MENU
カテゴリー

「賭博ダメ、絶対」〜勝手にプレミア定点観測 23-24 シーズンまとめ編 part2~

 Part1はこっち。

目次

【6位】チェルシー

18勝9分11敗/勝ち点63/得点77 失点63

パルマーの登場で見えた最終形の輪郭

 主力の大量放出にポチェッティーノ就任、そしてリバプールとブライトンとのカイセド狂騒曲でスタートしたシーズンは非常にアップダウンが大きかった1年間だったと言っていいだろう。

 補強においてポチェッティーノにどれだけ権限があったかはわからないから、監督選びの影響が編成のスピードにはあまりなかったかもしれないが、序盤戦はとにかく戦力のスクリーニングと布陣の最適化に費やした印象。ポチェッティーノは3バック化で後方の陣形を安定させながらポゼッションの最適解を探っていくスタートだった。

 その序盤戦を牽引したのがジャクソンとスターリング。猪突猛進にゴールに向かうことができる彼らによって、チェルシーの攻撃は推進力がもたらされた。

 しかしながら、彼らの強引さは足枷にもなった。速い展開を守り切るほどチェルシーのバックスはカウンター対応に優れているわけではないし、縦に急ぐ展開が単調すぎる攻撃を招くことにもなった。特に抜け出すまでに力を過ぎてしまい、フィニッシュワークが安定しなかったのが頭が痛い。さらにはスターリングはともかく、ジャクソンは60分付近にはガス欠をするので、推進力が持続可能なものでもなかった。

 そうした中でチームをより保持寄りに変えることとなったのは中盤戦に台頭したパルマーの存在が大きい。ライン間、右のハーフスペースを定位置として縦パスをレシーブしてここからチャンスメイクとフィニッシュの両面で期待ができるパルマーによって、今季のチェルシーの最終型がようやく見えた感じがする。

 後方から縦パスを入れられるカイセド、大外を回ることができるグスト、最終盤には1on1で勝負できるマドゥエケが加わり右サイドを中心に攻撃のネットワークが構築された。序盤戦は加速一辺倒という感じだったジャクソンもポストプレーで味方を解放する役割を身につけられるようになった。そうした変化もあり、シーズン終盤は展開に対して柔軟なポゼッションを行うことができるようになった。

 CBが時折発作を起こしたようにリスクをかけまくるプレーをミスっては大ピンチを招くなど、特に後半はバタバタした展開を呼び込むことが多かったのは玉に瑕だったが、基本的には保持で戦うベースを作ることができた終盤戦だと評していいだろう。

 それだけに再び監督交代の舵を切ったのは意外でもある。来季は再び構築からスタートするシーズンになりそうだ。

Pick up player:ニコラス・ジャクソン
 若干ネタ枠っぽいキャラクターではあるが、堅実なポストによってゆったりとした押し上げができるようになったのは大きい。無理のないフィニッシュができるようになったので決定力の面でも序盤戦にはない落ち着きを見せている。来季、さらなる飛躍を果たせるかどうか。

今季の道のり

【7位】ニューカッスル

18勝6分14敗/勝ち点60/得点85 失点62

持ち味の強度は二足の草鞋に邪魔される

 CLとの二足の草鞋というチャレンジとなったシーズンはなかなかのハードモードだった。なんと言ってもCLはくじ運が悪い。結果的にベスト4に2チームを送り込むこととなった死の組であるグループFにぶち込まれてしまった。それでもパリを倒すなど、十分にインパクトは見せた。

 しかしながら、そのCLの負荷は国内にまで皺寄せが。強度をベースとするスタイルは1週間に2試合という過密なスケジュールによって機能が低下。相手を圧倒するようなコンパクトで鋭い4-3-3は鳴りを潜めるようになってしまう。

 さらには負傷者が数多く出てしまいチームの形を維持するのが難しい状況に。中でもボットマンの計算が立たなかったCBとジョエリントンをはじめとしてロングスタッフ以外の多くの選手を欠くことになったIHは痛かった。それでも年末にポープが離脱したGKの穴をドゥブラーフカが埋めたり、マイリーが台頭するなど負傷者が出たポジションでも奮闘が見られなかったわけではない。

 さらに飛躍を遂げた主力もいた。昨季よりさらにタフなシーズンをきっちり走り切ったギマランイスによって中盤は形を保つことができていた。凄みを増していたのはイサク。崩されたチャンスボールをきっちり決め切る決定力はもちろんのこと、カウンターから独力で難しいゴールを決めるなど大一番での決定力も健在。特に終盤戦では安定したパフォーマンスを見せた。

 さらにはゴードンもイサクと同じく凄みを増したシーズンだったと言えるだろう。左サイドからの仕掛けは前任者のサン=マクシマンの影を完全に払拭。それどころかドリブル後のプレーの精度は圧勝なので、彼もまたチームのエースの1人と言って差し支えない。

