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「プランとコミットの両立」~2024.3.30 J1 第5節 川崎フロンターレ×FC東京 レビュー

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レビュー

4-2-3-1で変わったこと、変わっていないこと

 多摩川クラシコに臨む2チームは前節に対照的な結果を残していた。高のスタメン登用で保持型スタイルに舵を切り福岡相手に今季初勝利を挙げたFC東京と、お得意様の鹿島に敗れリーグ戦で3連敗を喫した川崎。勢いの差は雲泥のものがあった。

 スタメン選びにもその勢いの差は反映されていたと言っていいだろう。戦列に復帰したメンバーがいるにも関わらず福岡戦のメンバーをリピートしたFC東京と、出場停止のマルシーニョを含めて6人を入れ替えた川崎。前節の流れを汲みたいチームと変えたいチームが激突することがわかりやすいメンバー構成となっている。

 川崎はメンバーだけでなくフォーメーションも変更。CHに瀬古と橘田を並べて、トップ下に脇坂を置く4-2-3-1をベースに組んでいく。このフォーメーション変更により川崎の仕組みに何が起きたかを整理していきたい。

 保持の仕組みの変化点から述べていきたい。まずは2列目の立ち位置。明らかにSHがナローになり遠野と家長がエリソンのそばでプレーする。大外レーンは基本的にはSB専用。瀬川と三浦が駆け上がることがメインになる。

 中盤は2人のCHが並びつつ、時には最終ラインに落ちたりなど立ち位置を変える役割を橘田と瀬古が均質的に担う。前節までの橘田の偽のSBからはプロセス(=SBが中央に移動する動きの有無)は変わったが、2人のMFが中央でプレーする結果的な形は同じ。橘田の偽のSBは対面する相手のSHについていくか否かの駆け引きをそこまで生み出せていなかったので、プロセスを含めてもそこまで大きな変化はなかったと判断してもいいと思う。

 偽のSBをやっていた時の川崎にとって問題とされていたのは左のSBの三浦がなかなか高い位置を取れないやんけ!という話である。SHがインサイドに絞る分、4-2-3-1では大外レーンを空けているという設計上のやりやすさはあるが、結局のところは後ろの構造は同じ2CBと2CHで成り立たせなければSBがサポートに落ちる必要が出てくる。

 要はCBが開いてSBを押し上げたり、スタメンに戻ったソンリョンをビルドアップに組み込めなければ三浦は単に高い位置で浮遊するだけになる。なので、三浦を押し上げられるかどうかという論点に関しては実はここ数試合と4-2-3-1で大きく違いはない。

 結果的にこの試合の川崎はこの部分で踏ん張ることができた。大きな貢献をしたのは高井。4-4-2で構えるFC東京の守備に対して、開いた立ち位置をとって2トップの脇からボールを運び、パスで散らすことができていた。これであれば橘田や瀬古が最終ラインに落ちる動きをやる意義もある。逆に言えば運ぶ動きがセットでなければ、最終ラインで落ちる動きに対するリターンは少なくなってしまう。

 FC東京は特に中盤を捕まえるべく3列目からの飛び出してのプレスも多かったため、CHが下がってCBが上がるアクションを見せる意義は十分にあった。運ぶアクションをして高井が自身のマーカーを超えればインサイドには差し込むスペースが広がっている。CHが落ちる妥当性みたいなものはこうした相手の動きに大きく左右されるものである。

 もう1つ、後方のユニットの気にしたいポイントはCHが立ち位置を変えながら互いをフリーにできるか。そういう意味では31分のシーンは一つ好例となる。橘田に対して瀬古が後方にフォローに入る形でフリーに。ここから左サイドにボールを展開する。

 スムーズさも足りないし、全体的にもう少し後ろの重さは取りたい。けども、こうしたCHの関係性やCBの運ぶアクション、GKをビルドアップで使う意識があれば十分に今の構造で改善を推し進めていく意義はあると思う。

 バックスの助けになっていたのはエリソン。ロングボールをきっちりと収めて五分のボールから強引な陣地回復を引き寄せるなど復帰の効果は絶大。ここまでの記述を見ると、この試合ではひたすらショートパスでの自陣からの繋ぎにトライしたように見えるかもしれないが、実際のところはエリソンに蹴っ飛ばすロングボールとミックスさせていた。CBの運ぶトライのクッションとして機能すること、フリーになったCHの縦パスの精度があまり良くないことを踏まえてもエリソンというロングボールのターゲットがいる意義は大きかった。

 アタッキングサードでの攻略においてはサイドアタックがSHとSBの二人称になりがちというのが後方にCHを2枚置く形の構造的な問題点となる。正対してのドリブルも可能な瀬川と三浦を大外に置いたのもこれが理由だろう。最悪でもSHとの関係性だけで壊せるSBを置くことでクロスを上げるところまでは辿り着きたいというのが川崎の狙い。

