また2位だ!やっていくぜ!
【1位】リバプール
25勝9分4敗/勝ち点84/得点86 失点41

中盤の構築成功と大エースが優勝の原動力
優勝おめでとう。長期政権直後に沈むチームが多いプレミアリーグにおいて、他リーグからやってきて1年で昨年のチームを上回る成績を残したスロットには素直に賞賛の言葉を送りたい。
キーになったのは過度なトランジッション傾倒からの引き戻しだろう。きっちりとブロックを組み、前線からのプレスは制限をかけてから。選択肢を封じながら追い込んでいく。スタンダードなミドルブロックの構築によって、アレクサンダー=アーノルドもきっちりと守備をするようになった前半戦はとりわけ守備の安定感が光っていた印象だ。
ユニットで言えば中盤の構築が進んだことが大きな成果になるだろう。課題となっていたマック=アリスターの相方はグラフェンベルフが華麗な「2年目デビュー」を果たし、大車輪の活躍。23-24の終盤はアレクサンダー=アーノルドの絞り等も増やしていたが、2CHからのオーソドックスな形での前進は安定したビルドアップの礎になっていた。
そして、なんといっても今季はサラー。大エースが更なる高みに上ったともいえる1年で、困った時のエースの一振りには大きく助けられた。中盤中央のユニットがサイドに振るアクションを見せながらインサイドにパスを差し込んで中央からこじ開けていけるのが今季のリバプールの強み。緩急を付けながらの組み立てができたのは大駒を生かしたサイド攻撃の強力さがあってこそだろう。
来季の目標はCLとの二足の草鞋を成立させることになるだろう。パリは以降の大会で強力なチームであったことを証明してみせたが、後方との勝ち点差を考えればリーグの出力を多少下げても問題ないタイミングでノックアウトされたのは痛恨である。来季は欧州の舞台も含めて更なる高みを目指したい。
後半から終盤にかけてのパフォーマンスは来季のさらなるレベルアップへのヒントが隠されていそうだ。中央とサイドの行ったり来たりという前線の強みはガクポの負傷からのコンディション低下でややぼんやりしてしまった感がある。サラーへの依存度が高まる試合が終盤に行くにつれて増えたように思うのは気がかりなポイントである。
後半戦は守備面でも気がかりな点が。SBの攻守のパフォーマンスが低下し、少しCBの個人能力依存になる場面が増えたことである。CBのカバー範囲頼みになる頻度は前半戦よりも高まった。
来季もフリンポンやケルケズがSBに入るのであれば、トランジッションにおけるCBのパフォーマンスは非常に重要になるだろう。そういう意味でファン・ダイクの優勝決定後の数試合におけるパフォーマンスが一過性のものかは気になるところ。チームとしては瞬間的な出力のアップを担保できるかが来季に向けての伸びしろなので、ハイプレス30分片道切符となったアーセナル戦は面白いモデルケースだったように思う。
サラーとファン・ダイクの大型契約組が一気に経年劣化するケースがリバプールにとっては怖いシナリオである。もっとも、これはワーストケースの想定であることは強調しておきたい。ヴィルツの獲得が進めば当然攻撃はスケールアップが見込めるし、速い展開も問題なく対応はできるはず。基本的には不安よりも楽しみが先立つ来季になるのではないか。
Pick up player:モハメド・サラー
圧倒的存在感のキング。苦しい試合を一振りで決める勝負強さは正しく今季のプレミアのチャンピオンチームのエースにふさわしいものだった。
今季の道のり

