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「リターンに見合わないリスク」~2019.9.1 プレミアリーグ 第4節 アーセナル×トッテナム レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
3種の前進手段

 オープンで激しい撃ち合いを繰り広げることで高いエンタメ性を披露することが多いノースロンドンダービー。しかし少なくとも、前半の立ち上がりは両チームともそれぞれの秩序を持ったものになった。アーセナルもトッテナムも相手に対しての前進の手段は持っていた。

 よりオーソドックスだったのはアーセナルがボールを持っている時。4-4-2フラット気味に構えたトッテナム。そんなトッテナムに対して前進の手段は主に3つだった。1つ目はCBに入ったダビド・ルイスからの長いボール、そして2つ目は構造上空きやすいアンカーに入ったジャカからの展開、そして3つ目は2トップ脇から侵入するゲンドゥージによる組み立てだった。

 そこから先の攻撃の手段としては、ワイドに開いたペペやオーバメヤンの1on1。駆け上がったSBがフォローにやってくることもある。またはラカゼットへの楔からのパス交換。絞るポジショニングを取ることもあるWGとのコンビネーションや高い位置を取ることが多かったトレイラとのコンビネーションで中央突破を狙う。

 大きな展開になることが多いジャカやルイスが起点となる攻撃よりも、よりトッテナムの予測が立ちにくい組み立てはゲンドゥージが起点になったものだろう。左サイドに流れてボールを触ることが多かったゲンドゥージ。4-4-2に対して刺さりやすい斜め方向のパスを駆使して、内のラカゼットと外のコラシナツ、オーバメヤンを使い分けながら中盤のラインブレイクに高い貢献を果たした。

 というわけで3つの手段を使い分けて、トッテナムの4-4-2に対して前進するアーセナルであった。

【前半】-(2)
背負ったリスクは被決定機に

 より特徴的な形になったのはトッテナムのボール保持である。というかそれを引き起こしているのはむしろアーセナルの非保持における規律なのかもしれないけど。この日の非保持のアーセナルは「ほんのりリバプール風味」といった風情だった。

 トップのラカゼットは中央のCHへのパスコースを切り、CBのプレッシングは放棄。リバプールでいえばフィルミーノの役割だ。WGのオーバメヤンとペペは外側からSBへのパスコースを切りながらCBにプレスをかける。
 「ほんのり」とか「風味」とかの言葉を使ったのは、WGの役割があいまいだったから。初めはSBへのパスコースを切ったり、無理な場合は普通にSBへプレスをかけたりしていた両WGだったが、徐々に中央に絞った際のポジショニングが怪しくなってきて、どこのパスコースも切ることができなくなっていった。また、切れていても普通に浮き球で通されちゃうみたいな。

 この日のアーセナルはトッテナムのSBにボールが渡るとインサイドハーフが飛び出していくシステムだったのだが、両WGによるパスコースの制限が甘いため、比較的余裕を持った状態でSBはインサイドハーフと対峙することができた。特に顕著だったのはトッテナムの左サイド。こちらのサイドから攻めた理由は「ペペの方がよりコースの切り方が甘い」だとか「エリクセンがいるから」とか「ソンが流れるのがこっちの方が多いから」とかいくつか考えられる。

 トッテナムの左サイドからの攻撃は結構パターン化されていた。SBが起点になることが多く、これにトレイラが食いついてくるかでその後の分岐が変わる。食いついてくれば、トレイラが空けたスペースに降りてきたソンが前を向いてカウンターの発動。仮にペペのマークが間に合って、トレイラが持ち場を離れない場合はエリクセンがナイルズを引っ張りながらおりてきたスペースを活用。そのスペースに裏抜けしたソンに長いボールを送る。

 アーセナルはハイプレスからのショートカウンターから素早くゴールを陥れるプランだったのだろう。その分、非常にリスクの大きい守備戦術をとっていたように思う。両インサイドハーフのトレイラとゲンドゥージが持ち場を離れる事態は頻発し、両方同時に前に出ていって交わされてしまうことも珍しくはなかった。例えば4分のルイスのシーンのように後方がデュエルに勝利して、カウンターの芽を摘み取れればいいものの、そうならなかった場合は広いスペースでスピード豊かなトッテナム守備陣と対峙する羽目になる。

