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「新スタンダードか、特異変質か」~2020.8.23 UEFAチャンピオンズリーグ Final パリ・サンジェルマン×バイエルン レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
どこでも挟んで窒息

 互いに息を殺してジリジリと隙を待つ。カップ戦のファイナルが試合としてのエンタメ性に欠ける試合展開になることも多い。観客の不在もそのあとを押すような印象もある。優勝カップを目の前にした血がたぎるようなサポーターの後押しがなければ、まずは様子見という選択をしても不思議ではない。FA杯決勝は序盤にややふわふわした感覚もあったように記憶している。

 しかし、今年のCLのファイナルはこうした杞憂とは無縁。むしろ、今シーズン最後にして今年の欧州を代表するような高いテンションのぶつかり合いとなった。

 両チームともに高い位置からのハイプレス。特にバイエルンの勢いは凄まじかった。中盤から前はボールサイドに寄せるプレスを敢行。立ち上がりからPSGのバックスを苦しめた。PSGがバックパスをしようものならばすかさず押し上げ。前線のミュラーとレバンドフスキを旗頭として、グイっとラインを上げてPSGのボール保持に圧力をかける。

 中央を経由するとなればバイエルンはカウンターチャンス。待ってましたと言わんばかりにチアゴやゴレツカが襲い掛かり、インターセプトしてショートカウンターに移行する。5分のシーンが象徴的。チアゴとゴレツカが強固な壁になり、PSGの前進を許さないぜ!という気迫を感じる場面であった。ムキムキにキャラ変したゴレツカはともかく、そんなキャラに見えないチアゴも迫力満点だったぜ。

 近いところのプレッシャーがきついならば遠くに振ればいい!というのが保持側の定石である。というわけで外に振るボールをケイラー・ナバスが蹴ったのは1分30秒くらいのこと。確かにリスタートからの外を使う動きなので、あまり左右に揺さぶれてはいないけども、フリーだったはずのケーラーがあっという間にコマン、ゴレツカ、レバンドフスキに取り囲まれて鎮圧されてしまうのはなかなか恐ろしいものがあった。定石通りだけど判断が遅れたり精度が伴わないと、中央でもサイドでもうかうかしていていると挟まれるという恐ろしさがこの日のバイエルンにはあった。

 長いボールを操り切れるわけではないPSGがチャンスを迎えたのはバイエルン後方のスペースで自慢の3トップがバイエルンのDF陣と対峙した時だ。しかし、その状況はなかなか作れない。ただし、その状況ができた時のPSGは強かった。

 例えば13分、逆サイドに展開するレアンドロ・パレデスのおかげでやっとPSGは呼吸を許される。そして続く14分。パスミスをダイレクトで逆サイドに展開したのもレアンドロ・パレデス。優秀。

 準決勝で対戦したリヨンが狙い撃ちしていたようにバイエルンの最終ラインにスピード勝負を挑むとしたらボアテングのところから。これもセオリーである。ムバッペでボアテングのサイドからつっかけて揺さぶるPSG。パレデスによって呼吸ができるようになればシュートまで持ち込める力をみせたシーンだった。もっとも力をみせたのは彼らだけでなく、立ちはだかったノイアーもだけど。

 20分過ぎのディ・マリアの決定機は超絶技巧のパスの連続。逆に言えば、偶発的な部分かスーパープレーによるプレスの回避がなければPSGは前進すらままなかったということだ。ただし、前進してしまえばPSGは強いというのもよくわかった部分である。

【前半】-(2)
プレスの優先度

 PSGの守備は準決勝と同じくハイプレスがベース。ムバッペ、ネイマールが走りまくる姿は決勝でも見ることができた。基本的にはライプツィヒ戦と同じくネイマールが背後を消してチアゴを監視しつつ、WGが外からパスコースを切る形。ただし、PSGはバイエルンほど強烈にすべて寄せ切る!という姿勢までは見えず、ミドルゾーンで構えることも多かった。

 ただし、少しライプツィヒ戦とは風情は違っていた。ミドルゾーンで構えるときの特徴は4-4-2のように変形をすること。驚きだったのはいつものようにディ・マリアがMFとの2役をこなすかと思いきや、この役をこなしたのはムバッペだった。ディ・マリアは前線に残っている形。想像だがこうなったのはバイエルンのビルドアップを阻害する優先度の問題ではないだろうか。

 バイエルンのビルドアップで厄介なのはアラバ、チアゴ、そしてSBで言えばキミッヒ。この3人をPSGは監視することを優先したのではないか。バイエルンはピッチを広く使って組み立てるし、マンマークというほどではないけど、PSGはアラバとチアゴに比べればボアテングとゴレツカは放置することが多かった。

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 高い位置を取るデイビスを放置してMFに任せたのも、チアゴとアラバに刺されるパスを食らうくらいなら、デイビスに単独で高い位置で持ち運ばれる方がまだマシと考えたのだろう。5分のアラバの楔の質を見れば放置しておきたくないのはわかる。PSGの後方の3MFはズレたマークの回収役と高い位置に進出してきたSBの食い止め役。前線のプレスからこぼれてきた選手たちを受け止める役割だった。

 ムバッペをより守備の負荷が大きいサイドに置いたのは、それでもボアテングのサイドに置くことで攻撃面におけるメリットがある!と考えたのではないだろうか。

 前線がデイビスを放置する作戦の収支は微妙なところ。奪いどころとしてカウンターで裏返せることもあったが、バイエルンの前半の大きな決定機の1つを作ったのはデイビスの持ち上がりからのレヴァンドフスキへのクロスである。

