第1節 スペイン戦

歴史に名を刻むカーボベルデ
EURO王者のスペインの初陣は初のW杯出場となるカーボベルデ。人口50万人の島国にとっては初戦から大きなチャレンジを強いられることとなる。
4-5-1で構えるカーボベルデだが、ラインを下げること一辺倒ではない様子。高い位置にもプレスに出ていく色気をトップのリヴラメントからは感じたし、後方の選手たちもそれに合わせたスライドができる心意気を感じる振る舞いだった。
とはいえ、基本は撤退。スペインのSBに合わせて、SHが自陣に下がるなど6バックになるような場面もある。スペインの保持は基本的にはCBとCHでビルドアップ。CHのうち、ペドリは高い位置に入り、ロドリとファビアンの方が組み立てのタスクは重め。ロドリはアンカーにどっしりという感じではなく、細かく左右を変えながらフリーでボールを左右に散らす役割を担う。
大外のSBとSHの組み合わせから二人称での打開を狙っていくスペイン。カーボベルデは同じくSHとSBでこの動きに対応。ハーフスペースへの飛び出しに遅れることはないし、CBは持ち場を離れない状態でボックス内の対応ができるので、抜ききらないクロスにも安定した跳ね返しが期待できる。
スペインはペドリを右に出張させて二人称の組み合わせを変えたりしてはいたが、裏抜けをエサに手前を使うというよりは三人称での崩しが少なかったのが気がかり。これだと、ホルダーが浮かない分、ボックス内でのカーボベルデの安定感を揺さぶることができない。
さらにスペインにとって想定外だったのはカーボベルデからボールを奪うことにやたらと苦労したことだろう。幅を使って対角のパスを飛ばすことでカーボベルデは幅を使った攻撃を披露する。決定的なカウンターと呼べるものは少なかったが、いちいちスペインに自陣に下がることを強いるような攻撃ができていた。
左サイドの2人のカブラルはどちらもファウルを奪うことでボールを落ち着かせるケースも。ハイドレーションブレイクも含めて、スペインが攻め続けるような圧力を寸断するものが個人的には多かった印象だ。
前半のハイドレーションブレイク明けからは左の大外のククレジャを使うことでスペインは少しずつ手応えが出てくる。大外からワンタッチで内側に折り返すことでカーボベルデの守備の伸縮を強制するようなプレーからチャンスを作っていく。
前半の最も大きなチャンスはロドリの対角パスとククレジャのオフザボールを組み合わせた形から。フェラン・トーレスには決定的なチャンスがあったが、これをモノにできず。それ以外のチャンスに関してもGKのボジーニャによってセーブ。スペインはネットを揺らすことができないままハーフタイムを迎える。
後半も引き続きポゼッションを敢行するスペイン。大外でのドリブルやガビとの中央でのワンツーなどペドリが前半よりも幅広い働きを見せていたのが印象的だった。
自分たちの時間がなくなってきた分、苦しさが出てきた後半のカーボベルデ。スペインの守備がクリーンさを増して連続攻撃の圧力が牙を剥いてきた感がある。それでも選手交代からもう一度エンジンをかけ直して持ち直していくのはさすがであった。
ハイドレーションブレイク直前に姿を見せたヤマルに対して、カーボベルデはすぐに対応。警告を受けているロペス・カブラルではなく、ダ・コスタをマンツーに行かせる守備基準でスペインを迎え撃つ。直後にはロペス・カブラルを下げるなど、最大限の警戒をヤマルに払う様子を見せる。
そのヤマルは3人を惹きつけつつスポットでチャンスを作るなど、確かな効果を見せる。だが、ボックス内の精度が冴えないのがこの日のスペイン。ボジーニャやピコの壁を超えることができないまま時計の針だけが進んでいく。
結局試合はタイムアップ。間違いなくW杯の歴史に1ページを刻んだカーボベルデが国民丸ごと笑顔にするような勝ち点1を手にした。
ひとこと
ダ・コスタをマンツーに行かせる守備基準がハイドレーションブレイクで整理されたのであれば、ヤマルの投入はもう少し後でもよかったかもしれない。それにしても、初期プラン設定、戦術の耐久度、保持での圧力の逃し方などカーボベルデのプランの精度と強度は見事だった。
試合結果
2026.6.15