 終盤戦のゴードンはかなりの頻度で左サイドからPKを奪取。さらにはイサクがいない間はCFを務めるというマルチ性能も備えている。パフォーマンスを見ていればEUROのメンバー入りは妥当以外の何物でもない。

 逆にいえばここに名前を挙げた選手以外のパフォーマンスは少し寂しいものがあったのも確か。超主軸と主力メンバーの間にできた出来のギャップの分、昨季よりも出来は割引になってしまった感がある。

 来シーズンは欧州の大会は無しということでシーズン全体の負荷が下がることは間違いない。DFラインは負傷者で開幕に揃わないことが確実視されている。財政的な観点での資金の捻出の必要性が噂される中、持ち味である強度をベースとしたスタイルと編成とスケジュールでどこまで取り戻せるかは要注目である。

Pick up player:ヴァレンティノ・リヴラメント
 大怪我から復活したチェルシー産SB。大外を快速で飛ばすスピードスター系のSBかと思っていたが、今季はインサイドに入り込みながらのゲームメイクにもトライ。新しい基軸での勝負が見られたのはなかなかに興味深かった。

今季の道のり

【8位】マンチェスター・ユナイテッド

18勝6分14敗/勝ち点60/得点57 失点58

テン・ハーグでなければダメな理由の提示が欲しい

 またしても評価が難しいシーズンだったなというのが率直な感想である。リサンドロ・マルティネスが孤軍奮闘だったビルドアップ隊にオナナが加わり、スカッド的な話で言えば後方の足元のスキルは強化された。

 しかしながら、バックスのやりくりは想像以上に厳しいシーズンに。マルティネスは今季もまとまった時期の離脱を経験し、ヴァランはコンスタントに不在。相対的にもっとも頼りになったマグワイアもシーズン最後は姿を消してしまい、舞い戻ったエバンスとカゼミーロというなかなかにパンチの効いたCBコンビになってしまった。

 こうなると、そもそもバックスの強度が問題なので誰が監督をやっても厳しいと思うのだが、後ろからポジションを動かしながらつなぐという設計図の観点で言えば、マルティネスがいなくなった時点でほぼ効力を発揮していないのが厳しいところ。ダロトあたりはSBでフル稼働しつつ、ポジションを動かしながらフリーになることを頑張っていたが、フリーになった先にどうするのか?のところが見えにくく、ポジション移動のコストと効果が見合わなかった。チャンスメイク不足はホイルンドのシュートの試行回数の少なさとCL出場権争いのライバルたちと比べると15点以上少ない57得点という数字が物語っている。

 もっとも、希望の光がなかったわけではない。序盤の出遅れはあったがメイヌーにとっては飛躍のシーズンになった。彼がCHとして独り立ちしたのはユナイテッドにとってもっとも大きな収穫だろう。

 ガルナチョももう少し数字がついてくれば理想なのだが、少なくとも仕掛けに関してはシーズンをやり切ったということができるだろう。ブルーノもそうなのだが、離脱者が多いチームに関しては1シーズン走り切ってくれるということがまずは価値になってくる。

 何よりも2年連続でタイトルを獲得したことは功績としてきっちり残る。隣人を倒してのタイトルは非常に価値があるものではある。

 ただ、FAカップのタイトルは勲章ではあるが、国内の勢力図を変えるには物足りなさもある。CL出場権は再び逃すこととなり、成績的に順風満帆とするのは無理があるだろう。

 テン・ハーグのここまでの道のりはなんとも言えないところがある。怪我人だらけで仕方とすることもできるが、それでももう少し「これがやりたい」というスタイルを具現化できたのではないか?と考えることもできる。どちらの考えの人もいるだろうが、個人的には後者の要素を完全に無視するのは難しいように思う。キャストで改善することを見込むのであれば、補強予算が限られるのではないかという噂も不穏である。

 続投は決定的なようだが、3年目ともなれば「これがやりたい」の提示だけでは不十分。テン・ハーグでなければダメな理由は早く欲しい。その上でCL復帰は必要だろう。昨季の頭に比べて厳しい目が向けられてのシーズン開幕となりそう。なるべく早く軌道に乗せて雑音を払拭するスタートを切りたい。

Pick up player:アンドレ・オナナ
 誰にも真似できないアクロバティックなセービングは彼の身体能力があってこそ。シーズン前半は適応に苦しみ批判の的にもなったが、シーズンが進むにつれてスーパープレーによって収支がプラスになった感がある。

今季の道のり

【9位】ウェストハム

14勝10分14敗/勝ち点52/得点60 失点74

脱・ライスは成功したのか

 脱・ライスを掲げた初年度となった23-24シーズン。ECL王者としてELも戦うという難しい舵取りの中でのチームの軸の再構築に挑んだ一年であった。

 ライスの代替ユニットとしたのは3人のCH。ウォード=プラウズ、アルバレスを既存戦力のソーチェクと掛け合わせたユニットはシーズン序盤から悪くないフィット感を見せる。プレースキッカーとして優秀なウォード=プラウズは特に即効性のある補強だったと言えるだろう。

