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「たくさんの『少し』の積み重ね」~2019.8.24 J1 第24節 川崎フロンターレ×清水エスパルス レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
間と裏の併用で先制

 清水の守備時の布陣は4-4-2。プレビューで触れた中央前方2枚(ドウグラスと河井)の関係性は縦関係よりも並列に近いものだった。

 川崎は守田が最終ラインに入る形で3対2の数的優位を作る。いわゆるサリーちゃん。立ち上がりこそ1分に谷口の縦パスがアウグストにカットされたシーンだとか、まだ連携が成熟してないマギーニョ、ジェジエウの右サイドにフタをしにいって蹴りださせるというシーンだとか清水が川崎を慌てさせる場面はあったものの、時間の経過とともにペースは川崎に移る。

 川崎は後方のCBが大きく開くことで清水の陣形をワイドに広げる。プレビューでは「アウグストの行動範囲を広げつつ、食いつきの良さを利用して彼が空けたスペースを使いましょう!」と展望したけど、清水のCHが動いたスペースのギャップを川崎は常に狙っていた。例えば17分の守田の突破。若干ボールコントロールでわちゃわちゃしたせいで引っかかった部分はあったけど、アウグストを先回りしてボールを動かすイメージはあんな感じ。間を狙うのが得意な中村憲剛と阿部浩之はCH-SHの間に位置しつつ「お前らがCH脇空けたらそこから運ぶからね?」というナイフを清水に突き付けていた感じのポジショニングだった。

 間が中村と阿部なら、裏を狙っていたのはマギーニョと齋藤学。それぞれ浅いとは言えない清水のラインを彼らの裏抜けでブレイク。20分のマギーニョが抜けていったシーンはとてもきれい。コントロールとフィニッシュは微妙だったけど。逆に齋藤が抜けたシーンはマギーニョほどきれいではなく、敵はまだ前に残ってはいるものの、強引さはさすがといった感じ。

 話は前後するが、裏と間を使う意識がうまく合わさったのが川崎の先制点のシーン。CHの背後で絞ったポジショニングでCHとCBのピン止めをする憲剛とダミアン。裏抜けをチラつかせつつ、ワイドの高い位置にポジションを取り、相手のSBをピン止めするマギーニョ。それぞれのピン止めをうまく活用したのが齋藤学。自分をマークする人が見当たらないならという感じで裏に抜けつつ、早いタイミングでクロス。ダミアンは抜け出しの先手で清水のDFを上回った。配置、ラストパス、フィニッシュのそれぞれにおいて、相手に優位を見せたゴール。個人的にはとても好きなゴールである。

【前半】-(2)
サイドから運べるも・・・

 給水タイムを挟んでもペースは川崎のもの。裏と間の使い方を上で示してきたが、実は最もボールを無難に運ぶという意味で機能していたのはサイドだった。清水のSHが前プレに参加するのは上で述べた通り。その際は川崎のSBには特にプレスがなく、そこにボールが出てから清水のSBが出ていく決まりになっていた。そうなると、今度は清水のSBが空けたスペースをSHが使う!といった具合。タイミング的には川崎のSBへのプレスはワンテンポ遅い感じでフリーで持つ時間はあった。

 特に川崎の左からはこの形での持ち上がりが繰り返し見られた。左サイドの懸念はむしろその先。サイドで深い位置を取った後の同数での崩しの質である。齋藤と車屋の連携はほぼ機能せず、中盤が流れてきたときも、クリアな形でエリア内に侵入できたシーンはそこまで多くなかった。

 なので仕組み的には持ち運べる川崎。ただ、オフザボールの動きを駆使したサイド突破は鳴りを潜めた。まぁ、この時点ではリードしているからちょっとした懸念だったのかもしれないけど。

 懸念と言えば、清水の同点ゴールはドウグラスという「懸念」が結果に結びついてしまったシーンだった。清水も川崎と同じサリーを使った3バック化でSBを押し上げつつボールを運ぼうとするが、川崎は無理にプレスにはいかず4-4-2を維持しながら相手のコースを寸断することに集中。ドウグラスという出口に運ばせるという目的を達成させなければそれでOK。長いボールも裏への抜け方も前節休んで元気いっぱいなCBコンビはうまく防いでいた。

