ロジャーズが示した新たなバランス
なかなか結果が出ずに降格圏が近づいているレスター。アストンビラ戦に向けてロジャーズが選んだメンバーは非常に目新しいものだった。まず1つは明確に4-2-3-1型を採用したこと。これまでは4-1-4-1からデューズバリー=ホールがトップの守備に加わる4-4-2への変形でプレスを行っていたが、この試合では明確に前に残る2人が素直にプレスをかけていった。
また、いくつかのポジションで序列の変化が起きて居そうな予感もある。CHは方針転換の色が強いかもしれないが、RSH、LSB、CBに新戦力が組み込まれた興味深い。そして見逃せないのがCF。ヴァーディではなく先発はイヘアナチョである。
レスターのプランは4-4-2ブロックを構えつつ、機を見て後方が列を押し上げながらハイプレスを仕掛けることだった。これに対してはビラはショートパスを中心に打開を試みる。彼らは4-4-2から3-2-5気味に変形。左のSBのディーニュが大外を駆け上がり、SHのブエンディアはエリアに突撃していく。相棒にカマラが入ってからバランスが前よりのドウグラス・ルイスも積極的にエリアに入り込む動きを見せていた。
試合は基本的にはビラの保持と跳ね返すレスターという構図で進んでいく。レスターの保持は縦に早いものが中心だったが、序盤のロングボールはカマラとビラのCB陣において跳ね返されており、お手軽な陣地回復は望めない状況だった。
よって、試合はレスターのハイプレスに対するビラのプレス回避の結果によって大勢が決まることとなる。ビラの先制点はティーレマンスが出て行ったところをビラが同サイドからの脱出に成功し、ガラガラになったバイタルから放たれたブエンディアのミドルがきっかけになっていた。
一方ですぐにレスターはプレスに出て行く際の成功例も示すことになる。無論、同点ゴールのシーンの話である。1列前に顏を出したデューズバリー=ホールのボール奪取にカマラが捕まり、そのままショートカウンターが発動。最後はマディソンが仕留めてあっという間に同点に追いつく。この試合の構図は試合終了まで保持で崩すアストンビラと、プレスからのカウンターを発動させるレスターの関係性で進んでいった。
レスターがこの日見せたバランスはなかなかに興味深かった。中盤より前にフィルター役といえる、対人守備の強みがある選手はいないのに、ボール保持で時間を作ることはできない。そして、撤退守備での我慢も特に得意なわけではなさそうで、オーソドックスなアストンビラの3-2-5変形には完全に後手を踏んでいる。
攻撃はとにかく愚直に走り回っており、前線は裏抜けに特化しているといっていいだろう。レスターの2点目はその賜物である。アシストとなるクロスもとにかくスペースに放たれていた。そして、極端にカウンターに注力しているけども、そこにヴァーディはいない。目立っていたのはボール奪取後に瞬間的にスルーパスを刺しまくるマシンになっていたティーレマンスと、軽いドリブルでカウンターの旗手となっていたテテの2人だった。
先述通り、レスターのブロック守備はアストンビラの3-2-5型の変形に特に対応できていた感じはしなかったため、ビラも押し込むことができれば、2点目のようにご褒美をもらうことができる。だが、この日のビラのボール保持はやたらと不安定だった。特に怪しかったのがCHやCBのパスの判断である。
中央に簡単にパスを刺そうとしたり、あるいはボールを悠々と持とうとするとあっという間にレスターの列を上げたプレスに飲み込まれてしまう。カマラはまさに厄日といっても良く、3失点目でのシーンでも自らのボールロストからレスターにゴールを許してしまうことになる。
ビラのビルドアップはサイドをきっちり迂回すれば特に問題なく前進ができるように見えた。かつ、押し込むことができればレスターの守備陣には崩れるような兆しも見えてくる。それだけにこの日のビラのバックラインとCHの配球は悪い意味で目につく。後半開始直後のコンサの強引なパスは前半から引き続きレスターにショートカウンターの契機を与えてしまう流れが継続することを示していたかのようだった。
互いにスタンスを変えない中で試合終盤に攻撃が実ったのはレスター。裏抜けへの対応をミスったビラが処理きれなかったこぼれ球をプラートが拾いダメ押しゴール。裏抜けだけは実直にというこの日のレスターの前線の信条を体現したゴールだった。
ビラは2点差を付けられはしたものの、敵陣に入り込めればゴールが見えてくるという手ごたえがあったのだろう。SBを両方交代しつつ、サイドからボールを運ぶ機会を増やしたのもレスターのこの日の不具合をきちんとついている感があった。
しかし、最終的には2点のリードは縮まらずに終了。アウェイのレスターがビラ・パークの攻略に成功した。
ひとこと
革新的な新戦術の発明というわけではないけども、この日レスターが見せたプランはロジャーズが発見した新しいバランスという感じがして興味深かった。苦手な局面の多さや、嵩むであろう失点を考えれば劇的な上昇となるかは微妙なところだが、この試合でうまくいったことで後半戦のベースラインになってもおかしくはないなと思った。
試合結果
2023.2.4
プレミアリーグ 第22節
アストンビラ 2-4 レスター
ビラ・パーク
【得点者】
AVL:9‘ ワトキンス, 32’ サウター(OG)
LEI:12‘ マディソン, 41’ イヘアナチョ, 45+2‘ テテ, 79’ プラート
主審:ダレン・イングランド