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レビュー
根性のサイド守備でパリを封殺
ブダペストで開催されるファイナルはパリとアーセナルの対戦。連覇か初優勝かというコントラストがはっきりとした構図となった。
立ち上がりに目立ったのはパリ式のボールの捨て方。サフォノフに蹴らせてサイドにボールを捨てつつ、圧縮してアーセナルのサイドに圧力をかけていく。
パリの非保持はマンツーがベース。バイエルン戦のような撃ち合い上等のスタンスで一人一殺を心がける立ち上がりとなった。しかし、早々に事故を引き寄せたアーセナルが先制。左サイドから抜け出したハヴァーツがニア天井を抜くシュートを決め、5分でアーセナルが先制する。
パリの出方は想像できるものだったが、アーセナルの出方がどのようなものになるか?というのがこの試合の注目ポイントだった。立ち上がりは深追いする姿勢を見せていたアーセナルだが、リードしていることもあり、徐々にGKやCBにまでプレスをかけることはやめる。
パリのビルドアップの狙い目になったのはサカの背後のスペース。ここの背後にファビアンやクワラツヘリア、時にはデンベレの降りるアクションも絡ませるなど、動く選手を変えながらアーセナルを揺さぶっていく。
アーセナルのサイドの守備はまさに根性と言えた。サカの背後のスペースを消すための方策は、サカの二度追いかモスケラの縦スライド。ライスがカバーするケースもなくはなかったが、基本的には中央はスライドせずに空けたくないという気持ちがあるのだろう。ステイしながらサイドの2人を起点とすることが多かった。
それでも、サイドに流れるところから縦に進撃するところまでは持っていけるパリはさすが。アーセナルはサカやトロサールが自陣に下がることによって、パリの大外のアタッカーに対して2枚で対応することが基本となる。
クワラツヘリアがクリーンな状態でモスケラと1on1できたのは、自分の見逃しがなければ22分が最初。そのシーンよりも前は、基本的にはサカのフォローのもとで複数人で対応。ドゥエが左サイドに流れる揺さぶりを仕掛けるなど、パリはポジションを固定しないことでアーセナルのズレを探っていくが、アーセナルのスライドが基本的には上回り、なかなか重要なところに縦パスを差し込むことができなかった。
どちらかといえば、アーセナルの狙いを裏切るようなプレーを手前で挟まれる方が、受ける側としては怖さがあった。具体的には左SBのメンデスのインサイドへのドリブルである。アウトサイドにフローする選手へのフォロー意識が高い分、サカはインサイドへの対応にかなり苦戦していた印象だ。
それでもインサイドを簡単には動かさないのがこの日のアーセナル。よって、メンデスの主な選択肢は逆サイドへの展開。右サイドに流れたところから、パリは複数枚のコンビネーションで崩しを狙っていく。
だが、この日のパリはボックス付近の崩しに少し苦戦していた印象。普段のパリであればポジションチェンジを繰り返したとしても、人を置くバランスは変わらないのだけども、右サイドは時間の経過とともに外に出てくる人が多すぎた印象だ。
特にデンベレがブロックの外に流れる場面には怪しさがあった。ブロックの外への動き出しでアーセナルの守備陣を揺さぶれていなかったし、ブロックの外でマークが緩くなった状況でも、一振りで決められるクオリティはこの日のデンベレにはなかった。
押し込まれる状況への対応は問題なかったアーセナル。ただし、上で述べたように押し込まれる局面に追い込まれているのも確か。ローブロックの時は陣地回復の方法がセットになっているかが重要で、その点でアーセナルはなかなか頻度を上げられなかった。
もっとも、手段がなかったわけではない。ルイス=スケリーのキャリーはパリ相手でもハマっており、ドリブルで1枚を剥がすというこの日の狙いにきっちり応える仕事を果たした。前半終了間際のハヴァーツの決定機も含めて、敵陣に入っていった時の質は問題なかった。
前半終了間際のメンデスの左大外から入っていくアクションは、この45分の中で数少ない、パリがエンドラインからアーセナルのブロックをえぐることができた場面。パリも押し込む中で少しずつ兆しを掴んでいる。
総じて、前半はアーセナル目線では悪くなかった。唯一、議論が分かれそうなのはプレータイムの多くを自陣で過ごすことに問題意識があるかどうか?というところ。1点リードしている状況であるならば、個人的にはここも問題ないように感じる中で、終盤にメンデスに許した侵入をどう見るか?という前半だった。
SBの交代のタイミングが明暗を分ける
後半はアーセナルが前方にスライドするプレスからスタート。アンカーの位置に立つことが多かったヴィチーニャのサイドフローで、パリがアーセナルの狙いを外すような形からスタートする。逆に前半は左に流れることの多かったファビアンは、右に顔を出す機会を増やしていく。
