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「仕組みの前半、アクシデントの後半」~2019.10.19 J1 第29節 ガンバ大阪×川崎フロンターレ レビュー

 スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
見覚えがある川崎の陣形の広げ方

 端的に言ってしまえば、前半はG大阪が主導権を握って進めた試合だった。川崎からすればおそらくボールを動かしながら主導権を握りたい試合だったはずだが、ボールは握れてもチャンスは作れずムムムという展開だった。ということでなぜ目論見が外れたのかを考えながら前半を振り返っていきたい。

 まずはG大阪のボール保持の局面。宮本監督になってからG大阪は積極的にGKを絡めたビルドアップを展開する。3CBのうち、2枚のCBがタッチラインに大きく開く。この試合では金と三浦がその役割。アンカーの矢島が降りてきて菱形を形成する。両CBはPAの横幅くらいの立ち位置を取ることもしばしばで川崎のプレス隊であるダミアンと中村のプレスを引き込みつつ無効化していた。

 開いたCBの恩恵を受けて高い位置を取るのは左WBの藤春と右CBの高尾。彼らはライン際のポジションを取ることで、川崎のSHをピン止め。川崎が横方向にコンパクトな陣形を取ることを阻害していた。

 菱形で川崎のプレス隊を自陣に引き寄せ、藤春と高尾で相手を横に引き伸ばす。ということで縦にも横にも引き伸ばされた川崎の陣形。川崎のCHがカバーしなければいけない範囲は途方もなく広くなってしまう。要は中盤の空洞化。川崎としては豊田スタジアムでの名古屋戦の焼き直しのような守備になっていた。

図7

 G大阪での不安要素は宇佐美とアデミウソン不在で前線で起点をつくれるか?である。この日の2トップが「心配ないよ!」という返答をしたのが1分過ぎのこと。狙い通り空洞化した中盤で井手口がフリックしたボールを渡邉がポスト、小野瀬が受けて前進に成功した。決定機まではいかなかったものの、ひとまず用意したものが通用しそう!という安堵はあったのではないか。

 後方は構造的に数的優位、横は広げられて中盤は空洞化。FWは空洞化した中盤を利用しつつ縦関係を作るという流れで前進がうまくいきそうなG大阪。川崎は開いた3バック相手にプレスを空転させ続けられる今季お馴染みの光景が繰り広げられることになる。

 それを受けてプレスを自重するかどうかを模索し始めた川崎のプレス隊。試行錯誤し始めようとした矢先に、オープンなCBから出たボールが起点となり失点してしまう。最もこれは構造上の欠陥というよりは登里個人のエラーだろう。エンドラインを割らせるためにボールを自陣方向に呼び込んでからロスト、加えてパスカット後の不用意な中央方向へのパスでショートカウンターの起点になってしまった。登里激推しの当noteだが、これは彼個人レベルのミスといっていいと思う。

【前半】-(2)
川崎非保持の問題点

 先制点で優位に立ったG大阪。ここまではボール保持の局面を紹介してきたが、非保持の局面を見ていく。プレビューで川崎目線で触れたポイントとしては「G大阪のインサイドハーフを動かしたスペースを活用できるか?」である。

 特に動きが大きいのが井手口のサイド。後方の守備陣の強度も含めて、G大阪の右サイドはここ数試合の対戦相手の狙いどころになっている。基本的にG大阪のインサイドハーフは、SBを監視する担当。この試合でも車屋がやや絞った位置に立った場合、井手口を釣りだすことはできていた。しかしながら、そこから先がうまくいかず。ここからはその理由を考えたい。

①インサイドのフォロー

 この局面では車屋に複数の選択肢を与えたいところ。おそらく長谷川はタッチラインに張るように指示を受けていたはず。外の長谷川という選択肢はあったが、問題は内側。ダミアンへのポストへの楔のコースは空いていたが、彼のポストを受ける選手がいない。中村は右に流れる場面が多く、大島は車屋と被った左サイドに流れるシーンが目立つ。後半、田中碧投入後のように、大島が井手口が動いた裏に立っていれば、車屋には複数の選択肢が与えられただろう。ちなみに車屋がドリブルしながらボールを持ち運ぶシーンもあったが、囲まれて潰されてしまった。ドリブルしつつ引き付けた場合のパスのタイミングは車屋自身の向上ポイントでもある。

図9

②小野瀬のプレスバック

 もちろんG大阪側の要因もある。特にこの日のメンバー構成で言えば変化があったのは2トップ。特にプレスバックしての守備を行っていた小野瀬は厄介。従来は宇佐美とアデミウソンの2トップが守備免除されていたが、小野瀬はサイドバックへも積極的にプレッシャーをかける。そのため川崎のSBには内側のパスコースと時間があまり与えられなかった。

