第1節 セネガル戦

先制点が切り拓いた完勝への道
優勝候補として名高いフランスの初陣はセネガル。プレミア経験者を中心にタレント揃いのアフリカ屈指の強豪との一戦から始まることとなる。
フランスの保持はチュアメニがサリーすることで後方の数的優位を確保。セネガルの4-4-2(非保持の際はカマラが列を上げる)に対して、バックラインからボールを動かしていく。
特に右サイドはかなりフリーなポジショニングが目立つ展開。クンデがかなり自由に動き回り、オリースが自陣の中央に下がる動きも。当然、デンベレも右を軸に流れていくのでかなりアナーキーなポジショニングになった。
全体的に低いポジションを取るというのはパリのコンセプトとは似ているが、異なるのはその分高い位置に顔を出すことでバランスを取るようなMFがいないということ。よって、エンバペとの距離が遠くなってしまうというのが前半のフランスで頻発した事象。
時折、デンベレから出してくるような狭いコースからエンバペの裏抜けのアクションを生かす場面もあったが、基本的には単発。セネガルの4-4-2のブロックに対して苦戦する。
一方のセネガルの方がポジションチェンジはなめらか。旋回するような動きは中盤にとどまっており、互いのポジションを意識したつながりがあるものになっていた。フランスの捕まえに行くアクションが遅れてしまうと、セネガルはすかさず背後を狙うサールに裏抜けのパス。無理のない保持から的確にチャンスを作る。
左サイドのディウフとマネからのサイドアタックも強力。ロングカウンターから前半最大のチャンスを迎えるが、このチャンスをジャクソンが仕留めることができない。
ハイドレーションブレイク以降はフランスの保持の時間が増えていくが、敵陣に入る機会が増えても、ポジションのバランスに改善の見込みはなし。全体的にブロックの外に立つ選手が多く、ボックス内にはエンバペだけというシーンも珍しくはなかった。
逆にセネガルは右のSBのディアッタがドリブルで相手を外すなど、攻め筋が豊富。セネガルの保持の機会が多くはなかったが、一回ポゼッションの時間がもらえればセネガルの攻める時間も長め。前半最後もマネの左サイドの抜け出しからサールが決定機を仕留められなかったが、手ごたえのいいままハーフタイムを迎える。
後半、フランスはゆったりとボールを持つスタート。前半よりは前線は奥を取ることを意識しており、オリースやドゥエは高い位置でキープすることが多かった。
非保持においてもフランスも手ごたえ。マネをつぶしたところからのスムーズな動きから一気に縦に速い攻め筋を作っていく。フランスは最大の決定機を迎えるが、メンディが素晴らしいセーブでシャットアウトする。
一方のセネガルは前半よりは苦戦したものの、ハイプレスに来たところを裏返すところからのスピードアップで対応。ジャクソンを終点としたカウンターからゴールを狙っていく。
試合が動いたのは後半のハイドレーションブレイクの直前。再三チャンスを作っていたエンバペの動き出しがついに成就。オリースから出たパスにクリバリのリアクションが一瞬遅れたところを見逃さず、見事なゴールを仕留める。セネガルはジャクソンがすぐさまやり返すゴールを決めたかと思われたがオフサイド。同点のチャンスを逃してしまう。
先制点を奪ったことでペースは一気にフランスに。コンパクトな4-4-2を捨てて前から捕まえに行く姿勢を見せざるを得ないセネガルに対して、フランスは縦に速い動きで無双状態。交代で入ったバルコラがさらにその流れを加速。追加点を奪ってみせる。
セネガルは途中交代で入ったエンバイェが右サイドから鋭いゴールを決めて追撃。だが、パリの有望株が上げた反撃の狼煙は直後に先輩が鎮火。エンバペのミドルシュートで再びフランスが完勝を印象付ける一発をお見舞いする。
苦戦したものの完勝したフランス。難敵相手の初陣で勝ち点3を手にした。
ひとこと
1つスコアを動かしてから一気に道が開けたようなフランス。セネガルは絶対0で進めないといけない試合だったことを痛感したはずだ。
試合結果
2026.6.16
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループI 第1節
フランス 3-1 セネガル
ニューヨーク/ニュージャージー・スタジアム
【得点者】
FRA:66′ 90+6′ エンバペ, 82′ バルコラ
SEN:90+5′ エンバイェ
主審:アリレザ・ファガニ
第2節 イラク戦

イレギュラーな環境でも順当なフランスの勝利
難敵・セネガルを撃破したフランス。イラクに勝利すれば一気に突破を決めることができる状況。フランスとしては余力を残して突破を決めたいところだろう。
イラクは前から強引にプレスにはいかず中盤を厚くする形。4-5-1で構えることでフランス相手に中央を締めていく形。CBはそこまでプレスの圧力にさらされることなくゲームメイクをすることができる。
