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「追われる立場の苦しさ」~2022.10.12 J1 第25節 川崎フロンターレ×京都サンガF.C. レビュー

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目次

レビュー

■サイドの押し下げについてきた得点

 この日の京都の機動力に長けた並びを見れば、ハイプレスに来るのでは?と考えるのも無理がないのは確かである。しかしながら、京都目線でいうとハイプレスに出て行くにおいての懸念もある。

 まずは4-3-3同士のフォーメーションにおいてはハイプレス時のかみ合わせが悪いことである。2人のCBを1人が見る構造になりやすく、ここに制限をかけにくい。中盤の枚数は3枚で両軍同数なので、中盤から前線にプレスのヘルプにいけば、3対2となる中盤で守備側は数的不利を受け入れなければいけなくなる。

 そうした構造上の問題に加えて、京都にはコンディションの話もある。10/1から数えてこの試合は4試合目。さらに先週のミッドウィークにおいては天皇杯で120分プレーをしている。メンバーを大幅に入れ替えながら対応したとはいえ、差し迫った日程の中では完全に回復するのは難しい。

 そうした事情が京都のハイプレス志向を阻む材料として存在する。しかし、それでも京都は立ち上がりに前からプレスに出て来た。川崎はバックラインから横に距離を取り、フリーの選手を作ると、前線にボールを蹴っていく。

 ここ数試合の川崎にとって「前に蹴る」という言葉はほぼマルシーニョの裏抜けを活用すると同義である。だけど、この試合は累積警告中のシミッチがいない影響もあってか、縦に早いマルシーニョという選択の優先度は普段よりも低め。右の大外に張る家長に長いボールを蹴っていく。

 バックラインの手前付近でボールを受けた家長はここから味方のオーバーラップを待つようにスローダウンする。バックラインから前線までボールを渡す過程においては急ぐこともあるが、アタッキングサードに入ってからはゆっくりするのがこの試合における川崎であった。

 逆にショートパスで押し下げる過程までは不安定。中盤のパスミスで前進の機会を無駄にすることはあった。それでもハイプレスゆえに食らった致命傷!みたいな失い方をしていなかった点では川崎は優秀だし、京都にとってはプレスのリターンが得られずに厄介だったと思う。

 左右両方で川崎のサイドの崩しは機能していた。特にうまかったのは奥行きの使い方。清水戦ではサイドの崩しにおいて役割が被ってがたがただったのだが、大外の選手を軸に抜け出す動きや横にサポートを作る動きなど安定していた。抜ける前は手前を一回使ってDFラインの注意を手前に引っ張るなども出来ており、京都のようにバックラインがDFの飛び出しに遅れやすいチームにとってはとてもよく効いていた。

 右のユニットはそれに加えて、斜めに刺すパスなども織り交ぜながらエリアに迫っていく。このあたりはさすが川崎の中でも屈指の崩しのユニットという感じである。

 左のユニットも比較的スムーズ。チャナティップは地味ではあったが、ボールをスペースで受けることと逆サイドに逃がすことが出来ており、アタッキングサードにおける振る舞いにおける問題は少なかった日だといえよう。逆サイドに出て行く密集の中でも問題なくプレーしていた。

 川崎にとって決定的なチャンスはあまり多くはないが、少なくとも苦しい体勢でのクリアが増えた京都。そうなれば、川崎にはセットプレーのチャンスが巡ってくる。セットプレーで左に流れたところからクロスを上げたのがチャナティップ。このクロスを谷口が押し込んで先制する。

 得点につながる前の一本目のクロスの時点では谷口のマーカーは麻田だった。だが、チャナティップからクロスが上がる際には麻田はやや山村に意識が行ってしまった分、谷口を咎めるのが遅れてしまっていた。

 川崎の追加点もセットプレーがらみである。CKを山村が競り勝ってポストに当てるとこぼれ球を決めたのは橘田。またしてもデュエルに勝利した川崎のCBが追加点をもたらす。ちなみに万が一、橘田のシュートが入らなかったとしても橘田を引き倒していた福岡はPKを取られていた気もする。

 押し込むフェーズをきちんと左右でこなすことで増やしたセットプレーから2点のリードを奪った川崎。ボールタッチがよくなくても、やることをやればご褒美が降ってくるんだなという感じのボールの動かし方だった。

■机上の空論だったビルドアップ

 京都の保持はなかなかに悩ましいところであった。立ち上がりは長いボールを主体とした前進を行っていた。京都の前線は大柄ではないものの、この日の川崎のユニットはかなり小兵だったこともあり、ピンポイントで狙えば競り合いには勝てるという公算があったのだろう。

 確かに競り合いにはある程度勝てていた京都。しかし、アタッキングサードでの崩しを見据えた時に、両SBの攻め上がりがなければどうしても厚みが出ない。ロングボールを受けた選手がキープして攻め上がりを促せるならばそれでもいいけども、なかなかそこまで時間を作ることは難しい。

