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「俺もカタール行きたかったな」~FIFA World Cup QATAR 2022 全チーム総括 part5~

躍進した各国の生き様を振り返る。その5。

その1

その2

その3

その4

目次

【4位】モロッコ

万能型のチームに個性を上乗せ

 自分の記事の読者の方ならばよくわかるだろうが、このブログはあまり断定的な表現を好まない。なぜならば、自分の意見は一側面に過ぎず、他の見方も存在するのは必然だからである。もしかすると、断定的な表現を使うことによっていらぬ批判を受ける可能性だってある。そういう世の中である。

だが、「モロッコの躍進は今大会最大のサプライズ枠である。」と断言してもきっと怒られることはないだろう。アフリカ勢初のベスト4に加え、ベルギー、スペイン、ポルトガルと欧州の列強を立て続けに敗北に追い込んできた戦歴は今更ここで説明する必要はない。

 初戦はクロアチア(3位決定戦で再戦することになる)とドローという地味なスタートだったが、必死こいて得点を狙うベルギーを一蹴すると、一騎打ちで燃え上がるクロアチアとベルギーを尻目にカナダをきっちりと叩き、悠々と首位通過を決めた。このカナダ戦はハイプレスでの強襲での先制点、前がかりに来た相手をひっくり返してのカウンター、そしてブロック守備での逃げ切りとモロッコの万能性を存分に感じることができる内容だった。

 ノックアウトラウンドにおいてもスペイン、ポルトガルを続けて撃破。どの局面も苦手な部分は少ないチームではあるがカナダ、スペイン、ポルトガルと今大会においてはプレッシングの意識が強いチームに負けていないことを踏まえると、特に優れているのはプレス回避の局面だろう。アンカーのアムラバトの緩急の付け方は絶妙で、前がかりにプレスにくる選手たちを軒並みいなして見せた。中盤ではウナヒが前方へのランを合わせて攻撃のスイッチを入れる。プレス回避から敵陣への侵攻がスムーズなのはウナヒの貢献が大きい。

 アタッキングサードにおいてはWGとSBの連携をベースに相手をえぐりながらクロスを上げてエン=ネシリの高さ勝負に持ち込んでいく。特にストロングの右サイドはハキミだけでなくウナヒ、アムラバトも絡みながらツィエクを軸とした攻撃をサポート。トランアングルでハーフスペースの裏抜けとツィエクのカットインクロスを両にらみできる完成度はナショナルチームにおいては屈指といえるだろう。

 守備ではミドルゾーンに構える4-5-1のブロックが冴えていた。プレスに出て行った際のカナダ戦の凄みも捨てがたいが、どちらかといえば推したいのはこちら。少ない失点数で準決勝まで進むことが出来たのはボールを相手に持たせた時の精度の高さに拠るところが大きい。きっちり守り、保持では時間を作り出し押し込んでクロス攻勢をかける。

 万能性に選手の個性を上乗せしたスタイルはベスト4にふさわしい出来。決め手の差でフランスに敗れはしたが、負傷選手を抱えながらも堂々と渡り合った様子を見れば、彼らのベスト4をフロックと考えるものは皆無だろう。

Pick up player:ロマン・サイス

 ラウンドを追うごとにプレータイムが短くなり、抱えている負傷の重さを感じる部分はあったが、彼が交代した直後のラインの下がり方を見れば、少ない時間でも使いたくなるのは事実。どんな状況でも勇敢に戦った今大会のモロッコを体現するかのような選手だった。

【3位】クロアチア

我慢くらべの世界王者

 EURO2020では前線のオフザボールの動きがあまりにも遅かったことから「モドリッチにおんぶにだっこに肩車」と当時散々な評価をつけたクロアチア。だが、今大会ではEUROと異なり躍進。見事にベスト4という好成績を収めて見せた。

