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「多面的な長所の掘り出し」~2022.3.19 プレミアリーグ 第30節 アストンビラ×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

目次

レビュー

■自信に裏打ちされたポゼッション

 『スタメンの11人を固定した状態でシーズンを乗り切れればCL出場権が見えてくる』が冬の移籍市場を終えた多くのアーセナルファンの所感だったのではないだろうか。そうした前提に基づくのならば、シーズン後半のアーセナルにとって最も怖いものは過密日程である。

 今のアーセナルはこの過密日程の真っ最中。中2日の3連戦の3試合目、それも前節はあのリバプールが対戦相手である。そしてビラ戦はアウェイで土曜開催にしてもランチタイムキックオフ。厳しい材料がなかなか揃っている。

 その上、冨安以外は万全と見られていたスカッドには新しい欠場者が。尻に問題を抱えているラムズデールと病欠となったマルティネッリの2人を新たに書いた状態でこの過密日程に挑む。11人いれば強いアーセナルは8人しか固定できない状態でのスタートとなった。

 一方のアストンビラは中5日のはずなのだが、なぜかややターンオーバー気味。前節負傷し、今節はベンチ外になっているディーニュの代わりにヤングが入るのは仕方ないとして、チェンバースとコンサ、イングスとブエンディアを入れ替えたのは少し意外だった。

 プレビューでも述べたように、今のビラのフォーメーションは後方の4-3をベースに、前線は選手の特性に合わせて形を変えることが特徴。ワトキンス、コウチーニョと共に前線に入るのがこの日のようにブエンディアだった場合、前線の組み合わせは1トップに2シャドーである。

 よって、4-3-3でアストンビラはアーセナルを迎え撃つことになる。となると、真っ先にビラがぶつかる問題はアンカーのトーマスをどのように監視するかである。4-3-1-2であればトップ下のコウチーニョがついていくのが自然だろうが、3トップがフラット気味に並ぶこの日の形であれば、どのように監視するかを決めないといけない。

 結論としてはワトキンスが背中で消しつつ、ボールがサイドに出たときは逆サイドのシャドーが絞りながら対応するというものだった。ただ、ビラの3トップはこの動きを規律を持ちながら続けることができず、たびたび相手を逃してしまっていた。

 前線だけで無理なのであれば、中盤がカバーするのが自然であるはず。しかしながら、ビラの3センターの優先事項はサイドに出て行ってカバーを行い、前線3枚のプレスバックを抑えて前残りを正当化することである。よって縦方向のスライドに出ていく余裕はない。

 なので、中央の高い位置で起きている問題はなるべく前線で解決してほしい!というのがビラの後方の選手たちの本音だろう。だが、結果的にはトーマスを逃してしまうビラ。左右への展開の自由を序盤から得たアーセナルは、トーマスからビラの陣内を切り裂いていく。

 ビラの攻略のセオリーは3センターをいかにスムーズに越えるか?と述べたが、パスレンジが横に広くパススピードも十分のトーマスから展開ができるのならば、そのセオリーを踏襲するのは難しくない。ビラの3センターのスライドを大幅に上回る形でアーセナルは左右への展開に成功。薄いサイドにボールをつけることに成功した。

 時間が経つとともにトーマスのチェックは後方のドウグラス・ルイスが出ていくことで解決しようとする。だが、トーマスはそれでもなかなか捕まらず。逆に中央のスペースに穴を開けてしまう場面もあった。

 サイド攻撃も気配としては良好。右サイドには大きな展開を受けて1on1を迎えることができたサカ。前節は不発だったが、ロバートソンとファン・ダイクの両睨みを向こうに回してのパフォーマンスなのだから仕方ない部分もあるだろう。1on1の相手がヤングになった今節とは事情が違う。今節は対面のヤングを振り回すことができた。

 ビラがマッギンとラムジーをいつものサイドと逆側に立たせたのは、おそらくビラの左サイド側でサカのカバーリングの役割が発生することを想像してのことだろう。その役割ならば、より深い位置まで守ることができるマッギンの方が適任だろう。

 左サイドはジャカ、ティアニー、スミス・ロウの旋回でサイドを壊すことができるという流れ。スミス・ロウはラカゼットとも連携を取れるし、非常にスムーズに試合に馴染んだと言っていいだろう。

 ビラはサイドに追い込む動きを見せることもなくはなかったが、サイドによって後方でサポートの役割を果たすトーマスまではケアできず。アーセナルは攻撃のやり直しを躊躇わないため、ビラはボールを奪い返すことができない。

 解決策を見出せる両サイドの攻撃、そしてそこに至るまでの安定したボール供給とアーセナルは苦しい日程の中で十分にボールを握ることができた。レノの起用で一抹の不安があったバックラインのプレス耐性も心配などどこ吹く風。これまで積み重ねてきた試合の数を考えれば、昔に比べると自信がついて落ち着いてプレーできるのは当たり前のことかもしれない。

 アーセナルは流れに乗って30分に先制点。セットプレーからの流れでミドルを打てる位置にポジションを取り直したサカがアーセナルにとって記念となるプレミア2000ゴール目を達成する。

 アーセナルのシュートはこのサカのシュートのように密集局面から撃たれることが多いため、ブロックも多い一方でGKが出どころを読めずにリアクションが遅れるケースもある。この場面では密集からのシュートがプラスに働いた場面と言えるだろう。