 となれば自陣からつなぎでボールと人を前に送る作業をやっていきたいところではある。川崎のこの日のプレスの構造はかなりいびつで京都には十分チャンスがあった。

 川崎はプレスのスイッチが入ると小林が麻田、マルシーニョが井上にチェイスを行う。普段であれば、マルシーニョは井上に外からプレッシャーをかけて、白井へのパスコースを切るような動きでいわゆる外切りのプレスをするのだが、今節はほほ純粋なCBのマーカーとして働いていた。

 そのため、井上→白井のパスコースを阻害する動きが川崎側にほぼなかった。白井は低い位置から動かないことが多かったため、普段であればSBをマークするIHとの距離が非常に遠くなってしまう。チャナティップだから背後をカバーする強度が足りないのではなく、そもそも背後をマルシーニョが消していないのが問題だ。こんな守りの構造は橘田だろうが田中碧だろうがカンテだろうが厳しい。

 よって、京都は白井にパスをつなぐことができれば、川崎のプレスをばらすことが可能だった。しかし、それはあくまで机の上での話である。実際には京都は白井につなぐプレーをそもそも選択しなかったり、あるいはつないだとしてもパススピードやコントロールがうまくいかないせいで構造上はスライドが間に合わないはずのチャナティップや登里が間に合ってしまうシーンが非常に多かった。

 逆サイドの荻原も似たような問題に直面する。高い位置を取って、家長の背後を取ることが出来るポジションにはいるが上福元のフィードやバックラインからのパスが弱く、脇坂のスライドが間に合ってしまっていた。

 本来であれば盤面上の狙い目である場所を使うと、ボールを動かすスピードが足りないせいで逆に川崎のプレスの餌食になるという状況。狙いだけでいえば川崎の嫌がる場所は間違いなくつけているのだが、もたつく間につかまってしまい、逆にハイプレスで川崎に主導権を渡すというよくわからない展開になっていた。

 その分、きっちりプレスを回避して中盤から敵陣にボールを運ぶことが出来た時の崩しは安定していた。京都が主戦場としていたのは右サイド側。右のIHの福岡がサイドに開く動きに川崎は苦戦する。

 京都はサイドチェンジを捨てていた分、松田や武田など左サイドの選手もこちらのサイドに顏を出すこともあった。同サイドに川崎の中央の選手ごと引っ張りながらフリーの選手をパス交換で作り、ファーへのクロスで勝負をかける形を使っていた。

 左サイドは右よりも人数が少なくよりデュエル色の強いマッチアップだったが、大外の荻原は躍動。対面する山根を引きちぎりながらあわやというシーンを作ることが出来ていた。

 決定機は作ることができた京都だが、押し込む機会を生かした得点までは至ることが出来ず。チャンスは作れていたが、それを活かせるストライカーがいない分、自陣からの持ち出しの機会を増やして構造的に川崎を殴ることはもう少ししたかった感じは否めない。

■京都のフォーメーション変更の効果は?

 後半、京都は選手交代を行う。荒木を最終ラインに入れて、前線にパウリーニョを入れる5-3-2に変更。前半に負傷交代した武富→三沢という交代と合わせてすでに3枚の交代カードを使ったことになる。

 立ち上がりは川崎が優勢だったといえるだろう。高い位置からプレスをかけにくい陣形にはなったのは確かである。その分、WBが前に出て行きやすくなったため、両ワイドとマルシーニョと家長にチェックをかけられるタイミングは早くなった。京都的にはここで深さを使われるのは嫌だったはずだ。

 川崎でさすがと思ったのは登里である。マルシーニョが早い段階で咎められている裏を取って奥に進んでいった49分のプレーはさすがである。対応力というか、立ち位置の取り方は不調が出にくい部分。ここはさすがに頼りになる。

 3点目も5バックの壊し方をよくわかっているなという印象。家長を基準に奥に走る選手で京都に裏を意識させる。その分、手前で空いた脇坂からクロスを入れて押し込むという流れ。

 5バックは上下に動かすことができれば、だいぶ揺さぶることができる。脇坂のクロスの精度も素晴らしいが、武田がラインを上げるのがわずかに遅れたあたりは川崎の人とボールの動かし方が効いたところといえるだろう。

 守備の手当てという意味では限定的だった京都のフォーメーション変更だが、ボール保持において効果はあった。曺監督の試合後コメントを見る限り、本丸はもともと保持の修正なのだろう。

 最も大きかったのはサイドチェンジを使いながら川崎を押し込むことを狙い始めたことだ。WBが高い位置を取った効果はむしろボール保持においての方が発揮されたといえるだろう。

 イメージとしては前半はマルシーニョや家長のマークから離れたSBにボールを届けるという相手の陣形の歪みを利用して時間を作る形だったけども、後半はまずインサイドにボールを刺してから外に展開する。

 雑に整理すると前半は外→内というボール回しの流れが内→外になったイメージ。保持をやり直すトライも前半よりも増えており、川﨑がフリーになれば大きな展開を引き出せる。手薄なサイドにボールが入ったら京都はIHがエリアに突撃していく形である。

