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「弱点を爆発させた対応力」~2022.4.20 プレミアリーグ 第25節 チェルシー×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■非保持での主導権を渡さない

 まずは目が行くのは両チームのメンバー構成。チェルシーはいたってシンプルな変更に見える。激動の日程だった4月を経て、起用できるメンバーを3-4-3に当てはめた形だった。パレス戦の動きもそうだが、やはり3つのコンペを掛け持ちしたダメージはスカッドに蓄積している。鼠径部に軽傷を負ったリュディガーを含めて、スタメンから数人の主力が外れている。

 アーセナルはラカゼットがベンチに復帰。エルネニー、スミス・ロウ、ホールティングの3枚を新たにスタメンに抜擢した。CBが3枚になる構成はアルテタのこの試合に向けた戦術的な準備の跡を感じるものだった。

 というわけでこの試合の立ち上がり、仕掛けたのはアーセナルの方だった。これまでの4バック基調とは異なり、基本フォーメーションを3-4-3にセットし、バックラインからマンツーマンのプレスを行った。

 プレビューで触れた通り、アーセナルのこの試合の積極的なプレスへの姿勢は賛成。チェルシーが敗れる試合はバックラインの不安定なパスワークから崩れるケースが多いからである。

 その中でアーセナル側の懸念として挙げたのはわずかな時間で前線にパスを付けることができるジョルジーニョと後方から持ち上がるスペースを見つけてマークをズラすことができるリュディガーの存在であった。だが、この2人はこの日は不在。したがって、アーセナルにとってはハイプレスの懸念が少ない試合となった。のびのびと相手を捕まえにくるアーセナルに対して、チェルシーがあまりきれいに脱出する機会は多くはなかった。

 だけども、前線にルカクとヴェルナーがいるのならば、蹴りだすことも悪くない。ということでチェルシーは割り切りのロングボールを蹴ることでプレスを回避した。

 もっとも、これはアーセナルが蹴らせたとも言っていいだろう。アーセナルのバックラインはルカクのパワーに屈することもなく、ヴェルナーのスピードにも抜け出しを許すことはなく、チェルシーの前進の手段として彼らを使わせることはなかった。

 だが、明確にアーセナルペースかといわれるとそうでもない。チェルシーのロングボールへのセカンドボールを拾える率は互いに五分といったところ。ここに偏りが出れば、どちらかがペースを握りそうな雰囲気だったが、そうした流れにはならなかった。セカンドボールがアーセナルに渡ればカウンター、チェルシーに渡れば押し込んでからの保持のフェーズに移行する。

 ここまでまとめると、アーセナルの3-4-3の狙いはまずはチェルシーのバックラインへのプレッシングを枚数を合わせて行い、ビルドアップ隊から時間を奪って前進を阻害すること。この狙いはロングボールに逃げさせたところで一定の効果はあり。完全にペースを掌握することは出来なかったが、少なくとも保持でチェルシーが主導権を握ることは邪魔出来た。

 余談だが、前半15分くらいでアーセナルは守備時の並びを4-2-3-1っぽくしている。ピッチ上の選手の振る舞いを見ていると、ウーデゴールがカンテを注視しながら、サカに右の高い位置まで出ていくように促していたので、ウーデゴール主導の変更かなとも思う。

 恐らく、これはアンカー的に振る舞うカンテをマンマークで監視するとアーセナルはCHが前に出ていく羽目になるので、それを避けるための判断だろう。エルネニーやジャカがあそこまで出ていくのは難しい。だけど、7分にはターンで前を向いたカンテが相手陣に持ち運ぶドリブルを決めているのを見ると無視はできない。

 チェルシーの後方で最も警戒すべきはカンテ!ということでウーデゴールは自分がマークにつくことを決めたのだろう。その分、チェルシーはサールやアロンソは低い位置で時間を得やすくはなるが、カンテに中央から持ち上がられるくらいならば、彼らに持たせた方がマシという判断ではないか。この持たせる場所を変えるアプローチも主導権を渡さないための方策の一つといえるだろう。