無理に中央に差し込むのではなく、外を循環してつっつくことができるか?というのがフランスのスタンス。エンバペ、オリースなどセンターラインの選手たちも右サイドに流れることでこのエリアを集中的に狙っていく。
なかなかインサイドに入ることを許さないイラクだが、フランスは中に入らないままミドル。エンバペの左足でゴールネットを揺らして見せる。
反撃に出たいイラク。後方ではGKを絡めたポゼッションからフランスのプレスを様子見するような立ち上がり。フランスは強引にプレスはかけず、ラインだけ高めでインテンシティはそこまでという展開だった。
イラクは左サイドにCHを落とす形からゲームメイク。後方で手数をかけたとしても出口となるのはロングボール。フセインをターゲットとしたボールからセカンドボール回収を狙い、そこから一気に加速する。
しかし、ハイドレーションブレイク明けにターゲットとなるフセインが負傷。アル・ハマディに入れ替わっても前線へのロングボールは継続していたが、さすがにフセインほどの貢献を見せることはできない。
間延びしたところにパスを差し込むことができればフランスは一気に加速。雨足が強まる中で、瞬間的な隙を捕まえるような手段を狙っていく。
雷の影響でハーフタイムは2時間以上。大幅なインターバルを経ての後半となった。互いにポゼッションフォーカスでのスタート。ゆったりと攻めていきたいフランスはもちろん、イラクもCHがサリーすることで後方の数的優位を確保。フランスの前線に対して落ち着いてボールを動かして、どこから壊していくかを探っていく。
だが、その目処が立つ前にイラクはミスから失点。GK周辺のパスワークでミスが出てしまい、エンバペがその隙を逃さずゴールをゲット。あっという間にリードを広げる。
以降もペースはフランス。ナローなスペースでもエンバペやオリースはわずかなパスコースからチャンスを拡大することができる。3点目のアシストとなったオリース→デンベレのパスもまさにそうしたシーンだった。
3点差がついた時点で試合としては決着。イラクが押し込むシーンもちらほら見られるが、いなしながらフランスは自分の時間を取り戻し、チャンス創出に移行する。これ以上のゴールは見られなかったが、それでも試合は完勝と言って差し支えなし。イレギュラーな環境の中で行われた試合の中で順当にフランスが結果を出した。
ひとこと
瞬間的な隙を見せた時の怖さはアルゼンチンと双璧だなというフランスだった。武器の種類は違うけども。
試合結果
2026.6.22
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループI 第2節
フランス 3-0 イラク
フィラデルフィア・スタジアム
【得点者】
FRA:14′ 54′ エンバペ, 66′ デンベレ
主審:ドリュー・フィッシャー
第3節 ノルウェー戦

残すテーマは早々に決着
共にグループステージはすでに突破が決定。残すテーマはどちらが首位通過を果たすかどうか。そして、そこにどこまでそのテーマに重きを置くか?ということになるだろう。
端的に言ってしまえば、ノルウェーはあまりその点に重きを置いているようには見えなかった。メンバーの入れ替えからも次を見据えているのは明らか。この試合はある程度”仕方ない”と思っていそうな11人を並べることとなった。
序盤から攻め立てるのはフランス。右のハーフスペースに突撃するエンバペからいきなり鋭いシュート。この日は幅取り役に徹するような形を取ったデンベレによって生み出されたスペースからゴールに迫っていく。ビルドアップでは左サイドから旋回するような形もあったが、基本的にはそれはオマケの範疇。スペースを狙う1つのパスから一気に仕掛けるのが理想。
しかし、先制点を取ったのはこのシーンでは囮となったデンベレ。当たり前の話だけども、囮役をやるのも主役級というのがフランスの怖さだと思う。
ノルウェーは先制点を奪われたことで撤退意識を強める格好。5レーンを埋めるような守備を見せる。こういうところも無理がないなと感じる部分だったりする。
保持においてはバックスの落ち着いた保持を許容されるノルウェー。左サイドをメインに手数をかけた攻撃から敵陣に入っていく。
しかし、トランジッションの局面が生まれればフランスの思うツボ。ボールを奪ってから1つ目、2つ目のパスの質が高く、そこからのスピードアップがスムーズ。デンベレのゴールが決まったのは20分のことだった。
だが、ノルウェーもすぐさま反撃。アースゴールの一撃は相手を外すスキル満載の見応え十分な得点パターンだった。
フランスはもう一撃デンベレでノルウェーの反撃ムードを抑えることに成功。何度もフェイクを繰り返したデンベレが空いたシュートコースから素晴らしい一撃でリードを広げる。
