第1節 ブラジル戦

対照的な前半と後半を経ての痛み分け
王国ブラジルの初戦はアフリカの雄であるモロッコ。前回大会でアフリカ勢の未来を切り拓く躍進を見せた彼らがブラジルに立ち向かう一戦は、グループステージ屈指の好カードだということができるだろう。
序盤からその看板通りに強度の高い振る舞いを見せる両チーム。特に相手ボールになった際の瞬間的なボールを奪い返しにいくアクションはともにレベルが高い。保持側のチームはなかなか展開を落ち着かせるのが難しい状況だった。
ブラジルの保持はRSBのイバニェスを高い位置に上げる3-2-5をベースに、2列目の可変性の大きさをアクセントとする形。パケタとハフィーニャはかなり頻繁にポジションを入れ替えていたし、パケタは中盤まで降りてボールを引き取る形を作っていく。
モロッコはミドルブロックの4-4-2をベースにしつつ、サイドにスライドして圧縮。そこからのトランジッションでゴールを狙っていく。保持に回った際のブラジルの即時奪回からの逃れ方はまさにモロッコの真骨頂という感じ。降りてサポートするウナヒや左の大外で一旦預けることができるエル・カンヌスの安定感は抜群で、中盤がフリーでボールをキャリーするための助けになっていた。
前を向く選手を作ると右サイドから深く入っていく形を狙うモロッコ。ディアスとハキミのコンビネーションはハキミのオーバーラップを活用するシンプルな形であるが、抜群の脚力とディアスのタメの巧みさで非常に効果的にサイドから抉ることができていた。逆サイドのマズラヴィとエル・カンヌスも同様。2人でブラジルのDF陣をあたふたさせられるサイド攻略が頼もしいモロッコだった。
先制点はモロッコ。中盤でわずかな駆け引きから隙を作ったディアスからのラストパスはサイバリ。ガブリエウの背中を通したラストパスを叩き込んで、モロッコがブラジル相手に先制点を生み出す。
左サイドでフリーの選手を作って、右サイドに逃すというフォーマットからチャンスを作ったモロッコ。得点以降も主導権を握っていくが、ブラジルは10分後に反撃に成功。左の大外でボールを持ったヴィニシウスが見事な角度のないところからゴールを決める。
モロッコは右SBのハキミがいないシーンではあったが、エル・アイナウイとブアディのCHコンビはスライドで位置を埋めていたので、ハキミの背後を埋めるアクションとしてある程度前提感もあった。それでもその状況で対面をきっちりぶち抜くのはさすがである。
得点から展開をリカバリーしたブラジル。CBのカウンター迎撃も安定感は増しており、明らかに強度の高いチアゴのプレスバックによって奪いに行ける位置も高くなった感があった。モロッコは左サイドでプレスをさばき、右サイドに逃すというメカニズムがなかなか機能せず。最後はブヌがあわや弾くという場面も出てきて前半を終えることとなった。
後半は前半よりは明らかにマイルド。ブラジルの保持に対して、モロッコは特に強烈なプレッシャーをかけることなく、トランジッションで鋭く狙うことも少なめ。前半よりは明らかに流れは緩やかになった形だった。
モロッコも保持に回ればサイドにタメを作っての進撃。ブラジルはモロッコのWGに対して囲い込むような形で封殺し、簡単にスペースを作ることを許さない。ともに守備の機能性が相手の攻撃を上回っており、トランジッションで隙を突くアクションも少なかったと言えるだろう。
ハイドレーションタイム明けも展開は同じ。交互に保持の主導権を握りつつ、ブロック守備相手になかなか切り拓くことはできず。時間とともに引き分けでもOKというニュアンスに変化した試合は決着がつかず。勝ち点1を分け合う結果となった。
ひとこと
後半はだいぶおとなしい流れになった。
試合結果
2026.6.13
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループC 第1節
ブラジル 1-1 モロッコ
ニューヨーク/ニュージャージー・スタジアム
【得点者】
BRA:32′ ヴィニシウス
MOR:21′ サイバリ
主審:スラフコ・ヴィンチッチ
第2節 スコットランド戦

立ち上がりのゴールの壁を越えられず