「この試合のケインは存在感が薄かった」といわれているが、特に序盤に関してはアーセナルのセカンドボールを拾える中盤が空洞化していたので、ソクラティスやルイスと空中戦で五分の勝負ができるケインの存在は大きかったと思う。アーセナルの布陣で言えば空洞化している中盤でセカンドボールを拾う確率はトッテナムの方が高いので、ケインは競り合いに絶対に勝つ必要はない。引き分けでいい。

 逆に「引き分け」も許されないアーセナルの最終ラインは高い位置で止めようと出ていく頻度が高かった。失点シーンもその副作用が引き起こしたエラーといってもよさそう。ソクラティスはなんとしてもケインとのデュエルに勝利しなくてはいけない。ジャカが視界に入っていても空中戦に加勢したのはそのためだろう。結果として、出て言った挙句ボールをつながれるという、2人が出ていった上にデュエルに負けてしまうという最悪の結末になってしまったという形だった。

 アーセナルもトッテナムに対してボール保持の際は相手を後手に回らせる場面は多くあった。しかしながら、前半の決定機の数で差がついたのは、非保持における守備におけるリスクの大きさが関与しているように思う。アーセナルが守備において背負ったリスクの分だけ、トッテナムに決定機があった印象だった。

 徐々にトッテナムはボール保持においても安定感が出てくる。アーセナルの低いラインでのブロック守備においても4-3-3はやや怪しく、トッテナムは前線に楔を入れることはあまり難しくはなかった。とはいえ3センターのタスクの割り振りが怪しくてもジャカのタックルはうっかりで済まされるものではなかった。アーセナルは2点のビハインドを背負うことになる。

 なんとか1点を返して終わりたいアーセナル。オーバメヤン、ペペを軸としたサイド攻撃でもう一度トッテナムを押し込む。サイドの仕掛けで下がったトッテナムのラインに対してマイナスの動きでフリーになるラカゼットはいいアクセントになっていた。

 どうしても1点を返したい気持ちが実を結ぶのは追加タイムのこと。抜けられたら決定機のピンチを防いでチャンスに転じさせたのはゲンドゥージのファインプレー。ペペからの難しいラストパスをコントロールしてラカゼットがぶち抜いた。

 なんとか後半の反撃の足掛かりをつかんだアーセナル。試合は1-2でハーフタイムに突入する。

【後半】
これぞノースロンドンダービー

 前半追加タイムにあげた反撃ののろし。その勢いを絶やさぬように前から出ていくアーセナル。前半よりも高い位置を取るSBは後半立ち上がりに示された彼らの意気込みの表れといっていいだろう。

 幅取りをSBがやる機会が増えて、3トップは絞る機会が多くなる。特にコラシナツが積極的に攻めあがった左サイドは。3トップのコンビネーションを使いながらゴールに迫っていく。ちなみにトレイラもPA内にほぼ常駐だった。トレイラは攻撃においては、後方待機の多いゲンドゥージとアシンメトリーな役割だった。後方はゲンドゥージとルイスのアフロコンビがけん引役となり、カウンターの芽を摘む。波状攻撃でトッテナムを自陣に押し込めたアーセナルが後半立ち上がりは主導権を握った。関係ないけど、トッテナムはなんであんなに自陣からつなぎたがっていたんだろう。GKとCBの足元の精度を考えても、ゴールキックのリスタートにPA内に2人も置きたいのは結構不思議だった。前半にもうあきらめたかと思ったら、後半もその取り組みは復活していた。

 威力があるロングカウンターは散発的に発動するトッテナム。しかし、押し込まれる時間が続くのは芳しくない。交代で流れを変えようと試みる。1枚目の交代カードはラメラ→アリ。前半は4-4-2気味に守るパターンが多かったトッテナムだが、この交代で2トップの一角だったソンが下がり2列目を5人で守る機会が増えた。そういえば、前半の2トップはどちらかというとケインが下がり目でアーセナルのMFを監視する役割を担うことが多かった。シティ戦でもケインは似たような役割をやる時間帯があったんだけど、なんで非保持時でトップ下ロールをやってるのかは気になる。

 話はそれたが、トッテナムが2列目を5人で守る理由としてはサイドバックの手助けが大きな要因のように見えた。特にローズは警告を受けているうえに、対面するペペに苦戦していたため、ここは手当てが必要とポチェッティーノが判断した可能性が高い。

