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「監督コメントから読み解く神奈川ダービー」~2019.4.19 J1 第8節 川崎フロンターレ×湘南ベルマーレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
レイヤーを飛ばすパス

 レイヤーの話をしたくなる試合だったので再掲。

「5レーン&4レイヤー理論」 – せんだいしろーによるサッカー分析ブログ■はじめに どうも僕です。今回は、サッカーの戦術のお話。というより、理論化の話になります。理論とは、英語でTheoryといsendaisiro.hatenablog.com

 お借りします。今気づいたけどせんだいしろーさん、こんな素敵な記事を大みそかにあげてるんですね。変態ですね。ほめてます。

 川崎のボール保持に対して、湘南はハイプレスで対抗する序盤だった。って書きたくなるほど展開がお馴染みであるこの対戦。この試合でもそうだったといえばそうだったんだけど、思ったよりも限定的だったなというのが感想。シャドー3枚が川崎の最終ラインに襲い掛かってWBとCHからはどんどん援軍が流れ込んできて・・・みたいなことを想像していたんだけど、そういうシーンはプレスをかける価値がある!っていう場面においてのみ発動することが多かった。例えば、片側サイドに押し込んでいるときのようにプレスの成功率が高い時とか、川崎が後方でマイナス方向のパスを出した時のようにプレス成功時の旨みが大きい時とか。

 ハイプレスの頻度でいえば両チーム互角かあるいは川崎の方が多かったような肌感覚。前節から継続起用になった知念と小林の2トップに加えて、阿部が加わった3バックへのプレッシングは積極的だったし、ロスト後の即時プレスに関してはチーム全体でアグレッシブに行われた。

 プレビューでも触れたように湘南といえばハイプレス!というイメージはあるが、プレッシングに関しては目的ではなく手段なはずであり、高い位置からのプレスというのは湘南のやりたいサッカーのための手段。曺監督の試合後コメントから察するに相手陣地で支配的なサッカーをするための手段。

「ボールを相手に渡し、守る時間を長くして、少ないチャンスをモノにするという戦い方だけだと、やはりこのリーグでやれることは限界があります。」

 曺監督の試合後会見はリージョがいなくなってしまった今、J1で一番面白い記者会見の可能性があるので、時間がある人は読んだらいいと思います。

川崎Fvs湘南の試合結果・データ(明治安田生命J1リーグ:2019年4月19日):Jリーグ.jpJリーグの試合日程と結果一覧。試合日には速報もご利用いただけます。www.jleague.jp

 もろもろから導き出した考察としては、サイドに追い込めた時やマイナス方向へのパスが出た時以外に、むやみにプレスをかけても自分たちにボールが来るという可能性が高くないと湘南の選手が判断したのではないかということ。いつも見ているわけではないからわからないんだけど、梅崎はとても後方を気にしながらプレスに行くかを判断していたし、山崎も後方にパスを出されることを警戒しながら相手のプレーを制限することに注力していたように見えた。後ろに見ながらプレスかけるのは、当たり前かもしれないけど。

 湘南のトップの選手が後方を非常に気にしていながらプレーしていた理由はレイヤーを飛ばすことができるパスを湘南が警戒していたからではないかと推察。この試合の川崎の話でいうと、大島と奈良がレイヤーを飛ばすパスができる選手の代表格。特に少ないタッチ数や前を向き切れないようなプレッシャーを受けている体勢から前方にパスを出せる大島の存在は、足元がうまい選手がそろう川崎の中でも異質。第1レイヤーや第2レイヤーで前を向けない状態でも、第3レイヤーや第4レイヤーにパスを出せる大島の存在は、湘南のプレスのベクトルをやや後ろ向きにする一因になったのではないか。

 それに加えてこの日は川崎の前線の裏に抜ける意識が高かった。前節うまくいかなくて、4-2-3-1にシフトするという結末に終わった4-4-2を再び採用するのはおそらく裏取りのため。プレビューでも触れたように、湘南の最終ラインは中盤に連動して陣形を押し上げるのにやや時間を要する。大島にプレッシャーをかけたい湘南の中盤に対して、川崎の前線が裏に抜けることで、湘南の最終ラインに対して迷いを与えること。そして第3レイヤーでのプレーエリアを広げることがおそらくこの川崎の裏取り重視の目的。

