちの勝負したいところを塞がれ、相手の勝負したいところで勝負させられ続けていた状態だった。

 原因を紐解いてみると、前者はビルドアップでズレを勝負したいところに寄せられなかったこと、後者は左に寄せられた後の、右への展開に有効な一手が打てなかったことになってくるか。すでにレスターは完成度が高いチーム。スタイルの固まり方でいえばリーグトップクラスだろう。あとは、目の前の相手に合わせて戦い方を調整できるか、そして自分たちのスタイルの質の向上に必要なスキルを個人個人が身に着けていけるかどうかが後半戦も躍進を継続させられるかを左右しそうである。

■状況がそろえば強い

 ダービーから続いていたイマイチな雰囲気を払しょくする勝利だった。ボール保持、ハイプレスなど本来の強みのキレは十分だったし、マフレズを中心にサイドでも優位を発揮。攻守においてやりたいことが長い時間できた試合になったといえるだろう。同じ配置を利用したボール保持を主体とするチームとの対戦となったが、完成度と個々のスキルの差は隠せないものがあったといっていい。

 また怪我人が増えたのは心配ではあるが、立ち返るべきところがあるチームは強いなぁということを実感した。個々のコンディションや怪我人が戻った時にフルスロットルでプレーできるのは、グアルディオラが数年単位でやりたいサッカーの実現に向かう道を均していたから。最近はやや成績が落ち込んでいたシティだが、グアルディオラが均した道を選手たちが駆け抜けられる状況がそろえば、まだまだ強い。そう思い返させてくれる試合だった。

試合結果
プレミアリーグ
第18節
マンチェスター・シティ 3-1 レスター
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City: 30′ マフレズ, 43′(PK) ギュンドアン, 69′ ジェズス
LEI:22′ ヴァーディ
主審:アンソニー・テイラー

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