 アーセナルはトレイラ→セバージョスの交代。ポジションは同じインサイドハーフ同士の交代。ちなみに、セバージョスにはSBへの積極プレスは求められなかったようだった。深い位置からのゲームメーカーたちを軸に起点を作っていたこの日のアーセナルにパイプ役のセバージョスを!という交代だったが、同点ゴールの起点になったのは前半から深い位置から奮闘を続けたゲンドゥージだった。ピンポイントパスをオーバメヤンに送り、プレミア初アシストを記録。ここから後の時間帯ではインターセプトマシンと化していたゲンドゥージ。仮に得点に絡まなくても素晴らしい働きだったが、数字に残る成果が出たのは本人としてもうれしいところだろう。うれしそうな陽キャたち。ゴールを喜ぼうとしたけど「やべ、まだ同点だった。」ってボールを拾いに方向転換するオーバメヤンはちょっと面白かった。

 後半は前半に比べると一層オープンな展開になったが、オーバメヤンの同点ゴール以降はいかにもダービーな展開に。特に2点差を巻き返したアーセナルがエミレーツの声援をバックに攻勢を強める。70分から80分までは再びアーセナルの時間帯になった。79分の大外のコラシナツのオフサイドによるゴール取り消しはもったいなかった。57分にも同じく大外でオフサイドにかかっていたので、1回で修正できれば得点に結びついていたかもしれない。

 80分台にトッテナムが流れを引き戻したのはジャカに狙いを定めてつっかけて得たセットプレーが主要因。なぜかこの日はジャカがイエローもらうのめっちゃ遅くて不思議だった。結局もらってたけども。

 最後は両チームのダービーらしい攻め合い(とウィンクスとソクラティスのレスリング)が見られたものの、得点は決まらず。ノースロンドンダービーは勝ち点1を分ける結果になった。

あとがき

■気になるバックラインの取り組み

 前半は定点攻撃からアーセナルを押し込んだトッテナムだったが、後半は相手に明け渡した格好になった。エミレーツでのダービーということもあり、若干気圧される場面も目立った。気になるのはバックラインのビルドアップの試み。シーズン終盤はPA内に2人配置するあの取り組みは実を結ぶのだろうか。アーセナルの似たような取り組みは、去年あんまり実を結ばなかったけどね。

 以前レビューしたシティ戦に比べるとのびのびと戦っていた印象もあるが、若干アタッカー陣に元気な選手が少ないのは気になったかも。あと、エンドンベレはいなくて助かった気がするぜ。

■リスクに見合わない4-3-3

 「ダービーにおいて配置がどうこうなんてナンセンス」という方もいるかもしれないけど、90分間ずーっと攻め合いは今の人間の体力では無理なので、ノースロンドンダービーであろうと、どこかで規律を保ちながら制御する時間は必要である。この試合で言えばそれは前半だった。そして、前半においては用意されたプランにおいて、明らかにトッテナムに対して後手を踏んだように思えた。4-3-3の取り組みは悪いものとは思わないが、本文中で再三触れたインサイドハーフの役割はリスクが非常に高く、それに見合ったリターンは得られたとは思わない。カゼミーロやファン・ダイクがいれば違うのかもしれないが、アーセナルの後方には無双できるレベルの対人強度を誇るCBはいない。セカンドボールすら拾わせない対応をするのは無理筋ではないだろうか。ジャカにアンカーとしての適性があるかはわからないが、この試合をもってアンカー失格の烙印を押すのは非常に酷だと思う。過負荷すぎる。タックルはひどいけど。

 人選というよりはプランの問題で全く同じメンバーでももっとうまくやれる可能性はあったと思うし、逆に人を入れ替えても同じプランならうまくいく可能性はかなり低かったと思う。特に後半は選手個々のパフォーマンスが素晴らしいものだっただけに、枠組みの部分で後押しできなかったのは残念な気持ちである。4-3-3を継続するなら中盤より前の守備のタスクの整理は必須だろう。

試合結果
2019/9/1
プレミアリーグ 第4節
アーセナル 2-2 トッテナム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 45+1′ ラカゼット, 70′ オーバメヤン
TOT: 10′ エリクセン, 40′(PK) ケイン
主審: マーティン・アトキンソン

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