第1節ではハイチに勝利したスコットランド。モロッコ相手に勝ち点を取れればノックアウトラウンドへの扉はかなり開けることとなる。逆にモロッコはここできっちりとスコットランドを叩き、突破を射程圏内に入れ込みたいところだろう。
スコットランドはまずは受けて入る立ち上がり。4-4-2で少し引き気味からモロッコのポゼッションを受け止める。スコットランドは簡単なモロッコの揺さぶりから決壊してしまった感じ。右サイドのやや角度のついたところから抜け出したサイバリを捕まえきれずに角度のついたところから失点。ハンリーがわずかにラインを上げ損ねたのが命取りとなった。
得点は特に試合の流れを変えることはなし。基本的にはモロッコがボールを持ちつつ、スコットランドはカウンターフォーカス。右サイドのマッギンを中心としたファストブレイクからゴールを狙っていく。
だが、モロッコのポゼッションを崩すのは簡単ではない。マズラウィの枚数調整から、スコットランドのプレスを空転。プレスからの主導権も与えない。
保持においてもスコットランドは苦戦。相手を誘引してアダムスがファウルをロングボールからもぎ取る形から単発でチャンスを作った場面はあったが、基本的には前進は困難。前半の終盤にサイドから泥臭く前に進むことがようやくできたくらい。
保持でプレスのギャップを作ったモロッコは右サイドから前進。ディアスのキャリーから一気に加速する。ブアディやウナヒなど、降りるアクションを右に定めており、第1節とは逆方向の動きを見せていたのが印象的だった。
後半になっても流れは変わらず。ハイプレスに出ていくことをやめないスコットランドだが、モロッコはショートパスから回避。マイナスのパスに合わせてラインを上げようとするスコットランドに対して、降りるCHに合わせて高い位置をとるSBから前進をしていく。押し込んだ後はセットプレーからニアフリックのエル・カンヌスなどゴールに迫るシーンを作っていく。
だが、スコットランドも同じくCHを低い位置に落とすことで少しずつ前進のきっかけを掴む。SBの上がりにモロッコのSHが早めに下がるところを利用し、CHにプレスがかからない状態を生み出す。
ようやく前に枚数をかけることができるようになったスコットランド。終盤にようやくラッシュをかけるが、最後までゴールを破ることはできず。開始直後のゴールを守り切ったモロッコが勝ち点3を手にしてGS突破に前進した。
ひとこと
立ち上がりのワンミス、スコットランドに取っては重たくのしかかってしまった。
試合結果
2026.6.19
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループC 第2節
スコットランド 0-1 モロッコ
ボストン・スタジアム
【得点者】
MOR:2′ サイバリ
主審:イルギス・タンタシェフ
第3節 ハイチ戦

片道切符のハイチが見せた意地
すでに敗退が決まっているハイチとあとは通過順位だけが重要となるモロッコ。対照的な状況ながら、試合は非常に熱の入ったものとなった。
まず勢いを感じたのはハイチのハイプレス。明らかに行けるところまではフルスロットルで行くという気概を感じるハイプレスでひたすらモロッコを追い込んでいく。
しかしながら、モロッコも落ち着いた対応。ハキミのフリーマン化に始まり、エル=カンヌスやディアス、サイバリなど2列目の面々がかなり自由な動きを見せながら、ハイチの動きに迷いを与える。サイドアタッカー陣は止まった状態からでも1枚を剥がすことができるという点で明確に質での優位を持っているモロッコだった。
だが、ハイチはとにかく相手を捕まえ続けることでこの日は生きていく!という流れ。その意気込みが実を結んだかのようにハイチは10分で先制点をゲット。右サイドのカシミールのロングボールから追い越すデュベルネからのクロスがオウンゴールを誘発。歴史に名を刻む初ゴールを生み出してみせる。
以降も落ち着いたポゼッションでモロッコに対抗するハイチ。引き込んで相手のSHの背後にSBを置いてそこにボールを届けることでサイドからの進撃のきっかけを作っていく。
それでもオープンな展開が続けばさすがに優位なのはモロッコ。プレス回避も安定していく中で前線に飛び出すハキミが徐々に決定機を作っていく。
すると、そのハキミが同点ゴール。ディアスで左に揺さぶり、クロスを上げると飛び込んで試合を振り出しに戻す。