 鬼木監督は「前半に狙っていた形で得点が取れた」と述べていたが、おそらく1点目も2点目も狙い通りだったのではないか。1点目は裏を取る動きをしたことで結果的に前残りになった馬渡めがけて、わずかな隙をついた大島からボールが出る。結果的に広がった第3レイヤーを阿部が利用するという形で先制点をゲット。プレーはスーパーだが、狙い通りは狙い通りじゃい!というのが川崎の選手の感覚ではないか。それにしてもすげーなこのゴールは。笑

 曺監督のコメントによると序盤の15分以降は自分たちのボール保持の部分でペースを手放してしまったと考えているようだ。特に以下のコメントは興味深かった。

--立ち上がりの15分は確かに良かったが、時間が経つごとに湘南の意志が弱まっていった。それは川崎Fが3、4人を置き去りにするシーンが何度も起こったから?
すべてのケースを一くくりにするのは難しいですが、僕が選手に求めていることを半分体現できたとしたら、少なくともボールは相手陣内にいくと思います。相手陣内に進入した中でのボールロストなら、ラインを押し上げればそこで奪える可能性が高い。しかし、僕が思うプレーの3割しかできなければ、彼らは130%の力で「ボールをなくさない」という意識を持ちます。彼らに押し返されてしまったのは、僕はわれわれのイージーなプレゼントパスが原因で、彼らに「ラッキー」と思われてゆっくりいなされたと思います。プレゼントパスとパスミスは別物で、今日は特に前半にプレゼントパスが多かったと思います。

 プレゼントパスと聞いてパッと思いつくのは、小林がフリーキックを得た場面のようなやつとか。そうなるとプレスでも当然リズムが出てこない。そうなると先ほど挙げた川崎のレイヤーを飛ばすパスの使い手である奈良が輝いてくる。第3レイヤーを広げられれば素晴らしいけど、第4レイヤーを直接攻略できるならなおよし。というわけでダイレクトパスを知念に通して追加点。ボールをコントロールするのをぎりぎりまで待った知念は、連戦のゴールで相手を見る余裕が出てきているなという感じ。よきですね。

 そこから先はボール保持でも非保持でも川崎がうまく時計を進めた前半だった。2-0と2点のリードを得て前半を折り返した川崎。今季初の本拠地複数得点である。

【後半】
湘南の選手交代の狙い

 後半開始から湘南は2枚目の交代カードを投入。アンカーに秋野を投入し、4-1-4-1(4-3-3?)にシフト。中盤で川崎に枚数を合わせて捕まえやすく!とか、ボールを動かせる秋野をアンカーに据えることで、ボール保持における局面を改善しよう!ということだろう。

 デメリットとしては、川崎の2トップに対して1対1での対応を強いられるところと、中盤をかみ合わせることを優先なので後方にはプレッシャーがかかりにくいところ。大島は高い位置ではプレッシャーにさらされるけど、引いてしまえばボールはもてる。そして点差的にも川崎は高い位置に出る必要はない。高い位置では1対1になっている知念を中心に楔による陣地回復は容易になった。プレビューで触れたボール保持における湘南の弱点は、人数をかけないと相手陣を攻略できないところ。そして前方やサイドでは川崎は起点を作って押し返せる。ということでなんとかボールを動かしたい湘南だけど、そこに至る前になかなか有利な状況に持ち込むことが難しかった。

 川崎は後方でのパス回しでの優位性が復活してきたなというのがこの試合の印象。大島の復帰はもちろんなのだが、ここ2試合先発の舞行龍のプレーのリズムが新しい風を吹かせている感じ。1か月くらい前に会社でお昼ご飯を食べながら「川崎には前に運べるCBがいない」って嘆いていたら、同期の新潟サポに「お前らは舞行龍を俺たちから奪っておいて、そんな贅沢を言うようになったのか。J1上がったときは同期だったのに、すっかり変わってしまったな。」と怒られたことを今反省しております。だってなかなか実戦で使ってくれないんだもん。。わからないよ。。