【2位】アーセナル
20勝14分4敗/勝ち点74/得点69 失点34

第一人者であるうちに
今年も2位!優勝を志したシーズンとしては失敗なのだろうが多くの怪我人に見舞われながらもこの順位をキープできたという意味では3位以下のチームに比べると、個人的には一段上にいるのかなと手前味噌ながら思ったりはする。
レアル・マドリー相手に鬼門のCLの準々決勝という壁を破ったのは非常にエポックメイキング。今季だけでなく、将来を見据えてもこのラウンドを越えて未来の王者と180分殴り合えたことは大きなベンチマークになりうるだろう。
やはり苦しんだのは怪我人だろう。このアーセナルのスカッドの強みはマルチタスクの選手を多く抱えることにより、多くの手札を抱えながら相手のカラーによって微妙に形を変えられることにあるはずだが、常に怪我人の対応に追われることでそうした強みは消失してしまった。
そういう苦しいシーズンの中でも際立っていたのは救世主の存在。LSBで一番星の輝きを放ったルイス=スケリー、本職不在のCFで大立ち回りを見せたメリーノ、大看板不在を埋めたキヴィオルといった絶対的なレギュラーでない選手たちの活躍があってこそ。こういう側面を見ると、一概に今のアーセナルを層が薄いチーム(アルテタ本人が言ってる気がするが)とするのは抵抗がある。
チームの骨格の安定感もさすが。ハイプレス回避とラインの高さを問わない守備の安定感に関してはリーグ随一。おそらく、コンディションが悪い試合の水準の高さで言えばプレミアリーグでは一番のように思う。多くの試合で退場者を出しながらも3失点以上の公式戦が1つもないということは大崩れしないことの裏返しだ。
反対に悪くない試合運びながらも最少失点差をあっさりと帳消しにしてしまうゴールを許してしまう脆さも見られたシーズンでもあった。チームスタイルを考えればこうした勝ち点の落とし方は致命傷。理不尽なゴールをリバプールほど生み出せないのであれば、こういう類の失点は許容できない。とりわけ、武器であるはずのセットプレーが返す刀で弱みになっていたのは大きなダメージとなった。こういう勝ち点の落とし方をしているようでは言い訳を完全に負傷者に転嫁するのは難しいところがある。
決戦仕様のハイプレスから主導権を握る形はリーグ随一の武器である一方で、より省エネな戦い方を見せられなかったのも課題となる。ここをクリアし、ハイプレスからの制圧を伝家の宝刀にしなければ、試合数が増えた現代のカレンダーで走りぬくのは難しい。
リバプール、シティを見ても前線への守備の過負荷はいつ壊れるかわからないリスクをはらんでいる。今のアーセナルが前線の守備に関しては欧州の第一人者であることは自信を持っていいと思うが、この分野で第一人者であるうちに目に見えるメジャータイトルを手に出来るかが後世にアルテタのチームがどのように評されるかの大きな分岐点になるはず。来季は今季以上にプレッシャーがかかる勝負の年になる。
Pick up player:マイルズ・ルイス=スケリー
低い位置で相手を背負っての大胆なファウル奪取は唯一無二。潰し切られた時のダメージを考えればリスクの高いプレーであることは確かだが、彼なら涼しい顔でこのスキルを磨く方向に堂々と進んでいってくれる期待感がある。
今季の道のり