■爆発と得点は隣り合わせ

 というわけでアーセナルのプレスには手を焼いてはいたチェルシーだったが、プレスが弱まる場所をアーセナルが残していたことで前進自体はできていた。チェルシーがボールを握った場合、アーセナルはミドルゾーンからやや後方で構える5-4-1で迎撃する。なるべく高い位置で我慢をしたいが、ローラインで受けるのもOKというスタンスである。

 この日のアーセナルで3-4-3と並ぶ明確な方針として見られたのは、ボールを低い位置で奪った後のショートパスでのつなぎである。とにかく蹴りださずに、近い位置で味方とパスをつなぎながら相手のプレスを脱出するというものだった。おそらく、これはチェルシーのプレスを誘発し、即時奪回に来たところを裏返してのカウンターを狙ってのものだろう。

 この日のアーセナルにとってありがたかったのは、サカが右サイドで優位を取れたことだ。プレビューではリュディガーが出場する想定で、足元で受ければアロンソのカバーに出てきた彼に潰される!と述べたのだけど、リュディガーがいないので足元で受けても平気。マルコス・アロンソとの単品のマッチアップならば、サカに分があるのは明らかである。サカという計算できる預けどころがあったため、アーセナルはどこにパスをつなげばいいか、具体的なイメージをもってプレーすることが出来た。

 ただ、低い位置からボールをつなぐアーセナルの方針が機能していたかは微妙なところ。なぜならば、とにかくアーセナルの選手のパスミスが多い。プレスを脱出してサカにボールを届けるよりも、パスミスで相手にボールを渡してしまい、逆に波状攻撃を食らってしまうパターンが目立っていた。

 選手個人のスキルもそうだが、この日の前半のスタンフォード・ブリッジは結構ボールが止まっていたように見えたので、芝が長い影響もあったのかもしれない。アーセナルの選手はほぼ全員つなぎのパスミスに絡んだような感覚だった。ちなみに後半は水をまいたせいかやたらとボールが走るようになった。これにより、アーセナルのパスミスは後半だいぶ減ったように思う。代わりにやたら滑っていたけど。

 前半に話を戻す。ロストからの波状攻撃は危険な形でのアーセナルのピンチに直結していた。よって、チェルシーはバックラインの不安定なパスワーク、アーセナルはボール奪取後のショートパスを使ったプレス回避の失敗とどちらのチームもボール保持で爆弾を抱えた状態で前半を過ごしていた。

 先に爆発が起きたのはチェルシー。ロングボールの処理時にプレスをかけられたクリステンセンがバックパスをショートしてしまう。これを追いかけていったエンケティアがかっさらい先制ゴールを決める。タバレスの低い位置からのロングフィード(この場面ではなぜかショートパスを優先しなかった)と、その直前にロフタス=チークを後方から挟んだスミス・ロウの2人は助演男優賞である。

 だが、直後にアーセナルの爆弾も無事爆発。低い位置からのパスワークでエンケティアのポストがずれたところからカウンターを食らい、最後はヴェルナーにディフレクション付きで仕留められた。アーセナルはエルネニーが高い位置を取ろうとしていたところをひっくり返されてしまったので、ヴェルナーがカットインしたバイタルは手薄な状態だったのが運の尽きだった。

 爆弾が破裂したアーセナルだが、方針は変えず。低い位置からのつなぎの失敗には目もくれないでつなぎ続ける。すると、今度はこのつなぎが成功するパターンから得点が生まれる。低い位置からドリブルで数枚剥がして脱出させたのはジャカ。マルコス・アロンソとカンテをかわし、右のサカに付けた段階で陣形はだいぶアーセナルが有利。そこから、ウーデゴールにつなぎ、最後は飛び込んだスミス・ロウが決めた。爆発と得点は隣り合わせである。

 この場面でもそうだったが、チェルシーは前半の途中からサカとマッチアップするアロンソのフォロー役をカンテに決めた感がある。アロンソとの1on1、あるいはアロンソ&サールとの1on2ならば突破しての崩しが主体だったサカだが、カンテが登場して以降は、カンテをサイドに引き付けておきながら中央にパスを渡せるか?がサカの役目になった感がある。