 交代選手たちはそれぞれの形でアクセントになっていた。パウリーニョは1人でボールを運ぶことが出来て陣地回復の手段になっていたし、前への意識が強いIHに代わって中盤でボール保持に参加する荒木も良かった。前線に投入されたイスマイラはクロスに合わせるターゲットマン役と最終ラインを下りる動きで引っ張るという役割で貢献。京都の攻撃のアクセントになっていた。

 京都の追撃弾のシーンでもイスマイラが降りる動きがキー。この降りる動きでイスマイラが山村を手前に引っ張ったことで、京都がクロスを上げる際に川崎のバックラインがやや数が足りなくなっており、登里とパウリーニョというミスマッチが出来てしまった。

 川崎はプレスがかからない時間帯からリズムが悪くなってきた感がある。つなぎながらの陣地回復はもともももたついていたし、大きな展開ができるシミッチもいない。というわけで直線的に急ぐシーンが増えていた。

 京都のIHが高い位置を取っていたこともあり、カウンターの際は彼らが空けたスペースから急ぎたくなる気持ちもわかる。マルシーニョや遠野のようなそこから運べる選手もいるしね。急ぐプレーほど成功率が上がらないのは必然。後半の川崎は押し返すという意味では難があった。

 プレーエリアは徐々に京都側に移行。サイドからの総攻撃をかけていく。川崎はエリアにに入り込む人数を増やした京都に危険な目に遭わされるシーンはだんだんと増えてきた。

 川崎は3枚替えで守備のスイッチを入れる。小塚はボール保持において時間を消化する役割、いつ入っても涼しい顔で怖いことをやるので、ひやひやする。だが、冷静さでいえばチームでもピカイチ。終盤の保持の関与で時間を作るのに貢献した。

 逆に宮城はもう一声ほしいところ。79分に交代し、同じくまずは守備からかな?と思ったのだけど投入直後にあっさりと入れ替わられてしまうなど目途がなかなか立たないままであった。

 終盤は苦しい展開だったが、丹野を中心とするバックラインが奮闘。スーパーセーブで流れを渡さない。特に丹野のセービングは秀逸。残り時間をかなり残した段階で1点差になってしまえば、やきもきすることになっただろうが、2点差があったおかげでだいぶ気持ちを楽に過ごせた。

 好機を逃さない2点のリードをうまく守り切り、川崎が優勝への望みをつなぐことに成功した。。

あとがき

■穴を突けなかったことは悔やまれる

 京都はやはり前半の白井周辺のボール回しが悔やまれるところ。決定力勝負になれば分が悪いのでもう少し理詰めで進む方にこだわりたかったところではある。ハイプレスからのショートカウンターという鳥栖戦で見せることが出来た武器は体調面でなかなか出し切れないのは仕方ない。

 残りは2試合、残留に向けて立場をこれ以上悪くしたくないところ。正念場の180分になることは間違いないだろう。

■追われる側の抵抗

 さて、横浜FMとの勝ち点差は2である。追われるものは苦しい!というのは今の横浜FMに向けて投げかけられがちな言葉ではあるけども、実は川崎も「追われるものは苦しい」をたくさん経験している2022年の終盤である。

 プレビューを読んでくれている人はわかると思うが、カップ戦も含めて最近の川崎はずーーっと先制している。最後に先制されたのはベンチの人数が足りなかった浦和戦である。ずっと先制はできるのだけども、そこから追いつかれてたくさんの勝ち点を失っている。試合単位の話ではあるが追われる側はとても苦しいというのを川崎も味わっている。

 どんな形でも良いから先制点を取るというのは出来ているし、それに値する試合運びができている展開が多い。それでもなりふり構わず修正してくる相手を制するのは難しい。ハーフタイムを挟んで敵にペースを持っていかれる試合が続いたのが勝ち点を落としている一因だ。リードした状態で後半追加タイムに突入してもたいてい終盤の家長は疲れているし、今節は知念もいない。そういう状況で逃げ切るのはなかなかにしんどい。小塚を入れたここ2試合のトライはそういう意味では興味深い。追われる側の抵抗を模索している感じがする。

 ここから川崎が逆転優勝できるかは全くわからない。追われる立場として今運転席に座っているのは横浜FMである。川崎にアドバンテージがあるとすれば、昨年追われる立場としてタイトルを獲得していること、そしてここ2試合は追われる展開で逃げ切りを果たしたことである。追われる成功体験は意外と少なくはない。

 現在の横浜FMを追う立場と一見矛盾しているようだが「追われる展開にどう立ち向かうか?」がタイトルレースの最終局面を分ける。なんとなくそんな予感がしてしまうのだ。

試合結果
2022.10.12
J1 第25節
川崎フロンターレ 3-1 京都サンガF.C.
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:9‘ 谷口彰悟, 22’ 橘田健人, 61‘ マルシーニョ
京都:69’ パウリーニョ
主審:中村太

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