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【11位】アストンビラ
27試合/11勝5分11敗/勝ち点38/得点35 失点39
貴重な監督交代の好例に
今年のプレミアリーグの特長として挙げられるのは監督交代の好例があまり多くないこと。ブライトンのデ・ゼルビは成功例だろうが、特に下位に沈んでいるチームはなかなか交代で浮上することができないのがトレンドである。
そんな中で言えばジェラードからエメリに舵を切ったアストンビラは十分に好例に当てはまる監督交代と言えるだろう。降格とも欧州カップ戦とも無縁の順位は刺激的ではないかもしれないが、今年のように多くのチームが絡む地獄のような残留争いは巻き込まれないに越したことはない。
就任当初からエメリは非常にらしさが出ていた。バックラインのパス交換を相手の前線が痺れを切らすまで行うしつこさはアーセナルファンの自分を「そういえばこんな感じだったな」と懐かしい気持ちにさせるものだった。
後方から長いフィードをつけることを得意とするマルティネスやミングスといった供給役や、前線で左右に動きながら相手の穴を見つけることができるワトキンスはこういったエメリの後方のパス交換とは相性が良かった。もちろん、税金としてがっくり来るようなロストから失点することもあったが、そこはご愛嬌だろう。トータルで見れば収支はプラスだった。
中盤ではカマラが復帰したことで自由を手にしたドウグラス・ルイスが前線に顔を出す頻度を上げて大暴れ。得点に絡むエリア内での突撃や、奔放なドリブルを見ると彼の本分はアンカーではないのだなということがよくわかる。
難点を挙げるとすれば(これもエメリのチームらしいが)マイペースでなかなか試合のリズムに沿う形に変容を遂げることができないこと。リードを奪っている試合でも綺麗にクローズすることができない。アーセナル逆襲のきっかけになった逆転劇はビラのこうした不器用さが生んだ側面もある。
センターラインに負傷者が出た際の選手層には不安があるのが正直なところ。特に実質代役不在のワトキンスはチームの要である。デュランのような素材を開花させるのもまたエメリらしくていいとは思うが、できれば時間をかけてじっくりと。ワトキンスを負傷で失うことになってプレータイムを伸ばす展開だけは避けたいところだ。
Pick up player:ブバカル・カマラ
ジエゴ・カルロスとどちらかが常に怪我している状況が開幕以降続いていたが、ようやく最終盤に揃い踏みが見れそうなのは非常に楽しみ。両者ともこのまま怪我なくシーズンを終えて欲しいところである。
ここまでの道のり
【12位】クリスタル・パレス
28試合/6勝9分13敗/勝ち点27/得点22 失点38
自慢のアタッカーにボールを届ける手段がない
ローラインで粘りつつ、ロングカウンターから一発を狙うというスタンスは健在。ヴィエラ政権以降はシステマティックな3-2-5へのボール保持も織り交ぜながら、進化を図っていく。それがパレスのフロントが描いた青写真だろう。
だが、その青写真はつい先日のヴィエラの解任を持ってひとまず終了したことになる。2023年はプレミアリーグで唯一の勝ちなし。12位という順位は悪くはないとはいえ、再開時には似た勝ち点だったアストンビラにここまで水を開けられている。その上、降格の危機も残っている状況なのだから解任は致し方ない部分もある。
あえて、ヴィエラの擁護をするのであれば、今季のパレスが日程の偏りがひどい。ハーフシーズンの頭には強豪との連戦が続く日程になっており、パレスは今現在ようやく後半分の山を超えたあたりである。
2023年のここまでのリーグ戦はトッテナム、チェルシー、マン・ユナイテッド、ニューカッスル、マン・ユナイテッド、ブライトン、ブレントフォード、リバプール、アストンビラ、マン・シティ、ブライトン、アーセナル。見事に上の順位のチームしかいない巡り合わせになっている。
それでもどこかで勝ち星が欲しかったというのは正直なところだろう。低い位置からのロングカウンター一本というプランはなかなか難しく、タレント豊かな前線にボールを届ける手段はもう少し欲しいところ。中盤は潰し屋として君臨するドゥクレは柱になったが、司令塔としてはロコンガ、ミリボイェビッチ、ヒューズのいずれも確固たる存在にはなれず、アタッカーがボールを運ぶところからフィニッシュまでを全て行わないといけない。
オリーズは保持においては存在感を増しているが、シティ戦での軽率なPK献上で籠城戦を台無しにしてしまうなど、パフォーマンスにはムラがある。籠城+ロングカウンターはこうしたワンプレーで何もかもが無駄になってしまう難しさがある。そういうスタイルを選ばざるを得ないということが勝ち切る可能性を狭めている側面はあるだろう。
後任はロイ・ホジソン。レジェンドを引っ張り出してなりふり構わない格好のフロントに、選手たちは奮起で応えたいところだ。
Pick up player:ミカエル・オリーズ
サカのバックアッパーとしてアーセナルに!とのぞむアーセナルファンも多いのだけど、なんとなく責任を負いながらシーズンを走り切る方が今は彼のキャリアのためにはいい時期なんじゃないかなと思ったりする。
ここまでの道のり
【13位】ウォルバーハンプトン
28試合/7勝6分15敗/勝ち点27/得点22 失点41
正式監督就任のアドバンテージは?