 数少ないドウグラスにうまく受けられてしまったシーンが失点シーンである。降りてきたドウグラスに対して、守田がパスコースを塞ぎきれずに下田がファウルというCHの合わせ技。FKは若干甘かったコースを止められなかったソンリョンも実は気になっている。クラシカルなタイプなだけに、セービングにおいて長期間不調が続くようだと厳しいけども。

 ドウグラスにどうボールを運ぶねん!という命題を一瞬解決したことで同点に追いついた清水。基本的には同点になった後も展開は変わらず。配置的にはハマっているが仕上げの質がハマらない川崎と、配置的にはハマらないけど同点に追いついたことで「前節の俺たちとは違うけどね!」という分、自信が少し上乗せされた清水。

 清水が時間経過とともに工夫してきたのはSHの位置取り。ビルドアップ時に外に張り出したCBを積極的にチェックに行く意識は、徐々に内側に絞るポジショニングにシフト。ボランチ脇を締めるような位置取りをするようになった。特に川崎の右サイド側の西澤の絞りは顕著。失点シーンがここのハーフスペースを抜けられたことに起因するのか、あるいは単純にベンチに近かったので、篠田監督の指示が聞こえやすかったからかはわからない。

 試合は1-1でハーフタイムを迎える。

【後半】
ちょっとした懸念、アゲイン

 前半45分を戦って、このマッチアップは勝算あり!と踏んだのだろう。清水はドウグラスへの長いボールを後半開始から蹴りこむ。前半ももちろんなかったわけではないけれど、後半の立ち上がりはかなり依存度が強め。後方でフリーマンを作ってはドウグラスに蹴りこむ形の繰り返しであった。一回、競り合いから裏抜けした河井がシュートに持ち込む形があったけど、清水からしたら「アレで十分じゃない?」って感じ。確かにアレで十分脅威。

 川崎は相変わらずサイドからは軽々とボールを運ぶ展開。しかしながら、清水は川崎がサイド深くまでボールを運ぶと、CH、SH、SBの3枚で片側寄せを発動。川崎はこの壁を超えることができず、苦しんでいた。

 負傷した齋藤に代わって入った長谷川は十分なスペースを得られず、車屋との連携も改善されずに四苦八苦。悪くはないけど、効果的ではない攻撃をさせられていた印象。なんとかサイドを突破してハーフスペースに侵入しても、PA内にはダミアンしかいないから、とりあえずミドルを打つ!みたいな場面もあった。

 ボールを運ぶけど、そこから先のもうひと精度が足りない川崎。清水も我慢していた最終ラインをガンガン下げられていたので、お互いにとって苦しい時間が流れている感じだった。たらればをいっても仕方ないのだが、例えばLSBが今季長谷川と好連携を見せていた登里だったらとか、PA内侵入で効果的な攻撃を見せている田中が出場していればとか。あるいは、齋藤学が負傷していなければとかいろいろ思ってしまいそうな展開が続いていた。

 そんなことをしているうちに清水が勝ち越し。ヘナト・アウグストのインターセプトは見事だったけど、それ前半1分に見たけどね!っていう。こっちもちょっとした懸念が的中してしまう形だった。

 ここからは清水のブロックを崩せるか勝負!川崎はマギーニョ→馬渡でアタッキングサードでの精度改善を目指す。清水は河井→鎌田の交代で5バックにシフトしたが、川崎の3枚目の交代カードの小林悠が交代後のファーストプレーで結果を出す。5バックで後ろ重心、かつドウグラスが交代してしまったためになかなか前に出てこれなくなる清水。川崎も決定機を作れないまま試合は終了。2-2の引き分けで川崎は上位陣との差を詰めるチャンスを逸した。

あとがき

■現実を見据えた修正で得た勝ち点1

 大敗の後のリスタートとしては悪くないリカバリーとなった清水。プレスで勢いをもってスタートした展開はありがたくなかっただろうが、ワンチャンスで追いついた後は徐々に現実的な落としどころで奮闘しましょうという流れはやりやすかったのではないか。90分間低い位置で頑張りましょう!は割としんどいし。一時期は逆転をしただけに悔やまれる部分はあるかもしれないけど。

 残留に向かっていく話を考えるならば、この割り切ったサッカーでも戦えるのもかもしれない。ラインを上げて色気を出すとなると若干CBの人選が怪しいように思えた。対人に強いがスペースを空けやすい吉本もこの日の1失点目のシーンでほとんど動けなかった二見はちょっと厳しい部分もあった。竹内とアウグストの連携も改善の余地はありそう。まずは失点数を減らしてナンボだと思うので、守備の組み方から考えてカウンターで!という形でもなんとかなりそうなのは好材料。ドウグラスが負傷したら…なんていうたらればとかは考えたくもない感じだ。