ここから前半は撃ち合い。モロッコの一方的なペースを許さない!というスタンスを見せたハイチは脈絡もなければプレミアで見たこともないイシドールの素晴らしいミドルでリードを奪う。
だが、すぐにモロッコも反撃。右サイドからまたしても抜けたハキミの折り返しをサイバリが仕留めてまたも同点。ハーフタイムはタイスコアで迎えることとなる。
後半はさすがにハイチは下火に。4-4-2のミドルブロックを組むケースが多く、その中でモロッコは保持の安定を図りつつ、敵陣では即時奪回を仕掛ける。ハイチが抵抗しようと速いテンポでプレーすれば、そこから全体のスピードを上げて、その時の質で相手を上回るというサイクルを延々と回すことでハイチを圧倒。ただただボールを逃すことでいっぱいのハイチと比べると緩急をつけながら相手の空けたスペースを侵略するという数段上の攻撃を繰り出すことができていた。
試合を動かしたのはセットプレー。この試合らしくシュートは豪快に。途中出場のラヒミの一撃でこの試合で初めてモロッコが前に出る。
ビハインドになったところでハイプレスを再開したハイチ。基本的にはアグレッシブなこの試合のハイチの姿勢は肯定したかったが、最後の最後はセルフジャッジによる失点に泣いたのはもったいなかった。
決定的な4点目を手にしたモロッコだが、ブラジルのスコアによって2位の座は変わらず。F組の首位との対戦に臨むこととなった。
ひとこと
大会の外れ値のような捨て身感のあるハイチとモロッコがうまく組み合った試合だった。
試合結果
2026.6.24
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
グループC 第3節
モロッコ 4-2 ハイチ
アトランタ・スタジアム
【得点者】
MAR:39′ ハキミ, 45+1′ サイバリ, 78′ ラヒミ, 89′ ヤシン
HAI:10′ ブヌ(OG), 43′ イシドール
主審:ダニー・マッケリー
Round 32 オランダ戦

一発回答のパワープレーで列強切り崩しに成功
日本を抑えてグループFの首位通過を果たしたオランダ。迎えるのはグループCをブラジルの次点で突破したモロッコである。
オランダはグループステージと異なる3バックを採用。ナチュラルな立ち位置で4-4-2をとるモロッコに対して、バックラインの数的優位を確保する。
時にはインサイドの反転から背後への急加速という形も持っていたオランダだったが、基本的にはボールは外循環。幅をとるWBもしくはシャドーから追い越すアクションから相手をサイドから削っていく。
逆にここまでのオランダの攻め筋のメインだったインサイドのブロビーを活かすような形は前半はほぼ見られず。あくまで外フォーカスというこれまでのオランダとは違ったプランだった。
しかしながら、アウトサイドでの攻め筋がうまくいっていたかというと微妙なところ。特に3人での連携は不確定要素が強く、右サイドからダイレクトにサマーフィルが抜けるなど、よりシンプルな形の方が有力だった。
モロッコの保持は片方のCHがアンカー役。後方はSBを枚数調整役としてのビルドアップを敢行。CHのサリーも含めて後方は3枚をベース。オランダはブロビーが背後で中盤をケアする慎重な守備体系だった。
モロッコの保持の特徴はどちらか片方のサイドに狙いを定めて人をかけていくスタイル。今日は左サイドがターゲット。トップのサイバリがファストブレイクでファン・ヘッケとガチンコ勝負をしつつ、ブアディとウナヒがサイドに流れながらポイントを作りにいく。
オランダが中央を固める流れになったのでこちらの攻撃もサイドから。しかしながら、オランダのDFを凌駕できないまま展開は膠着。セットプレーでニアに入ったエル・アイナウィに合わせたCK以外は得点の機会はなし。
サイドの削り合いとなった展開はオランダがポゼッションでは優勢もチャンスらしいチャンスがないまま展開が進む。試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
後半は前半と比べるとモロッコの保持の局面が多くなったのが特徴。こちらもアウトサイドからの崩しにフォーカス。オランダと異なり、出張で人をあえて偏らせながら圧力をかけていく。
