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レビュー
保持側に生まれたミスを見逃さない両軍
夜になっても気温が高いサウジアラビアでの準々決勝。開催国のチームで埋め尽くされたベスト4の最後の椅子を争うのはカタールのアル・サッドと川崎。非サウジ勢唯一の準決勝への切符を掴むための一戦だ。
高い位置から捕まえにいくトライを見せた序盤の川崎。まずはアル・サッドは左右にボールを動かしながら、川崎のプレスの様子を見る立ち上がりとなった。2:30のシーンのようにカマラをフリーにするようなボールの動かし方はできそうな風情だった。
2列目の降りるアクションも織り交ぜるアル・サッド。左サイドは列落ちからの揺さぶりも仕掛けていく。クラウジーニョ、アフィーフの2人が低い位置に立つことでフリーになり、ひとまずボールを引き取ってから前進のルートを模索するというアル・サッドのいつもの光景である。
アル・サッドにとっていつもと勝手が違ったのは方向性というよりはクオリティ。3:30のシーンはアフィーフのクオリティを考えれば、何の問題もなく逆サイドのアタルまで横断することができた場面。脇坂のプレスバックに引っ掛けてしまったのは明確なアフィーフのミスである。
このミスから発生したトランジッションから川崎は先制。2回目のボール奪取を制した山本から開いた家長にボールが渡ると、その家長のクロスを2人のDFに挟まれたエリソンが逆足でフィニッシュ。わずか4分でゴールを決める。とりあえず縦につける意識は立ち上がりの攻撃から見られていたし、ポジトラは攻撃における大きな狙い目!とプレビューでは述べていたからある程度想定していた形だとは思うのだけども、一発目で当たりを引けたのは非常に大きかった。
先制したことでライン間をクローズし、縦方向にコンパクトな守備ブロックを敷く川崎。この日のアル・サッドはライン間に一撃でボールをつけたがるパスを多用していたため、コンパクトに迎え撃つ川崎の守備は非常に刺さっていた。
それだけに失点シーンは非常にもったいなかった。山口本人が反省の弁を述べていたニアのシュートを防ぎきれなかったシーンもそうだけども、それ以上に今後のことを考えると気がかりなのはかねてから問題になっていたGKからのリスタート。低い位置で繋ぐ素振りを見せるCBをスルーし、前線に長いボールを預けるこの形である。

何度もレビューを読んでいる人ならわかるけども、この形での組み立ては「前線が必ず引き分け以上にボールを収める」必要があると主張してきた。逆に言えば「相手がボールを奪って、その直後に前向きにパスを入れられる状態」は絶対に避けなければいけない。
しかも、山口のこのフィードはライナー性。滞空時間が短く、ラインを上げて陣形を整える時間はほぼない。蹴るならば100%カットされてはいけないパスである。
個人的にはこのプレーにこだわる理由はちょっと不思議。ここまでを見る限り、山口は別にこういうパスが得意ではないし、CFがロングボールを収めることに特化しているわけでもない。シュート自体はスーパーだが、そこに至る過程は川崎側のエラーだ。
10分までにそれぞれのチームに入った得点はいずれも保持側のミスとなったプレーを非保持側が咎めた格好。互いにミスを逃さない強かな序盤戦となった。
狙い所の解像度についた差
ここからは互いのハイプレスが落ち着き、保持側がどのようにブロックを攻略していくか?を探っていく展開に。川崎は失点したことで特にプランは変えることはなく、コンパクトな守備ブロックを構築していた。
敵陣に進むところで優位を取れそうだったのはアル・サッドの方だろう。フリーマンのアフィーフは低い位置からでも一撃でブロックの背後にボールを解けることができるのはさすが。一発狙いのアル・サッドにとってはこのスキルは重要なものだろう。
ただ、アタッキングサードの攻略がうまく行っていたかは別の話。特にホルダーを追い越す味方を活用できず、攻撃に奥行きをもたらすことができなかったのは確か。30分にはアフィーフを追い越すアタルを三浦が先読みして潰すなど、アル・サッドのやり方をきっちりインプットしていることを窺わせた。
一方でアル・サッド側が川崎のことをどこまで落とし込めていたかは気になるところ。31分にはアル・サッドはGKまでプレスに来たマルシーニョの背中をとることに成功する。川崎のことをよく知っている相手ならば、WGのプレスが乱れた場面は間違いなく前進の大きなチャンス。ボールを持ったアタルは推進力がある選手なので、資質的にもドリブルで前に進むことは難しくはない。だが、実際はスローダウンしてしまい、前進のきっかけをフイにしてしまう。
それでも、15分付近においては一方的に押し込み、川崎に陣地回復のきっかけを与えなかった。クロスの対応を1つ間違えれば、得点を取れるところまでは辿り着いたと言っていい。左サイドのクラウジーニョ起点の旋回も敵陣でオープンにミドルシュートを打つ手段としては機能していた。
ボールを持つ頻度は下回っていたが、同サイドを縦に貫くイメージの川崎の方が狙い目をシュートまで繋ぐことができていた。川崎の狙い目は左のハーフスペースの奥、よく具体的には3バックの右のミゲルの背後。このスペースにマルシーニョやエリソンを走らせる格好だ。
単純にスピード面で優位を取れるマルシーニョを使いやすいというのもあるが、この時間帯は右サイドに流れる機会が多かったアフィーフがあまり守備をしないことも大きな要素。アフィーフの周辺に供給役を設定することで安定して前線に裏抜けのボールを入れることができていた。