後半はより安全運転先行という感じ。この試合の行方が決まったことでよりその流れは強まる。ボブが奪取したPKが決まっていればそのムードは変わったかもしれないが、ラーセンはこのシュートを仕留めることが出来なかった。
ノルウェーはポゼッションのターンを得ることはできていたが、そこから先に進むことができず。逆にフランスは無理のない試合の進め方で時計を刻んでいく。
終盤にはドゥエのゴールで追加点を決めたフランス。余裕を持ってグループ首位通過を決めた。
ひとこと
ノルウェーも含めてきっちりこの結果を受け入れて次に向かおう!という試合だった。
試合結果
2026.6.26
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループI 第3節
ノルウェー 1-4 フランス
ボストン・スタジアム
【得点者】
NOR:21′ アースゴール
FRA:7′ 20′ 32′ デンベレ, 90+4′ ドゥエ
主審:マイケル・オリバー
Round 32 スウェーデン戦

一蹴されたグループF最後の砦
前日にはオランダと日本が敗れてしまい、グループFの生き残りはスウェーデンただ一つ。よりによってと言いたくなるフランスとの一戦に生き残りをかけることとなる。
スウェーデンの非保持は4-4-2で構える形。基本的には相手の陣形との噛み合わせのズレを少なくできる方でフォーメーションを組みたいのだろう。
ポゼッションの主導権を握るのはフランス。インサイドのブロックにいきなりというわけにはいかないので、左右のサイドから突っついていくスタート。まずはデンベレとの1on1から打開策を探っていくというのはノルウェー戦と近しいスタンスだったかもしれない。
自陣に押し下げられる機会が多かったスウェーデンはカウンターから勝負。ギョケレシュのポストからイサクまでというのはここまでのスウェーデンを見ていればまさしく「本命」と言いたくなるルート。アーセナルファンとしては真っ向からサリバとギョケレシュがぶつかっていれば、サリバが有利かなと思っていたのだけども、この日のギョケレシュはそれなりに収まっていた。
ただし、それでも最終的にはなんとかしてしまうのがフランス。ウパメカノはかなり動けているし、やや本調子ではないとはいえ、サリバも最後には間に合わせてくる。カウンターで簡単に貫ける相手ではない。やや守りが不安なフランスの左サイド側を破られることもなくはなかったが、ボックス内でフランスの対応が間に合わなかったシーンはなかった。
腰を据えて攻撃をすることができるフランスはサイドから延々と攻撃。ファーサイドに抜くように上げる山なりのクロスとポケ凸のコンボからスウェーデンのDF陣を攻め立てていく。空中戦の対応を中心にスウェーデンのDF陣はさすがという場面が続いていたのだけども、時間の経過とともに決定機を量産。各主要選手に1回ずつ決定機があったといって差し支えない程度にはスウェーデン陣内を自由に侵略していく。
相手の決定機ミスとクロスバーにも救われながら0を続けたスウェーデンが決壊したのは前半追加タイム。エンバペの狙い済ましたコースのシュートが決まり、あっさりと先制点を決める。
こうなるとスウェーデンは辛いところ。当然守備で前から出ていくというアクションが必要になるのだけども、それが嫌だからきっちりとブロックを組んでスペースを消すプランを選択したのだろう。自分たちの苦手分野であり、相手の得意分野で勝負をしなければいけない後半となる。
フランスは7分で追加点を確保。プレミア時代には見られなかった柔らかいラストパスでバルコラの追加点をアシスト。これで試合自体の行方は決まった感があった。
あとは相手次第でフランスは対応をすればいいだけ。出てくればスペースを突くようなカウンターを打てばいいし、出てこないなら時間を進めればいい。ラインの駆け引きから隙を見つけたエンバペは3点目を仕留め、スウェーデンの心を折っていく。
ギョケレシュは最後まで前線のターゲットではあり続けたが、フランスのCBに風穴を開けることはできず。試合はフランスが完勝でR-16に進むこととなった。
ひとこと
強豪が苦戦する流れも自分たちには関係ないよと言いたげなフランスだった。
試合結果
2026.6.30
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Round 32
フランス 3-0 スウェーデン
ニュージャージー・スタジアム
【得点者】
FRA:45′ 74′ エンバペ,53′ バルコラ
主審:ダニー・マッケリー
Round 16 パラグアイ戦

大人なフランスが腹を括ったパラグアイをこじ開ける
Round32において3位抜けチーム唯一の生き残りとなったパラグアイ。首位通過チームのドイツを破るアップセットを演じた次の試合はこの大会のラスボスと言ってもいいフランスである。