 モドリッチ、ブロゾビッチ、コバチッチの中盤の3枚は動きの自由度と補完性が高く、どんなチームが前からプレスに来ようと屈することはなかった。高い位置からのプレスをいなし、ボールをポゼッションでいなすスキルは天下一品。ポジションを頻繁に入れ替えたり、位置を変える動きを増やすことを自然にできるクロアチアの中盤。個人のスキルはもちろんユニットとしての希少価値が非常に高い。

 バックラインではグバルディオルが左サイドからボールをキャリー。今大会では希少なバックラインからのドリブルで組み立てるCBとして存在感を発揮。もちろん、非保持においては対人の強さを発揮し、ラウンドを進むごとに頼もしさが増していた。

 こうしたバックラインと前線が完璧にかみ合ったのがグループステージ第2節のカナダ戦である。右のWGに入ったクラマリッチが馬鹿みたいに収まるし、狭いスペースを全く苦にしないボールコントロールを披露する。中盤より後ろのタレントが目立つクロアチアだが、この日ばかりは一番輝いているのは彼!という出来だった。

 日本が敗れたこと、ブラジルを撃破したことなどから、今大会のクロアチアに対してかなり強い印象を持った人もいるだろう。ただし、成績を紐解いてみれば準決勝まで1勝4分1敗と苦しい星取であったことも事実だ。クラマリッチの覚醒は第2節のカナダ戦限定だったし、他のアタッカーも得点のところで光るものを発揮するのは難しい。両ワイドの選手たちは汗かき役ではあるが、特にペリシッチ以外はソロで対人を挑むにはパンチ力に欠ける。ペリシッチにしてもサポートがあった方が輝くタイプであり独力突破に専念するタイプではない。

 そうしたチームにも関わらず先制した試合が3位決定戦のみというのは驚きである。クロアチアの勝ちパターンは非保持ではコンパクトなブロックの形成して、ボール保持ではプレスをいなすことができるボール回しを使える。自分たちががっちりとペースを握って崩すというのはそこまで得意なチームではない一方で、相手にリズムをにぎらせないこと、タイスコアや1点差など何が起きるかわからないスコアで試合をキープすることに非常に長けている。

 コンパクトなブロックを支えているのは献身的な前線のプレイヤーのプレスバック。特に左サイドにドリブラーを抱える日本とブラジルと当たった時のパシャリッチを軸とした対応は見事。全体の陣形を片側に寄せることで1人目が振り切られてもスピードに乗らせる前に食い止めるやり方で三笘やヴィニシウスを封じる。これ以外に攻撃のパターンが見えなかった日本は特に苦しんだ。

 流れを食い止めた後はPK戦で相手を圧倒。キッカーのコース取りからして相手をきっちりプレッシャーに陥れるキックが軒並みできており、相手のGKを苦しめる。守ってはリバコビッチの独壇場。セービングもさることながら120分過ぎての大熱戦のはずなのに、試合前のような涼しい顔をしているのには度肝を抜かれた。

 少数スカッドで決して若くはない平均年齢であれば延長戦は嫌がるものだが、クロアチアは今大会もPK戦で2試合を制している。展開がタフになればなるほど風向きはクロアチアに向くのだから不思議なものである。格上のチームもだらっと過ごしてしまいがちな今大会においては、非常に効果的な特性であることは間違いないだろう。

 勝ちきれない苦しい星取には課題も見えるが、それでも3位というのは偉大な記録である。我慢比べでは世界最強クラスであり、トーナメントで上位に進む資質があるチームであることは間違いないだろう。

Pick up player:ルカ・モドリッチ

 30代後半のベテラン選手というのはこと代表においては悩みの種になりやすい。低下する運動量はそれだけでプランの制約になるし、名前ほど実効性が十分ではない選手もいるだろう。しかし、モドリッチは30代後半になってもプレスのスイッチを入れ続け、ゲームメイクをやり続ける。王としてチームに君臨するのではなく、自らが先頭に立ちチームを牽引できるのがモドリッチの凄みである。

