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「歪みの矯正力」~2020.3.8 プレミアリーグ 第29節 マンチェスター・ユナイテッド×マンチェスター・シティ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
ワン=ビサカで歪みを無効化

 ブルーノ・フェルナンデスの加入で、ボール保持方面の改善がみられるマンチェスター・ユナイテッド。迎えるダービーは前回対戦ではフィジカルで押し切って勝利を決めた試合である。要は前回勝利した時とは少し違う方向に進みつつあるユナイテッド。シティ相手にどれだけ色気を見せるか?というのがまず見ておきたいポイントであった。

 開始直後、シティのボール保持に対してのユナイテッドの守り方は超積極策。オールコートマンツーマンでシティに挑戦状をたたきつける形であった。

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 シティからすれば当然これは慣れたもの。エデルソンは慌てずに長いボールを蹴っ飛ばすし、アグエロがおりて受ける動きをするのもセオリー通り。マンマーク相手に「どこまでついてくるの?」とジンチェンコが動き出すのもお馴染みの光景である。時にはボールが流れてユナイテッドボールになってしまうこともあったが、ハイプレスに引っかかる機会はあまり多くはなかった。

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    ユナイテッドのハイプレスは開始数分で切り上げることに。ブロック守備を始めるのだが、若干前線の守備の約束がぼやけた感じに。ブルーノ・フェルナンデスはハイプレス時はロドリのマンマークをやっていたのだが、ハイプレスを止めると結構ふわふわしたポジショニングをとっていた。

    ユナイテッドがハイプレスをやめたことで明け渡したのはWBの前のスペース。ワン=ビサカはハイプレス時はジンチェンコまでマークに行っていたが、撤退時はスターリングを監視するようになる。内に入るジンチェンコの代わりに、ここのスペースにギュンドアンやオタメンディが流れてフリーでボールを受ける場面が多かった。ビルドアップに関してはユナイテッドの秩序が薄い前線に対して、シティがうまく歪みを作って前進できていたように思う。

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    一般的に内に絞るSBのメリットとして挙げられることが多いのが、大外でWGが1on1を作りやすくなること。この日で言えばスターリングのところである。左のSBとして大外をさらえるメンディではなく、ビルドアップで貢献して下ごしらえができるタイプであるジンチェンコを使っていることからも、グアルディオラはおそらくここの1on1で勝算があったように思う。逆サイドのフォーデンはそういうタイプではないし。

    しかし、ここのマッチアップはグアルディオラの思った通りにならなかった。ワン=ビサカは試合を通してスターリングを完封。1on1での優位はシティにもたらされることがなかった。

    それだけでなく、同サイドのフレッジやリンデロフがニアのスペースの封鎖の手伝いをする。ジェームズのプレスバックも積極的。この状況により、スターリングは自身の1on1どころか、近くにいた味方を使うことも難しくなっていた。時にはマグワイアが中央に斜めに送られたパスをカットする場面も。リンデロフやマグワイアがチャレンジしやすい状況は5バックスタートの賜物だろう。マティッチは最終ラインが開けたスペースをカバーするという黒子的な役割。最後のところをやらせなければいいという共通認識の元でユナイテッドの守備組織は形成されていた。

   堅かったユナイテッドの右に比べれば、左はまだチャンスがあった。積極的に前に出てくるルーク・ショーの裏側をウィリアムスがカバーする気配はあまりなかったし、同サイドのCHのマティッチもフレッジに比べれば機動力はない。汗をかいて戻ってくるジェームズもいない。シティからするとこちらのサイドはチャンスだったように思う。

    ただ、こちらサイドはシティの攻撃陣もイマイチ。フォーデンもベルナルドもコンディションが悪い!というわけではないのだろうが、なんとなくプレーしたいところが被っているように見えた。欲しかった動きとしては、ルーク・ショーの裏を取って、相手の最終ラインを下げる動きだが、どちらかが裏に抜けたとしても利き足の観点からそのままクロスをあげるのは難しくなる。

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    こうなるとSBの上がりに期待したいところだが、カンセロはオーバーラップのタイミングを掴めず。フォーデンやベルナルドがカンセロが上がってくる時間を作るのが難しかったこともあるだろう。