パラグアイのスタンスは非常にはっきりしていたと言えるだろう。もちろん、プレッシャーのかかる状態でマイナスのパスが出るなど圧力をかけるチャンスがあるのであれば人数をかけるケースもあるが、基本的には自陣での5-4-1がベースになってくる。引いて受けるということを徹底してやっていくという割り切り度合いとしてはこの大会でも一番はっきりしていたかもしれない。
保持に回った場合でもロングボールでスッキリと。相手が前から来なかった場合などは前に進めるサイドを変えるケースもあったが、奪われそうな状況で1枚を剥がすというようなアクションを自陣ですることはまずない。この点のリスクヘッジは徹底していたし、危ない状況を迎えるくらいならボールを捨てることを進んで選ぶ。最前線がロングボールを収めるという意味で適任ではないエンシソでもここまで徹底していたのは本当に腹が決まっているのだろうなという感じだ。
フランスはバルコラとデンベレというWGをシンプルに外に置く形。SBは高い位置をとりながら攻撃のサポートを探っていく。まずはサイドを突っついてクロスを入れていく形がメイン。防波堤がズラリと並ぶ中で高さ勝負のハイクロスを入れても仕方ないので、少しでもスペースを作りながらクロスを上げるような格好だ。
もっともフランスの持ち味が出せるようなライン間への差し込みからのスピードアップはこの試合ではなかなか見ることができず。狙い目となるのはむしろパラグアイのセットプレーのカウンターか、もしくは攻め終わりの局面だった。
基本的には地味にサイドから相手を押し下げつつ、先に挙げたスペースへのクロスとミドルシュートの両睨み。ミドルはWGに引力があることを利用し、サイドに相手のCHを引きつけつつ、ファーサイド側のCHの背中を取れるような位置から放つことが理想というイメージだった。
ジリジリとスコアレスのまま迎えた後半も構図は同じ。パラグアイは当然腹をくくってのタフな対応に身を投じることとなる。カウンターはエンシソとアルミロンのスピードにお任せだが、こちらもスピードに乗った対応をお手のものというフランスの守備陣に穴を開けることはできない。逆にフランスがスピードアップの隙が見える状況。トランジッションはエンバペがボールを奪いに下がるくらいにはフランスも本気度が窺える状況だった。
構図ははっきりしているが、明確にどちらのペースとは言えない試合に風穴を開けるのはやはり得点。ゴメスが自陣でPKを献上してしまい、このPKをエンバペが決めてついにパラグアイの壁は決壊する。
4-4-2でのミドルブロックを組み直し、ラインを上げながらの殴り合いにシフトしたパラグアイ。フランスからすれば、お得意のライン間パスからの加速が視野に入るシーンであったが、そうした追加点への電車道が見えなかったことを踏まえると、この日のフィラデルフィアの環境はかなり過酷だったのかもしれない。
それでも1点を守るという観点で言えば危なげなく残り時間を過ごしたフランス。パラグアイを振り切って、ベスト8に駒を進めた。
ひとこと
ストレスの溜まる展開だったが、この試合のフランスは非常に大人だった。
試合結果
2026.7.4
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Round 16
パラグアイ 0-1 フランス
フィラデルフィア・スタジアム
【得点者】
FRA:70′(PK) エンバペ
主審:イルギス・タンタシェフ
準々決勝 モロッコ戦

こだわりのなさと引き出しの多さを感じるフランス
ついにW杯は準々決勝。準決勝に一番乗りを果たすべくここまで順風満帆のフランスがモロッコを迎え撃つ格好の試合だ。
立ち上がりはフランスがボールを持つスタート。4-4-2でまずは構えながら様子見というモロッコに対して、とりあえず降りるアクションからフリーマンを作りつつ、押し下げに成功。セットプレーからドフリーのウパメカノはいきなりの決定機だった。
フランスの保持は右サイドが中心。デンベレもしくはオリーズが大外に張ることで仕掛け、ハーフスペースアタック、クロスを探りながら、PAアークの周辺での横断も画策。大外の仕掛けに陣形が引っ張られれば、ファー側のCHの右半身側のケアが甘くなるから、そこからのミドルを狙うのはフランスの常套手段。だけども、モロッコもさすがにそこは簡単にはやらせないよ!という形で先回り。
ただ、それならそれで横断し切っちゃう!ができるのがフランスの怖さ。結局のところ、右でも真ん中でも左でも攻め筋を持っているので、相手が薄いところを使えばいいという割り切り方ができてしまう。
ミドルゾーンでボールを奪ってカウンターに出るケースもなくはなかったモロッコだったが、全体のラインが押し下げられている分、フランスを出し抜くような形まで持っていくのはハード。ホルダーがスピードに乗るシーンが作れても、一番前に人がいないからゴールの怖さを具体的に作り出せないシーンもあった。