【準優勝】フランス

強固なプランA構築とサブキャストの充実の両立を実現

 今大会はブラジルと並ぶ優勝候補。混乱が多いグループステージにおいてもほとんど無風の立ち回りを見せたといっていいだろう。オーストラリア戦では先制点を許し、リュカを失うという動揺してもおかしくない立ち上がりだったが、凶悪なWGコンビを軸に流れを取り戻すと大量4得点をゲット。続くデンマーク戦では追いすがる相手を振り切りムバッペが決勝ゴールを叩き込んで早々に突破を決める。

 突破を決めた後のチュニジア戦ではメンバーの入れ替えを優先したため勝利を献上してしまったが、ノックアウトラウンドに入るとギアを入れ直して復調。イングランドにはやや粘られこそしたが、ポーランドとモロッコにはきっちりと格の違いを見せつけたといっていいだろう。大会中に謎のウイルスが蔓延した影響もあってか、決勝戦ではパフォーマンスが芳しくない場面もあったが、最後までアルゼンチンを苦しめることができたのは底力といえるだろう。

 強さの根源を紐解いていくとまずは前線のユニットの完成度が挙げられるだろう。優勝したアルゼンチンしかり、今回の大会は大駒を軸としたユニット形成をするチームが多いが、フランスはそのユニット構築が非常に無理がなかった。ジルーを中央に置き、ワイドにムバッペとデンベレを置く形は強力。

 メッシに比べるとムバッペは自陣が低い位置まで下がったとしても攻撃に参加できるし、ムバッペの背後をカバーするラビオの存在感が光る。グリーズマンもビルドアップ参加、サイドへの展開や自らがサイド攻撃に寄与するタスク、さらには非保持におけるプレスのスイッチ役やリトリートでのスペース埋めなど非常に万能な動きが際立った。ベンゼマやカンテの不在はジルーやチュアメニがうまく埋めるんだろう!というのは個人的には想像がついていたが、ラビオとグリーズマンの出来は個人的には想像以上だったといえるだろう。

 チーム全体のプランとして目についたのは強豪国にも関わらずボールを持たれる展開を苦にしない。むしろ、ムバッペを前残りさせることでボールを持っている相手に対して刃物を突き付けているかのような状況。ボールを持っていることと支配していることは別という価値観が浸透して久しいが、明確にボールをもたないにも関わらずロングカウンターで支配力を発揮しているという点では非常に稀有なチームといえるようにも思える。

 保持の局面ももちろん苦手ではない。超攻撃的なSBのテオとムバッペが揃う左サイドは強力で、スペースがない状況でもこじ開けられる力強さを有している。ただし、バックラインからのボールの供給はそこまでなく、CBは放置しても問題が少ないことが数少ない欠点といえるだろう。CBのプレス耐性も怪しい部分はあるが、後方の広いスペースをムバッペに明け渡す恐怖と隣り合わせになる。それでもミドルゾーンで踏ん張ったアルゼンチンが支配したところを見れば、勇気を出したプレッシングをやる価値はあるといえるだろう。

 ミドルゾーンから後方の迎撃守備も抜群。CBは迎撃も跳ね返しもお手の物で地上戦と空中戦どちらにおいても欠点が少ない。ウパメカノ、コナテ、ヴァランの3人は誰が出ても遜色ないパフォーマンスだったし、おそらくサリバも出来てしまうのだろうなと思う。唯一の懸念であるSBの対人だが、左のテオのところはウパメカノやラビオがカバーしたり、右にはCBが基本線のクンデを入れる形できっちりと手当てをしていた印象だ。

 メンバーが固まっているチームにおいてはスーパーサブが出てこない副作用が出がちだが、このフランスはそんなことはなかった。コロ・ムアニやテュラムといった追加招集組は決勝戦に出場しただけでなく、ペースチェンジャーとして試合を実際に動かす頼もしさすらあった。スターターを固定した割には交代選手がうまく入れるケースが多かったのは正直意外だったといえるだろう。

 ほぼ完ぺきな大会だっただけに決勝戦での出来は悔やまれるばかりである。明らかに重く、ミスを連発してしまう原因がどこにあったかはわからないが、ガチっと組み合う時間をより長く作ることができればペースはよりフランスに傾いただろう。

