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「どんなルールが?」~2020.11.29 プレミアリーグ 第10節 アーセナル×ウォルバーハンプトン レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
2レーンだけ

 リーズ戦ではペペの退場でなんとなくうやむやになった感があるが、アストンビラ戦以降のアーセナルはそれまでに見られた「それなりにやれているけど点が取れない」という時間帯すら存在しないまま来てしまっている。相手はめんどくさいウルブスだが、アーセナルにとってはまずはこの時間帯が作りさせるか?というのがポイントの1つだっただろう。

 試合は予想もしない立ち上がりを迎えることに。ラウール・ヒメネスとダビド・ルイスの衝突で試合は長い中断からのスタートになる。ウルブスは負傷したヒメネスに代えて緊急投入されたファビオ・シルバを前線に投入する。

 この日のアーセナルのボール保持はどこか不思議な印象を受けた。左からボールを回すときはジャカがCB間にサリー。右からボールを回すときはCBの横にセバージョスが落ちて後方を3枚にしてボールを回す。ウルブスは4-2-3-1のようなフォーメーションだったので、後方に枚数を確保したアーセナルにはプレスには行けない。というかそんなに行く必要がない。後ろがやたら重たすぎるような気がする。

 サイドからのボール回しで気になったのは前の受け手がハーフスペースと大外にいるのだが、特にハーフスペースにいる選手が内側を意識するプレーが圧倒的に少なかったこと。ボールを受けても外に逃がすだけで、中央を使うようなプレーが非常に少ない。確かに利き足の問題はあると思うが、それにしても不自然すぎる。3分のシーンなどは逆サイドまで展開すれば簡単にチャンスになったのに、ウルブスが寄せている同サイドの攻略にあくまで固執したのは不思議だった。

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 アーセナルは5つあるレーンの内、2つのレーンでしか勝負できていなかった。左にボールがある時のウィリアンは割と絞って中央で受けようとしていたのだが、この中央へのスライドがあるとアーセナルは中を使うのを非常にあっさり断念する。ここまで内側を使わないのならばラカゼットだろうと、オーバメヤンだろうと組み立ての部分はあまり変わらない気もしてきてしまう。だって入らないんだもん。

 同サイドで奥行きに特化したアーセナルの攻撃が全くチャンスがなかったわけではなかったのだが、ここで問題がもう1つ。オーバメヤンの不振である。ボールに飛び込まないし、コントロールやシュートをミスっても笑うどころかノーリアクション。ちょっとメンタル面を含めた心配がある選手である。どんな時も笑顔なのがオーバメヤンのいいところなんだけど。

 幅が狭いせいで頻度が少なく、肝心なフィニッシャーの調子も低調。頻度も精度も欠けているアーセナルにはセットプレーの流れからマガリャンイスのヘッドに合わせる1点がいっぱいだった。

【前半】-(2)
出る、出ないの判断

 アーセナルが中央を使えず、同サイドで完結するということは失敗すれば、即SBの裏を狙うことができるウルブス。両ワイドのネトとトラオレはスピードでも対面で勝負できるアタッカー。特にアーセナルの右サイドは裏をとられるとベジェリンとダビド・ルイスがあっさり入れ替わるので、スピード勝負にはなおのこと向いている展開になった。この入れ替わりは5バックの時も、4バックで内側がホールディングも起きているので今季はこういう守り方。なんか微妙な気がするんだけども。

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 5バックのノリで守っている感のあるダビド・ルイスも気になっている。特にボールサイドにスライドする頻度が高く、ファーサイドをベジェリンに任せている。中盤も最終ラインに入る頻度が多い人海戦術ベースで守っている5バックの時はそれでもいいのかもしれないが、例えば1失点目のシーンはファビオ・シルバに寄っていく必要があったかどうか。確かに最重要人物ではあるが、対人に強いマガリャンイスがついていた上に挟むほどケアすべき位置だったかは微妙なところ。ファーのデンドンケルとネトの2枚をベジェリンに任せてまで寄っていくべきではなかったように思う。

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 逆に2失点目のシーンはファビオ・シルバに楔が入ったシーンでルイスが前に出ていくべきだった。カメラのスイッチ的に細かい状況は把握しにくいが、ティアニーが前に出ているので、同サイドに選手がいるマガリャンイスよりはルイスが出ていく方が適任なはず。ここでカットできずにずるずる行ってしまったことがウルブスにフィニッシュを許すことにつながってしまっている。まぁ頭部負傷と相手を負傷させたことで動揺があったのかもしれないが。

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 このようにアーセナルと比較してウルブスは中央に起点を作ることができており、これにより攻撃に奥行きをだせている。この試合のアーセナルにできなかったことをあっさりこなすことでウルブスは得点を重ねている。