フランスは逆にコネの出足が光る格好。狙いを定めたところから一気に奪い返し、逆にフランスはカウンターに出ていくこともあった。
モロッコの保持はサラー=エディンが中盤に関与する形で後方を3-2ブロックに変形する。フランスを動かしながらミドルゾーンで加速していきたいところではあったが、モロッコが最終的に使いたい右サイド側はほぼフランスが陣形を動かさないまま対応。デンベレが時折2トップ気味にプレスをかけにいくことで中盤のCH付近にも圧力がかかっている状況だった。
敵陣に入り込めることもなくはなかったが、そういう状況でもフランスのロングカウンターは牙を剥いてくる怖さがある。実際に右サイドからの手数をかけた攻撃をひっくり返す形でカウンターに成功したフランスはPKを獲得。絶好の先制機を迎えるが、このPKはボノがストップ。先日のPK戦では立ちながらのセーブが話題になったが、この場面では間合いを合わせて低い位置のシュートをセーブする能力の高さを見せた。
大ピンチを防いだハイドレーションブレイク明けにモロッコは左サイドからのボール回しを少しずつ増やす形に調整。前に出てくるデンベレの背後のスペースを狙っていく。
フランスはコネがデンベレの背後をカバーするシーンも何回かあったが、トータルで言えばデンベレが前に出ていくリスクを取る必要がないと考えたのだろう。ラインを下げてある程度モロッコにボールを持たせることを許容する形にシフトした。
そのため、モロッコのポゼッションの機会は増加。ゴールを狙うことを考えればズレた中盤から横断するのが理想なのだけども、0-0だしカウンターの脅威に晒されにくい状態でトライができるのであればいいのかなという感じであった。
後半も前半と同じようにフランスは右サイドからのアプローチでスタート。クンデが絞ることで大外へのパスルートを空けて、ここからデンベレとオリーズが前を向いて仕掛けにいく。後半もサラー=エディンが踏ん張る形で対応するモロッコ。カウンターにかける人数も前半よりは多くなり、悪くない後半の入りとなった。
フランスがだるいのは右の大外の手応えがイマイチと判断した時にあっさりと捨てて次の手段に移行できることだろう。オリーズはライン間に狙いを定めて、今度は異なる切り口からモロッコのブロックを突っついていく。
波状攻撃を行うフランスは最終ラインを壊す手前のところで攻撃の完結に成功。股を閉じるDFの手前で脇からドライブするようなシュートをコースに打ち込んだエンバペが先制点を奪い取る。波状攻撃のタームをキープしたCH陣の防波堤具合もさすがであった。
こうなるとモロッコは前から出ていきたくなるところ。しかし、そのシフトにおいて早々にディオプが警告を受けたことでライン間は間延び。スローインからのリスタートでデンベレがまたしてもミドルでコースを打ち抜いてリードを広げる。
2点差はセーフティと判断したフランスは選手交代からテンポとラインを下げつつ、カウンターフォーカス。モロッコの攻撃をある程度受けて守備陣にプレー機会を与えながら、バルコラやマテタからカウンターを狙っていく。
モロッコの怖さをつゆほども感じさせなかったフランス。文字通りの完勝で準決勝一番乗りを果たした。
ひとこと
ここで勝負したいという基本線がありつつ、効かないと思ったらあっさりと捨てられるこだわりのなさと引き出しの多さがフランスの真骨頂だと思う。
試合結果
2026.7.9
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Quarter-final
フランス 2-0 モロッコ
ボストン・スタジアム
【得点者】
FRA:60′ エンバペ, 66′ デンベレ
主審:ファクンド・テージョ
準決勝 スペイン戦

2つの災難がフランスに降りかかる
決勝までの残りの関門はあと1つ。ニューヨーク行きの切符を賭けて行う準決勝1つ目の試合はフランスとスペインのカードだ。
立ち上がりの構造は比較的どちらの保持のタームでも似ていたように思う。非保持側が4-4-2をキープしつつ、GKまでの二度追いで高い位置からプレスにいく意志を見せるスタートだった。フランスの方がオリーズとエンバペが縦関係になる分、相手の中盤を消すことの意識は高かったように見えた。
保持側が相手のCH周辺に圧力をかけるようなポジションを取るというアプローチも両チームの似ているポイント。スペインはオヤルサバル、オルモなどとにかく前の選手が降りてきてフランスの中盤が前に出ていく動きを牽制。オリーズがロドリについてくるのであれば、アンカーの選手を交換してみましょうとか、浮いているラポルトからボールを持ってみましょうで様子を見ていく。
フランスも同様だが構造は微妙に違う。こちらはチュアメニが後方に下がって3バックを形成し、ビルドアップに関与しないSBが幅取り役を敢行。クンデのいる右サイドは大外をデンベレに託す代わりに自身がインサイドに突撃していくレーンチェンジもあった。
