
プレビュー記事

レビュー
堅実に分岐を作る
1年ぶりのリーグ戦3連勝を目指す川崎と3連敗をなんとか食い止めたい鹿島。代表ウィーク前の最後の等々力でのリーグ戦は互いの思いが交錯する重要な一戦となる。
川崎の攻め筋は左サイドにやや偏重気味。まずラセルダにボールを当てると左サイドに展開、マルシーニョからの速攻が可能かを探っていく。
ただし、無理に縦に急ぐ意識は高くない。抜けきれないと思った場合、ポゼッションの要素を加えて、きっちりとサイドから裏抜けの選手を作るための工程を踏む。2人のCHの片側(主に山本)が左に流れ、マルシーニョと三浦の2人をサポートする。
鹿島は松村がオーバーラップする三浦についていくなど簡単に裏を取らせない。川崎も抜け出す確信がなければ勝負のパスを入れないので、やり直しながらまた低い位置から抜け出す選手を作るためのポゼッションを組む。
どちらかというと、川崎の前進を支えていたのはサイドから縦に突き抜けるというよりも、サイドにボールを振ったところからCHもしくは脇坂をフリーにする動き。このアクションで手応えがあったのは右サイド。きっちりと2トップの守備を引きつけてからリリースするホマーノとサイドから組み立てに貢献できる佐々木から中央への導線を探っていく。
16分手前のシーンはその一例。CH-SHの間に入っていく山本、大外の伊藤、FW-MF間で構える橘田。逆サイドでは橘田がフリーで受けた時の想定で松村と津久井の間からキャリーができるように脇坂が待ち構えている。

この場面では綺麗に抜け切ることはできていなかったけども、川崎はこうした分岐を作りながら敵陣に入り込むことができていた。アタッキングサードではラセルダのポストから2列目が狭いところから前を向いてシュートを打てるか探る。難しいようならば大外を回る佐々木と三浦がレシーバー。ここからのクロスで勝負をかけていく。
明確にここならば相手をボコボコにできるというマッチアップがあったわけではない。しかしながら、相手のプレスを引き寄せながら分岐を作るという堅実な手段で川崎は鹿島の守備を相手に前進をし続けていた。
鹿島の流儀通りの得点
鹿島の保持は後方を3バックに変形する形がメイン。小川以外の3人のDFラインが一番後ろから保持で組み立てていく。川崎の4-4-2に対して、まずは後方でフリーマンを作る。もしくは相手が出てきたところを利用したいというところがあったのだろうが、なかなかそのプランがハマっていなかった。
素直に3バックで後方の数的優位を享受するパターンの場合、鹿島が活用したいのはテヒョンのフィード。しかしながら、受ける側の前線があまり存在感を発揮できず。セアラであれば五分くらいまでは持っていける感じだったが、ライン間に落ちる徳田はコントロールが定まらず、左サイド起用となった鈴木は佐々木(高さ対策も起用理由の1つだろう)を収めることができず。
プレビューで書いた通り、今の鹿島は前線が素直に目の前のマッチアップを制することができるかが攻撃に直結している印象。そういう意味で、この試合の川崎に対してアタッキングサードへの侵入で最も脅威になっていたのはスピードのある松村。後方に小池という出し手がいたこともあり、シンプルな2人の関係性からあわやゴールという場面まで持っていくことができていた。
しかしながら、松村のスピードを活かす場面が整ったのは数えるほど。ダイレクトな展開から穴を開けにいくには苦労していた印象だ。
相手を引き出しながら前進していくフェーズにおいても鹿島は苦戦傾向。テヒョンを捕まえに伊藤が前にスライドするケースもあったが、浮いた小川を活用した前進はなかなか行うことができず。
最後方のDFラインは運ぶアクションなしでとりあえず縦パスをつけてみようというボールの動かし方をしていたため、川崎のプレスは中盤で鹿島の攻撃を跳ね返すことに成功。ミドルゾーンからのカウンターで前半の途中から明確に主導権を握っていく。
後方のキャリーがない、もしくはボールへの関与が少ないことによって、中盤がタイトになっているというのが鹿島のショートパス主体のビルドアップがうまくいかない理由の1つ。もう1つは、たとえCHが前を向いてキャリーやパスをつける時間をもらったとしても、そこから有効な楔がなかなか入らないこと。津久井は時に流れの中から前を向く場面があったが、リリースが遅れたり、あるいはパスがズレたりなど、前を向けたとてチャンスにつないでいくことができない場面が目立った。
ショートカウンターを軸に攻撃を放っていく川崎が試合の主導権を握った前半。しかし、苦しみながら先制点を手にしたのは鹿島。まさに「前線が素直に目の前のマッチアップを制する」ことによってこじ開けたゴール。ロングボールの勝利からサイドの展開につなぎ、難しい体勢でレオ・セアラがネットを揺らす。
川崎としてはCBの谷口ではなく、なぜかSBの三浦がロングボールを競る役となったところから1つずつズレが生じてしまった感。ペドロ・ホマーノが文句を言っていたというのも確かに納得感がある。
しかし、川崎は前半のうちに追いつくことに成功。降りてきた脇坂からのタッチダウンパスからマルシーニョが抜け出してゴール。今季の充実ぶりをうかがわせる冷静なフィニッシュで追いつく。
この試合の川崎のベースとなる中盤でフリーマンを作る動きから、最短でゴールに向かうアクションが組み合わさる形がハマった格好。失点したものの、すぐにリカバリーをしてハーフタイムを迎える。
勝てていたはずのところ