スロースタートからの巻き返しになるといういつも通りのシーズンの幕開け。例年に比べれば降格圏との勝ち点は少し近い気もするが、順位を見ればこのあたりを行ったり期待する時期というのは毎度おなじみな感じもする。
監督解任→暫定監督の就任という応急措置を取る下位チームが多い中で、ウルブスは明確にロペテギという後任をW杯前に確保することに成功。新監督の下、冬の移籍市場で動くことが出来たのはポジティブといえるだろう。就任初の市場ということもあり、かなりの大盤振る舞いを敢行。センターラインにはクーニャ、ドーソン、レミナ。ワイドにはサラビアと国内外の経験豊富な選手たちを集めてスカッドを強化した。
監督が交代したことでスタイルには微妙な変化がもたらされるように。最も大きな変化はゆったりとしたボール保持が増えたことだ。CHは縦関係を形成。片方は中盤に残り、片方は最終ラインに降りる。レミナとネベスの特性を考えれば、前者がレミナ、後者がネベスとなりそうなものだが、意外とこの役割は交換しながら行われている。
ゆとりを持った後方からワイドに展開しての大外勝負が現状での基本線。ワイドでSBがサポートできれば手厚い攻撃は期待できる。
ただ、現状のアタッカーを見ると、どちらかといえばカウンターにおいて強みを発揮しやすい人材が多く、縦に早い攻撃の方が得点が期待できる感じもする。このあたりは従来のスカッドとロペテギのスタイルのすり合わせが必要な部分だろう。
就任当初のロペテギはは4バックスタートで5バックに移行するという機械的なアクションをスコアに関わらず行っており、試合の流れに乗れないこともしばしば。試合中に頻発されるフォーメーション変更がピッチ内の混乱を招いているかのような日もあった。
それでも試合を重ねるごとにチームは少しずつ落ち着きを取り戻している印象はある。ロペテギのバタバタとした采配も今は見られる頻度は減った。
ロースコアでの粘り勝ちが得意パターンではあったが、現状ではリセットがかかった印象。この記事を書いている現在では29試合で42失点。9試合を残して昨季の総失点と1しか変わらない状況になっている。もはや堅守のイメージはない。
今のチームは強みも弱みも平均化された印象で得意な局面もなければ、極端に苦手な局面もない。パンチ力が足りていないブロック攻略には不満があるだろうが、その部分はチームを完成させるうえで最も難しい部分でありいたし方がないだろう。
来季を見据えれば他クラブに比べて早い段階で将来を託す指揮官が決まっているのはアドバンテージになりうる。そのアドバンテージを生かすためにも、残留という目標はきっちり達成したいところだが。
Pick up player:ペドロ・ネト
負傷明けでプレータイムもコンディションもまだまだだが、バックラインからの対角パスから大外のアイソレーションを託せるWGがウルブスにいるとしたら彼一択。撤退守備攻略のためのジョーカーになれれば、残留の可能性はグッと高まるはずだ。
ここまでの道のり
【14位】リーズ
27試合/6勝8分13敗/勝ち点26/得点35 失点44
リスク排除の姿勢に一抹の寂しさ
ジェシー・マーシュの解任は2月6日。7試合連続のリーグ戦の未勝利を受けてのことであった。今季の残り試合は暫定監督のマイケル・スクラバが指揮を担当することになる。
解任ということで当然残留争いに巻き込まれるチームの1つである。最もW杯明けの内容はそこまで悪くはなかった。特にウェストハム戦やアストンビラ戦などは内容的には優勢でも勝ち点に結び付けられない展開が続く。
悪い成績が悪くない内容を食ってしまうというのはサッカーにおいてはよくある話。リーズも徐々にそうした状況に蝕まれていった感じはする。
そうした中でのマーシュの解任の妥当性においてはおそらく意見が分かれることだろう。個人的には解任に足る理由が全くないわけではないことは指摘しておきたいところである。特に攻守における前線のマネジメントは気になる部分であった。
