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「手の打ち合いからのマギーニョ劇場」~2019.11.2 J1 第30節 川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島 レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
プレスをひっくり返した大島のスキル

 試合前に「この試合はどちらがボールを持ちますか?」と聞かれたので「わからないけど、どちらもボールを奪えなさそうなのでトランジッションが少なくなりそう」と返答。ちなみに答えたのは下のオープンチャット内です。興味ある方はぜひ。

 というわけでボールを持つ側が有利な展開になったこの試合。川崎のボール保持に対して広島は5-4-1で迎撃。立ち上がりはプレッシングを控えた広島に対して、川崎は幅を使って揺さぶる形を見せる。ワイドにボールが渡って、相手のSHが出てきてできた斜めのギャップから侵入していく。相手陣に押し込んでからは川崎は最終ラインを押し上げてボール奪取。波状攻撃を仕掛けていく立ち上がりだった。

図15

 これはプレッシャーをかけないとあかん!となった広島。プレスのスイッチ役になったのはシャドーの森島と川辺。この2人がSBを捕まえるタイミングを早くしたこと、さらに広島のCHや最終ラインがそれに合わせてプレスを行うことで、10分前後に広島が押し込む時間が発生する。

図14

 そうなると川崎はその広島のプレスを利用して、相手を自陣に引き込むようになる。広島のCHの行動範囲が徐々に広がっていく中で、違いを見せたのは川崎のCH。プレスに対してうまく身体を入れ替えることによって、中盤でフリーになるパターンが出てくる。特に大島はさすがのスキル。大島のプレス外しをスイッチとして、攻撃を一気に加速。

 一方で広島は前からのプレスが空転した時のリトリートがやや怪しい。ボールホルダーを捕まえにいく意識がやや甘く、ボールをどこに誘導して食い止めたいのかが見えにくかった。

 プレスを外された後の広島がボールホルダーに寄せていないことで、川崎の攻撃陣には裏をめぐる駆け引きを行うチャンスがやってくる。15分に抜けだした脇坂と小林の速攻はその典型。対面相手を外した大島が裏に一気にボールを送ることでチャンスを演出。ネットを揺らしたもののこれはオフサイド。

 しかし、大島のスキルは早々に点に結び付くことになる。20分のシーンは新井のパスを相手の逆を取って剥がしてフリーになる。ここから攻撃は加速。先ほどのシーンのように一気に裏!という流れではないものの、素早く相手陣に侵入。最後は田中碧のミドルで先制する。一度はひっかけたものの最後はミドルで仕留められた広島。このシーンで広島が大島を逃がしてしまって以降、川崎はボールホルダーがプレスの圧を感じないままパスをつなぐことができていた。先に挙げた「プレスを回避された後にどこで食い止めるかがわかりにくい」という広島の難点が失点を招いてしまったようなシーンだった。

【前半】-(2)
左サイドで複数の選択肢

 ボールを持った方が有利な対決ということで、当然広島がボールを持った時は彼らも効果的な前進を見せた。特に準備してきたなと感じたのは広島の左サイドからの前進。右はハイネルを欠くということで、ストロングサイドになる左からの策は練ってきたという印象である。

 佐々木翔がボールを持ち、対面の脇坂を引き寄せるシーンから局面は始まる。大外に柏が張り、柏にボールが出ると同時にマギーニョが捕まえに行く。マギーニョがスペースを空けるのと同時に森島がそのスペースに走り抜ける。

図8

 そうなると、柏には複数の選択肢が生まれる。内側にカットインしてもいいし、森島がそもそもいたスペースに稲垣や青山などが侵入。今度は田中が空けたスペースを使うメカニズムになっていた。佐々木が上がってきて内側のレーンを使うパターンもあった。

図9

 ただし、佐々木に関してはボールを持った後の選択肢があまり多いタイプではないので、低い位置でCHのようなロールでボールを受けるよりも、10分にFKを得たシーンのように、内側を走り抜けてフリーになる仕事の方が向いていたのかなと。広島のCB陣に共通して言えることでもあるが、フリーで持った時にもう少し球出しの選択肢の少なさは課題だ。逆に言えばCBの配球のスキルが向上すれば、広島は相当に厄介な存在になると思う。

 話はややそれたが、広島の左サイドの侵攻に対しては川崎が得点シーン後に対策を打つ。脇坂がそもそも佐々木についていかず、ステイして柏を監視できるような立ち位置を取る。これにより重心は下がるものの右サイドはマギーニョや田中がスペースを空けずらくなった。

図10

 広島が厄介だったのは1つ起点を抑えても、次の起点を作ろうと試みてくるところ。特にそれを実行できる運動量とスペース感覚を持っている稲垣、森島、川辺は厄介だった。彼らが最終局面にも顔を出せるので、中央でクロスの枚数は確保できているパターンは多かった。

 縦パスを入れられる青山の存在も厄介。ドウグラス・ヴィエイラのポストを主体として川崎のDF-MF間で起点を作る。中央で起点ができると、相手を押し下げることができる上にサイドで数的優位が作りやすくなる。右はインサイドハーフ、シャドーを絡めたポジションチェンジと裏抜けの組み合わせ。左は柏のアイソレーションを軸に徐々に広島が押し下げられる。

 となると「やっぱり前からプレスに行かなきゃいけないんじゃね?」となってくる川崎。しかし、そうなれば脇坂が佐々木を捕まえに行って、マギーニョの裏を取られる!という振出しに戻る展開になってしまっていた。ただし、川崎もカウンターでは脅威を見せ続ける。ただ、前半の終盤は若干2点目が欲しくて縦に急ぎすぎた嫌いがあったかもしれない。

