■完勝ムードが一転、薄氷の勝利に
グループHではイタリアとの潰し合いを制し、激戦の欧州プレーオフを勝ち上がったポルトガルが登場。開幕節の相手は未だここまで勝利がないアフリカ勢最後の砦であるガーナだ。
ポルトガルの基本的なフォーメーションは4-3-3である。CBはGKを挟むように立ち、距離をとっている。SBは両サイドとも高い位置を取り、大外を担当する形である。WGのポジションに分類されるのはブルーノ・フェルナンデスとジョアン・フェリックスではあるが、彼らのプレーエリアがややインサイドであることと、IHがオタビオやベルナルドという広い範囲でのプレーが可能な選手であることからややベースのフォーメーションは分かりにくかった。後ろはCB+アンカー、大外はSB、トップはロナウドで中央はそれ以外というニュアンスがより実情に近いと言えるだろう。
そんなポルトガルに対して、ガーナは5-3-2で対抗する。ガーナのWBはポルトガルのSBを意識したポジションを取ることが多く、ガーナの最終ラインとは異なる高さでプレーする機会が多かった。ポルトガルにボールを持たせることを許容してはいたが、全体のプレーエリアもそこまで低くはなくベタ引きという印象とは違う。
余談であるが、今回のW杯はベタ引きの5バックを基本線として敷いてくるチームはいなくなったように思う。一番近かったのはイランだけど、そんな彼らでも前に出る意欲は高かった。理由はいくつかあるんだろうけど、おそらく撤退した状態から少ない人数で陣地回復ができる選手がそうしたプランを取りたくなる国にはいないということなのかなと思っている。
さて、話を戻そう。ボールを持てることとなったポルトガル。中盤の人員の入れ替えという乱数はあったものの、ガーナの守備に対してはズレを作ることはできない。ガーナのインサイドは堅いままでそもそも相手を動かすアクションを行うことができず。狭いスペースに突っ込んではボールを失うといったことの繰り返しである。
大外のレーンは1on1を制することも、多数の選手を活用しながら抜け出す選手を作ることもできないポルトガル。相手を外しきれないクロスは山なりの軌道を描くボールばかりだった。それでもインサイドにロナウドがいればそれなりに有効なのだけど。
一番のチャンスはトランジッションである。中盤でボールを奪ってからのカウンターこそポルトガルの得点のチャンスと言えるだろう。保持ではあまりうまくいっている感じはしなかったポルトガルだが、敵陣でロストしたボールを即時奪回することはできており、ショートカウンターの機会を作るところまでは辿り着いていた。
逆にガーナのボール保持は非常に苦しんでいたと言えるだろう。前線がマンマークで高い位置から捕まえにくるポルトガルに対して活路を見出せずにいた。特に中央方向のパスはポルトガルに厳しく咎められており、危険な形でのカウンターの呼び水となってしまう。かといって、長いボールは勝ち目がない。百戦錬磨のルベン・ディアスを出し抜くのはそう容易ではない。
トーマスに時間を与えることができれば、最後に安全に展開できるがその形を持っていくのに苦戦。そうした中でガーナの光になっていたのはインサイドハーフのクドゥス。最終ラインは難しくとも、中盤相手であれば優位は取れる。力強いターンでボールの収めどころ兼前進のポイントとして機能していた。
スコアレスで迎えた後半は前半よりはフラットな展開。ポルトガルは引き続きプレッシャーを高い位置からかけ続けてはいたが、ガーナはその圧力にはだんだんと慣れてきた印象。ボールを持つことは前半ほど難しいことではなかった。
そうした中で先手を奪ったのはポルトガル。PA内でロナウドが倒されたことに対してPKが与えられる。判定は非常に微妙。接触はなくはないが、自分がガーナ人であれば間違いなく文句はいっていたと断言できる。PKを奪ったロナウドが自ら先制点をゲット。GKにはノーチャンスのコースに蹴り込み心臓の強さを見せる。
しかし、ガーナもやられっぱなしではいない。73分のアンドレ・アイェウの同点ゴールは非常に見事。相手のポジションを釣りまくるオフザボールの動きを連発し、綺麗にゴール前まで繋いで見せた。
だが、ポルトガルはここから再び反撃に。カウンターから右サイドを走り抜けたジョアン・フェリックスが勝ち越しゴールを決めてリードを奪う。さらに2分後には2点目と綺麗に左右対称の左サイドからカウンターを発動したポルトガル。今度のフィニッシャーは途中交代のレオン。ガーナを突き放す3点目を畳み掛けていく。
これで試合は決まりと主力をそそくさと引き上げさせるポルトガル。しかし、ガーナが89分に2点目となるゴールを挙げるとここから試合は一気にスリリングな展開に。追撃弾で勢いに乗るガーナにはもう恐れるものはない。ポルトガルは勢いを抑えるのに精一杯。
中でもハイライトはラストシーンだろう。GKのコスタがキャッチしたボールを地面におくと、背後に忍んでいたイニャキ・ウィリアムズがボールを盗みに行く。だが、これは盗みに行く過程で足を滑らせてしまい未遂に終わる。
正真正銘のラストプレーまで冷や汗をかかされたポルトガル。完勝ムードが一変する薄氷の勝利だったことには違いないが、裏のカードが引き分けに終わったことを考えれば大きな勝ち点3を手にしたと言えるだろう。
試合結果
2022.11.24
FIFA World Cup QATAR 2022
Group H 第1節
ポルトガル 3-2 ガーナ
スタジアム974
【得点者】
POR:65′(PK) ロナウド, 78′ フェリックス, 80′ レオン
GHA:73′ アンドレ・アイェウ, 89′ ブカリ
主審:イスマイル・エルファス