保持においてはサイドのアタッカーが孤立しがちで従来のホルダーを追い越すリーズらしい動きが皆無に。よって、アタッカーは独力での突破を求められることが多くなり、得点の機会はカウンターに寄ることに。撤退しての相手を崩すということに関しては好調のニョントに多くの負荷がかかることとなった。
プレッシングにおいては徐々に持続時間が短くなっており、ペースを自分たちの方向に引き寄せることが出来なくなっていた。マーシュ解任後の初戦となったマンチェスター・ユナイテッド戦でイキイキと高い位置からプレスをかけ続ける姿を見ると、マーシュを解任したことで重石が無くなった部分は少なからずあるのだろう。
だが、そうした監督交代の影響が落ち着いてきた今、残された現状のスタイルにはなかなか希望を持ちにくいのも事実。プレッシングに関しては割り切りながら2トップは中盤のケアを優先し、相手のバックラインに強気で食って掛かるスタンスはきれいさっぱりなくなってしまった。
もちろん、そうしたビエルサ的なスタイルは安定感に欠けるところがあるのは確か。無理にリスクをプレスで追うことはないのかもしれない。だが、スカッド構築で優位に立てない今のリーズにおいては、角が無くなってしまった中でどこまでリーグの猛者たちと渡り合えるのかは気になるところでもある。フレッシュな若手選手たちも徐々に勢いがトーンダウンしている印象だ。
最後はほぼ自分の願望になるのだが、リーズにはリスクを請け負って胸を躍らせるような試合をしてほしい。シティやリバプールを苦しめたリーズをまた見たいのである。リスクをとらず、オーソドックスなプランを構築するようになった今のリーズにはそうした試合がだいぶ減ってしまったように思う。
マーシュから飛び出したギターパフォーマンスは今季のリーズのハイライト。あのパフォーマンスのように思わず興奮してしまうようなシーンを残りシーズンで見せてほしい。それが自分がリーズに期待することである。
Pick up player:ジャック・ハリソン
昨季、残留を勝ち取るウイニングゴールを決めた立役者は今年も2列目で奮闘。パフォーマンスを落とした選手が多い中で徐々にパフォーマンスを上げている彼の存在は心強い。今年もチームを救うことができるだろうか。
ここまでの道のり
【15位】エバートン
28試合/6勝8分14敗/勝ち点26/得点22 失点40
王道路線で手堅く残留に邁進
もはや、下半分の論評は監督交代の評価に終始している感じもあるのだが、大体のチームは監督交代をしているので仕方がない。エバートンが断行した監督交代はプレミアの中では王道路線の継投になるだろう。ランパードというチャレンジ枠に失敗してしまったゆえに、できることがはっきりしていて手堅いダイチという構図。プレミアでは繰り返されてきたリレーである。
就任初戦は非常にセンセーショナルなものだった。首位相手のホームゲームという難易度が非常に高いミッションだったが、ダイチはこのミッションを完璧にクリア。ターコウスキのヘディングで手にした1点を守り切り、アーセナルを下してグディソン・パークに光を灯して見せた。
ちなみに負けたアーセナルは当時連勝街道真っ只中。ダイチは無敗記録を継続中のブレントフォード相手にも勝利を挙げており、今季の記録ストッパーとして謎の力を発揮している。
ダイチの現段階の戦績は9戦3勝と劇的に向上したとは言い難い。しかしながら、この間の対戦相手はアーセナル×2、リバプール、チェルシー、トッテナム、ブレントフォードだったことを踏まえれば数字としては悪くはない。特にホームは5戦1敗と堅実な戦いが続いており、このあたりはターフ・ムーアで要塞を築いたダイチっぽい。