 やらせたくないことを相手にやらせ、やりたいことができなければビハインドは当然だろう。試合は1-2のウルブスリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
後半も縛り継続で

 ざっくり言ってしまえば、後半も前半と変わらない展開が続く。後半も同一サイドを攻略にこだわるアーセナルである。左サイド主体で攻略を狙うアーセナルだが、結局使わない中央にウィリアンが立っていて逆サイドの幅取り役はベジェリンになる。

 ただ、何度も繰り返すようだが、この日のアーセナルは同サイド攻略が主体。左から崩す場合は左のSBが高い位置を取ることが必須である。したがって詰まると両SBの裏は使い放題。ネトもトラオレもここのスペースを突いて陣地回復が可能に。

 トラオレ、今季ここまで不調が続いていたのだが、この試合では陣地回復に活躍。相手の撤退守備攻略の時に大外でボールを持たされるとレパートリーの乏しさを感じるのだが、この試合で任されたSB裏攻略という役割はぴったり。というかむしろアーセナルが両SBを同時に一気にあげるという彼が活きやすいようなやり方を取っていたともいえるのだけど。

 左サイド攻略の過程でミスをするなら100歩譲ってそれでいいのかもしれないが、バックパスからCBを経由したU字でのサイドチェンジの過程においてもパスミスが出るのは非常に厳しい。達成しても意味が薄いパスルート、そして通っても効果的ではないパスを通したところでゴールには近づけないのに、そのパスで相手をゴールに近づかせてしまっているのがこの試合のアーセナルだった。

 そういう意味ではウィロックのプレーの方向への意識はこの日のアーセナルでは悪くなかったと思う。最終局面以外で内側を意識している選手はアーセナルでは彼くらい。右利きの彼が左に流れることが多かっただけでたまたまそうなっただけ(そのほかのこの試合のアーセナルの選手は利き足と配置されたサイドが同じだった)かもしれないが。もっとも、そのウィロックもプレーの精度が伴っておらず、得点につながるプレーを見せられなかった。

 前半も言ったように同サイド攻略でもウルブス相手にチャンスを作れる場面はなくはなかった。中盤を挟んだサイドチェンジも前半よりはやや見られるようになったし、最終ラインを経由した場合でもサイドの守備が手薄になる場面もあったウルブス。

 アーセナルは80分過ぎにラカゼットを投入するも、ウルブスもキルマンをいれて5バックシフト。とりあえずレーンを埋めておけば何とかなるだろうというこのやり方であっさりクローズに成功したウルブス。試合は1-2でウルブスが逃げ切り勝利を収めた。

あとがき

■4バックのメリット、デメリット

 快勝したウルブス。前節から始まった4バックという取り組みのメリットを考えると前4枚の同時起用(ヒメネス、ネト、トラオレ、ポデンス)が挙げられるが、トラオレの起用法が少し他の選手に比べると難しい。セットした守備に対してはゴールから遠い位置での崩しの関与が困難になってしまう。

 今日のような相手ならトラオレは効くけど、その場合は撤退守備での練度の高さが前提。5⇒4の変更によるブロックの脆さはやや見えるし、出場時間をシェアしながら後方5枚をベースに継続してもいいような気もするが。

 攻撃陣はネトとポデンスはもちろんだが、この試合ではファビオ・シルバの貢献度の高さも。前線の起点、中盤を消す守備など緊急出場ながらもプレータイムを与えられれば質が高いプレーをこなせることを示すことができた。

 ひとまず意識を回復したラウール・ヒメネスは何より。一日でも早くピッチでのプレーが見られることを祈りたい。

■薬がない

 選手のコンディションの低下に加えて、やりたいこともわからなくなってきたアーセナル。これまでのやり方が完璧だったわけではないが、指針はわかるし、守備に軸足を置きながらもそれなりに成り立ってきた。前線の選手たちも少ないチャンスながらも能力の高さで決めてきた。

 が、今ではそのサイクルが成り立たなくなってしまっている。正直どんなルールに基づいて何を目指しているのかがわからない。戦術面での不備については本文中で散々指摘したのでもういいのだが、個人のパフォーマンスについては勝利がついてこないことでチームの士気が下がっている可能性もあるのかなと。勝利は最高の薬と言いますし。

 そういう意味ではこのタイミングで士気が否が応でも上がることが期待できるノースロンドンダービーが次節に控えているのはある意味幸運なのかもしれない。どんな相手でも現状では厳しいのは同じだしね。

試合結果
2020.11.29
プレミアリーグ
第10節
アーセナル 1-2 ウォルバーハンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:30′ マガリャンイス
WOL:27′ ネト, 42′ ポデンス
主審:マイケル・オリバー

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