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「正解にする力」~2026.6.29 アメリカ・メキシコ・カナダW杯 Round 32 ブラジル×日本 レビュー

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レビュー

ハイプレスの失敗はワーストケースに直結

 日本がなかなか突き破れないW杯のノックアウトラウンドでの勝利という天井。今回の北中米大会でこのジンクスの門番として君臨するのは王国・ブラジル。強豪に対する大いなるチャレンジに日本は挑むこととなる。

 序盤からボールを持つのはブラジル。広がるCBとGKから前進を試みる形。SB、どちらかといえばダニーロは枚数調整役として、3人目として低い位置で関与しようかどうかといったニュアンスのビルドアップだった。

 日本の立ち上がりは前からプレスに行きたい様子だった。シャドーの前田、伊東の2人はプレスのスイッチ役として君臨し、片方のスイッチオンに対してブラジルがマイナス方向のパスをつければ、そこからさらに深追いをするという流れだった。

 このプレスに出ていくことができるかどうかのさじ加減が、日本の序盤のテーマだったように思う。ハイプレスに出ていく際の一番わかりやすい懸念は、後方が同数で受けられるかどうか?だろう。この点はターゲット役ではないクーニャをトップに置いているブラジルに対しての懸念は少ないところではある。

 むしろ、日本の足かせになっていたのは前に出ていく役割を果たしていたシャドーが、後方でも守備で重要な役割を担っていたということ。相手の大外レーンのアタッカーへのダブルチームと、相手のSBのオーバーラップへの対応をケアすることに前田と伊東がフォーカスしていたのは、試合を通して見ても明らかだろう。

 日本が最も避けたいシナリオはこのアクションから逆算することができる。ブラジルのサイドアタックを受け止める局面で、堂安や中村といった攻撃的なWBがブラジルの選手、特にヴィニシウスとライアンと対峙することはできるだけ回避する必要がある。

 日本のプレスのスイッチ役はシャドーが担っており、仮にこれが外されてしまうのであれば、サイドでズレが発生しやすい構造になっているのは確か。CBへのプレスが一歩間に合わないのであれば、今度はブラジルのSBが浮き、ここへの日本のWBのアプローチが間に合わなければ、後方でCBがWGと対峙することとなる。

 日本のハイプレスは有効な手段なのは間違いない。特に前半は前田のスプリントで相手を驚かすことが明らかにできていたし、トランジッションの局面が増えることで先制点も手にしている。すでにカゼミーロに警告が出ていたことも含めて、日本のトランジッションがある程度ブラジルに混乱をもたらしていたのは確かである。

 しかしながら、失敗したときには日本が最も避けたい状況に陥るのも確か。このコインの裏面を気にしてなのか、前田と伊東のハイプレスの起動回数はかなり限定的。トランジッションはハイプレスから誘発するのではなく、中盤でのボールの奪い合いや自陣からのカウンターが主体という形になっていた。

呼吸できる隙を活用できず

 日本のプレスのスイッチが限定的だったこともあり、ブラジルは少しずつ落ち着いてボールを持つことができるように。プレッシャーのかからないCBから地道にサイドを崩しに行く。

 前半は明確にWGが大外から1on1を仕掛ける様子は少なかったブラジル。特に左サイドのヴィニシウスはハーフスペース付近のブロックの中でボールを受けようとするアクションが多かった。

 前半の日本にとって幸運だったのは、このインサイドの封鎖がかなりうまくいっていたこと。前を向かせると一番怖いヴィニシウスはエースキラーと化している冨安とマッチアップしやすい位置に立ってくれたし、上田の誘導が効いている分、パスを刺すコースはあらかじめ想定することができる。前半は特に上田の視野の中でブラジルのパスワークは回っていた感覚があった。

 低い位置で相手の攻撃を防衛するというお題目には十分に対応することができた日本。しかしながら、低い位置で相手を防衛するチームは現代において、防衛任務から離れる時間をどれだけ作れるか?ということもセットで考える必要がある。たとえ先制点を奪ったとしても、残りの時間が潤沢に残されているのであれば、この点を考えないとまず90分プランを遂行しきることはできない。

 日本はこのセットとなるプランの提示が甘かったことは明らかだ。この布陣の場合、通常は伊東と前田の脚力を生かしたロングカウンターが相手に致命傷を負わせる第一の選択肢となる。仮に自陣での守備に忙殺されているとしても、彼らにはこれまでそこから攻撃に打って出るだけの理不尽な脚力があるということは証明されている。