スタイルとしては強固なブロック守備とロングカウンター、セットプレーからの得点という従来の手堅いスタイルを踏襲している印象である。そのため、キャルバート=ルーウィンの離脱がここまで長引いているのは誤算だろう。ホームとアウェイの違いがあるとは言え、アーセナルとの2試合を比較すれば彼の離脱がもたらす影響の大きさは計り知れない。
当時のバーンリーに比べれば、中盤には豪華なタレントが揃っている分、高い位置からのハントという色気を見せることもできるのは大きな違いである。ドゥクレ、オナナ、ゲイェの3枚はプレミア屈指のアスリートユニットであり、純粋な運動量でいえば相当なリターンが期待できる。
だが、その分リスクもある。高い位置からのチェイシングは間延びを引き起こすこともあり、そうなった際に後方の守備ユニットは耐えられなくなるシーンもしばしば。特に先行されてしまい、こうしたリスクを取らざるを得なくなると厳しい部分がある。
残留という目標を見据えればダイチという選択は個人的には最適解に近いと思う。だが、シーズン頭からエバートンの規模のクラブを任せるという観点から言えばまた話は変わってくるだろう。少し先の話になるが、財政的にも制約がありそうな現状で、来季以降どのような選択をするのかも気になるところである。
Pick up player:ドミニク・キャルバート=ルーウィン
初戦のアーセナル戦のレビューで「このパフォーマンスを継続すれば残留間違いなし」と述べたが、彼の離脱で先の発言の前提は早くも崩れてしまった。ロングカウンターとセットプレーという2つの得点源のプレーを考えれば、今のエバートンのトップはモペイでもグレイでもなく彼だろう。早期の戦列復帰が待たれるが、負傷がちな選手なだけに判断が難しい。チェルシー戦で殊勲の同点ゴールを挙げたシムズにも期待が寄せられる。
ここまでの道のり
【16位】ノッティンガム・フォレスト
27試合/6勝8分13敗/勝ち点26/得点22 失点49
終盤にもう一波乱の可能性も否めない
下位のチームの特徴は監督交代だけではない。いずれのチームも冬の補強には非常に積極的だった。それだけ改革に必死なのだろう。そういう意味では夏に早い段階で大型補強を敢行していたフォレストはある意味賢いのかもしれない。
と言いたいところだが、彼らも普通に冬に更なる補強を行っており、それなりにスカッドを強化している。冬の動きの大きさはよそとそこまで変わりはない。ダニーロ、フェリペ、ウッド、アイェウといずれも費用的には安くない買い物に分類できるだろう。中でもヘンダーソンの離脱が長引いているゴールマウスにケイラー・ナバスを引っ張ってこれたのは特大のファインプレーだ。
ボトムハーフの中では貴重な監督交代を行わなかったチーム。クラブは連敗続きで解任がささやかれる中でクーパーの契約延長を発表。プレミアファンを驚かせており、今季のトレンドの逆を行く存在といってもいいだろう。
採用している形は大きく分けて2つ。4-3-2-1で前線の3枚がナローに並ぶいわゆるクリスマスツリー型がメインの形である。ライン間に入り込むギブス=ホワイトが前を向けばチャンスになり、右サイドに抜けるジョンソンがワンチャンスを決めるスコアラーとして暗躍。この2人は前線の中でも不動の地位を築いているといっていいだろう。
だが、もう1枠は多くの選手を試しながらもなかなか最適解が定まらない。リンガード、ウッド、アイェウ、サリッジ。時期により選手の優先度はころころ変わる。近頃のお気に入りはデニスになっているが、これもハマっているとは言い難い。
もう1つのフォーメーションである4-2-3-1は攻撃的なタレントを4枚置くためのシステム。単純に得点が欲しい終盤に前線の選手を自然に置いたらこうなったという感じの形である。こちらは現状ではオプション扱いだ。
SBに攻撃的なタレントを多くそろえているのだが、ライン間のギブス=ホワイト→ジョンソンといった縦に早い得点パターンが多いため、なかなか彼らの良さを生かせていないのが課題。攻撃的なSBは押し込まれた時のブロックの構築にはそもそも向いておらず、マイナス面が先に来てしまうというギャップを解決できないままシーズン終盤を迎えてしまっている。