 20分を過ぎると前線がバイエルンのキーマンにプレスに行けなくなるPSG。徐々にラインが下がり始める。チアゴとアラバを放置すれば、ラインがあげられなくなるというのはわかりやすい展開だった。徐々に最終局面まで侵攻してクロスを上げるようになったデイビスと神出鬼没に最終ラインからのボールを引き出すミュラーを起点にバイエルンが圧力を高めていく。何人いるのかわからないくらいマルキーニョスが様々な局面に顔をだして防いでいた。

 このまま前半終わるまでに押し切れる?というところでのアラバのパスミスからのPSGの決定機。最後に冷や汗をかいたバイエルンであった。準決勝まではネイマールのシュートが彼の日じゃない感じがしたけど、この日はムバッペが彼の日ではない感じのシュートタッチだった。

 前半は0-0。タイスコアでハーフタイムを迎える。

【後半】
摩訶不思議なサイド入れ替え

 前半と比べれば後半は比較的プレスも緩んで穏やかな展開だった。そうなると有利なのは後方でボールを組み立てられるスキルに長けているバイエルンの方。アラバとチアゴ、キミッヒを中心にボール保持でPSGを押し込む。

 そんな中で変化が見られたのはPSGの両SHの配置。ディ・マリアとムバッペの入れ替えである。これでムバッペの負担軽減、かつディ・マリアにキミッヒの監視をしつつカウンターの役割を任せるといういつものディ・マリアの仕事をお願いするものだと思っていた。

 しかしながら、ディ・マリアは左サイドに移った後も前線に残る。どちらかといえばキミッヒよりも気にしていたのはズーレの方。むしろデイビスを気にしていたムバッペの方がやや後方に残っていたくらいだった。なんでだろう。この試合で一番びっくりした采配かもしれない。

 元々、守備ができない攻撃全振りのアタッカーを前においてキミッヒの裏をとる!とかならわかるけど、ディ・マリアは守備ができるアタッカー。というよりむしろ、守備をしながらカウンターの急先鋒もできるという2役が最大の魅力の選手といっていいだろう。それだけにディ・マリアを前に残した采配は驚きであった。しかもムバッペはMF仕事から解き放たないのかよ!という。前半はムバッペをボアテングのサイドに置きたい!っていうメリットがまだ思い浮かんだけど、後半のこの変更のメリットは自分には思いつかなかった。

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 そして、バイエルンの先制点はそのディ・マリアが戻らなかったサイドから。キミッヒとグナブリーのコンビが外に張り、内側のミュラーをかませることで外がフリーに。キミッヒが上げたクロスがピンポイントでコマンに合わさり、バイエルンがついに先制点を得る。

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 やはりキミッヒもボール保持においては安定感抜群でここを放置すると後手に回るバイエルン。右サイドにミュラーが流れることも多いのも相まってPSGはボールを追い込むことができずに、押し込まれて危険なシーンが増えていく。それでなおも頼もしさをみせるチアゴ・シウバ。勝てはしなかったけど、これはこれで神々しい誇らしいPSGでのラストマッチだったと思う。勝ちたかっただろうけど。

 押し込まれる機会が増えるPSGはボールを運ぶ必要性がさらに高まる。それを託されたのはネイマール、そして途中交代のヴェラッティ。終盤のPSGの前進の機会は彼ら2人に託されたといっても過言ではない感じになってきた。終盤はネイマールを左サイドにおいて、ここから運ぶ。ディ・マリアは右サイドに再び戻る。囲まれているのに背負いながら自分の背中の方向に股抜きで決定機を作るスルーパスを出していたディ・マリア。なんなんだよ。どうやっているんだよ。さっきと違ってポジティブな意味だけど。

 ただ、PSGはヴェラッティ以外の交代選手がやや試合に入れなかったように見えた。準々決勝では勝利の立役者になったチュポ=モティングもこの日は不発。劣勢で押し込まれてもなお決定機を作るPSGの底力には感服するが、この日は最後の最後まであと1つが足りなかった。

 終始試合を優位に進めたバイエルンが終盤は試合をいなして逃げ切り、リバプールに並び6回目のビッグイヤー獲得を達成した。

あとがき

■間違いなくベンチマークになる

 とてもテンションの高い試合。早朝から起きた日本のサッカーファンもエキサイティングで楽しめた試合になったはずである。内田篤人が言うようにCLとJリーグは「違う競技だな」と体感する試合でもあったかなと思う。自分はJリーグも大好きだけど、こういう感情を持ったというのが正直なところだ。

 一方でこの試合で見せた強度が新たなスタンダートになるのか?というのは難しいところ。ご存じの通り、特殊な日程の特殊なレギュレーションで行われたファイナル。この試合で見た高い質と運動量の豊富さはこの特殊な日程がもたらしたものである可能性はある。フランス勢とドイツ勢はリーグ的にも他国とは異なるローテでCLに臨んでいる。逆に特殊なやりにくさもあるとは思うけど。

 いずれにせよ、この試合はベンチマークになるはずだ。今後数年の欧州の潮流を見ながら、CLはこのレベルが求められるコンペティションになるのか、それともこのファイナルが特異的な環境が掛け合わさった例外なのか考えていくことになりそうだ。

 というわけでCLレビュー初年度終わり!大変だったけどCL書くのは楽しいね。いろんなサッカーの交差点という感じがして。「Jリーグしか見ない人が欧州を見るのにお勧めするリーグは?」とたまに聞かれるけど、僕はCLがお勧めです。来季もやれたらやろう。これにて今季の欧州のレビューは終わり。あざました!またプレミア開幕で!

試合結果
2020.8.23
UEFA Champions League
Final
パリ・サンジェルマン 0-1 バイエルン
エスタディオ・ダ・ルス
【得点者】
BAY: 59′ コマン
主審:ダニエレ・オルサト

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