スペインのCH-SHの間のゲートは少しギャップがあり、後方からはメニャンのフィードなどでスペインのプレスを誘引しながら間延びした中盤にフランスはボールをつけることができていた。ギャップに入り込んで反転して前を向くところまではできていたので序盤戦はフランスペースと言って良さげ。
誤算だったのはこれまでのフランスであれば「この形さえ作れればチャンスが自動的に出力される」という状況を作ったにも関わらず、反転した前線の選手のボールのリリースのクオリティが低く、自動的な出力がされなかったことである。オリーズが前を向いたタイミングで対面に引っ掛けたり、エンバペからデンベレへの対角がつけられなかったことはこれまでのフランスとは少し様子が違った。
もちろん、スペインの守備もフランスに焦りを与える仕組みにはなっていた。パスのレシーバーに対してスペインの両CBが厳しくチェックしてボールを遅らせて、ロドリの体の向いている方向に誘導しつつ、時間を稼いでる間に2列目のプレスバックでボール周辺の圧力を高めて奪い切る。
それならばフランスは右サイドから大外アイソレーションを仕掛けたいところだが、バエナとククレジャのスペインの左サイドはインサイドとアウトサイドの守備の受け渡しが抜群。前を向いて仕掛けられるシーンがなかなか作れなかった。
フランスもフランスでスペインのライン間の縦パスにはラビオが厳しくチェックをかけていたし、スペインのバックラインへのプレスの取捨選択もそんなに無理がなかった。余計なことをしないことで最後を咎められればOKというスタンスなのだろう。
それだけに試合を変えるファクターが2つ、いずれもフランス側に災難として降りかかったのは大きかった。1つ目はもちろんディーニュが献上したPK。得点の匂いがしないクロスから先制点を得ることができたのはスペインにとっては非常にコスパがいい形となった。
もう1つはサリバの負傷退場。これによって、この大会でプレータイムを積めておらず、クラブでは3バックでプレーしているラクロワを入れなきゃいけなかったことは誤算だろう。フランスにとってはビハインドシチュエーションはホルダーを積極的に追っていきたい場面。ただ、後方からサリバがいないとなると、前にスライドをしていいのかに迷いが出る。
2つのファクターがフランスに与えた影響は「失点で前に出ていかなければいけない状況となったのに、負傷者で前に出ていく上での不安要素が追加された」ということになるだろう。スペインはこのファクターを見逃さず。降りるファビアンについて来ないことをすぐに見抜くと、ポゼッションは安定。オリーズはロドリを見ておけばいいとはならなくなり、センターラインの守備基準が乱れてしまう。プレスに来ようとした時にロングボール一撃での抜け出しをちらつかせるのもスペインの憎いところ。いちいち、フランスがプレスに来ることの牽制を入れていく。
逆にスペインはハイプレスでさらにフランスに圧力をかける。このハイプレスからオルモとヤマルのコンビネーションでの決定機にたどり着いてみせた。
フランスはエンバペがライン間での降りるアクションではなく、背後のフリーランを増やすシフトチェンジを敢行。紙一重の対応を迫ることはできていたと思うが、ウナイ・シモンの後方のスペースケアの準備の良さによって、決定的なチャンスを生み出すことを許されない。前がかりのままでフランスを封じ込めるのはこの試合の前半のスペインの強みだったと思う。
後半、フランスはコネを投入。これまでのフランスの試合の文脈に噛み合わせるのであれば、前に出ていくアクションの起爆剤になってくれ!ということになるだろう。しかしながら、出ていくアクションを整理し切ることができたとは言えず、スペインの保持局面での安定感は変わらない。プレスに出るならどうぞ、来るならオルモがあなたの背中を取りますよという風情でスペインの保持局面にはまだまだ余裕があった。
フランスの保持に対してもスペインは好戦的な状況を継続。後半のパフォーマンスが光ったのはククレジャ。中でもフロントカットでインサイドに入ろうとするオリーズの動きをCHと連携して封じることができたのは大きかった。
やや持ち場を離れながらの対応になったので、大外から背後を取られてしまうのであればククレジャは苦しかったはず。けども、クンデやデンベレがククレジャの背後からクリティカルな一撃を喰らわせることはなかったので、ククレジャは対面に集中することができた。こういう時のククレジャがダルいことはプレミアファンならよく知っていることだろう。
フランスが苦しかったのは非保持と保持の両面で左サイドの怪しさが増していたこと。保持では強気に来るスペインを外しきれなかったし、非保持では出ていくアクションをカバーする動きがない。4バックに慣れていないラクロワが後方で、ビルドアップへの関与に期待できないディニュとコネであれば保持が苦しくなるのは必然だし、連携面でのぶっつけ感があるユニットであれば、一人のアクションに連動しないことも必然。ヤマルがディーニュを明らかに出し抜き始めているので尚更である。