監督を代えなかったことは褒められてしかるべきだが、成績は地味に右肩下がり。徐々にボーダーラインが近づいているのが気がかりである。現状ではチームは8試合勝ちなし。シーズン終盤の8試合にはマンチェスター・ユナイテッド、リバプール、ブライトン、ブレントフォード、チェルシー、アーセナルとトップハーフのチームがズラり。窮すれば新しい指揮官に助けを求める可能性もまだ消えたわけではないだろう。
Pick up player:ブレナン・ジョンソン
このフォレストにおいて8得点というのはすごいとしか言いようがない。得点源がほかにいない現状では彼が決めるかどうかの大きな役割を担う試合は今後も出てくるはず。残留の命運は彼の決定力に左右されることになるだろう。
ここまでの道のり
【17位】レスター
27試合/7勝4分16敗/勝ち点25/得点38 失点47
長続きしない修正案
順位的には下位でもお金は潤沢なチームが多いプレミアリーグ。しかしながら今季のレスターは例外。やりくりにはかなり苦しみながらのシーズンを余儀なくされている。
夏に大きく強化できなかったスカッドは怪我人が襲い掛かると一気に手薄に。ジャスティン、リカルド・ペレイラなどは相変わらず負傷で貢献ができず、ソユンクやエバンスといった往年のチームを支えたバックラインは脆さが隠せない状況。シュマイケルが去ったゴールマウスに寂しさを感じる試合もあった。
ヴァーディ、アマーティ、ンディディといったこれまでレスターを支えてきたベテランは大きくパフォーマンスが低下。経年劣化が感じられるスカッドにおいて、満足できるパフォーマンスをコンスタントに発揮するのは難しい状況だった。
それでもロジャーズであればという思いはあっただろう。だが、これまでロジャーズがレスターで見せて来た華麗なビルドアップは今季のレスターでは成立させることが出来ずに苦戦。冬明けにはティーレマンスを深い位置に司令塔として配置する形が定着したかと思われたが、いつの間にかそれもなくなってしまっていた。
こうした最適解ようなパッケージはたまにポッと採用されるのだが、長続きしないのが今季のレスターの特徴だ。アストンビラ戦、トッテナム戦と大量得点ゲームを演出していた時期は極端なハイラインのイケイケなサッカーを標榜していた。瞬間的な爆発力はそこそこでハマればどんなチームでも苦しめることができる武器を持っていたといえるだろう。
だが、こちらも長続きはせず。バックラインにこうしたハイテンポの試合を支えられる人材がいないことやテテ、クリスティアンセンといった冬の新戦力が春先にはトーンダウンしてしまったこともブーストが短命だった要因である。
そうしたトライが実らない時に立ち返りたい堅守速攻という理念ももう残っていないのが辛いところ。バックラインは脆く、飛び出しすぎてはスペースを空けすぎてしまい、中盤は棒立ちで相手を通してしまう場面もしばしば。カウンターの先導役となるCFはどの選手でも定着せず、バーンズの負荷は重くなるばかりだった。
結果的に代表ウィーク明けのクリスタル・パレス戦での敗戦でロジャーズは解任。難航している後任選びや明るくない来夏の移籍市場の展望踏まえるとを終盤戦や来季も簡単にレスターは落ち着けそうにない。
Pick up Player:ヴォウト・ファエス
前から出て行く責任感を背負いすぎてしまい、過激なファウルもしばしば。その責任感の半分をスマレに分けてあげればチームのバランスは割とよくなるように思う。
ここまでの道のり
【18位】ウェストハム
26試合/6勝6分14敗/勝ち点24/得点24 失点34
2つの課題に目途がたち安定感は頭一つ抜けるか