【3位】マンチェスター・シティ
21勝8分9敗/勝ち点71/得点72 失点44

ピッチ内外での再建のスピード感に注目
グアルディオラのシティとしてはおそらくこれまでで一番苦しいシーズンになったのではないか。ロドリの負傷に始まった故障者のサイクルが暗い1年を迎えた引き金になったのは否定しないが、それ以上に残された戦力の無抵抗感はなかなか苦しいものがあった。
特に往年の武器だったハイプレスは見る影もなく、だらっと前から追いに行ってはロドリ不在の中盤に過度に負荷をかけ、毎週顔ぶれが変わるDFラインに混乱をもたらしていた。
オフザボールにおけるフリーランの少なさはなかなか苦しいものがあり、命綱にされるほどWGの突破力も素晴らしいものではないため、押し込んだ局面での破壊力は低下。即時奪回もできないため、押し込み続ける握力と押し込んだ後のクオリティの両面に問題を抱えてしまう。
結果としてシティに起こった現象は正面から組み合ってくるチームの増加。従来はきっちり引いてくるチームでもハイプレスで真っ向からぶつかり、主導権を握りに行く形を構築できるチームは中位以下でも増えた印象だ。
秋から冬にかけての苦戦でこれはまずいと踏んだのか、冬の移籍市場では大立ち回りを敢行。特にマルムシュとニコ・ゴンザレスの2枚の獲得の効果は大きく、中盤の組み立ての安定感と前線の運動量担保に成功。何とか安定した運用を取り戻し、CL出場権争いは主導権を握る立場を手放さないまま目標を達成した。
今夏の移籍市場では従来の流れを踏襲し、伸び盛りのタレントに投資する形でスケールアップを狙う方向性をキープする指針の様子。ただ、ここ数年は過剰な出費を控えていたとは言え、冬の市場での移籍金を考えれば夏の継続投資はなかなかな負荷になるはず。1人当たりの移籍金が高騰している現代サッカーにおいて、シティに求められる急ピッチでの戦力入れ替えをどのようなスピード感ができるのかは非常に興味深い。
クラブワールドカップ出場で短いオフになるというのも今夏のシティの見逃せない要素の1つ。ピッチ内外での再建のサイクルがどのように進むのかが来季のシティの注目点となるだろう。
Pick up player:ケビン・デ・ブライネ
守備においては明確な穴になっていることはもはや否定はできないが、一振りで流れを変えられるスーパースター性がシーズン終盤のCL出場権確保という目標に向けて大きな後押しになったことは間違いない。新天地でもお元気で。
今季の道のり

【4位】チェルシー
20勝9分9敗/勝ち点69/得点64 失点43

固定型スカッドへの上積みは望めるか?
トゥヘル以降、英国内監督経験者を登用するスキームがいまいちハマらなかったチェルシー。今夏のマレスカもプロフィール的には嫌な匂いがしないこともなかったが、CL出場権確保に欧州タイトルを獲得と今季のチェルシーに求められる成果はすべて出したといって差し支えはないだろう。
フォーマット先行の3-2-5型のスキームはやや柔軟性に欠ける印象はあるものの、チームとしての基盤づくりの1年としては悪くはない土台となった。役割の大枠を決めて、そこに選手を入れ込んでいくスタイルは序盤戦でスクリーニングが終了。ここはある意味ここ数年のチェルシーにおいては例年通りと位置付けられるムーブだと思う。
異なったのはスクリーニングを経て組みあがったチームの完成度だろう。特にカイセド、ラヴィア、エンソが揃った中央に、ジャクソンのプレーの幅が一段と上がったセンターラインは来年以降の軸もここになるのだろうなという去年までとは異なる手ごたえを感じるものだった。
サイドは怪我人や離脱者に苦しんだ印象だが、ネトやククレジャといったメンバーの踏ん張りにより大外のクオリティは保たれたように思う。逆にチャロバーを慌ててレンタルバックしたCB-RSBのポジションは最後まで主力の離脱に苦しんだ感があった。
一部の主力の不在によるダメージの大きさは特に上位2チームに比べるとダメージが大きく、ここは年間を通したリーグ戦での安定感において少し差になったように思う。特に抜けると周囲の攻撃の機能性まで低下するジャクソンと、CBとして個のクオリティがほかの選手よりも一段上のフォファナの不在は各セクションに大きな影を落とすこととなった。
SBが定まらなかったことによる、右サイドの連携不足は後半戦になってもなかなか上がり目が見えず。SBにカイセドを置いて可変をしながら組み立てのスキルがアップした跳ね返りとして、守備面の連携が怪しくなるというマッチポップが発生していた。
こうした脆さは試合の中での安定感の秩序に繋がって言った印象で90分間を通してゲームをコントロールする能力というのは伸びしろになるだろう。厳しい試合に競り勝ち続けた終盤は見事である反面、もう少し楽にマネジメントできる試合を多く作りたかった印象もぬぐえない。
CHは強固なのであとは上に挙げた課題を中心にどこまでスカッドの上積みを図ることができるのか?という夏になるのではないか。この1年を見る限り、マレスカは手札の幅の広さよりもきっちりとシステムを組み上げるタイプの指揮官っぽいので、キャストの入れ替えは重要なはずだ。
長い契約期間をベースとする昨今のチェルシーのリクルートにおいて、どこまで柔軟性のある補強プランが可能なのかは気になるところ。シティ同様にピッチ外でのチーム強化の伸びしろの有無も要注目だ。
Pick up player:モイゼス・カイセド
高額移籍金ははずれの印と名高いのがプレミアリーグあるあるだが、ライスと同じ時期に高額移籍金でロンドンにやってきたカイセドは素晴らしい活躍を見せている。昨季は部分的に見られた荒いファウルは消え去り、クリーンなボール奪取に試合終盤まで前に出て行くことが出来るバイタリティ。CHとしての基礎能力の高さに加えてのスペシャリティは紛れもなくリーグの第一人者だ。
今季の道のり

