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「王道あっての亜流」~2023.3.1 プレミアリーグ 第7節 アーセナル×エバートン レビュー

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レビュー

慎重策のエバートンとあべこべなアーセナル

 0-1で敗れたグディソン・パークのリマッチに臨むアーセナル。週末からのスタメンをそのままリピートする形でスタートする。対するエバートンはコーディ→キーンへのスイッチでエミレーツに乗り込む。

 プレビューにてこの試合の見るべきポイントとして挙げたのは、エバートンのミドルプレスに対してアーセナルがどのように立ち向かうかという部分である。キャルバート=ルーウィン不在のエバートンは前進の手段に困ることが予想され、それを補うための唯一の手段が高い位置からのプレッシングとなる公算が強いからである。

 個人的にはこの攻防を巡り90分を過ごすかと思っていたのだが、意外にもこの局面の決着は早々についた感がある。エバートンが無理なプレスを仕掛けなかったためである。10分も過ぎればSHがラインを下げて、アーセナルのWGを気にするようになる。グディソン・パークの対戦ではこの前線が低い位置まで下がるフェーズに入るのにハーフタイム付近まではかかっていたが、今回はこの慎重策に至るまであまり時間がかからなかった印象だ。

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 イウォビ、マクニールが無理にプレスに行かなかったことでエバートンはアーセナルから高い位置でボールを奪い取ることの優先順位を下げたと言えるだろう。もちろん、全く奪いにいかないというわけではないが、グディソン・パークの前半のようなガツガツ感はこの日のエバートンにはなかった。いわば、ミス待ちを狙った状態でもあった。特にサカのサイドにいたマクニールはかなり早い段階でポジションを下げていた。

 ということでアーセナルの保持はサイドが低い位置をとる撤退型の4バック攻略に移行する。フォーメーションの形自体は異なるで、前プレに挑むも早々に下がるという展開はブレントフォード戦に似た流れとなったと言えるだろう。サイドを主体としてアーセナルはタフな攻略に挑むことになる。

 少しいつものアーセナルとテイストが違ったのは右よりも左サイドの方が崩しの手応えがありそうということである。普段であれば、右の崩しの方がアーセナルは自信を持っているのだが、この日はそれが逆だった。理由として考えられるのは左に流れることを好むトロサールをCFで起用したのが1つ。左サイドの手詰まり感はマルティネッリの孤立によるところが大きかったので、前節その部分を解消したトロサールのCF継続は助けになっていた。

 もう1つはエバートン側の事情である。先にも述べたがエバートンはイウォビに比べて、アーセナルの右サイド側のマクニールの方が低い立ち位置を取っていた。エバートンはイウォビを前残りさせて、カウンターに備える節があった。よって、アーセナルは左の大外にボールを入れればイウォビを自動的に超えられる状況となった。

 これによりイウォビのサイドのエバートンの大外はコールマンが担当する。コールマンはハーフスペース突撃をしてくるジャカ、ジンチェンコやレーン交換を行うマルティネッリやトロサールに対してどこまでついていきながら対応するかを調整するという非常に難しい役割を担う。

 アーセナルはイウォビを越えることはできていたが、その先のスペースをプロテクトするコールマンとキーンをうまく動かすことができず、崩しはやや停滞気味になっていた。コールマンは非常に難しい調整役をこなしたと言えるだろう。

サカの基準乱しとオーバーロード

 本来であれば、こういう時になんとかしてくれるのがアーセナルの右サイドである。しかし、今日はこの右サイドは左サイドよりも旗色が悪かった。サカは大外でボールを受けても前を向くことができずに苦戦。サカを囮にしての背後の動きもなかったわけではないがこれも不発。

 裏をとる動き出しがなかったわけではないが、この日のアーセナルはパスのフィーリングがよくなかった。ジョルジーニョ、ホワイト、ジンチェンコといったキーパスを通す選手たちのパスがことごとく感覚が悪い。エバートンのようにきっちりとブロックを組む相手に対して、キーマンが揃ってパスを繋ぐことができないという状況は非常に苦しい。