しかしながら、仕上げがトランジッション寄りなのはオランダと同じ。特にアケと対峙したハキミのフリーランは抜群に効いており、オランダの3バックを無効化してみせた。
オランダも押し下げられながらもサマーフィルとブロビーによって陣地回復を図っていく形。攻撃の形として得意なのはむしろこちらの方なのかなと感じるところもあった。
カウンターにフォーカスしたオランダはファストブレイクから先制。サマーフィルとガクポの2人で完全にやり切った速攻から先制点を生み出す。
反撃に出たいモロッコはここからは保持一辺倒。しかし、インサイドを固めるオランダはなかなかスペースを簡単に与えず、試合は膠着する。
だが、そんな状況をモロッコはシンプルなパワープレーで打開。高い位置に出ていったディオプが一発回答。ファン・ダイクを出し抜いてのゴールで土壇場で追いつく。
延長戦も構図は同じ。自陣を固めるオランダを一方的にモロッコの保持が殴っていく格好。時にはプレスにいきたい素振りも見せるオランダだったが、誰も彼もドリブルができるモロッコに対しては空振りに終わるケースばかりだった。
それでも自陣を固め切ったオランダ。勝負となったPK戦は互いに失敗が目立つ格好となったが、モロッコの5人目となったサイバリがエースとしての役目を果たして勝利を引き寄せる。オランダの夢はここで止まることとなった。
ひとこと
カウンターフォーカスの展開で前線を務められる交代選手がもう1人欲しかった感のあるオランダ。そして、あのパワープレーは3バックなら食い止めたい感。
試合結果
2026.6.29
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Round 32
オランダ 1-1(PK:2-3) モロッコ
エスタディオ・モンテレイ
【得点者】
NED:72′ ガクポ
MAR:90+1′ ディオプ
主審:ウィルトン・サンパイオ
Round 16 カナダ戦

タフな戦況で際立つ強さ
Round16の戦いはヒューストンからスタート。開催国の一角であるカナダが迎えるのはすでにオランダを下したくらいでは誰も驚かなくなっているモロッコだ。
試合はモロッコの保持が中心となる立ち上がり。ミドルブロックの4-4-2を組むカナダに対して、モロッコはブアディがアンカー役でSBが枚数調整役となるいつもの形。この日の保持の方向性の特徴はダイレクトにカナダの背後を突くボールが多かったこと。いつもよりも手数を少なくするようなアプローチからカナダの守備を揺さぶる。
誤算なのはCFのサイバリが負傷してしまったことだろう。縦横無尽に動けるCFがいなくなったことで、ダイレクトに背後を狙うプランはやや停滞した感がある。加えて、自陣でのパスワークでのミスが目立ったことでカナダのカウンターのきっかけを呼び込んだことも誤算。サイドに展開するボールをインターセプトで狙い撃ちすることで、そのまま前に推進力を持って出ていくことができた。決定機という面ではカナダの方が優位な前半だったと言えるだろう。
カナダのもう1つのチャンスは押し返したところからのセットプレーだろう。フーゲロールスの高さを活かすような空中戦や二次攻撃からのジョナサン・デイビッドの決定機などあわやというようなシーンも出てくるように。
保持の局面は着実に増えるモロッコだが、クリティカルなパスは入らず。カナダの高いラインを攻略できないまま、前線の苛立ちがイエローカードにつながってしまった感じがあった。カナダからすれば自陣のボックス内を防衛する必要はほぼなかった前半。戦略的にはバッチリとハマったと言えるけども、この内容ならば得点が欲しいという展開だった。
後半、モロッコのポゼッションは広げるようなパスワークにシフト。まずは縦パスという方向性から微妙に変えたことでサイドのスピードを活かすような局面が出てくる。
サイドからの揺さぶりに成功したモロッコはセットプレーからの先制点。虚を突いたマイナスのパスからウナヒが仕留めて難しい展開の中での先制ゴールを決める。
ポゼッションからハイプレスで反撃に出ていくカナダ。先制してなお前に出てくるモロッコに対して、1枚を剥がすことはできるのだけども、そこからスピードに乗って敵陣を侵略するところまでは至らなかった印象だ。