    シティの右サイドは、深さを作ることができず、ファーに巻いていくようなクロスをペナ角付近から上げていくシーンが多かった。悪いやり方ではないのだろうが、ユナイテッドに対して山なりのクロスはあまり分がいい話ではない。大外でフリーを作れればいいのだが、5バックかつ最後を締める意識が強いユナイテッド相手であまりそういう状況はなかった。

   シティビルドアップでの回避は問題なくできており、あとはアタッキングサードでの勝負だけという状況は作れていたものの、そこから先の打開策を見出せない。シュート機会を増やせないまま、時計の針が進んでいく状況だった。

【前半】-(2)
得点前後の歪み

    ユナイテッドのボール保持に対して、シティも試合開始直後はハイプレスで対抗。しかし、こちらも時間の経過とともにハイプレスはトーンダウンしていった。理由は想像になるが、バックラインがユナイテッドのアタッカー陣との1on1とのマッチアップを受け止め切れないからかなと。マルシャルを筆頭に長いボールを広いスペースで受けて対峙する状況において、シティはやや危うさがあった。

    加えて不安定だったのはシティの右サイドの守備。ウィリアムスにカンセロが釣られるとDFラインの間が空いてしまう。ブルーノ・フェルナンデスはオフザボールの走り込みがうまい。このカンセロとフェルナンジーニョの空いた間に走り込むことでフェルナンジーニョを中央から引っ張り出す。

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    ユナイテッドの選手たちはここから間を取るように斜め方向に走る動きをうまく駆使して陣地回復。逆サイドでジェームズが受ける場合も、ジンチェンコがオーソドックスなポジションを取ることが少ない分、まずは外に開いて受けることでシティのDF陣に判断を強いているように見えた。

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 ユナイテッドが値千金の先制点を決めた場面でも、決め手になったのはマルシャルの抜け出しから。もっとも、セットプレーでの話なので仕組みどうこうよりも出し抜かれたことが決定的だったのだけど。それとエデルソンのミスと。

 優勢に試合を進めつつ、打開ができないもどかしい状況にビハインドという状況が上乗せされてしまったマンチェスター・シティ。先制を機に再びハイプレスを起動するユナイテッドに対して徐々に慌てだす場面が目立つ。元々この日は「前方の隙間を隙あらば刺す」という良い時のシティに比べると、やや横や後ろのパスを選択する頻度が増えている印象であった。さらに迷いが上乗せされるようになり、先制点以降さらにユナイテッドにペースを握られることに。

 試合は1-0。ホームのユナイテッドリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
スターリングを逃がした弊害

 まず後半に見られた大きな変化は、シティがスターリングを内側にポジショニングさせる場面が見られるようになったこと。狙いはもちろん、前半歯が立たなかったワン=ビサカからスターリングを逃がすことだろう。その分、前半は内側に絞っていたジンチェンコが持ち場を外にする場面が増えた。

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    これによって、スターリングがハーフスペース付近でボールを受けてアグエロの決定機を演出する場面が後半すぐに見られた。オフサイドだったけど。ちなみにこの場面で外に開いていたのはギュンドアンだった。

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 シティの決定機に対して、すぐにお返しするユナイテッド。エデルソンのボール処理のミスを狙ったマルシャルにあわよくばという場面を作られることになる。この日のユナイテッドはロングボールでのプレス回避はうまく、高い位置での起点を作る回数は結構多かった。

 逆に攻撃で困ることが出てきたシティ。スターリングに代わり、大外に張るジンチェンコは攻撃に関して脅威になることは適正的に難しい。話が前後するが、グアルディオラが3枚目の交代カードとしてメンディを選んだのはこの大外をカバーする役割でジンチェンコよりも適性があると判断したためだろう。結局はスターリングを逃しても、左サイドからの打開の解決策は見いだせなかったように思う。ジンチェンコの持ち味が消えてしまったのは、スターリングを逃がした弊害ともいえるだろう。スターリングが移動した中央も分厚いから、なかなか何回もオフサイドのシーンのような突破はできないし。