図10

③G大阪の自陣撤退

 それでも車屋→ダミアンのパスは何回か通した川崎。そのコースを警戒したのか、単にリードしたから自陣に引いたのかはわからないが、徐々にプレスラインが下がってきたG大阪。当然DF-MF間のスペースはなくなり、このスペースで受ける選手は前後から潰される展開になる。

図11

 G大阪の自陣撤退によってスペースは失ったが、浅いサイドの位置で時間を得ることができてきた川崎。効果的だったのはゴール方向にまいていくクロス。もちろんダミアンがターゲットである。単純な高さはもちろん、マークを外す動きにもたけているFWにより、押し込んでからいくつか決定機はできていた。

 右サイドから相手を押し込むのに重要な役割を果たしていたのは山村。開きつつ登里に高い位置を取ることを促した。時には自らがオーバーラップして出ていくことも。しかしながら、押し込んだクロスは有効でもショートパスを使った決定機は量産できず。むしろ前半の最後はG大阪に押し返される場面もあった。

 前半のうちにゴールまでは奪えなかった川崎。試合は1-0。G大阪のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
圧力が緩まった同点弾

 久しぶりにハーフタイムでの選手交代を実施した川崎。守田→田中という同ポジションの選手交代。確かに前半からパススピードの遅さが目立ち、適応できていないとは思っていたが、負傷明けの大島がいることやCBもSBもいないベンチメンバーを考えると、かなり思い切った交代といえる。

 鬼木監督が思い切った決断をしたな!と感じたのは、守田→田中の交代以外に川崎の布陣に変化をつけてきたから。具体的には大島と田中の役割分担がより縦関係に顕著になったことである。前半終盤は自重していた川崎の前プレスは復活。ダミアンと中村以外に、大島を三の矢として追いかけまわさせることで、立ち上がりよりも圧のかかったプレスを展開する。実質4-1-4-1へのシステム変更といっていいだろう。

 そのため後方のスペースは田中が一手に引き受けることに。この中盤のリベロ的な役割をうまくこなしていた田中。守田でも同じ役割はできなくはなさそうだが、パススピードが上がらないことから、ボール奪回後の縦パスを即時カットされるリスクはある。そこの改善が見込める田中の起用だったのではと推察する。

図12

 とにかくこれでG大阪陣内に相手を押し込む時間が増えた川崎。大島は攻撃時にも高い位置をとることから、G大阪のDF-MF間でボールを受ける選手が増加。守る側としては狙いは絞りにくくなる。

 この配置で大島は前線にも顔を出しやすくなる。それが功を奏したのが同点ゴールのシーン。車屋が上げたクロスを落としたボールに大島が詰めて追いつくことに。相手を押し込めるようになったこと、CHが高い位置を取るようになったこともコンボでクロス攻撃の威力が増した格好。ターゲットはダミアンしかいないんだけども、それでも仕事をするのだからすごい。

 ハイクロスだけではなく、ショートパスの連携で崩せたのが2点目のシーン。右サイドの家長、登里のレーンの使い分けからサイドを突破して中央でダミアンが決めたゴール。家長が金を連れ出したスペースに入りこんだ登里。多少コンディションが悪くても、スペース感覚に優れた選手は個人的には継続起用で見たくなる。それにしても家長は本当に人を引き付ける選手。ルヴァンカップ鹿島戦もそうだが、相手チームに対して「そんなに人行く必要ある?」というシーンがしばしばあるのは、対峙している相手選手に1人では止められない感覚があるからだろうか。

 試合の話に戻ると、逆転ゴールもつかの間、同点ゴールが決まる。マークを離してしまった山村も、遅れて危険なチャレンジに行ってしまった登里も、中央に同数以上相手がいるのに簡単に小野瀬から2回もクロスを上げられた車屋もまずい対応になってしまった。G大阪はかなりリスクを承知で人を上げてきたので、圧力に屈した格好である。

 このゴールシーンの負傷で倉田と登里は交代。高江を同じポジションにそのまま入れたG大阪に対して、SBをベンチに入れていなかった川崎は脇坂を投入。田中碧をSBに移すことで対応した。

 大島の予測能力の高いプレスと、行動範囲の広い田中の縦関係でうまくいっていたCHがこの負傷交代によって解体。代わりに中盤に入った脇坂は家長が逸した決定機を演出するなど、ボール保持では存在感を見せたものの、プレスの精度にはややクオリティの不足が散見。後方の大島も田中ほどの行動範囲はカバーできないこともあり、徐々に支配力が弱まるように。引いた位置では大島の両脇のスペースを井手口や高江が活用するシーンも見られ、G大阪のゴール前も徐々に迫力を増していくことに。