後半、鹿島は3人の選手を交代。チャヴリッチを入れて鈴木を中央に入れ、CHには柴崎と三竿を投入。意図としては徳田よりも行動範囲が広い鈴木を入れることで、中盤で浮く選手を作りやすくする+柴崎の登場でフリーになったところからの展開力を強化するというイメージだろうか。仕組みとキャストの両面で工夫を入れていく。
しかしながら、フリーになる鈴木の落としの精度が低いことがボトルネックに。ターゲットとしての存在感と落としのところの精度不足という両面で、この試合の鈴木は彼の水準からすると明らかに物足りなかった。
それでも「前線が素直に目の前のマッチアップを制する」というところからのチャンスメイクは成立。48分の決定機創出は同数の中でデュエルを延々と制する形でシュートまで持っていった場面だった。
しかしながら、繋ぎの局面の安定感が向上しきらなかったということは、川崎からのカウンターの脅威が減らないということでもある。橘田や三浦などのインターセプトも川崎のペースを維持することができる一因だった。
後半も主導権を握っていた川崎は左サイドからの攻勢で勝ち越し。三浦のクロスが引っかかったところを拾った伊藤がトウキック気味にシュート。見事にゴールに突き刺してみせた。シュート自体も素晴らしいが、この場面のようにディフレクトが起きた時のリアクション自体も川崎の方が鋭く、セカンドチャンスから攻撃を続ける土壌が存在したと言えるだろう。
追いかける鹿島は徐々に川崎を押し込みながらポゼッション。川崎はボールを奪う位置が低くなりながらも、跳ね返してのロングカウンターで勝負することができていた。
ポゼッションの局面が安定したとしても、オフザボールの掛け合わせからスモールスペースを攻略するアクションは依然として少ない鹿島。それでもこじ開けられるのが彼ららしい。左サイドのフリーランからマイナスのクロスに合わせたのはまたしてもレオ・セアラ。ぽっかり空いた中央のスペースを仕留める。
川崎は同サイドに相手の攻撃を閉じ込められそうな誘導の仕方ができたものの、ホマーノと入れ替わってこちらのサイドに出てきた谷口がハーフスペースへの侵入を潰しきれず。これが致命傷となった。
川崎は前線のメンバーの入れ替えに伴い、少しずつ盤面の支配力が低下。きっちりとロジカルにオフザボールを積み重ねて優位を奪うというスタイルの中で、長はどのように自分を活かすかは見えておらず、また異分子のままゲームに大きな影響を与えるほどの支配力も持っていなかったのが難しいところ。まずはボックス内で必要な味方の動き出しを活かしたり、活かしてもらったりの関係性を身につけたいところだ。
展開自体がフワフワすると鹿島の個人能力が際立つ流れに。左サイドから抜け出した小川からのクロスを拾った柴崎がミドル。こぼれたところを松村が押し込む。
川崎としては橘田がサイドに流れた影響で、柴崎のミドルをケアできる人がいなくなってしまったこと。松村よりもボールに近い位置にいたホマーノと佐々木のリアクションが遅れたことは痛恨。特に後者はここまで川崎はこれをきっちりやることで優位を握っていただけにもったいなかった。
終盤は左右の浅めの位置からクロスを入れることで勝負をかけていく川崎。やや手数をかけすぎと感じる人もいるかもしれないが、サイドの奥を取るアクションも挟むことで鹿島にラインの上下動を強いること自体は必要な工程である。
クロスカットに積極的な動きを見せていた早川によって多くのクロスは跳ね返されるが、ラストプレーで川崎は追いつくことに成功。ファーで構えていたホマーノがネットを揺らす。この日彼に訪れていたチャンスの数を考えると、ようやく奪ったゴールが結果的に川崎に勝ち点1をもたらすこととなった。
あとがき
鹿島戦は今季の川崎のスカッドがうまく軌道に乗った時に真っ先に想定できる勝ち点ロストパターンだったように思える。有効打を相手よりも多く打つことができているけども、より重たい相手の一撃にダウンしてしまったことが尾を引いてしまうという感じの。
一撃をこちらも重くするというのはスカッド強化以外の方策では見出しにくい。川崎がここから進む方向性としては有効打を維持する時間を長くするか、相手の一撃を喰らわないガードの固め方を学ぶかのどちらかになる。
いい軌道に乗っていても勝ち点を重ねられないということは今季に関してはとても想像しやすいスタイル。うまくいっているという感覚を勝ち点に還元するにはかなりシビアという印象を持っている。つまり、ここからがハード。「いい時間帯もあった」だけでは勝ちきれず、「いい90分だった」という振り返り方ができる試合を増やさなければ、連戦連勝で勝ち点をリカバリーして上位争いに食い込むことは難しい。
Jリーグは上に上がれそうなきっかけを掴んでいるなというチームはよく見かける。だが、そうしたチームがまっすぐに改良を重ねて実際に勢力図を塗り替えるハードルは高い。どこかで折れてしまったり、掛け違えがあったりなどで紆余曲折を挟むパターンがほとんどだ。
鹿島戦で感じたようにチームが前に進んでいる手応えはある。ここからまっすぐに進めるかどうか。代表ウィーク明けのリーグ戦のテーマはここになるのではないか。
試合結果
2026.9.
J1リーグ
第8節
川崎フロンターレ 3-3 鹿島アントラーズ
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:45+3′ マルシーニョ, 54′ 伊藤達哉, 90+7′ ペドロ・ホマーノ
鹿島:44′ 67′ レオ・セアラ, 83′ 松村優太
主審:中村太