 エバートンからすれば前半の展開は比較的想定通りだろう。ローラインにした代償として陣地回復に苦戦するのは自然な流れである。前回、この展開を助けてくれたキャルバート=ルーウィンは不在。モペイはロングボールのターゲットにはならない。オナナもロングボールの的としてテストをされていたが、数回試しただけですぐに当てるのをやめてしまった。エバートンはオナナとドゥクレの左右を普段と入れ替えていたので、ジンチェンコにオナナを空中戦でぶつけたかったかのかな?と思ったが、あまりそういう素振りを見せなかった。

 機能しなかった前進手段の部分を手助けしてくれたのはアーセナルの選手たちだった。先にあげたバックラインのフィーリングの悪さはエバートンのカウンターのスイッチになっていた。やや構えるようなミス待ちのスタンスではあったが、実際にアーセナルがミスをしてくれたおかげでアーセナル陣内に進む機会を得ることができたといえる。チャンスを得そうになったエバートンだったが、アーセナルのバックスにゴールに迫る機会は防がれる。横への素早いスライドが光ったガブリエウは特に素晴らしかった。

 うまくボールを前に進めずに、相手からカウンターを喰らってしまうアーセナル。修正のためのプランとして着手したのは右サイド攻略の再構築である。右サイドを攻略するための方策としてまず取り掛かったのはオーバーロード気味に人を集めることだった。

 30分過ぎからトロサールに代わってCFをベースポジションにした感があったマルティネッリは積極的に右サイドに顔を出す機会が増えた。さらにLSBのジンチェンコも右サイドに出張する。かなり自由度の高いプレーではあるが、エバートンのカウンターの危険性がそこまで高くなく、またエバートンがプレスに来ない。よって、ビルドアップでジンチェンコが顔を出す必要がない。それを踏まえれば許容できる自由度である。グイッと撤退するチーム相手にはジンチェンコを自由に動かすことは今後前提になるかもしれない。

 ジンチェンコとマルティネッリの加勢によりアーセナルの右サイドはかなり人が多くなった。これにより、サカのポジションに変化が出てくる。大外から離れてボールを受ける機会が徐々に増えていくのである。

 アーセナルの攻撃は大外に張るWGからスタートすることが多い。よって、アーセナルの対策であるダブルチームも大外にいるWGに対してを基準に行われることが多いのである。特に下がって守備をするマクニールは大外に張るサカをターゲットにプレスバックを行う。よって、大外に立つはずのサカがいないとマクニールはマークの基準を見失うようになる。

 アーセナルの先制点のシーンは上に挙げた要素が数多く詰まっている場面だったと言えるだろう。まずはジンチェンコとマルティネッリが顔を出してオーバーロードの状態を作っているというのが1つ目のポイント。そして2つ目はサカの立ち位置がインサイドに旋回してハーフスペースに入り込んでいることである。

 これにより、マクニールは右サイドに登場したマルティネッリを追うのか、それとも手前のホワイトをケアするのかを迷っている。ここでマクニールが迷わずマルティネッリを選ぶことができていれば、マイコレンコはサカのケアに行けたはず。それができなかったため、マイコレンコまで中途半端なポジションが連鎖してしまった。

 大外で基準点を失ったマクニールが微妙な対応をしてしまったせいで、結果的に出し手となったジンチェンコには同サイドに3つの選択肢が用意されることとなる。大外のマルティネッリ、内側のウーデゴール、そして裏を狙うサカである。ジンチェンコが選んだのはインサイドの裏を狙うサカ。キーマンがきっちり縦パスを通すというブロック攻略における最後の材料が揃ったアーセナルはサカの右足から先制点を生み出すことに成功する。

 1本目の枠内シュートをゴールに繋げたアーセナルは続く2本目の枠内シュートも得点に繋げる。ハイプレスからボールを奪い取ったサカからそのままボールを引き取る形でマルティネッリが追加点をゲット。10得点目の大台に乗せるゴールを決めてみせた。エバートンはゲイェが痛恨のミス。認知の甘さによりスイッチをオフったところを完全にサカに狙い撃ちされてしまった。