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループH 第1節
スペイン 0-0 カーボベルデ
アトランタ・スタジアム
主審:アドハム・マハドメ
第2節 ウルグアイ戦

スリリングなドローで最終節に望みを繋いだカーボベルデ
第1節は互いに異なる意味で”まさかのドロー”を演じてしまった両チーム。勝たなければ最終節にスペイン戦を残しているウルグアイは厳しくなるし、勝ち点を取れればサウジアラビア戦を残すカーボベルデは勝ち抜けに大いに可能性を残すことになる。この辺りにも非対称性を感じる状況だ。
序盤はカーボベルデが思ったよりも組み合う形でスタート。噛み合わせがいいフォーメーションを利用し、ウルグアイを高い位置で咎めていく。スペイン戦では早々に押し込む形に展開されてしまったが、ウルグアイ相手であればそれなりに長持ちしたなという感じ。
それでも少しずつプレスを蹂躙していくウルグアイ。GKまで戻すことでマンツーベースの守り方を間延びさせたり、対角パスを使ったりなど縦と横に幅を使いながら、カーボベルデのプレスを空転させていく。
カーボベルデは保持においても手数をかけて前進していきたいところ。ウルグアイはマンツーでプレスをかけていくが、一手遅れる間合いのことが序盤は多く、間延びしたインサイドに縦パスを差し込むことができていた。
徐々にプレスの距離感を掴んできたウルグアイは段々とカーボベルデの前進を阻害することに成功。なかなか前に進めなくなってくる。それでもプレスを掻い潜り、前に進むことができたカーボベルデはFKから先制。あまりにも杜撰だったウルグアイの壁であれば、もはやただのミドルシュートを打っただけという感じだろう。とはいえ、紛れもなくこれは歴史の1ページ。ビナのゴールでカーボベルデはW杯初得点を仕留める。
ハイドレーションブレイク明けはウルグアイの保持から。インサイドにポイントを作りたいが外循環で勝負をさせられている様子。大外に決め手があるわけでもなければ、各駅停車のパスワークを回避できるわけでもなく、ウルグアイは苦しい展開に。
そんな流れを変えたのは前節も得点を決めたアラウホ。クロスの落としに合わせるように抜け出すアクションで同点ゴールを奪うと、直後にはクロスのターゲットとしてカノッピオのゴールをお膳立て。前半のうちに逆転に成功する。1点目のゴールの後にオフザボールが活性化した感もあり、その点でもアラウホのゴールの意味は大きかった。
後半、リードを得たウルグアイのポゼッションは引き続き。ただし、各駅停車気味のパスワークだろうとリードをしているのだから問題はない。景色は同じだが、状況は違う局面が広がっていた。
カーボベルデはなんとかしてボールを奪い取りにいかなければいけない展開。なかなか手応えのあるプレスをかけられていない状況ではあったが、諦めなかったチェイスは61分にウルグアイの特大のミスからのゴールという形で跳ね返ってくることに。
こうなると同じ景色でも今度はウルグアイが焦る番に。スペイン戦を残しているというプレッシャーのかかる中でゴールに向かうが、成功体験のあるカーボベルデの落ち着いた守備を前になかなかこじ開けるきっかけをつかめず。
最後は専守防衛というよりもスリリングな撃ち合いとなったこの試合。スタンドで見守るルイス・スアレスの表情を引き攣らせる程度にはカーボベルデにも3ポイント確保のチャンスはあった。
死力を尽くして勝ち点を守り切ったカーボベルデ。スペインに続いて強豪から連続での勝ち点の奪取に成功した。
ひとこと
最終盤のカーボベルデ、この期に及んで前に出てくる力があるというのが驚きだった。
試合結果
2026.6.21
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループH 第2節
ウルグアイ 2-2 カーボベルデ
マイアミ・スタジアム
【得点者】
URU:44′ アラウホ, 45+6′ カノッピオ
CPV:21′ ビナ, 61′ ヴァレラ
主審:エスペン・エスコース
第3節 サウジアラビア戦

3つ負けなしを並べてノックアウトラウンドへ