もはや監督交代論評と化している下位チームの中でフォレストと並び例外となっているのがウェストハムである。前半戦の不調は前線のメンバーの不振とバックスのメンバーが固定できなかったことが要因だったと序盤戦のまとめで述べた。
この部分は改善したのか?はここまでのウェストハムを語る上で当然重要になる。個人的な感想は「底は脱した」というものである。前線の不振は個人レベルでいえばボーウェンの絶不調期は終わったように思うし、パケタも時間をかけてようやくフィットするようになった印象である。
ただし、CFはなかなか解決案が見つからずに苦労した。アントニオは信頼を得られないままベンチを温める日々が続き、スカマッカは重要な場面での離脱が響き、ここまで重要な戦力になることが出来ずにいる。ウェストハムがたどり着いたウルトラCはイングスの引き抜き。同じえんじ色ベースのアストンビラからイングスを引っ張ってくることでトップに計算の立つ人材をおくことにようやく成功した。
バックラインではようやくCBが定着。W杯明けからズマの相棒になったのは、そのW杯で大きく注目を浴びたアゲルド。負傷から復帰して定位置を掴むと、以降はズマとのコンビで安定。PA内に要塞を築くといったら言い過ぎではあるが、一時期よりは安定感は増した。ドーソンがウルブスに移籍して層の部分では不安定ではあるが、直近ではSBがCBに入るような現象は起きていない。
ブロック守備、ロングカウンターといった基盤は前半よりは安定してきたように思う。残留争いをしているチームの中では土台の安定感の面では頭一つ抜けているようには思える。
それでも、最も良かった時期に比べればある程度質の部分では割り引かれてしまうのは致し方ない。加えて、ポゼッションやプレッシング等の能動的に試合を動かさなくてはいけない状況はあまり得意ではないのは不安要素ではある。先行される展開は理想的ではないだろう。地味に勝ち上がっているカンファレンスリーグによる日程過多も気にならないといえばうそになるだろう。
各チームで監督解任の報が飛び交う中でモイーズを信じ続けたウェストハムの結末はどうなるのか。答えが出るのはあと1か月半後である。
Pick up player:ルーカス・パケタ
本質的にはテクニシャンなのだが、残留争いのチームを引き上げるべく泥を汚しながら戦っているのは好印象。アストンビラ戦の根性で奪い取ったPKは特によかった。
ここまでの道のり
【19位】ボーンマス
27試合/6勝6分15敗/勝ち点24/得点25 失点54
前半戦とは異なる武器にたどり着く
今季の監督交代の皮切りになったのはこのボーンマス。8月にはもうすでに解任されていたと思うと非常に判断が早かった。それ以降はガリー・オニールが暫定監督として指揮官を担当している。
フォーメーションはオーソドックスな4-4-2。前線から無理に追うことはせず、2トップは中盤を受け渡しながらミドルゾーンにブロックを組む形。全体の陣形は間延びしないようにコンパクトにしていく。フラムのようにボールを狩りにいくというよりは網を張るイメージである。よって、全体に求められるのは勤勉さ。無理にプレスに行ってしまうと、陣形が崩れてしまい簡単にライン間にパスを入れられてしまう。
バックラインに押し下げられてしまうと、ローラインで守り切るのは難しい。CBは粘り強く戦ってはいるが、高さに自信がある相手と対峙してしまうと、少し厳しい感じはする。ミドルゾーンを維持したいというのはバックラインの強度に拠るところが大きい。
その分、自陣からの前進は低い位置からでも可能。ソランケ、ビリングといった前線の選手たちはビッグクラブ相手でもフィジカル的な優位が取れる選手たち。ワンチャンスを生かして敵陣までボールを簡単に運ぶことができる。頻度は低いが、精度は十分に見込むことは可能。ポゼッションから前進していく要素は前半戦と比べて減ったが、その分異なる武器で前進を行っている。