図13

 下田の投入はこの中盤のバランス悪化を改善するための一手だろう。下田に後方で田中のようなボール回収係を担当してもらい、大島をもとの位置に戻すことで再度後半開始時のメカニズムを取り戻そうということだろう。G大阪はパトリックを入れて応戦。ハイボール対応可能な前線の起点を作ることで陣形回復を狙う。

 両チームともに相手を押し込む手を講じたものの、一方的な展開にはならず、最終的には互いにゴール前のシーンが増える形に。しかしながら互いに決め手を欠く。山村に新井まで負傷をした川崎は最後は満身創痍の格好。G大阪もプレスバックするFW→WBというフルスロットルタスクをこなした小野瀬が試合のインタビューで開口一番「疲れた」と発言したことが象徴しているように、積極的なプレスには出られなかった。

 試合はそのまま2-2で終了。ドローでの決着となった。

あとがき

■失点に結び付いた課題、見いだせないバランス

 立ち上がりは好調だったG大阪。縦に横に川崎の陣形を広げ、それを早々に結果に結びつけた。一方で難を感じたのはブロック守備の精度。PA内にCBが3枚いることもあり、人に向かうクロスを跳ね返すのは問題ないが、スペースにクロスが出た時の対応がややあたふたしていること、そして最終ラインから飛び出した選手が空けたスペースのカバーリングには課題がある。実際この課題がともに失点につながっており、この試合の勝ち点を落とした一因といえそう。

 それならば、もう少し自分たちが相手に押し込んだ時に得点を取っておきたいが、宇佐美とアデミウソン不在ではなかなか難しいところもある。彼らが戻ってきても、前線の守備が緩くなることは必至で、ここの攻守のバランスを見出すのに宮本監督は苦労しているのかもしれない。来季続投をフロントからすでに明言された宮本監督。試行錯誤はまだまだ続きそうだ。

 最後にこの試合で負傷した倉田の一日でも早い復帰を祈っていることを記しておきたい。

■「痛い」同点弾

 今年も大阪では勝てなかった。個人の話を先にすれば、評価が難しかった選手が多いのがこの試合の特徴だ。後半のサイドの突破に大きな貢献を果たした家長は決定機を多く逃したことで評価を落とした。ポジショニングに長けている登里はボールコントロールとパスの判断に難あり。2点目は演出したものの、収支は怪しい。ハーフタイムで交代した守田も役割としては代えにくい選手だった。登里の負傷の際には「彼がいれば・・・」と思ったサポーターは多いはずである。随所に光るものを見せた脇坂も大島も、求められた役割と能力がやや異なる部分が多かったりもした。攻撃面において地味な働きを見せた山村はとてもよかったと思うけども。

 チームの話をすれば、後半頭の修正は悪くなかったし、実際に一度は逆転まで行った。問題点はうまくいった時間帯の短さだろう。本文中で触れた2枚目の交代以降にペースを握り切れなかったのは、ベンチメンバーと展開が合わなかったことに尽きる。家長が二度あった決定機を決めていれば、試合後に得られた勝ち点は変わったかもしれないが、そもそも押し込みきれなかったのが痛恨。選手交代で流れを手放すことになってしまったので、後半はややアクシデンタルな要素が強い。2失点目は同点にされたこと、負傷選手を出したこと、配置変更を強いられたことなど多くの意味で「痛い」失点になった。

 となると改善の余地は前半か。特に左サイドでゲームを作れない時間が長く続いたのは痛かった。最も効果的だったのはダミアンへのクロス。ただ、彼が落としたクロスを活かしにくいメンバー構成だったため、なかなか割り切れなかった部分があった。(阿部不在という事情はあるが)

 湘南戦でも見られた起用されたメンバーと有効な戦術がやや乖離してしまったのが気になるところ。このメンバー、この戦い方で安定して勝利を挙げるには、ショートパスでの局面突破の精度向上とペースを握る時間を増やすしかない。正直、それをやっているような時期ではないが、それでもおそらくそれをやるしかないのだろう。

試合結果
2019/10/19
J1 第29節
ガンバ大阪 2-2 川崎フロンターレ
パナソニック吹田スタジアム
【得点者】
G大阪: 5′ 渡邉千真, 65′ 倉田秋
川崎: 51′ 大島僚太, 63′ レアンドロ・ダミアン
主審:池内明彦

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