 チームとして世代交代が気になるのはジルー、ベンゼマが1,2を務めるCF。ムバッペをコンバートするのか、あるいは異なるCFを使うのかは気がかり。ただ、チーム全体を見ても残す懸念はGKくらいのもの。W杯という一つの節目における世代交代の負荷は比較的少ない方であり、EUROでも引き続き躍進に期待が持てるチームといえるだろう。

Pick up player:オリビエ・ジルー

 35歳になってもベンゼマに馬鹿にされたとしてもここ数年のフランスのCFはジルーの方が圧倒的成績を出している。世界的に見て稀有なポゼッション型の長身FWというジャンルの第一人者としての差はまだ揺らぐ様子がない。

【優勝】アルゼンチン

サポートキャストに恵まれたメッシが第二の全盛期を謳歌

 やったぜ優勝おめでとう!!

 グループステージの立ち上がりはサウジアラビア代表にまさかの敗戦。サウジアラビア国民に祝日を献上するなど大盤振る舞いのサービスからスタートすることになった。振り返ってみるとこの敗戦は良い薬になったのだろう。足元しか付けられない2列目と加速してからの裏一辺倒しかでの緩急のない一本調子な攻撃はサウジアラビアのリスク承知の戦法を打ち破ることができず、逆転勝利を許してしまった。

 しかし、この敗戦で目を覚ましたか以降の戦いぶりは安定。ポーランド、メキシコには危なげなく勝利したし、ノックアウトラウンドにおいても常に先手を奪いながら戦いを進めることが出来ていた。

 ゲームプランとしてはスロースタートが基本線。無理に前線からのプレスを行うのはメッシがいる限りは出来ないので、2列目からデ・パウルが出て行く形でスイッチを入れる形でミドルゾーンからプレスを入れていく。

 得点が入ると流れは一気に加速するスタンスであり、特にグループステージではその傾向が非常に顕著だったといえる。1点入るまでは退屈で膠着した戦いが続くが、それ以降は狭いスペースを少ないタッチで切り裂く目の覚めるような攻撃を繰り出す。中央をショートパスでこじ開けるコンセプトはオランダと似ているが、メッシがいる分破壊力は明らかにアルゼンチンの方が上といえるだろう。

 中央密集が基本線となる以上、大外はSBに一任されるケースが多く、モリーナやアクーニャなどSBには走力が求められる場面が多かった。よって、決勝の大外でのディ・マリアのアイソレーションはこの大会においては異質なアルゼンチンの振る舞いだったといえるだろう。

 2節目以降はメッシを支えるサブキャストをどう組むか?に力点を置いた采配を行ったスカローニ。ビルドアップの中心人物となったエンソ・フェルナンデスや、オフザボールでもオンザボールでもポジショニングでもチームを支えられるマック=アリスター、そして前線で直線的な速さを作り出すことができるアルバレスなどが序列を上げ、より今のアルゼンチンに最適化されたサポートキャストが選ばれるようになった。

 彼らのサポートでメッシは水を得た魚のように躍動。狭いスペースに追い込まれても相手に触れることすら許さない姿はまさしく第二の全盛期といった振る舞いで、大会を追うごとにパフォーマンスは凄みを増していた。どんな試合においても他の選手を押しのけて強引に主役になってしまうあたり、この大会はメッシの物といっても過言ではない。

 若いながらこうしたチームを作り上げたスカローニのチーム作りは称賛に値する。時にはダーティさが前面に出ながらも、多くのサッカーファンにとってアルゼンチンが主人公になれたのは、メッシの中心ながらもサブキャストが躍動するチームを作り上げた彼の功績だといえるだろう。

Pick up player:エミリアーノ・マルティネス

 優勝に向けた最後の決め手になったのは長年泣きどころとされてきたゴールマウスに君臨するエミリアーノ・マルティネスだった。コパ・アメリカに続き、獅子奮迅の大活躍でメッシに再びタイトルをささげることに成功した。

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