 前半のラストプレーは広島が左右に大きく展開してからの、中央に飛び込んだ青山のヘッド。川崎がリードしつつも、広島が脅威を見せるという展開で前半は終了。ホーム川崎のリードでハーフタイムを迎えることになった。

【後半】
オールコートマンツーと空中戦で窒息狙い

 特に攻撃面においては悪くない前半だったものの、城福監督は後半開始に手を打ってきた。右サイドで脅威になり切れなかったサロモンソンに代わり、FWのレアンドロ・ペレイラを投入。システム変更で3-1-4-2にシフト。

 広島が後半から採用した3-1-4-2は一般的に4-2-3-1との相性がすこぶるいい。特に3-1-4-2側が前からプレスを嵌める!という意識が強いと、プレスがガンガンハマるパターンにもっていきやすくなる。噛み合わせを見てみれば人をガッツリ捕まえられることがわかる。

図11

 ということで広島のこの交代の目的は当然前プレの強化。そしてその効果はかなりてきめんであった。そして、ボール保持においてもこの交代は効果があった。中盤が青山をアンカー、稲垣と川辺のインサイドハーフの3枚で構成することにより、川崎の中盤に対して数的有利を維持できる。

図12

 前にはペレイラとヴィエイラの2枚ということで青山から放たれるロングボールは脅威だった。しかし、青山は後方を稲垣や川辺に任せて自らがエリア内突撃するケースもしばしば。ここら辺は役割整理されていないだけなのか、単に前に行く青山を制御できなかったのかはわからない。

 青山の突撃以外にも川崎にとって助かったのはWBの人選。左からのカットインが脅威だった柏は右に行きやや威力が落ち、左の森島も中央に行ったことで存在が薄くなった。

 しかし、ヴィエイラとペレイラの2トップへのハイボール爆撃はかなり耐えるのがしんどかった。奈良や山村もぎりぎりの対応を強いられ続ける。少し気になったのはCK。新井の積極的な飛び出しが目立つが、触れないこともしばしば。第1GKとして年間ゴールマウスを守るとしたら、このあたりの飛び出しの判断は課題になってきそうだ。

 川崎が苦しいのは守備だけではない。ボール保持において広島のマンマークハイプレスを攻略するには、後方の陣形を変えるか、スキルでなんとかするかの2択。広島は後方の3バックが広大なスペースをカバーしなければいけなくなるので、スキルでなんとかする場合はなるべく早く前に届けてアタッカーに広いスペースで勝負させるのが定石である。

図13

 しかし、川崎の前線はなかなか推進力を発揮することができず。さらには後方で相手を剥がせる大島も60分に下がってしまったことで、なかなか広いスペースでの広島DFとのデュエルで優位に立てない。中村憲剛の負傷により、齋藤学が入ってくることでようやく前進することができたという感じ。

 攻守においてなかなか盤面をひっくり返せない川崎が決壊したのは84分、マギーニョのボール処理のミスをレアンドロ・ペレイラにかっさらわれて同点に追いつかれる。

 しかしながら最後に決着をつけたのもマギーニョ。直後に弾丸シュートを突き刺し、一転ヒーローになった。等々力劇場ならぬ、マギーニョ劇場である。このシーンでは下田と脇坂による素早い波状攻撃がお見事だった。

 最後は知念を投入して試合をクローズ。ちなみにだが終盤の阿部の頼りになり具合は異常だった。試合は川崎が2-1で勝利。エディオンスタジアムでの雪辱を果たした。

あとがき

伸びしろはあるスカッド

 この敗戦で上位進出が難しくなった広島。前半のオーソドックスなスタイルもエディオンスタジアムよりもオフザボールの質が向上。中央のドウグラス・ヴィエイラとワイドの柏を軸とした攻撃は迫力を増している印象だった。レアンドロ・ペレイラ投入後の2トップシフトも川崎を苦しめるには十分。ただし、本文でも触れた通りやや役割が整理されていないのは気になった。

 CBのボール保持におけるスキルもややボトルネックになっている。ビルドアップにおける引き出しが増えれば、より相手を苦しめることができる。そして課題は何より決定力。決定機を逸した数は川崎よりもおそらく多く、この試合の勝敗で言えばここが分かれ目になったといえる。

 ただ、課題がある中でのこの順位はポテンシャルの裏返しではないか。もう一段上に行けるチームになるかどうか、来季はそこにチャレンジすることになるだろう。

■かかってこい、総力戦

 なんとか勝利をもぎ取った川崎。試合後にピッチ上に倒れこんだ人数の多さは、ルヴァンカップから続く激闘のあとが表れていた。最終ラインはスクランブルながらぎりぎりで耐えきった。特に奈良は負傷明けながら試合勘の鈍りを感じさせない出来。リスクを負いながら積極的に出ていくプレースタイルはフィットまでに時間がかかるかと思ったが、即チームの力になることを示した。そしてマギーニョも結果を出せてよかったです。

 大島のプレータイムの制限や、中村の負傷交代などのトラブルにもチームはうまく対応。阿部に関しては1週間ぶり50回目くらいに「川崎に来てくれてよかった」と思うし、山村にも同じことをここ1か月で3回くらい思っている気がする。

 浦和と鹿島という難敵相手に過密日程をこなすのは容易ではないが、川崎の今季の層を考えれば総力戦はうってつけ。むしろ今季ここまでのうっ憤を晴らすようなパフォーマンスを残り4試合で期待したいところだ。

試合結果
2019/11/2
J1 第30節
川崎フロンターレ 2-1 サンフレッチェ広島
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎: 21′ 田中碧, 84′ マギーニョ
広島: 82′ レアンドロ・ペレイラ
主審: 山本雄大

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