勝ち点を取ればまだまだ突破の可能性は残している両チーム。逆会場のウルグアイの動向も気になるところではあるが、まずは目の前の相手から勝ち点を奪えないと話が始まらないという状態だ。
4-4-2というフォーメーションから組み合っていく両チーム。特にサウジアラビアはジリっと前から圧力をかけていく意識が高かった。保持においても相手を外すような仕組みづくりをしていたのはサウジアラビア。SBをインサイドに入れるなどポイントを作りながら優位を取りにいく。
序盤は押し込むサウジアラビアの方が手応えがありそうな展開ではあったが、時間経過と共に流れはカーボベルデに動いていった印象。特にサイドの上下動など強度的な部分でカーボベルデにアドバンテージがあった。
左サイドのセメドやフェルナンデスの上下動はサウジアラビアを出し抜くケースが多く、構造が云々というよりはシンプルに相手を強度で上回っているという感じ。左サイドからアドバンテージを取ることで押し下げることができるシチュエーションが出てくる。
逆にサウジアラビアは陣地回復のフェーズにおいて、ミスが出てきてしまうというところが悩ましい。カーボベルデから反転して攻撃に移行すべき場面を逃してしまい、なかなかリズムを取り戻すことが出来ない。
カンノのフリーランなど工夫が見えないこともなかったが、リズムを引き戻すところまでは至らず。試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
後半は互いにブロックをきっちりと組む相手をどう崩していくかの展開が続く。絶対にゴールが必要なサウジアラビアは右の大外からチャンスを探っていくが、カーボベルデの人数を揃える守備に苦戦する。
一方のカーボベルデもサイドの二人称攻撃からゴールに向かうがなかなか手応えを得ることが出来ないまま停滞。試合は徐々に膠着していく。
不思議だったのはこのままでは良くないはずのサウジアラビアに動きたい意志がまるで見えなかったこと。ボールを奪いにいくアクションに行くにも腰が重たく、たまに前にプレスにいく意識を見せたら、1人の動きに連動ができずに逆にカーボベルデがカウンターに出ていくような動きでゴールに迎えるように。
中途半端で煮え切らない状態のサウジアラビア。早めに入れた交代選手もエネルギーにはならず。試合はむしろ、カーボベルデにノックアウトラウンドを決定的にする一撃が決められるかに焦点が移った感があった。
最後まで粘りを見せるアルオワイスが最後の砦として踏ん張ったサウジアラビア。だが、攻撃に打って出るエネルギーはなし。最後のアルハムダンの突撃まではほぼ湧く瞬間すら作れないままタイムアップ。逆に3試合負けなしで逃げ切ったカーボベルデが歴史に名を刻むノックアウト進出を決めた。
ひとこと
DAZN!それはうつしてよ!大賞だった。
試合結果
2026.6.26
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループH 第3節
カーボベルデ 0-0 サウジアラビア
ヒューストン・スタジアム
主審:フランソワ・ルトゥクシェ
Round 32 アルゼンチン戦

王者を脅かし、観客を沸かし、夢舞台を去る
3つの引き分けを並べてグループステージの突破を果たしたカーボベルデ。2位通過を果たした先のトーナメント初戦で戦うのは優勝候補の一角であるアルゼンチンだ。
序盤は高い位置から組み合う姿勢も見せるカーボベルデ。しかしながら、敵陣でのプレスはそこそこに、ミドルゾーンで構える形に移行する。
アルゼンチンはここまではインサイドに数本パスを通して繋ぐことで一気に加速することで勝利してきたチーム。しかし、カーボベルデは相手の最短最速のルートを塞ぐことは得意。アルゼンチンのように手段がはっきりしている中で切れ味勝負してくるチームは相性的には悪くない。
序盤戦の戦い方はまさにそれを体現するような形。アンカー脇を狙ってくる相手に対して、センターラインをスライドさせることで簡単にフリーにさせない。アルゼンチンもモリーナの絞るアクションなど、インサイドにポイントを増やしていたが、カーボベルデはフリーで前を向く選手を作ることを許さない。