■二段構えの使い分けは問題なく

 アストンビラの保持に対してのアーセナルは前節の形をベースとして対応する。すなわち、ハイプレス時は右のWGのサカが前のプレスに加わりウーデゴールを追い越す形を取るということである。前節は左のWGのマルティネッリがリバプールの右のSBであるアレクサンダー=アーノルドをついていくようなタスクを追ったため、自陣深い位置まで戻ることがあったが、今節のキャッシュにはよりマイルドに対応。後方のティアニーと連携しながら近い方が対応する形とした。

 前節のプレスにおける大事なポイントはハイプレスに加えて、撤退時の守備の形も用意されていたということ。ハイプレスから迅速に相手のバックラインに余裕を持ってボールを持たせつつ、中央やや自陣よりに4-4-2ミドルブロックを形成する二段構えで相手を迎え撃つ。

 この4-4-2での撤退はアストンビラにとっては先日対戦したウェストハム戦で苦戦した形。ライン間を狭められてしまい王様であるコウチーニョの息をする場所をうまく奪っていたウェストハムのやり方をアーセナルは見事に再現することができたと言っていいだろう。

 アーセナルはハイプレスが空転しかけて前進を許しそうになる時も、ホルダーに粘り強くチェイスをして最低限リトリートしてブロックを組み直す時間を得ることはできていた。そのため、アストンビラの望むようなスムーズな前進を許すことはなかった。

 コウチーニョが締め出されたビラとしてはロングボールを活用したいところだが、あいにくこの日のターゲットはワトキンス1枚。2トップを採用した時に比べると半分である。そもそもミングスが得意のフィードを蹴ることをしなかったことからもロングボールからの前進はそもそも勝算が薄いという読みだったのだろう。

 となればブロックの外から一気に裏に抜けてフィニッシュにつなげるような魔法のようなボールをつなぐしかない。例えば、20分のマッギンのフライングスルーパスとか。通ればそのままワトキンスがフィニッシュに持っていける形ならばチャンスを作ることはできる。

 だが、そのような点の精度が求められるパスは当然何本も出るものではない。チャンスの数が増えてこないのは必然だ。先制点を取ったアーセナルが体力の消耗を抑えることを狙ったか、やり直しながら保持で時間を使うことを選んだこともあり、ビハインドに陥ってからアストンビラの攻撃の機会はさらに減少する。

■長所を引き出すオフザボール

 試合は後半に入っても大枠は変わらないまま推移。ビラはそうした中で左サイドに攻め手を見つける。狙いをつけたのは左の大外を任せられたSBのヤングとセドリックのマッチアップ。細かいタッチのドリブルで右足でクロスを上げる間合いを作る形でセドリックを上回る。

 ヤングはファーへのクロスは精度もなかなか。しかし、ここでもビラの人選が足枷になる。やはりクロスを生かすならばターゲットは2枚ほしいところ。右サイドに交代で入ったトラオレもそこまで張って仕事をする感じではなかったので普通に2トップにしちゃダメなのか!と思った。助かったから別にそんなことしなくていいけど。

 結局イングスが出てきたのはワトキンスと入れ替わる形での1トップで。ジェラードはもう少し相手を見ながらを手を打つ柔軟性があってもいいように思えた。自分達よりも上のテーブルにいるチームとの戦績が悪いのはそうしたところも少しリンクしているのかもしれない。

 後半のアーセナルで面白かった場面は63分のサカのシュートまでの流れ。ウーデゴールがサイドに流れつつマッギンをどかして、トーマスがルイスを引きつけてサカのカットインのコースを開ける。ヤングのフォローがいないならサカは1on1で振り切れるという考えで、周りがサポートランを行う。

63分のシーン

 前提としてこうした動かし方でストロングを活かそうとするのはとてもいいこと。でも、リバプール戦ではこの場面の攻略の前提となるサカの質的優位がそもそもなかった。ってなるといろんな要素を終点に、もっと細かく、もっと緻密にいろんなことを仕掛けないといけない。チームのストロングの引き出し、増やすことは大事である。

 終盤はホールディングを入れた5バックにシフトしてクロス攻勢に備えたアーセナル。ラストワンプレーのようにセットプレーで脅かされるタイミングもありはしたが、決定的なチャンスを作らせないまま試合は終了。ラストのFKをセーブしたレノをラムズデールをはじめとした多くのチームメイトが祝う場面は今のアーセナルの雰囲気の良さを象徴するワンシーンだった。

あとがき

■交代カードでギアを上げたい

 中2日の2セット目という難しい状況をなんとか乗り切ったアーセナル。リバプールへのチャレンジは失敗だったが、前回の代表ウィークからここまでのアーセナルはほぼ完璧と言っていい内容だろう。CL出場権を大きく手繰り寄せた2ヶ月であった。

 とはいえ、そのリバプール戦を意識するのならば、さらなる上積みは必要。63分のサカのシーンで触れたように長所を引き出す手段はさらに増やす必要がある。控え選手での火力アップももう一声。ぺぺもエンケティアも極端に悪いわけではないが、入れたことによってもう一段攻撃のギアを上げられる存在になれば、より戦略的に交代カードを切ることができるはずだ。

試合結果
2022.3.19
プレミアリーグ 第30節
アストンビラ 0-1 アーセナル
ビラ・パーク
【得点者】
ARS:30′ サカ
主審:アンディ・マドレー

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