 後半も立ち上がりの応酬が落ち着くと、シティはユナイテッドのブロック崩しに挑む時間に突入する。膝を痛めていたアグエロ→ジェズスの投入に加えて、ベルナルド→マフレズを投入。右サイドも大外で勝負できる状況を整える。

 一番惜しかったのは75分のシーンだろうか。右の大外の裏をカンセロ→マフレズで打開した場面。裏の管理が甘くなりやすかったユナイテッドの左サイドはこの試合でいえば、前半でも述べたように付け込むスキはあったように思う。だからこそ、3枚目の交代カードはウォーカーでもよかった。状態が万全じゃなかったのかもしれないけど。しかし、ユナイテッドはその隙もウィリアムス→バイリーの交代でクローズすることに成功していた。

 ユナイテッドは残り2枚の交代カードも効いていた。イガーロは走れなくなってきたマルシャルに代わって、フィジカルを武器に前線の起点になる抜群のリリーフを披露。中盤のフィジカルを強化するために投入されたマクトミネイが決めたゴールはシティファンのこの日の思い出にダメ押しの泥を塗ったという意味で効果が高かった。交代で入った3選手がいずれも役割を遂行したユナイテッドであった。

 試合は2-0でユナイテッドの勝利。シーズンダブルの達成となった。

あとがき

■先制点が生じた歪みをなおせず

 またしてもユナイテッドに屈したシティ。試合序盤のゲーム運びは印象が悪くなかったが、ズルズルとシュート機会を見つけられないまま先制点を取られてしまい、チームのバタつきが加速してしまった印象だ。先制点のシーンで誰のミスが一番重たいかといえば、エデルソンになると思う。ただ、当人はミスを重ねたものの、試合終盤までチャレンジを続けていたのは結構驚異的なメンタルだなと思った。

    逆に、フィールドプレイヤーが一気に気落ちしてしまったように感じるのはとても残念。ミスから生じた歪みは徐々に大きくなっていってしまった。してやったりのユナイテッドに対して完全に飲まれてしまった形。全く持ってチャンスがなかったわけではなかったが、右ではなく左でワン=ビサカへのリベンジを挑んだグアルディオラの作戦も含めて、この日はユナイテッドを前にひれ伏してしまった印象がある。悪くはないように見えるんだけど・・・・。

   この敗戦でよりプレミアへのモチベーション管理が難しくなってしまったシティ。安泰のCL圏、届かない優勝という状況である。大目標はCLということには変わりはないだろうが、ミッドウィークのアーセナル戦を含めたリーグ2連戦をどうマネジメントしていくのだろうか。

■ほんの少しの色気とたくさんの一生懸命

 「色気をどれだけ見せるのか?」という冒頭の問いに対しての答えは難しいが、少なくともエティハドでの試合よりはこの日のユナイテッドは色気があったように思う。得点シーン以外にも、ブルーノ・フェルナンデスやマルシャルなどが左に流れるのを起点とした攻撃はシティを苦しめ続けていたし、長いボールもフィジカルまかせというか、ちゃんと勝負できるところに入れ続けているように見えた。11人が求められた役割を遂行できたのがこの日のユナイテッドなのだろう。なんといっても、前線が阻害できなかったビルドアップによって生じた歪みを1人でなんとかしてしまったワン=ビサカは驚異的だった。

 本文では触れられなかったが、フレッジ、ジェームズの90分の勤勉ぶりもなかなか。特に隙あらばラインを上げて相手をとらえに行くフレッジの姿勢が、守勢に回ってなおユナイテッドが防戦一方になることを防いでいたように思う。マクトミネイのダメ押し弾も後半追加タイムに高い位置から追いかける姿勢がなければ生まれなかったものだろう。

 CL出場権争いのライバルたちに比べれば上昇気流に乗ったといえそうなユナイテッド。またしても宿敵叩きに成功したスールシャール。果たして、CL出場圏内に舞い戻ることができるだろうか。

試合結果
プレミアリーグ
第29節
マンチェスター・ユナイテッド 2-0 マンチェスター・シティ
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd: 30’ マルシャル, 90+6’ マクトミネイ
主審:マイク・ディーン

   

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