この形から川崎は勝ち越し。手前を使うことでミゲルを揺さぶったマルシーニョは裏抜けからの技ありシュートで全てを置き去りに。DFと出ていく先が被ってしまったGKは飛び出す必要がなかった場面だった。
この得点は特に試合の流れに大きな影響を与えず。これ以降も保持の機会はアル・サッドが優勢。川崎は左のハーフスペースを主体に反撃を狙う形でそれぞれがゴールを狙う展開となった。
陣地回復に残された唯一の手段
迎えた後半。アル・サッドはハイプレスからスタート。エリソンのポストから川崎はこのプレスを落ち着いて回避するところから始まる。
アル・サッドの保持はなかなか活路が見出せない展開。川崎の守備は出ていくところと出ていかないところのメリハリが前半以上に整理されていた。交代直前に動きがピタッと止まってしまったエリソンから山田にスイッチしてもプレスの機能性が極端に落ちるということはなかった。
少し気になったのは深い位置に運ばれた時の川崎のパスワークがまごついたこと。52分の三浦のように自陣で奪った後のパスの選択からピンチを招いてしまうシーンは気になった。ちなみに同じようなまごつき方は前半のアル・サッドにも見られたところだったりする。
アル・サッドは60分の交代で4-4-2にシフト。サイドではSH-SBの関係性から川崎に勝負を仕掛けていく。この勝負が刺さっていたのは右サイド。交代で入った伊藤はやや背後を使われる機会が多い上に二度追いに移行しにくい立ち位置をとっていたので、このサイドの守備は後手を踏んでいた。
加えて、右のSHに移動したジオバニの推進力も脅威。川崎はエリソン、マルシーニョと前進のキーマンが次々とピッチを退いたこともあり、反撃のきっかけをつかめずにいた。
すると、後半頭の懸念が顔を覗かせてしまう。ボール奪取直後の三浦と伊藤のパスワークのミスからボールを奪い返したアル・サッドはそのまま右サイドの奥を取ると、最後はファーで余っていたクラウジーニョのミドルからゴール。試合を振り出しに戻す。
サイドからひたすらに押し下げられてしまう上に、前線のメンバーはなかなかボールが収まらずに苦戦。陣地回復もままならない状況に陥っている川崎。加えて同点弾が決まったとなれば、陣地回復の手段の確保を優先するのは当然だろう。橘田と瀬川でプレスのラインをあげよう!という発想はエリソンとマルシーニョがいなくなった後の川崎ができることとしては最善策のように思える。
左サイドの伊藤の切れ味も保持に回れば悪くなかったが、これもゴールには届かず。一方のアル・サッドも後半終了間際には山田が収め損ねたところから一気に縦への進撃を見せたが、試合を決める劇的なゴールには繋がらなかった。
延長戦はカマラ、瀬川のそれぞれのプレスが空転するところからスタート。1人だけが速く追いかけても何もならない!というプレスの一般的な原則を思い起こさせるような立ち上がりだった。瀬川の気合はわかるが、無闇に全速力で追いかければ簡単に逆を取られる。そういう意味で徐々に山田のチェイスとプレスがつながり始めたのは好転の兆しと言えるだろう。
試合を分ける決め手になったのはこの瀬川周辺のプレーからだった。ギレルメのパスをカットした瀬川から山田→脇坂と繋いだ川崎は3点目をゲット。瀬川のハイプレスが効いた!と言いたい場面だが、実際のところはパスミスをしたギレルメには縦のオタヴィオという安全に繋げるコースがあったため、安全なルートにパスをきっちり繋げなかったギレルメのミスの色が明らかに濃い。だけども、そこにいなければプレスのミスを拾えなかったのも確かである。
失点に伴い、カマラを交代し前線のメンバーを増やしたアル・サッド。最後はCBのスハイルを前においてパワープレーに転じる。
だが、交代枠を使った中でアフィーフの足が動かなくなった上、舵取り役のカマラがいないとなれば前進がガタガタになるのも当然。パワープレーにしても、そもそもこのチームはロングボールすら多用しないチームなので、前に蹴った後にどうするか?という部分を全く整理できていなかった。
川崎は最後までラインを上げるプレスからチャンスを生み出し、ゴールを奪いにいくシーンを見せるなど延長戦では総じて優勢。最後まで優位を手放さず、120分の激闘を制してベスト4にコマを進めた。
あとがき
エリソン、マルシーニョを絡めた速攻を見せた川崎とアフィーフを軸に左右の揺さぶりを聞かせるアル・サッド。保持における主な武器を失った延長戦では何が見えるかの戦いとなり、最後にはミドルプレスという縋るものがあった川崎が勝利したというのがざっくりとした流れだったように思う。
このプレスの意識は紛れもなく長谷部監督が整備した部分だろう。前に出ていく意識だけでなく、プレスがバラバラにならないように連動させることで、切れ目の少ない圧の掛け方を実現。最後に縋った武器は新監督が植え付けたプレス意識。前半の苦しい時間のゾーン主体のローブロックの精度も含めて、長谷部監督の植えつけた部分がクラブの歴史を変えるベスト4進出に一役買ったのは間違い無いだろう。
試合結果
2025.4.27
AFC Champions League Elite
Quarter-final
川崎フロンターレ 3-2 アル・サッド
プリンス・アブドゥッラー・アル・ファイサル・スタジアム
【得点者】
川崎:4′ エリソン, 21′ マルシーニョ, 98′ 脇坂泰斗
アル・サッド:9′ オタヴィオ, 71′ クラウジーニョ
主審:マー・ニン