【5位】ニューカッスル
20勝6分12敗/勝ち点66/得点68 失点47

売却益を当てにしない課題解決はできるのか?
二足の草鞋を履くことが苦しかった昨シーズン。欧州カップ出場圏を落としたこともあり、今年は再びプレミア一本でCL出場権の確保に挑むシーズンに。見事、そのミッションは達成されて来季のCL返り咲きを決めた。
質実剛健な強度の高いスタイルはハマればどの相手でも苦しめることは明白。特にアーセナルファンはその苦しい思いを多く感じるシーズンとなったように、上位相手でも破壊力は問題なかった。
そうした中で中盤の可変性を取り入れることで柔軟性も発揮したのが今季のニューカッスル。具体的にはアンカーとIHのポジションをギマランイスとトナーリで入れ替えることで中盤の流動性を上げていく形が効いていた。従来よりもアンカーとIHを試合の流れの中で入れ替える頻度を上げることで敵陣に飛び込む選手が絞りにくくなった。
前線の出力という意味ではWGの戦力底上げが大きかった。大怪我前の姿を完全に取り戻したバーンズは明らかに切れ味がアップ。スコアリングに絡むシーンが目に見えて増えた。通年であれば、数か月覚醒するのが一杯のマーフィーも今季は中盤戦から明らかにワンランクアップ。アタッキングサードの切れ味にWBまでこなす守備でアルミロン退団の穴を補って余りある活躍だった。
ハマった時の強度は素晴らしい一方で、一つ歯車が狂うと試合の中での柔軟性に欠けるのは少し気になるところ。終盤戦に見られたのはジョエリントンの負傷が落とす影の大きさ。中盤のカバー範囲がガクッと下がったせいで本来のエネルギッシュな強度な高い状況を作り出そうとすると、陣形が間延びしてしまうという欠点もあった。
IHの弱みを隠すためにWGを全投入すると、後半の出力が落ちるというあちらが立てばこちらが立たず状態に。こうした部分は試合数が増える来季に向かっていく中での不安要素といえるだろう。
陣形をコンパクトに保ちつつ、堅実なプランを組んだチェルシー戦では相手が10人になるという予想外の展開にバタバタ。こうした状況は戦況が目まぐるしく変わるCLではよくあること。対応力も来季の課題になる。
保持に置ける流動性を出して、これまで苦手だった押し込む局面にスパイスを入れるという今季の試みは悪くはない。その一方で本来のニューカッスルらしい強度を全面に押し出すことが難しい展開になるとどう転がるかは不透明だ。
イサクやギマランイスといった大物をプロテクトする姿勢をはっきりさせているのは明確でいいと思うが、若手を売るなど昨今の市場では資金調達の色が濃いのも確か。売却益を取りに行かない選択をしたうえで二足の草鞋を履くための課題をどう解決するのかが来季のポイントになるだろう。
Pick up player:ティノ・リヴラメント
スピードに身を任せた香車型という従来のイメージはすっかりなくなり、今は斜めのアクションなどのオフザボールとオンザボールの両面で輝ける選手。対人の守備強度も増し、質実剛健なニューカッスルのスタイルにいい意味で染まっている。左右どちらもこなせるユーティリティ性も魅力の一つだ。
今季の道のり