 この場面のウーデゴールへのパスはその責務を全うした形。ウーデゴールはフリー、クリステンセンはエンケティアがピン留め、逆サイドは大外のタヴァレスとハーフスペースから飛び込んでくるスミス・ロウをアスピリクエタが1人で見る仕組みになっている。アスピリクエタがスミス・ロウに飛び込むのが遅れるのは必然である。

 カンテを動かして空いた中央から逆サイドを使うという形はこれ以降も再現性をもって見られていた。サール&アロンソのサカとの力関係を考えれば、カンテがサイドに出ていかざるを得ない状況なのも確か。チェルシーからすると明確な失策とは言えないが、アーセナルがリュディガー不在により生まれた歪みをうまく利用した攻略法だったといえるだろう。

 アーセナルが得点した直後に再びチェルシーは同点。左サイドからの密集からの脱出に成功すると、最後はタヴァレスの前に入ったアスピリクエタがゴールを叩き込む。

 失点シーンのアーセナルはガブリエウが早いクロスを防げる立ち位置にいなかったのが痛恨であった。この場面ではルカクに引き寄せられたポジショニングになっている。実際にクロスが上がらなくても、ルカクは存在が脅威になって相手の位置を動かすことができる。ボールに触りはしなかったが、この試合のルカクの最大の貢献はこの得点シーンになるだろう。

■チェルシーの失点の共通点は

 前半をまとめるとどちらのチームも爆弾(チェルシー:バックラインのパス回し、アーセナル:ボール奪取後の自陣でのパスミス)を持っている不安定な展開。その上で相手の爆弾を爆発させるアプローチ(チェルシー:即時奪回、アーセナル:ハイプレス)をどこまで取れるか?という流れだった。後半も当然、自らのリスクを覆い隠しながら、敵の爆弾をどれだけ突けるか?がポイントになってくる。

 チェルシーはハーフタイムにメンバー交代。シウバの交代相手がサールではなくクリステンセンだったのは意外。先に述べたようにチェルシーはサカへの対応によってうまれたスペースも『爆弾』になりつつあったので、こちらのサイドにバックラインの交代選手を入れる形で爆弾処理を行うかと思っていたが、そこは据え置きにする形となった。

 チェルシーのバックラインが入れ替わったこともあり、アーセナルは再び3-4-3で仕切り直しのプレッシングを始める。チェルシーのボール回しの爆弾を再びつつきにいくアプローチである。

 チェルシーは前半よりもロフタス=チークが低い位置を取る調整をいれたが、アーセナルはCHがここにチェックをいくことを迷いなく決めていたようだったので、ボール保持の安定感にどこまで寄与したかは微妙なところ。むしろチェルシーの狙いが効いていたのはアーセナルのバックラインの背後。前半以上に積極的にプレスに出てくるアーセナルに対して、裏にヴェルナーやルカクを走らせる。スペースを意識した速攻を仕掛けることでアーセナルのハイプレスを挫こうとした。

 どちらに点が入ってもおかしくない状況で、先に当たりを引いたのはまたしてもアーセナル。中央付近でのアスピリクエタのパスミスを奪って、左の大外から素早く縦に仕掛けたタヴァレスが鋭い軌道でバイタル付近に横パスを刺す。ここからピンボールのように跳ね返ったボールを最後はエンケティアが押し込んでこの試合3回目のリードを奪う。

 チェルシーはまたしてもカンテの戻りが間に合わなかったバイタルを攻略されてしまった形。最後のエンケティアのシューとブロックにはギリギリ間に合わせていたことを考えると、アーセナルはボールを奪ってからシュートまでのスピード感が効いたように思う。タヴァレスがあの速度で持ち上がってからの横パスを通していなかったら、カンテのバイタルのケアは間に合っていたかもしれない。

 リードを奪ったアーセナルはプレスの意識を弱めて5-4-1での撤退を図る。ここの潔さはアルテタならではである。ビハインドを背負ったチェルシーはルカク→ハフェルツの交代で前線のポジション移動の自由を上げる。これにより、アーセナルは『外に出ていくアタッカーをどこまで追いかけるか?』と『中に入ってくるアタッカーを誰が捕まえるか?』に悩まされることになる。