 問題なのは理不尽を持っているのが自分たちだけではないということ。スピードに乗ったアタッカーを止めてカウンターの局面を安全に終わらせるということに関しては、ガブリエウとマルキーニョスのコンビは今大会においてフランスと並ぶ強力なユニット。特にガブリエウに関しては速いアタッカーをファウルなしで潰して攻撃に転じることは日常茶飯事。したがって、自陣から最短最速で相手のゴールを狙うという日本のロングカウンターのプランはまず通用しない。

 CFの上田へのロングボールもほぼ同じ。マルキーニョスの方に突っかければ引き分けくらいまで持っていけたことをむしろ褒めなければいけないくらい。ただし、それでも絶対的な起点とするには物足りなかった。

 最も現実的で可能性を感じたのはブラジルのプレスを回避することだろう。ブラジルは非保持においてかなり前からプレスに行く意識が高かった。おそらく日本を敵陣に閉じ込めておくことに価値があると判断しているのだろう。ロングボールに対して脅威が少ないというリスク評価も下しやすく、特に躊躇する必要も感じない。

 しかしながら、ブラジルのハイプレスは時間帯によって意欲にバラツキがあることも確か。この大会のブラジルの守備の特徴は攻撃時の4-3-3、そこからの変形も含む形から、守備時には4-4-2へ変形すること。左WGのヴィニシウスが2トップの一角となり、後方をIH、この試合でいえばパケタが埋める構造となっていた。

 なので、守備の構造としては左右にバラツキがある。WGのライアンが守備もサボらず、変形もナチュラルな右サイドに比べれば、ヴィニシウスが気まぐれで、かつ後方のカバー役であるパケタの負荷が高い左サイドの方が歪みが起きやすい。

 日本の右サイドのCBは冨安であり、ここがフリーになるのであればかなり組み立てはしやすかったはず。実際、シャドーの伊東が降りるアクションからパケタが出ていったスペースを突こうとする動きも見せていた。

 しかしながら、この前進の精度がやや物足りず、右サイドの伊東と堂安のコンビネーションからの攻略も不発。伊東も堂安もシュートの意識が高いのか、インサイドに強引に切り込んでいって、跳ね返される場面が目立った。ヴィニシウス基準で歪んでいたブラジルの守備を利用しきることはできなかったと言えるだろう。

 ロングカウンターでもポゼッションでも、握られている側としての抵抗を見せられなかった日本。リードこそしたものの、自分たちが呼吸する時間の少なさは後半に確かな不安材料を残したと言える。

WB交代でも変わらない守備基準

 後半、ブラジルは選手交代を敢行。負傷してしまったパケタに代えて投入したのはエンドリッキ。アタッカー色の強い選手を入れることでゴールを奪いに行く。

 後半における保持の変化は、明確に両サイドの大外にWGが張る機会が増えたことだろう。特にインサイドでのプレーが多かったヴィニシウスが左の大外に出たことは重要な変化だった。

 日本は当然低い位置に下がりながらシャドーとWBがブラジルのWGの相手をする。ダブルチームができればいいし、オーバーラップを積極的に仕掛けてくるブラジルのSBまで相手にするのであれば、日本のCHまで巻き込む守備が想定される。そうなってしまうと、後方支援役のブラジルのCB、図でいうとガブリエウが前に出てきた場合、対応できる日本の選手はいなくなってしまう。

 SBはWGの外を回る、CBは高い位置で攻撃に顔を出す。これくらい前がかりな布陣を組むと、当然後方にはスペースができる。しかしながら、このスペースも対応できるならば問題はない。前半の日本の攻撃を見るにファストブレイクの精度も強度も許容範囲。ビハインドという状況も踏まえれば、これくらいのリスクは取るべきという判断だろう。

 ブラジルはかなり機能的に日本を縦横に揺さぶった。縦方向の成分としてはヴィニシウスの縦突破、SBのオーバーラップ、そしてガブリエウとライアンのファーサイドへのクロスが挙げられる。

 ファーサイドへのクロスへの対応はかなりタフ。日本はサイドの選手の背は高くはないし、そもそも大外へのクロスは守備側がクリーンにクリアするのが難しいボール。攻撃に専念してすりつぶすプランを採用するにはうってつけだろう。

 逆にブラジルはライアンのようなインスイングのクロスが鈴木にキャッチされてカウンターに移行されるケースだけは避けなくてはいけなかった。この部分は相当繊細かつ正確にファーサイドへのクロスが試行されていた印象を受けた。

