MENU
カテゴリー

「なす術なし」~2019.4.28 プレミアリーグ 第36節 レスター×アーセナル レビュー

前節のレビューはこちら。

レスターとの前回対戦のレビューはこちら。

スタメンはこちら。

目次

【前半】
レスターのボール保持の考察

 試合が始まってから悪い予感がするまでにそう時間はかからなかった。2分のフリーキックのシーンを見て、前節までの最大の課題であるセットプレーに関してほとんど改善が見られないことは想像ができた(中3日だから当然かもしれないが)し、そもそもこのFKを引き起こしたムスタフィのファウルを見て、このレスターをファウル以外で止める力があるのか、疑問に思ったアーセナルファンもいるかもしれない。

 アーセナルとレスターの対戦である。ボールを持つのは当然アーセナル。ではない。中継で17分に表示されたスタッツによるとレスターのボール保持率は81%。アーセナルのパス総数は29本でレスターの4分の1にも満たないという内容だった。つまりこの試合のボールを握っていたのはアーセナルではなく、レスターだ。ブレンダン・ロジャーズが率いるレスターはボール保持の術においても、この日のアーセナルよりはるかに長けていたといっていいだろう。

 レスターのビルドアップは2CB+1人。この+1人はンディディ、リカルド・ペレイラ、チョーダリー(アフロ)が入ることが多かった。チルウェルも関わらないことはないけど、彼はなるべく前に出てスピードを生かしてやりたいぜ!って感じだった。特に面白かったのはチョーダリー(アフロ)が最終ラインに入る時の動き。

【レスターのビルドアップ~アフロが落ちる場合~】
・左に落ちるアフロとマディソンでレーンを住み分け
・ンディディが中盤中央に位置する
・ンディディが居たところはリカルド・ペレイラかティーレマンスが使う
・オルブライトンとチルウェルは幅取り担当

 チョーダリー(アフロ)は左に落ちる。マディソンは彼の位置を見ながら立ち位置を決めている感じ。彼が内なら外、外なら内。というわけで最終ラインから持ち上がるチョーダリー(アフロ)のケアを誰がするか問題がアーセナルに発生する。アーセナルの2トップは中盤中央に移動してきているンディディの立ち位置のせいでワイドに広がりにくい。そうなるとムヒタリアンとトレイラの2択になるんだけど、受け渡しを失敗すればスピードのあるチルウェルか、最重要人物であるマディソンがフリーになることになる。ムヒタリアンはチルウェルに引っ張られながらも、かなりマディソンを気にしていて、悩ましい感じが序盤からビンビン伝わってきた。
 チョーダリー(アフロ)は持ち上がって空いた方に出せばいいし、ンディディが空けたスペースに入り込むリカルド・ペレイラかティーレマンスを使っても良い。ポイントはオルブライトンとチルウェルはあまり中に入ってこないこと。彼らが幅を取ることでアーセナルは横方向に陣形を圧縮しにくく、4-4-2の泣き所である斜め方向のパスの受け手へのアプローチが遅れることとなっていた。もちろんその分被カウンター時のリスクはあるけれど。34分のイウォビのシュートで終わったシーンとか。

 というわけで判断の連続を強いられるアーセナル。当然ガッツリレスターに前に進まれることになる。特にマディソンやティーレマンスに入ったときの攻撃のスピードアップは顕著。決してポストプレーに長けているわけではないヴァーディがポゼッションチームのFWとして邪魔にならなかったのは、レスターの中盤にボール保持からスピードアップをして攻撃を完結させる意識が高かったからだ。

 なぜこんなに長々とレスターのボール保持について話すかといえば、アーセナルのボール保持について話すことが特段ないからである。彼らの前進の手段は驚くことにロングボールがメイン。そもそもセットして攻撃する機会はほとんどなく、たまにあるリスタートの機会もロングキックで終わらせていた。別にロングキックをやることに抵抗はないのだけど、マグワイアとエバンスのCB相手にラカゼットやオーバメヤンの競り合いが優位だとは思わないし、セカンドボールの取り合いになってもチョーダリーとンディディを相手に回さなくてはいけないアーセナルの中盤も厳しいのは明白である。低ポゼッションを志向するにしても、あまり論理的には思えなかった。

 カウンターから作り出す好機もレスターの方が上手で、この分野のマエストロであるヴァーディの本領発揮である。セットプレーでもオープンプレーでも、アーセナルの最終ラインのコントロールはこの日もガタガタで、むしろ39分のシーンでオフサイドを取れたことが不思議なくらい。
 というわけでアーセナルの攻撃のメインだったカウンターにおいても、レスターの方が印象的な攻撃を見せていた。これまで何度もそうしてきたように、22分のような数少ないチャンスをラカゼットがゴールに変えていれば、展開は変わったのだろうか。

 アーセナルファンがこの試合の前半で他にたらればの話をする部分があるとすれば、ナイルズの退場のシーンだろう。ひとまずオーバメヤンをSH、ムヒタリアンをSBにして対応するアーセナル。もちろん、この退場でレスターにさらなる優位をもたらすことになったのは間違いないだろうが、それがなくても同じ結末を迎えていないとは断言できないという一抹の不安を感じる。そう思わせるような前半のアーセナルだった。