■ドロー沼の理由を考える

 ドロー沼である。本拠地では3試合連続のドロー。ホームだけで今季9つ目のドロー。もはやリーグ記録とかになりませんかね。誰か調べておいてもらっていいですか。直近のホームでのドローの相手が松本、鳥栖、清水という三者三様のスタイルで残留争いをしているクラブ。アウェイの仙台も含めると後半戦はボトムハーフの相手には勝っていない。ということで結果だけ見ればひとまず最悪というところから向き合う必要があると思う。結果だけ見れば最悪です。

 で内容に目を向けるとこれまた何とも言えない感じ。というのも仙台戦から継続して内容は改善していると思う。4-4-2の嫌なところにポジションを取り続けるという意味では試合を通して継続できていたし、相手を押し込む時間帯もかなり多かった。2失点はしたけども、数少ないチャンスをモノにした清水を褒めるべきかもしれない。

 じゃあよかったのか!といわれると微妙なところ。この試合は得点シーン以外の決定機はそんなに多くなかった。特にブロック守備を崩すような局面では。理由を考えるとエリア内に向かうラストパスの精度がとても低いからなのかなと。少ないタッチでのパス交換の頻度は低く、オープンな状態でクロスを上げたり、ドリブルでエリアに侵入できる場面はかなり少ない。ボールタッチが多く、相手の対応が間に合う場面が多い。たまにフリーでクロスを上げる状態になっても、ピンポイントで合わない。

 突き詰めてしまうと、それって単純に技術が高くないのかな?と思ってしまう。チェルシー戦から始まったトメルケールベースの原点回帰計画が技術不足という形で頓挫すると目も当てられないが、2人3人が絡んだパスワークから相手を揺さぶれた回数が得点シーン以外にどれだけあるかと考えると、そういった最悪の想像もしてしまうというものである。

■数多くの「もう少し」

 設計図通りにチャンス構築ができない選手も悪いのかもしれないが、シーズン終盤の時点で特性を見極めた設計図をかけない監督の責任も避けられないだろう。2点とられたのはたまたまかもしれないが、3点目を取れなかったのはたまたまじゃない可能性が高い。この試合は展開だけを見れば、確かに相手を終始押し込んだ試合だが、むしろ決定機に関しては限られたチャンスをFWが決めたことで勝ち点を得た試合に分類できる。

 今季は特に試合終盤の場面での決勝ゴールが今季はまだない。つまり最も得点が必要な時間帯に狙ってゴールを決める力が足りていないということになる。この試合を見て感じたのはレビュー中にも述べた多くのたらればである。「齋藤がケガしなかったら」「登里がいたら」「田中が起用できるならば」とかたくさんの「たられば」本文中で述べたけど、こうすれば少し違ったのかなと思うことはもっとたくさんある。「小林悠をもう少し早く投入していれば勝てたかも」「今のシーンもう少し速いパスが通せれば相手が追いつけなかったかも」「もう少しタッチが少なければ決定機だったかも」。選手の起用もプレーの精度もこれが違えば少しはこうじゃないか?と思ってしまうところがたくさんある。

 今の川崎が3点目を取れる可能性が少ないのはこういった「少しこうだったら」の違和感が集合した結果というのが私の感想である。そうだとするのならば、元の場所に戻るには意外と多くの時間がかかる可能性がある。一つ一つの歯車をかみ合わせて、監督と選手がチームの実態に伴った設計図を共有できなければ、多くの得点を決めるのは難しい。3連覇を諦めたいとは微塵も思わないが、今はまだその話はこのチームには早い気がする。目の前の相手に向き合い、どういう設計図を描けば勝てるのかを考えながら勝利を拾う。見極めるべき自分たちの技量とすりあった設計図が出来上がった時に、もう一度優勝争いの話ができること。それを切に願っている。

試合結果
2019/8/24
J1 第24節
川崎フロンターレ 2-2 清水エスパルス
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎: 14′ レアンドロ・ダミアン, 79′ 小林悠
清水: 30′ ドウグラス, 65′ ヘナト・アウグスト
主審: 荒木友輔

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