 ハフェルツ投入に伴って突き付けられた悩みへのアーセナルの答えとしては

『外に出ていくアタッカーをどこまで追いかけるか?』
→なるべくCBが追いかけて外で数的不利にならないようにします。
『中に入ってくるアタッカーを誰が捕まえるか?』
→遊軍のエルネニーが最終ラインに入って頑張ります。

 だった。

 エルネニーが深い位置を取る分、ウーデゴールも低い位置を意識したポジションを取る。サンドバックにならなかったのはロングボール一発で陣地回復が図れる場所がチェルシーのバックラインにあったから。無論、トゥヘルが交代せずに放置したサールである。エンケティアや交代で入ったマルティネッリやセドリックなど、多くの選手がここ目掛けて積極的につっかけてはボールを収めることに成功。これにより、撤退守備一辺倒の展開は避けることができた。

 ハフェルツの投入以降、前線の自由度が増したチェルシー。同点ゴールに迫る場面もあったが、反撃を受けることもしばしばで明確にペースを握っていたかは微妙なところ。アーセナルは押し込まれる時間が増えながらもローライン慣れしているエルネニーやホールティングが徐々に慣れてパフォーマンスを上げることが出来たのも大きかった。

 そして、試合を決着させたのはPK。右サイドを駆け上がり、時間稼ぎに走らなかったセドリックのクロスは割ととんでもない方向に飛んで行ったが、ボールと関係ないところでアスピリクエタがサカを倒してアーセナルはPKを獲得。このPKをサカ自身が決めて勝利を決定づける。

 サカがPKを蹴るのは決勝でのサウスゲート式キッカー選出でキックを失敗してしまったEUROの決勝以来。勝利を確実にしたということ以外にも、サカにとっては非常に意義があるPK成功となったに違いない。

あとがき

■バキバキでないからこそ得られたもの

 連敗を脱出し、スタンフォード・ブリッジでの勝利を挙げたことは疑いの余地なく100点の成果だ。一方で、前半のパスミスなど内容はよちよち歩きの部分もあった。チェルシーの疲労感満載のスカッドに助けられた感もあり、CLに向けて完全に視界良好なパフォーマンスとは言い難い。が、この試合で得た自信をより前向きに変えることができる可能性があるという意味では非常に大きな意味を持つ。

 個人的に一番大きな成果だったのは戦況に応じてピッチ内で細かく対応を変えながら相手を攻略できたこと。例えば、2点目のようにカンテをサイドに釣り出しての再現性のある攻撃は、チェルシーのサカ対策を逆手に取ったものである。

 こうした相手の綻びを積極的に突く動きが出来たことは収穫。ことあるごとに課題として口にしてきた対応力でアーセナルがチェルシーを上回ったのは個人的にはとても意外だった。

 スタンフォード・ブリッジでの勝利は想像していなかったわけではない。なぜならば、アルテタのアーセナルはこれまで大舞台でパフォーマンスを一変させた実績があるから。なので、勝つならば前節までとは別人のように見違えたバキバキモードのアーセナルがチェルシーを粉砕するという流れかと思っていた。今回のように互いに苦しい部分を露呈しながらも、相手の隙をとらえてリードし、振り切るような戦い方で勝利するとは想像していなかった。

 そういう意味では今回の勝利はこれまでのビックマッチでの勝利とはまた一味違う感覚である。長いシーズンではパフォーマンスを常に最大に保つのは不可能。相手の隙に付け込みながら、勝ちを拾っていくことも必要である。

 勢いに乗ったバキバキのアーセナルを見るのも心躍るものがあるが、この日のように相手の隙をつく戦い方をスタンフォード・ブリッジで遂行できたというのは、チームとしての図太さがまた一つ増すきっかけになるのではないだろうか。

試合結果
2022.4.20
プレミアリーグ 第25節
チェルシー 2-4 アーセナル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:17‘ ヴェルナー, 32’ アスピリクエタ
ARS:13‘ 57’ エンケティア, 27‘ スミス・ロウ, 90+2’(PK) サカ
主審:ジョナサン・モス

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