 湘南が3枚目の交代カードを使ったのは60分過ぎのこと。2枚目をハーフタイムに使った監督の心境を考えると、できれば1点差に縮めつつ2枚目の交代の効果を引っ張っていきたいと考えるはず。60分に最後の交代カードを使ったということは、思ったほどは流れを引き寄せられなかったということだろうか。湘南は4-4-2(4-4-1-1)気味にシフトして。中でも外でも人数をかけた攻撃をしやすいシステムにした。

 川崎の交代カードはほとんど軽い負傷によるもの。そのため、長谷川と鈴木の投入に意味を見出すことは難しかった。ラルフさん、65分のドリブルロスト。絶対ダメですからね。なくしてくださいね。
そんなわけで戦術的な意図を持つ交代は3枚目だけ。川崎の最後の交代カードが脇坂というのは面白かった。ゲームクローズに向かう交代だけど、前節はここは山村が担当したところ。高さやポリバレント性に長けた山村ではなく、よりボール保持に特化した脇坂をチョイスしたのは、いろんなクローズの仕方を模索中なのかなと感じた。単に2点リードでプレーさせてあげたかっただけかもしれないけど。
終盤はなんとか点とってキャプテン!モードにシフトした川崎。登里の独走からラストパスを受けられなくて崩れ落ちたシーン、なんかおもしろくて笑っちゃった。ごめんなさい。

 試合はそのまま2-0で終了。川崎フロンターレが本拠地で今季初勝利を飾った。

まとめ

 「川崎の勝ちと引き分けが交互に続いており、今度は川崎が勝つ番」とプレビューで紹介した通り、川崎に勝利を許してしまった湘南。大島へのケアは比較的念入りにしていたのだが、それでもそこを使われてしまって失点をしてしまったのは切ない。ボール保持においては短期的な話をすれば、やはりよりダイレクトにゴールを陥れるような選択肢は欲しいと感じた。しかし、曺監督は長い目で見れば相手陣に押し込みつつ、より支配的なサッカーをしたいと考えているはず。秋野の投入でボール保持における形は良くなったものの、この試合の回顧で「このパスを通せばゴールまで行けるというパスを通せなかった。」と述べているのはそのためだろう。昨季タイトルを取ったことで、今までのことをベースに新しい段階に踏み込もうとしている感じを受けた。後半にはやや盛り返したものの、現状では本人も認めるように質が足りない部分があるので、後半戦に向けてこういった部分の質を上げていきながらより完成度の高いサッカーを見せていきたいところ。
別件だけど、齋藤と杉岡を記者会見で名指しして𠮟咤激励することができるのは曺監督ならではだなと。なかなかこれができる監督は少ないと思う。彼が湘南にコミットしている証左。結果だけではなく、過程にもコミット!選手も若いし、なにより彼が指揮官ということで今年後半にかけて楽しみなチームだなと感じた。そんな試合だった。繰り返しになるけど試合後コメント、J1では1番面白いと思う。いらんおせっかいかもしれないが、湘南サポの方は毎試合彼のコメントを読むと、よりサッカーを見るのが楽しくなると思う。

 今季初の2連勝と2試合連続クリーンシート。結果としては100点だし、内容としてもとてもよかった川崎。今季なかなか活路を見いだせないサイド攻略にこだわることなく、縦に向かう新しい選択肢をここ数試合で提示できているのはとても良い。出し手としての大島や奈良や、受け手としての小林や知念の貢献はとても大きい。縦方向への揺さぶりと低い位置からの楔はおそらく次節の神戸にも効きそうと個人的には踏んでいる。FWが相手のCBをピン止めできれば、サイドへのサポートへも行きにくくなる。楔を通したくない相手のCHも同じだろう。そうなれば、今季の課題になっているサイドの攻略もより容易になる。そうなればどこからでも崩せる強いフロンターレが中盤戦以降で見られるかもしれない。徐々に内容的にも明るい兆しが見えるようになった。そんな連勝だった。

試合結果
2019/4/19
J1 第8節
川崎フロンターレ 2-0 湘南ベルマーレ
【得点者】
川崎: 21′ 阿部, 37’ 知念
等々力陸上競技場
主審:家本政明

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