タヴァニアの負傷以降はSHに決め手を欠く時期もあった。彼の武器である斜めのランからのサイドチェンジはなくなってしまったのは痛かったが、右サイドは冬に新加入でやってきたワッタラが定着し、左サイドではアンソニーとゼムラのコンビからクロスを上げる形を作れるようになった。前半戦とはチームの形は違ったが、これはこれで悪くはない着地点になったのではないだろうか。
正直、開幕時の陣容を考えると降格の可能性はかなり高いように思えた。だが、終盤戦も十分に残留の芽を残して戦うことが出来ている。コンパクトな4-4-2のミドルブロックとソランケ、ビリングを軸としたカウンターを武器に大激戦の残留レースに生き残ることができるだろうか。
Pick up player:ドミニク・ソランケ
フィフティーの体勢で相手とぶつかった場合はほとんどの場合で完勝。抜群のボディバランスでアバウトなボールをゴール前まで運べてしまうのはもはや名人芸といってもいいだろう。年明けからは決定力も徐々に発揮しており、文字通り残留のカギを握るキーマンだ。
ここまでの道のり
【20位】サウサンプトン
28試合/6勝5分17敗/勝ち点23/得点23 失点46
心臓以外のバタバタ感が際立つ
節ごとにめまぐるしく入れ替わる残留争いの中で唯一動かないのが最下位の座についているサウサンプトン。彼らが最下位から脱したのは3月上旬の1節を除けば、W杯の再開初戦まで戻ってしまう。冬から春にかけてテーブルの一番下はサウサンプトンの指定席になってしまっている。
監督人事については下位の中でもかなり迷走している部類に入るだろう。ハーゼンヒュットルが去った後はルートンからネイサン・ジョーンズを引き抜くが、これが明らかに不発。100日も持たずに解任の憂き目に遭い、現在はセレスが暫定監督として指揮を執っている。チェルシーよりも一足早く3人目の指揮官がベンチに座っていたチームだ。
もっとも、そうした混乱の割には勝ち点的に明らかに離されている白旗状態ではないのは幸運。19位とは基本的にはつかず離れずの状況が続いており、17位との勝ち点差も大幅に離れているわけではない。
フォーメーションは一貫して4-4-2がベースとなっている。ここまで大きな誤算になっているのは最終ライン。サリスとベラ=コチャプの2人で柱を確立できたはずだったが、サリスが姿を消してしまい、残されたベラ=コチャプも不調。粗が目立つリャンコでは凌ぎきれないと判断し、急遽ベドナレクにカムバックを要請することとなった。守護神のバズヌは別に悪いパフォーマンスを見せているわけではないが、残留チームにいるチームを救える働きが出来ているかといえばそういうわけでもない。
結局、バックラインの不安定さは拭えないまま終盤戦に突入してしまった感がある。10人のウルブスに逆転勝ちを許してしまった23節の敗戦はその象徴といえるだろう。
冬に多く補強した前線の補強もいまいち定着していない。背は高いが当たりの強さがあるわけではないオヌアチュは現状ではジョーカー止まり。加入当初はレギュラー格と思われていたスレマナやアルカラスも少しずつ出番を減らしている。現状ではスチュアート・アームストロング、エル=ユヌシ、そしてウォルコットの方が高い信頼を得ているように見える。
配球面での命綱といえるラビアの戦列復帰とセットプレーで圧倒的な優位性をもたらせるウォード=プラウズの存在は非常に大きい。文字通り、チームの心臓として君臨する新旧の中心選手を軸に、まずは定位置脱出を狙いたいところである。
Pick up player:ジェームズ・ウォード=プラウズ
ベッカムの直接FKのゴール記録との競争でキャッキャしていたら、いつの間にかチームは大変なことになってしまった。ただ、その記録の更新はシンプルにチーム浮上のカギを握ることになるだろう。スコーンとかっ飛ばすゴルフスイングをゴールパフォーマンスは個人的にはお気に入り。
ここまでの道のり