 ただ、完璧にライスの穴が埋まったかと言われると微妙なところ。3人はいずれも献身的に守備も行うが、ライスに比べるとどうしても可動範囲の広さには限界がある。だからこそ、3人揃ってきっちり守るのだけどもそうした時に前線の枚数は前年度よりも少なくなってしまい、カウンターに威力が出ない。

 かといって、2枚で守ろうとするとそもそも中央を強固に守るというウェストハムの前提が崩れてしまう。その後方を見てみるとCBもズマの相方がなかなか定まらなかったこともあり、中央の強固さという彼らの持ち味がじわっとなくなってしまった試合も珍しくなかった。

 ライスの不在と並び、攻撃面で噴出した課題はアントニオの稼働不安。ロングカウンターの陣地回復役として長らくチームを引っ張ってきたエースの不在が増えたことは大きな問題になり得た。

 しかし、こちらは見事に穴を埋めたといっていいだろう。主役は両SH。新加入のクドゥスは相手を背負ってボールを受けるところから反転して加速するという形で陣地回復役を完遂。低い位置からボールを運ぶことに加えて、アシストとゴールも申し分なし。左にパケタが入ってからは鬼に金棒という感じで、動き出しとスコアリングに特徴があるボーウェンをCFに置く形で新しいスタンダートを構築した。

 ただし、こちらは持続可能かどうかが怪しいところがある。クドゥスは市場の人気銘柄であり、本人もどことなくビッククラブへの移籍に乗り気なようにも見える。パケタはそもそもこれからサッカーができるかすら怪しいという状況である。今季の出来よりも今後このユニットを続けられるかの方がより重たい問題である。

 功労者のモイーズが去り、来季はロペテギという全く異なる指導者が就任する。手を替え品を替え主力不在を補う今季から、目指すサッカー自体をモデルチェンジしそうな来季はどのような展開が待ち受けているだろうか。

Pick up player:エメルソン・パルミエり
 ロングカウンターの攻め上がりの迫力と非保持の安定したパフォーマンス。今季明らかにSBとして一段上に向かう出来を通年通してやり遂げたシーズンとなった。

今季の道のり

【10位】クリスタル・パレス

13勝10分15敗/勝ち点49/得点57 失点58

自己紹介を済ませたグラスナー

 低い位置に重心を置き、アタッカーの力を生かしたロングカウンターで攻め立てる。レジェンドであるホジソン続投を決めたパレスはいつも通りのシーズンを送っていた。

 しかしながら、今季は離脱者が目立ってしまいロングカウンターの礎になる戦力が続々と離脱。特にレルマとドゥクレが揃って離脱したCHは非常事態に陥ったといっていいだろう。エゼとオリーズの稼働も不安定となり、なかなか攻撃の軸が定まらない状況が続くこととなる。

 そのような苦しい台所事情と上がらない成績の中で一時期は降格圏に近寄ってしまったパレス。そうした中で目立つようになったのが抗議活動。スタジアムでは「将来のビジョンが見えない」とフロントに疑問を呈するバナーが掲げられる試合が増えてくる。そのバナーを悲しげな顔で見つめるホジソンは2月に体調を悪化させたのち解任となった。

 そこでフロントが白羽の矢を立てたのはグラスナー。もっとも就任直後は個性の発揮よりはきっちりと後方の陣形を組むことを優先。フランクフルトで見せていた攻撃的なスタイルではなく、後ろが重たい5バックを踏襲することでまずは守備の安定を図るスタートとなった。

 本格的にカラーが出るのは来季かなと思った矢先の第33節のアンフィールドでチームは覚醒。圧巻の内容でリバプールをたじたじにしてみせた。光ったのは直線的なカウンターだけでなく、中盤に君臨するリンクマンが試合のテンポを整えながら守備の粗を正確についていたこと。長らくパレスにいなかったタイプである司令塔役を担ったのはウォートン。彼の冬に加入は今季のプレミアのベストサインの1つと言えるだろう。

 このアンフィールドを契機にパレスは本領発揮。高い位置からボールを刈り取り、好調なアタッカーにボールを託して大量得点の試合を次々と連発。シティとアーセナルは残り数試合で彼らとの対戦を残していなかったことに心底胸を撫で下ろしていたはずである。

 攻撃的なスタイルを完遂できたのはエゼ、オリーズ、マテタが揃っていたことが大きい。すでに自己紹介は完了したグラスナーが彼らをキープできるか。そして、流出した時に代替の補強で穴を埋めることができるかどうかが来季のポイントになるだろう。

Pick up player:エベレチ・エゼ
 ザハの系譜を継いでいる分、手早く攻めてやり切らなくては!という意識がこれまでは強かったように思えるが、シーズン終盤には緩急をつけながらゴール前でプレーすることを覚えたことで、ゴールにつながるプレーの精度が驚くほど向上。残り2節は特に圧巻のパフォーマンスを見せており、この期間のリーグのベストプレイヤーと言って差し支えない出来だった。

今季の道のり

 つづく!

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次