 3人目の登場が必要な場合はトップ下の脇坂も顔を出す。偽SB時代と異なり右に張る役割が明らかに軽減されていた家長も左サイドにカジュアルに顔を出して3人目として機能する。

 ただ、こちらも前半はうまく機能しなかった。シュート、ラストパスの乱れといった単純なボールタッチの感触の悪さもそうだし、大外からクロスを上げる状況が整ったとしてもなかなかインサイドと繋がることができない。三浦の先制点の場面は長友を抜くところまでは良かったとして、木本の折り返し(このプレーが発生したこと自体は必然だが)というアクシデンタルな要素が発生しなければ得点の可能性を見出すのは難しかった配置になっている。抜け出しながらもクロスのターゲットが見つからずにプレーをキャンセルした家長もプレーからも、大外からのクロスをどのように活かしていくか?というところの共有はもっと研ぎ澄まさないといけない部分だろう。

ベクトルを重視しないFC東京の保持

 FC東京のボール保持は前節と大きく変わらない。CHが縦横無尽に動きながら2人のCBと共にビルドアップを行い、2列目の選手も降りるアクションを加えながら積極的に関与している。CHの自由度や彼らに与えられた裁量に関しては川崎よりも上という印象を持った。

 川崎の非保持は4-4-2。2トップの脇坂とエリソンがチェイシングとカバーを繰り返しながら相手ラインへのプレッシャーと中盤へのケアを両立する。ポイントは普段に比べると人についていくことを明らかに重視していなかったことである。アンカーの位置に入った高へのケアは脇坂がメインとなっていたが、高がサイドに流れたりすればマークは他の選手に受け渡すこともあった。

 川崎の4-4-2の重点項目はとにかくライン間を圧縮し、ここに縦パスが入ったらCHとCBで挟む形で潰すこと。CHの守備参加にバックスの押し上げでコンパクトさが加わることで、川崎はこれまでの試合では見られなかったMF-DF間の圧縮を実現した。

 例外なのはSBの三浦。大外でボールを受けた松木や仲川に対しては前を向く前に捕える。ここは瀬古が背後をカバーするアクションとセットになっている。

 このやり方はFC東京に対しては非常に相性が良かった。福岡戦で見せたFC東京の保持は相手を引き寄せた動きを使うよりも、狭いスペースにポイントをたくさん用意して人から人へと素早く繋ぐことを大事にしているからである。「荒木がライン間で前を向く」というわかりやすい最終到達点が見える相手であれば、そもそもそこのスペースを狭くすることが非常に有用である。

 相手を引き寄せる矢印への意識の薄さを感じた選手の1人は仲川である。17分のシーンが一例になる。森重のキャリーで1stプレスライン突破し、仲川への縦パスをつけるところまで相手の動きを意識したプレーである。だが、そこから左にドライブする仲川へのプレーはそこまでと文脈が異なる。相手が開けたプレーを意識するのであれば、瀬古が空けたスペースに顔出した高の方が自然な選択肢のように思える。

 逆に言えば、WGとして外から仕掛けられる仲川がこのようにインサイドに絞ってビルドアップに関わること自体が、人というポイントを増やしながらフリーになる確率を上げるというFC東京の今の保持のコンセプトをよく表している。その分、狭いスペースでコントロールできる荒木や、ドライブで相手を置き去りにできる松木や仲川といった選手のスキルでなんとかする。高と小泉で彼らが空いた瞬間を逃さないイメージなのだろう。

 だけども、特に松木と荒木の2人は受ける前のフェーズで相手との位置関係を意識する部分が希薄なため、パスを受ける段階ですでに川崎からプレスの矢印を受けている状況が非常に多かった。DF-MFのライン間とプレーしたいエリアが比較的狭く決まっている荒木にとっては待ち伏せされている状況である。

 先に述べたようにこの試合の高は脇坂にマンツーでつかれていたわけではなく、受け渡しながらあらゆる選手を引き寄せていた。FC東京の2列目より前がこうした高の影響をうまく活用できていれば、川崎に対して問題を引き起こすことができたはず。森重や高など後方の選手には相手のプレスの矢印を意識したプレーが見える一方で、2列目より前にそうしたプレーが乏しかったというギャップをいかに解決するかはFC東京の今後の課題になるだろう。

 川崎目線で言えばもう少し自分たちのプレスのベクトルを意識する相手であれば、簡単に運ばれていた可能性もある。特にWGで出ていくアクションは諸刃の剣。7分手前の家長の外切り失敗や、21分に深追いした遠野の背後(結果的には使われずにプレスに成功したが)などズレそうな場面はちらほらあった。

 もっとも、前方向に捕まえにいく意識のないプレスに怖さはないので、どこまで行けるかどうかのバランスを探ることは必要なトライだとは思う。小泉に対するボールハントから橘田と瀬古のコンビでゴールを陥れられていれば、このトライはより結果がついてくることになったはずである。