アーセナルはSBが縦方向へのスライドを増やすことで負荷を吸収。明らかに負荷の大きい彼らをどこまで引っ張るか?というのは後半の論点になりそうだなとリアルタイムで見た際にもハーフタイムに感じていたし、終わってから振り返るに際しても大きなポイントだと思う。
警告を受けた分、モスケラは60分を目処に交代してもいいのではないか?というのもリアルタイムで感じた部分。遅延による警告のため、プレー精度が落ちていたわけではないけども、そのおよそ1分後にモスケラがクワラツヘリアにPKを献上。パリは1つ目の穴開けからPKを獲得し、追いつくことに成功する。
結果的に言えば、後方にインカピエが控えていたことを踏まえると、強引にタックルに行かなくても問題はない場面だった。しかしながら、このくらい食いつく意思があったからこそ、ここまでクワラツヘリアを封殺していたことにつながっていたとも思うので難しいところだ。
後半のアーセナルは前半以上にチャンス構築ができなかった。主な要因はコンタクトとファウルの基準の目合わせがうまくいかなかったことだろう。サカとハヴァーツというロングボールのターゲットの2人はファウルを連発し、なかなか時間を作ることができなかった。
つなげることができたらできたで、カウンターからパリのスピード勝負に持ち込まれる危険があったアーセナル。クワラツヘリアのスピードを生かしたアプローチには、かなりギリギリの対応となった。
しかしながら、そのクワラツヘリアが負傷交代するとやや空気は変化。パリはファストブレイクと、ポゼッションからスペースレスの状態を壊しにいくアプローチを使い分けていたが、クワラツヘリアの交代以降は後者のクオリティがかなり低下。ドゥエの負荷が高まることに。
逆にバルコラを交代で入れることでスピード勝負ではアドバンテージに。ファストブレイク寄りの展開の中で、サリバ相手に優位を握ることに成功する。
アーセナルも流れる展開の中でWGを軸にファストブレイクを狙っていきたいところ。マルティネッリ、マドゥエケなど馬力がある選手を中心に攻撃を繰り広げていく。だが、ワンプレーの精度が足りないアーセナルは決定的なチャンスを作ることができない。
延長戦では攻めあぐねる要素が強くなるパリに対して、アーセナルは終盤まで前に出ていくことができる選手層で勝負を仕掛けたいところ。しかしながら、延長前半でインカピエが負傷してしまい、交代枠を使い切ったアーセナルはマルティネッリの位置を下げることに。馬力での勝負はマドゥエケに託されることとなる。ここでもSBを交代するタイミングが大きなファクターになってしまった感がある。
それでもマドゥエケはメンデスを相手に、あわやPKというシーンを作り出すことに成功。馬力勝負でもう一歩というところまで持っていく。
パリはバルコラをインカピエのサイドに当てるなど、ミスマッチを作ることで攻め立てる。意外とスピードではなく、ファークロスでの空中戦で勝負するというのは面白かった。
どちらのチームも仕留めきれなかったこの試合。運命のPK戦を制したのはパリ。サフォノフの駆け引きの方が、ラヤの決め打ちよりもキッカーに負荷を与えていたので、納得感があったのはアーセナルファンとしては残念な部分である。
ブダペストで勝利の凱歌を挙げたのはパリ。アーセナルの20年ぶりのCL決勝へのチャレンジはまたしても阻まれて幕を閉じることとなった。
ひとこと
「好きなサッカーはなんですか?」と聞かれることが結構ある。「自分たちの手札で勝負できているサッカー」と答えることが多いと思う。たまに見かける「ヴェンゲル期に好きになった人は今のサッカーをどう思っているのか?」という問いに関しては、すなわち「今いる選手の特性を活かして勝負ができている」と答えることになるだろう。
アーセナルに現在所属している選手たちにとって、この試合は(アーセナルの選手として)初めてのファイナル。タフなシーズンの後で自分たちの形を大舞台で発揮できるのか?というところがこの試合のスタート地点。スタート地点には立ち、前年王者と組み合うことができた。決勝初挑戦のチームにとって、それは大きな一歩だ。
自分たちの組み方で90分を戦うという点で文句はない。その一方でボールを持った時のワンプレーの重みや、転がる試合の流れを自分たちに引き寄せるなど決勝戦特有の要素ではまだできることがあった。
今、持っているものを出すという意味で悪くない試合をした。だけども、もう少しだけ足りなかった。充実感と悔しさを持って、来シーズンでのリベンジを待ちたい。
試合結果
2026.5.30
UEFAチャンピオンズリーグ
Final
パリ・サンジェルマン 1-1(PK:4-3) アーセナル
プシュカシュ・アレーナ
【得点者】
PSG:65′(PK) デンベレ
ARS:5′ ハヴァーツ
主審:ダニエル・シーベルト