個人的にはコネの投入はプレス局面の改善という風に考えているので、それ以外の局面で不具合が出るのはある意味仕方がないことなのかなと思う。どちらかといえば、プレス局面の改善ができない方が悪いでしょ的な。
そんなフランスを尻目にスペインは相手のウィークサイドから攻略に成功。オルモに食いついたラクロワが空けたスペースに突撃したポロが2点目を手にする。
フランスはククレジャとの対戦にフォーカスしていたオリーズを筆頭に目の前の相手をなんとかしなきゃいけないモードに突入。その影響で前後分断が激しかった。チェルキの投入はその状況を緩和するためのものだろう。ただ、チェルキもまたラクロワと同じく、この大会で文脈に乗れていない選手。投入直後からリズムを変えてはいたが、そのリズムにむしろ周りの選手が戸惑っているように見えた。ようやくリズムが合ってきたのは90分に差し掛かったところからであった。
チェルキの投入は前後分断の解消という意味では効果はあったが、スペインのボール奪取に貢献するという意味では効果が薄かったのも辛いところ。コネの投入もそうだけども、ある局面での修正が特効薬にならず、他の局面では足枷になるのはこの試合のフランスの特徴だった。
最後はバラバラ感のあるフランスに対して、スペインは粛々と試合を進めながらフルタイムを迎えることに成功。優勝候補最右翼であるフランスを下したスペインがニューヨーク行きの切符を手にした。
ひとこと
フランス目線で言えばここまで変化を迫られる必要がなかったのが大きかったように見えた。サリバの負傷と速攻で刺しきれない前線のクオリティはどちらもこの大会でここまで問われなかった話。チェルキのフィットに要した20分はこれまでの試合で文脈に乗らなかったツケに見える。
先制点の確保も含めてフランスのそうした要素を引き出したスペインは見事。ポゼッションで相手を殺すことを念頭に置きつつ、プレスバックでバックスを助け続けた中盤の面々は特に賞賛に値する。先に動かなきゃいけないフランスに対する応じ手を冷静に繰り出し続けた試合コントロールは監督も含めて評価されるべきだ。
試合結果
2026.7.14
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Semi-final
フランス 0-2 スペイン
ダラス・スタジアム
【得点者】
ESP:22′(PK) オヤルサバル,58′ ポロ
主審:イヴァン・バートン
3位決定戦 イングランド戦

やはり特殊な3位決定戦
「本当だったら優勝を目指してニューヨークで戦いに備えているはずだったのに・・・」という思いを抱えながら、マイアミに飛ばされることとなった両チーム。3位決定戦の要否も含めて、試合前から議論が多少交わされる中で序盤に見られたのは疲れ切った両チームの姿だった。
序盤から緩さが際立ったのはフランスの方だろう。ジリっと高い位置から追い合うスタートの中でイングランドにライスのミドルであっさりと先制点を許してしまう。この失点を皮切りに攻守の切り替えの拙さがとにかく目立つのがこの日のフランス。特にネガトラの遅さが顕著であり、DFラインは高い位置に出ていくこともしなければ、背中を取られた後のスペースを埋めるアクションも鈍重。
コナテはサリバを使い詰めたことの答え合わせのようなパフォーマンスであり、出ていく潰しのアクションも皆無な上にギュストの背後を埋めるような動きも見せられず。この一番に合わせたパフォーマンスを見せることができず、イングランドは左サイドから自在なファストブレイクを見せることができた。
背後を直線的にエンバペのスピードで突く形はそれなりにピックフォードを脅かすことができていたものの、インサイドのコンビネーションの質はやはりレギュラーセットよりも低下。特にワンタッチ主体のコンビネーションの中でゆったりとしたリズムのチェルキをどのように組み込むか?ということにはかなり苦心していた印象だった。
インサイドのコンビネーションの質の低さと怠慢なネガトラとの相性は最悪。とにかくひたすら打たれる展開が続き、背後を完全に抜け出し切る場面もしばしば。セットプレーからのコンサに加えて、サカがさらに2つのゴールを上乗せ。4点のリードでハーフタイムを迎える。
フランスは怒りの4枚交代で後半をスタート。高い位置からのプレスへの意欲も見せることでこの試合の火を復活させようとする。その甲斐があり、エンバペは早々に反撃のゴールをゲット。起点になったのは4人の交代の選手のうちの1人のウパメカノ。高い位置から奪いにいくというチームのプランをきっちり正当化する潰しで、フランスのカウンターの起点に。