 FC東京の保持はロングボールを活用し瀬川とのマッチアップを狙った遠藤のところがきっかけになりそうな感じもあった。だが、ジェジエウの先読みした位置取りが壁になっていた上に、右サイド側に移動する形でクロスを跳ね返していた高井のコンビがこの日は磐石。特にクロスに対する他責志向が課題になっていた高井にとってはこの90分の意義は大きい。三浦の背後をとって流れてきた仲川への対応も含めて素晴らしい出来だったと言えるだろう。

空洞化した中盤を利用したカウンターで畳み掛ける

 後半、リードしている川崎は家長にボールを当てることで押し込んでいくスタート。中盤のボールハントエリアを前半よりも前にすることで即時奪回と一方的な押し込む形を実現するのが狙いだろう。

 川崎のボールの奪取の位置が高くなれば、CHのサイド攻撃への参加もカジュアルに可能に。FC東京の攻撃の時間を奪うことと、自分たちのサイド攻撃に厚みをもたらすという形の好循環を川崎は回すことができていた。するとタッチも良くなるのだから不思議である。

 FC東京はサイドからガリガリと削っていくように前に進んでいく。川崎の中盤を抜けるように進んでいけば、FC東京は前半よりも深い位置に入りながら川崎を押し下げることができていた。

 ただ、ボックス内に小泉と松木が突撃し、長友とバングーナガンデが高い位置をとるとなれば、カウンター対応は高とCBしか後方に残らない形になる。川崎は自陣の深い位置からのカウンターになっても、中盤にはスペースがある状態から悠々とカウンターからチャンスを作ることができていた。

 そういう意味ではFC東京が攻め込む機会は跳ね返すことさえできれば、川崎のチャンスに繋がる。CHはポケットを潰し続け、CBはクロスを跳ね返し続けたため、この状況をうまく活かしたと言えるだろう。

 前半から同じく受け手は川崎のプレスのベクトルを外せる場面が作れないFC東京。オリベイラ、ジャジャ・シルバ、小柏の3枚の交代はベクトルが外せなくともなんとかできる方向性を強化するものであった。だが、実際のところはこの交代は特攻役にはならなかった。

 川崎からすれば縦パスやクロスを跳ね返せる状況は変わらないので、あとは空洞化した中盤のスペースを利用してカウンターを完結させるだけ。決定打となったのは波多野の退場だ。もっとも、このシーンのFC東京のプレスはそこまで悪くなかった。逆サイドにボールを逃すことができれば、開けた状態のカウンターになった川崎だが、FC東京によって同サイドに閉じ込められてしまった感がある。

 誤算だったのはバックラインの対応だろう。木本が少し前の時間から足を気にしていたため、スプリントを要求される場面においては森重が対応せざるを得ないシーンが続いていた。そのため、エリソンの抜け出しに対しては通常以上に後手に回ってしまった。

 以降は4-3-2で守るFC東京が勝機を見出すのは難しい展開に。川崎のミスがなければチャンスは作れない。瀬古の縦パスでのミスはそういう意味では最も避けなければいけない部分。前半に見られた2人を引きつけて交わすプレーに関しても同じでリスクを負うプレーを行うシチュエーションをもう少し考えていきたいところではある。非保持での潰し役としてはこの試合では完璧な役割を見せただけに。

 川崎は交代で入った山田と山内がコンビネーションから左サイドを破って追加点をゲット。山内、見事な一発回答であった。終盤には橘田が瀬古のアシストを受けてミドルを仕留めて3点目。最後まで高い位置からのチェイシングを怠らず、緊張感を維持した川崎が得点を重ねていく後半となった。

 多摩川クラシコは後半に畳み掛けた川崎が3得点で勝利。リーグ戦での連敗を3で止めた。

あとがき

 色々と構造的な話を書いたのだけども、2週間前の選手のクオリティであれば、こうしたところを準備したとしてもCHが自分の背後にあっさりと縦パスを通されたり、CBの間にぽっかり空いたところからクロスにあわされてしまったりしたはず。なので、ボールへの出足の鋭さとかどこからスペースを潰していくかなどよりベーシックなところで後手を踏まなかったことが大きい。

 仕組みの話にだけフォーカスすれば、十分FC東京にも勝機があるプランが組み合ったなという感じだったので、勝因となるのは用意したプランと遂行度の両立ができたことなのかなと思う。用意するプランに関しても選手たちのコミットに関してもこの試合がスタンダートにしないと上位進出は視野に入らない。多摩川クラシコという舞台装置の力を借りずとも、このパフォーマンスを継続できるかが次節以降の課題になるだろう。

試合結果

2024.3.30
J1 第5節
川崎フロンターレ 3-0 FC東京
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:34′ 脇坂泰斗, 83′ 山田新, 90+2′ 橘田健人
主審:上田益也

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