エンソのサイドフロー、モリーナのバックドアなど、少しずつアルゼンチンはサイドに論点をずらしていく。中央よりは手薄ではあったが、アルゼンチンもサイドで必ず1枚剥がせるアタッカーがいない分、難しいところ。一時的に5バックにシフトして幅を守るなどカーボベルデの柔軟な対応も光った印象だ。
保持に回るカーボベルデは左サイドから進撃を狙っていく。しかしながら、時間を作ることは簡単には許されず。ボックス内にボールを送り込む手段がなかった。
前進の手段に苦しむカーボベルデに対して、ハイドレーションブレイク明けにアルゼンチンは先制ゴール。リサンドロ・マルティネスのタッチダウンパスに抜け出したメッシが恐ろしいくらい冷静にゴールを決める。
先制点はゲームの形を変えることはなく、淡々と試合は進んでいく。それでもインサイドに少しずつパスを差し込んでいく。先制点のアシストと同様にアルゼンチンはCB陣の配球力を活かす格好だ。
カーボベルデは引き続き左サイドを軸に攻撃を組み立てていく。だが、ロスト後のファウルが目立ってしまうなど、やや焦りが見られるシーンも。なかなか攻め筋を見つけることができない。
後半も試合はアルゼンチンのポゼッションから入っていく形。カーボベルデは前半よりもインサイドに背負うパスをつけてサイドにスペースを与えていく。突破力は鋭くはないけど出口は変えられない。ならばその分、せめてスペースだけはというコンセプト。
ひとまずはこれで押し下げられるようになったカーボベルデ。アルゼンチンはトランジッションでのパスの精度低下により、カーボベルデからボールを取り上げることができない時間が続く。
そのツケを払うことになってしまったアルゼンチン。右の大外を起点にハーフスペースに突撃したデロイ・ドゥアルテのケアが遅れたことが致命傷に。DFの股、GKの爪先を通る針の穴を通すようなシュートを決めてみせた。
再び押し込むのはアルゼンチン。インサイドのパスから瞬く間にメッシが抜け出すという必勝パターンも繰り出されるが、ボジーニャのファインセーブでカーボベルデは難を逃れる。ハイドレーションブレイク前の長すぎるアルゼンチンの攻撃を切ったことも含めて、彼の貢献度は非常に高かった。
カーボベルデが前に出ていけなかったことを利用したアルゼンチンだが、彼ら自身も負傷者や足を攣る選手の発生でオフザボールの質は低下。最終的に空けたいインサイドを使うための仕掛けの部分を継続的に作ることができなかった。
延長戦に持ち込むことができたカーボベルデ。しかし、セットプレーから早々に勝ち越しに成功したのはアルゼンチン。ファーに流れたボールをリサンドロ・マルティネスが冷静に叩き込む。同点ゴールのお返しをこの重要な場面で果たした。
またしても追いかける立場となったカーボベルデ。救いだったのはアルゼンチンがこの試合を制圧して終わらせるほどのコンディションではなかったこと。最低限ブロックを守れば、多少マークが緩くなっても大丈夫という算段だったのだろう。
確かに前半のカーボベルデのプレー精度を見ていればその気持ちもわからないでもない。だが、その予定調和を壊したのはロペス・カブラル。前半から再三仕掛けていたボックス外からの突撃がスーパーミドルという形で結実。1枚剥がされなければOKというアルゼンチン側の算段をぶち壊す一撃を食らわせる。
なんとかPK戦まで引きずり込みたいカーボベルデだが、セットプレーでアルゼンチンは再び勝ち越し。味方も敵もまとめて吹っ飛ばすロメロのヘッダーがオウンゴールを呼び込む。
最後まで敵陣に迫りながら枠内シュートも飛ばしていたカーボベルデだが、3点目には届かず。今大会最大のサプライズとなったカーボベルデは観客を沸かしながらもRound32で姿を消すこととなった。
ひとこと
フットボール、最高かよ。
試合結果
2026.7.3
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Round 32
アルゼンチン 3-2 カーボベルデ
マイアミ・スタジアム
【得点者】
ARG:29′ メッシ, 92′ リサンドロ・マルティネス, 111′ ディネイ・ボルジェス(OG)
CPV:59′ デロイ・ドゥアル