このゴールでの成功体験もあり、高い位置からのフランスの守備は機能。イングランド陣内でのボール奪取から攻撃に転じるケースが出てくるように。さらには2列目をレギュラーセットに戻したことで速いリズムでのコンビネーションも復活。アンカー脇の空いているスペースを修正しようとしないイングランドを延々とインサイドから攻め続ける。
フランスはスコアを重ね続けることに成功。オリーズの決定力が普段通りであれば、逆転まで行っていたケースもあったくらいだった。
単発のカウンターにフォーカスしていたイングランドの勢いを取り返すきっかけになったのはベリンガム。馬力のあるドリブルで左サイドを蹂躙することでフランスの守備の難点を脅かすことに成功。左サイドの加速からPKを奪取し、サカがハットトリックとなるゴールを決める。
デンベレ、ベリンガムと最終的にさらに1つずつのゴールを重ねた合計10得点のゴールが生まれた3位決定戦。やはり特殊な位置付けの試合だと思い知らされる結末だと思った。
ひとこと
一度チームとして崩れると脆いのがフランスということを思い出した試合だった。
試合結果
2026.7.18
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
3位決定戦
フランス 4-6 イングランド
マイアミ・スタジアム
【得点者】
FRA:48′ 66′ エンバペ, 54′ バルコラ, 90+6′ デンベレ
ENG:3′ ライス, 18′ コンサ, 37′ 45+1′ 87(PK) サカ, 90+8′ ベリンガム
主審:ヘスス・ヴァレンズエラ
総括

スペイン戦の敗因はどこに?
2026年のW杯におけるぐりぐりの大本命。ノックアウトラウンドまでの試合運びはその前評判にたがわぬもの。敗れた準決勝までの各ラウンドはまさに順風満帆な大会運びだったといえるだろう。
特筆すべきはその支配力だろう。一方的に相手を押し込みながら袋小路に追い込み、ブロックを殴り続ける。大外を取ることができるWGのクオリティと高い位置にサポートに入るSBのコンビネーションで連携からサイドアタックを敢行する。
アウトサイドだけではなく、インサイドの連携でも勝負できるのがフランスの強み。どのレーンでの勝負もできるというオリーズとデンベレが前を向いて、鋭い背後の前線の抜け出しで仕上げるという形も。大外でもインサイドでも1枚を剥がした相手のアクションから一気に相手を窮地に陥らせる。
CBのウパメカノ、サリバの対人性能の高さも折り紙付き。相手の陣地回復を完全にへし折る方策を取ることで、呼吸をさせる手段を奪い、相手の時間を消し飛ばすことでワンサイドのゲームに持ち込む。
それならば高さで固める方策はどうですか?と言わんばかりのパラグアイも一蹴。引いて受けるフェーズで耐えるというプランはこのチーム相手には難しいのだろうということを知らしめるような結果となった。
先制点さえ奪い取ってしまえば、多少引いて受けてカウンターで殴り続けるという必勝パターンが発動。サリバ、ウパメカノをはじめとする強力な中央ブロックを崩すトライをしつつ、背後をフランスのアタッカー陣に走られるという地獄のリスク管理を走らせないといけない。
事実上、リードさえ奪えればこの必勝パターンの発動からあっさりと押し切ることができた印象。ダークホースとして確実に力をつけていたモロッコをどの局面でも寄せ付けずにねじ伏せたパフォーマンスは文字通り見事だった。
ではなぜそんなチームがスペインに負けたのか?ということを考えたい。要は相手のビルドアップを高い位置から咎められなかったのが直接要因となる。
できなかった要因としてはまずはCBのサリバの負傷が挙げられるだろう。高い位置で相手を止める、あるいは引いて受けた時のコンビネーションについていくという意味でサリバの存在は大きい。3バックが普段着のラクロワ、3位決定戦を見る限り明らかに体が重そうだったコナテにはその役割は荷が重たかったように思える。
そのうえで高い位置で咎めること自体にチームとしてこだわりがなかったことも要因の1つ。持てないのであれば、受けてカウンターに振り切ればOKというどこでもやれる余裕がスペイン戦ではやや悪い方向に転がったように思えた。
それでも立ち上がり10分くらいの互角な時間帯のうちに殴り切れていれば試合の景色は全然違ったと思うし、フランスにはそうしたポテンシャルも十分にあった。それをかいくぐってフランスの脅威を抑制することに成功したスペインを賞賛する方が正しい。負けてはしまったけども、スペイン戦ですら勝ち筋を持ってくる力をフランスが持っていたことに疑いの余地はないだろう。
Pick up player:ミカエル・オリーズ
大外から試合を決める馬力だけでなく、インサイドでのやわらかいプレーの両面で力を発揮。これはたぶん、パレスでは知らない姿なので、バイエルンで身につけたのだろうなぁ。
