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「EURO2020ハイライト」~Round-16 クロアチア×スペイン~ 2021.6.28

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■解決できなかった課題からケリをつけたスペイン

 共にグループステージでは問題を抱えるチームである。決勝トーナメントに進んだ16チームの中で一番しんどいチームはどこか?と聞かれたら、自分はクロアチアと答える。全体的に動きが非常に重たく、特に前線の動き出しの少なさは根を張ってしまっているかのよう。モドリッチの存在とお国柄強いノックアウトラウンドという舞台装置という上積みでどこまで行けるかである。

 一方のスペインは大会随一の保持局面に力を入れているチームといっていいだろう。その精度の部分は悪くはない。おそらく、ラウンド16の段階で一番うまいのは彼らだと思う。ただし、得点を取るというサッカーでもっとも重要な要素でのパンチ力が足りない。課題は絶対的な得点源の不在をどう補うかである。

 試合はスペインの保持で時間が進む。クロアチアはそれに対してマンマーク志向が強めで対応。スリーセンター、SH、SBはそれぞれ目の前の相手についていく意識が強く人重視の対応といえるだろう。ボールがサイドにある時はクロアチアは組織全体をボールサイドにスライドする。したがって、ボールサイドと逆側はマンマークを捨ててスライド対応に切り替えることになる。

 だが、これがうまく機能しない。具体的に言うと、クロアチアはボールサイドにスライドする割には間受けする選手をフリーにしてしまう。特にペドリのような受けてつなぐのが上手い選手へのプレッシャーが弱く、フリーの選手を作ったところからスペインは簡単に逆サイドに展開。逆サイドまで到達すると、クロアチアのマンマーク体制は崩れてしまっているので、ここから簡単に敵陣に侵入というメカニズムができていた。

 つまり、クロアチアは人についていくこととボールサイドに圧縮することの優先順位が中途半端。スペインに嫌がらせをするのなら、ボールサイドにおける間受けを阻害しないといけない。ここを防げないので逆サイドに簡単に展開される。これだけマンマーク要素を強くする前提なら、間延びしてでも人を捨てない方がいい気がする。

 というわけで盤石だったスペインだが、思わぬ形で足元をすくわれる。ペドリのバックパスをシモンがまさかのトラップミス。衝撃的な形で無からクロアチアが先制点を奪う。すると、試合は徐々に変化が。クロアチアの同サイド封鎖の機能性の向上と、スペインのオフザボールの運動量が低下したことでクロアチアが跳ね返す機会が出てくるように。

 そんな展開の中で前半のうちに同点に追い付けたのはスペインにとってはありがたかっただろう。殊勲者はサラビア。押し込んだ波状攻撃からの最後のやり直しにおいてサイドに展開した後、自らがエリア内に飛び込んで得点で仕上げてみせた。

 後半も引き続き主導権はスペイン。SBであるアスピリクエタが決めた2点目は全体が押し上げられている証拠。クロアチアの1点目の後の10数分を除けばスペインがペースを握り返したといえる展開だった。フェラン・トーレスが決めた3点目で試合は決したという見方が大半だったはずだ。

 しかし、ここからモドリッチがギアを入れ替えると、クロアチアの面々がそれに呼応。高い位置からのプレッシングでスペインからボールを奪いにかかる。前線に蹴ったとて収めどころのないスペインはこれに苦戦。高い位置から即時奪回が刺さるようになったクロアチアは終盤に一気に盛り返す。モドリッチのタメからオルシッチが押し込んで1点差に追いつくと、そのオルシッチから後半追加タイムにパシャリッチが頭で合わせて同点に。これまで保持の局面を脅かされなかったスペインにプレスとカウンターで牙をむき、試合を振り出しに戻す。

 しかし、スペインの敵陣での保持の局面に対してはクロアチアは解決策を見いだせたわけではない。現に盛り返していた時間帯にも危ういシーンはあった。延長戦ではその部分でスペインが再び優位に立つことに。クロアチアが特に手を焼いたのはサイドの守り方。広いスペースで1対1になった時の対人の弱さ。簡単にクロスを上げさせてしまう距離でしか寄せられないことである。

 勝ち越し点は100分。右サイドから上がったクロスを叩きこんだのはモラタ。この試合でも湿り気抜群だったCFがようやく仕事を果たして一歩前に。続く103分にはオヤルサバルが同じく右サイドのクロスを叩きこんで追加点。クロスを上げたのはどちらもクロアチアと縁が深いダニ・オルモ。抜き切らないクロスから決定機を演出した。

 こうなるとさすがにクロアチアに反撃の余力はなし。スペインとしては延長までもつれはしたが、アタッカー陣が軒並み結果を出したことと、決定的なミスをしたウナイ・シモンが好守でチームを救うリカバリーを見せたことは好材料。プレス耐性の脆さとトランジッションという課題は健在だが、強豪の苦戦が目立つトーナメントで得点力が開花すれば、おのずとチャンスは転がってくるはず。目覚めの一戦になればクロアチアとの死闘のおつりは来るはずだ。

試合結果
クロアチア 3-5(EX) スペイン
パルケン・スタディオン
【得点者】
CRO:20′ ペドリ(OG), 85′ オルシッチ, 90+2′ パシャリッチ
ESP:38′ サラビア, 57′ アスピリクエタ, 76′ フェラン・トーレス, 100′ モラタ, 103′ オヤルサバル
主審:ジュネイト・チャキル

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