モロッコはブアディからアムラバトにスイッチすることで一時的にポゼッションの落ち着きを取り戻したように見えた。だが、徐々に縦に速いパスをカナダにカットされる場面も増えてしまい、またもカナダに押し込まれる場面が出てくる。
その状態でも解決策を見せたのがこの試合のモロッコ。カナダの右サイドのモタモタをカウンターで制圧。数的優位の速攻からマイナス方向のウナヒがまたしてもゴールを決める。
最後まで諦めなかったカナダだが、モロッコが3点目を決めて完全にとどめ。タフな展開の中でも完勝を果たしたモロッコがベスト8一番乗りを果たした。
ひとこと
らしいポゼッションが出せない中での完勝はむしろモロッコの強さを感じさせるものだったと言える。
試合結果
2026.7.4
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Round 16
カナダ 0-3 モロッコ
ヒューストン・スタジアム
【得点者】
MAR:50′ 82′ ウナヒ, 90+8′ ラヒミ
主審:マイケル・オリバー
準々決勝 フランス戦

こだわりのなさと引き出しの多さを感じるフランス
ついにW杯は準々決勝。準決勝に一番乗りを果たすべくここまで順風満帆のフランスがモロッコを迎え撃つ格好の試合だ。
立ち上がりはフランスがボールを持つスタート。4-4-2でまずは構えながら様子見というモロッコに対して、とりあえず降りるアクションからフリーマンを作りつつ、押し下げに成功。セットプレーからドフリーのウパメカノはいきなりの決定機だった。
フランスの保持は右サイドが中心。デンベレもしくはオリーズが大外に張ることで仕掛け、ハーフスペースアタック、クロスを探りながら、PAアークの周辺での横断も画策。大外の仕掛けに陣形が引っ張られれば、ファー側のCHの右半身側のケアが甘くなるから、そこからのミドルを狙うのはフランスの常套手段。だけども、モロッコもさすがにそこは簡単にはやらせないよ!という形で先回り。
ただ、それならそれで横断し切っちゃう!ができるのがフランスの怖さ。結局のところ、右でも真ん中でも左でも攻め筋を持っているので、相手が薄いところを使えばいいという割り切り方ができてしまう。
ミドルゾーンでボールを奪ってカウンターに出るケースもなくはなかったモロッコだったが、全体のラインが押し下げられている分、フランスを出し抜くような形まで持っていくのはハード。ホルダーがスピードに乗るシーンが作れても、一番前に人がいないからゴールの怖さを具体的に作り出せないシーンもあった。
フランスは逆にコネの出足が光る格好。狙いを定めたところから一気に奪い返し、逆にフランスはカウンターに出ていくこともあった。
モロッコの保持はサラー=エディンが中盤に関与する形で後方を3-2ブロックに変形する。フランスを動かしながらミドルゾーンで加速していきたいところではあったが、モロッコが最終的に使いたい右サイド側はほぼフランスが陣形を動かさないまま対応。デンベレが時折2トップ気味にプレスをかけにいくことで中盤のCH付近にも圧力がかかっている状況だった。
敵陣に入り込めることもなくはなかったが、そういう状況でもフランスのロングカウンターは牙を剥いてくる怖さがある。実際に右サイドからの手数をかけた攻撃をひっくり返す形でカウンターに成功したフランスはPKを獲得。絶好の先制機を迎えるが、このPKはボノがストップ。先日のPK戦では立ちながらのセーブが話題になったが、この場面では間合いを合わせて低い位置のシュートをセーブする能力の高さを見せた。
大ピンチを防いだハイドレーションブレイク明けにモロッコは左サイドからのボール回しを少しずつ増やす形に調整。前に出てくるデンベレの背後のスペースを狙っていく。
フランスはコネがデンベレの背後をカバーするシーンも何回かあったが、トータルで言えばデンベレが前に出ていくリスクを取る必要がないと考えたのだろう。ラインを下げてある程度モロッコにボールを持たせることを許容する形にシフトした。
そのため、モロッコのポゼッションの機会は増加。ゴールを狙うことを考えればズレた中盤から横断するのが理想なのだけども、0-0だしカウンターの脅威に晒されにくい状態でトライができるのであればいいのかなという感じであった。