【後半】
捨てたサイドを見逃さなかった最重要人物

 後半は両チームとも選手を交代。数的不利のアーセナルはイウォビ→コシエルニーの交代で最終ラインを手当て。ひとまず4バックを整えつつ、退場後はSHを務めていたオーバメヤンをFWに戻して4-3-2に。手当てをしつつ、ゴールもあきらめないという姿勢が見える交代だった。中盤の3枚はやや非対称で前半やられていた自陣右サイド側に最も守備に自信があるトレイラを置く形。位置関係もやや右側にスライドして、左側はやや捨てた格好だ。

 対するレスターはンディディ→バーンズの交代で4-1-4-1にシフト。アンカーを1枚にするリスクをとっても2列目を増やして、相手ゴールをこじ開ける算段だ。

 後半もレスターが攻める展開が続く。サイドを起点にアーセナルを押し込むレスター。数的優位で仕組みを工夫しなくても前進には困らなくなったし、右サイドは相手が捨てているので、ポゼッションの落ち着かせどころとして機能。左サイドはバーンズとムスタフィがタイマンを繰り返す。というわけで両サイドにボールの進めどころがあるレスター。マディソンが中央に入った分、2列目中央の人口密度は高くなっている。サイドから押し込まれるアーセナルは2トップにボールが入る機会もほとんどなく、ほとんど自陣に釘付けだ。チームで一番ボールを運べるイウォビもハーフタイムに退いてしまった。

 そんな中でアーセナルが比較的手薄なサイドに抜け目なく顔を出したのが最重要人物、マディソン。レスターの右サイドに流れたマディソンがフリーながらもピンポイントで合わせたクロスをティーレマンスが決めて先制する。

 正直もうこの試合であんまり戦術的に話すことはない。ゲンドゥージが入ったときに若干中盤からボールを引き出す動きは増えたけど、試合展開としてはこのまま同じ。アーセナルはやや前がかりにはなったけど。68分のCKの後でラカゼットの方がソクラティスより戻るの早いのは笑ったぜ。なんでだよ。この試合のラカゼットは下を向くことが本当に多かった。ボールはほとんど回ってこない上に、守備に忙殺されているのだから仕方ないのかもしれぬ。ラカゼットを下げた79分の交代で、同点に追いつく可能性はかなり少なくなったといっていいと思う。

 とはいえ、ゴールキックからのリスタートで一発で裏を取られる2失点目が許容できるわけではない。それを許したコシエルニーとソクラティスのコンビが、アーセナルでもっとも強固なCBユニットというのも本当に頭が痛い。いくら「トップ6キラー」のヴァーディが相手でも、仕方ないで済まされる話ではない。チャレンジ&カバーは基本だろうに。試合は最後にそのヴァーディがもう1点を追加して終わり。1967年ぶりの3試合連続3失点でアーセナルは3連敗。CL出場権が大幅に遠ざかる敗戦となった。

まとめ

 ボールを保持してもいい感じになりたい!という感じがひしひししていたレスターだが、ブレンダン・ロジャーズの就任によってそのチーム作りは前に進んでいるように感じる。ビルドアップの配置も工夫されているし、各選手の特性に合わせた形も取られていて、見ていて楽しいチームになった。数的優位を得た後半においても、サイドを丁寧に崩していたのも素晴らしい。なにより、ボール保持型のチームにおいてはやもすればブレーキになりかねないヴァーディをうまく組み込んだのが印象的。この試合で支配率68%を記録した新生ボール保持型レスターでも、チームの象徴であるヴァーディはエースの座を張り続けることになりそうだ。最終ラインにスピードがあるとはいえ、全体がやや広がったビルドアップを行うから、被カウンター時の強度だけはやや心配。
 残るシーズンの対戦相手はシティとチェルシー。降格の心配がない中で、「ロジャーズ・モデル」のレスターが何を引き起こすのかをビック6のサポーターは固唾をのんで見守ることになるだろう。

 10人だろうと11人だろうとこの試合では勝ちようがなかったと思うアーセナル。ボール保持、球際、カウンター、セットプレー、個のタレントのスキルのどの部分でも、この試合のレスターを上回る部分は何一つ自分には見つけることができなかった。エバートン戦以降の5試合で4敗。勝ったのは80分以上10人だったワトフォード相手だけ。
 前節のウルブス戦のレビュータイトルに「ウルブスとエンケティアの引き立たせ役」という表現を使った。このレスター戦で最も奮闘していたのは間違いなくレノだが、52年ぶりの3試合連続3失点という記録を前にGKである彼が引き立つわけもないだろう。

 ビック6相手に一泡吹かせた中盤戦の姿は見る影もなく、チーム作りは後退している。常々「よくやっている」と述べているエメリに関してもここ数試合のリーグ戦は大失態。メンタル面でもフィジカル面でもチームはどん底で、終盤のチームマネジメントは大失敗というほかない。彼の責任は非常に大きく、ELという命綱がなければ、進退を問われていてもおかしくはない内容だ。
 もう今季の試合は多くても5試合。ここから大きな改善がみられるとは思わない。来季を前向きに迎えられる試合内容なんて期待しない。外から見ただけでは、低迷の原因がわからないのは非常にもどかしい。何とか今手が届くものを1つでも手にしてシーズンを終わりたい。そんな気持ちである。

試合結果
2019/4/28
プレミアリーグ 第36節
レスター 3-0 アーセナル
キング・パワー・スタジアム
【得点者】 
LEI: 59′ ティーレマンス, 86′ 90+5′ ヴァーディ
主審:マイケル・オリバー

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次