 日本が縦方向を消すのであれば、ヴィニシウスは横ドリブルで横断。右サイドでフリーになったダニーロからもクロスが放り込まれる。いわばクロス千本ノック状態である。その中でカゼミーロにヘディングを叩き込まれることとなった。

 日本が打開することができたとすれば、限られた保持の局面での押し返し。ヴィニシウスのカバー役のパケタがいなくなり、アタッカーが投入されたのだから保持での隙はある。パケタの役割はクーニャが引き継いでいたが、その点で抜群の働きを見せたわけでもなければ、ヴィニシウスとエンドリッキがバカみたいにプレスのスイッチを入れまくっていたわけでもない。

 そういう意味で日本は保持から時間を作るチャンスはあった。しかしながら、最短最速でブラジルのCBにつっかけるシーンに終始してしまったのはもったいない。逆にヴィニシウスのスピードに乗ったカウンターを受ける場面を呼び込むことになっていた。勝てたかどうかは別として、日本に守田がいればと一番強く感じたのはこの時間帯である。

 失点前にはファストブレイクでやり切れそうな場面があった。ブラジルの特大決定機をなんとか逃れた直後のカウンター。5対3のような形ではブラジルのCB陣とは言え、ケアできない部分はある。結果的にあの一回を刺せなかったことでブラジルの後方リスク軽視型布陣は正しかったということになった。

 日本は65分に選手交代を敢行。WBを菅原と鈴木淳之介に入れ替えた。仮にPK戦を前に勝利を決めるための交代と考えるのであれば、この交代で期待したい効果は1つ。ヴィニシウスとライアンを2人のWBがタイマンで請け負うということ。前田と伊東を前に残すか、WG周辺以外のカバーに回すなど守備の原則を変えなければ局面は変わらなかった。

 だが、日本のシャドーの守備基準は最後まで変わらなかったように見えた。もっとも、1on1で止められる保証がない分、この選択が正しくないとは思わない。けども、この日の日本の手札でブラジルにすりつぶされる流れを回避するとしたら、WBの守備力にフルベットしてカウンターへの比重のかけ方を変えるしかないように思えた。

 特に左の鈴木淳之介は空中戦では存在感を見せた一方で、平地戦でのサイド封鎖には苦戦。逆サイドもWBを代えたことで劇的に守備がよくなったかというと微妙なところだ。

 ヴィニシウスは王様というイメージが似つかわしくないほど、勝利にフォーカスしていたのが印象的。決勝点を取りに内に入ってくるといった動きは一切なく、外に張り続けることで日本を縦に横に揺さぶる起点であり続けた。後半頭から続く日本攻略の文脈、そしてインサイドにマルティネッリが投入された意味を考えれば、ヴィニシウスが外に立っていることは明らかに有益。決勝点のシーンでも菅原の対応に迷いを与える決め手となった。

 逆に日本はボールを何とか生かそうとしたことで田中が捕まってしまったのが致命傷に。必要なことだけども、トライできなかったことを最後に咎められてしまうという意味でも切ない失点だった。

 日本の旅路はまたしてもノックアウトラウンド初戦でストップ。ヒューストンで日本の2026年のワールドカップへの挑戦は幕を閉じた。

あとがき

 サッカーにおいて基本的には完璧なプランなど存在しなくて、選んだプランを正解にできる力がそのチームに備わっているかはとても重要。後方のリスク管理をあえて度外視したブラジルには、彼らのプランを正解にする力があった。

 日本がブラジルを刺すことができたと明確に言えるのは、佐野が手にした得点と本文中でも触れた5対3でのカウンターの2回だけ。どちらも決めたとしても、この日のプランでは同点が関の山。どんなによくても同点からのPK戦勝利という道しかなかったように見える。

 2つの失点も、それ以上に危険な場面が多く作られた末のものであることを踏まえれば、相手の攻撃を和らげるプランも、自分たちが攻撃に打って出ていくプランもこの相手には通用しなかったと考えるのが妥当。後半アディショナルタイムまでブラジルとスコア的な均衡の中で真剣勝負ができた財産は尊いことは間違いないが、「負け」と「負けそう」の間に大きな違いがあることを知っているアンチェロッティに冷や汗をかかせるには至らなかったのがこの試合の日本だった。

試合結果

2026.6.29
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Round 32
ブラジル 2-1 日本
ヒューストン・スタジアム
【得点者】
BRA:56′ カゼミーロ, 90+5′ マルティネッリ
JPN:29‘ 佐野海舟
主審:マウリシオ・マリアーニ

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