後半も前半と同じようにフランスは右サイドからのアプローチでスタート。クンデが絞ることで大外へのパスルートを空けて、ここからデンベレとオリーズが前を向いて仕掛けにいく。後半もサラー=エディンが踏ん張る形で対応するモロッコ。カウンターにかける人数も前半よりは多くなり、悪くない後半の入りとなった。
フランスがだるいのは右の大外の手応えがイマイチと判断した時にあっさりと捨てて次の手段に移行できることだろう。オリーズはライン間に狙いを定めて、今度は異なる切り口からモロッコのブロックを突っついていく。
波状攻撃を行うフランスは最終ラインを壊す手前のところで攻撃の完結に成功。股を閉じるDFの手前で脇からドライブするようなシュートをコースに打ち込んだエンバペが先制点を奪い取る。波状攻撃のタームをキープしたCH陣の防波堤具合もさすがであった。
こうなるとモロッコは前から出ていきたくなるところ。しかし、そのシフトにおいて早々にディオプが警告を受けたことでライン間は間延び。スローインからのリスタートでデンベレがまたしてもミドルでコースを打ち抜いてリードを広げる。
2点差はセーフティと判断したフランスは選手交代からテンポとラインを下げつつ、カウンターフォーカス。モロッコの攻撃をある程度受けて守備陣にプレー機会を与えながら、バルコラやマテタからカウンターを狙っていく。
モロッコの怖さをつゆほども感じさせなかったフランス。文字通りの完勝で準決勝一番乗りを果たした。
ひとこと
ここで勝負したいという基本線がありつつ、効かないと思ったらあっさりと捨てられるこだわりのなさと引き出しの多さがフランスの真骨頂だと思う。
試合結果
2026.7.9
アメリカ・メキシコ・カナダW杯
Quarter-final
フランス 2-0 モロッコ
ボストン・スタジアム
【得点者】
FRA:60′ エンバペ, 66′ デンベレ
主審:ファクンド・テージョ
総括

戦績だけでは測れない図太さ
前回大会の躍進で大会前からチームの注目度は高め。その期待に応えて、アフリカ勢では筆頭と言える成績を残すことに成功。前回よりも順位は落としたものの、2大会連続で上位に進出したというのは大きな成果となる。
特徴となるのはやはりしなやかな保持。ブアディ、エル・アイナウィ、ウナヒといった中盤だけでなく、エル・カンヌスも列落ちすることで高いハイプレス回避に成功。特に密集した時のボールコントロールと少ないタッチで前を向くスキルの高さは別格であり、多少メンバーが入れ替わってもパスワークから前を向く選手を作ることができる。
基本的に降りるという方法の優先度が高いチームには奥行きを作れないスパイラルにハマるというあるあるがある。しかしながら、モロッコにはそうしたバランスはなし。前線のサイバリやSBのハキミなど、後方へのフリーランで相手を引っ張るようなアクションから全体の重心が下がらない工夫を見せている。全体の重心と即興性のバランスがよく、可変式フォーメーションの不規則さを相手に一方的に押し付けつつ、自分たちはきっちりと操っている。
加えて、今大会は保持に寄っている展開だけではなく、いろいろな力を試される中で結果を出したことが興味深かった。ブラジル戦ではプレスの掛け合いという強度勝負。サイドへの圧縮からのトランジションでゴールに迫っていくことで王国と渡り合った。
オランダ戦ではディオプのパワープレーで一発回答で同点ゴールを引き寄せることに成功。カナダ戦ではボール保持が本調子ではない中で、押し込まれる展開を耐え忍びながら後半の広げるポゼッションからの打開に繋げることで突破をすることができた。
全てが一級品だったフランス相手には圧倒的に吹き飛ばされてしまったというのは仕方ないところもある。だけども、この大会ではそうした多様な展開に対応できたという意味で収穫は大きい。自分たちの強みを押し付けるチームから、対応できるチームへも進化を遂げた。
保持主体のアンダードッグから、保持を軸としながら多くの局面に対応しながら簡単には負けない図太いチームへ。戦績は前回大会よりも下がったが、のし上がることに成功したのが今回大会のモロッコだった。
Pick up player:ヤシン・ブヌ
スタンディングのPKストップと、足抜きを生かした流れの中でのファインセーブの両方を見れたのが自分の中ではとても印象に残っている。