 前半は苦戦したアーセナルだが、40分以降の猛攻で2得点。わずかな時間で安全圏に届くリードを奪うことに成功した。

後半は王道で

 後半、エバートンは前から出ていく形でアーセナルを迎え撃ちにいく。よって、前半のようなダブルチーム体制でアーセナルのWGを迎撃するような形は無くなった。ちなみにゲイェはハーフタイムで交代。懲罰だったのかはいざ知らずである。

 アーセナルはこれによりシンプルな4バック攻略に移行することになった。両サイドの大外にポジションを取り、ハーフスペースにも選手が立つ。いわゆる5レーン的な立ち位置でアーセナルはエバートンを迎撃する。司令塔はジョルジーニョからトーマスに交代。中央で起点を作る役割はトーマスに委譲された。

 アーセナルはマルティネッリ、ジャカ、トロサール、ウーデゴール、サカの5人で5レーンを埋めて、後方からはトーマスが彼らを操っていく。一番攻撃の脱出口として聞いていたのは左の大外を取る選手(マルティネッリが多かった)から。斜め方向にSBの裏からのインサイドへ斜めが入ってくる形でエバートンのラインを一気に下げることに成功する、

 トーマスは中央にどっしりと構え、左右にボールを散らしながら攻勢をかける。5レーンのアタックも左サイドの裏抜けをスイッチに順調に活躍。時折、ジョルジーニョを彷彿とさせる浮き玉のパスを入れて中央をダイレクトにかち割る機会もあった。

 前半のブロックこじ開けを左右の偏在化と自由なポジショニングで解決したと位置付けるのならば、後半のアーセナルは王道の5レーンアタックでエバートンの4バックを攻略し続けたといっていいだろう。前半のような半ば強引な解決策を持っておくのも大事だが、後半の王道をきっちり踏襲して相手を叩けるのも大事。亜流は条件が揃った時のみに解放し、問題がなければ王道で攻める方向性を見失ってはいけない。前半のような奥の手だけではなく、後半の王道パターンできっちりチャンスを作れたのはアーセナルの強さを示していると言えるだろう。

 エバートンからすれば選手交代の直後に振って湧いたようなマクニールの決定機が追いつくための最後のチャンスだったと言えるだろう。このピンチを凌いだアーセナルはここから試合を決めにかかる。得点はいずれも左サイドを攻略したもの。左の大外を駆け上がったトロサールからウーデゴールがマイナス方向にアシストを決めた3点目、ハーフスペースの裏を取る形でエンケティアが起点を作った4点目どちらも紛れもなく王道のブロック攻略のパターンの一つと言えるだろう。

 最後はティアニーとスミス・ロウというアーセナルファンが最も見たい2人を投入してアーセナルはゲームクローズ。ラムズデールには後半追加タイムにクリーンシートのための大きな見せ場がやってきたが、見事に役目を果たして無失点で終了。亜流でこじ開けた前半と王道で差を広げた後半。2つの顔を見せたアーセナルがホームでリベンジを達成した。

あとがき

 エバートンは悪くはなかったが、前半終了間際に畳み掛けられて2点をリードされるときつい。今のエバートンは得点力に期待できるチームではない。前回対戦時と比べるとやはりキャルバート=ルーウィンの不在は痛い。攻撃にぶつ切り感があった前回と比べて、今回は保持において試行回数を稼ぐことができた。アーセナルがああいった前半のような解決方法を導けたのも、それなりに試行回数があったからだろう。

 アーセナルに関しては本文でも繰り返した通り、亜流のこじ開けで得たゴールを王道の攻略でさらに固めるという流れが自分の好み。強いチームの振る舞いと言える試合運びで間隔がない試合を見事にコントロールしたと言えるだろう。1点取るまではヤキモキしたが、最後は多くの交代選手を試せたことを踏まえれば100点満点の完勝と言えるのではないか。

試合結果

2023.3.1
プレミアリーグ 第7節
アーセナル 4-0 エバートン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:40′ サカ, 45+1′ 80′ マルティネッリ, 71′ ウーデゴール
主審:マイケル・オリバー

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